ローレライの支配者   作:フクブチョー

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初公演 何事もほどほどが1番とかいうけどトコトンが良い時もある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法評議会、ERA。この国の技術の粋を持って作られた大元老院。見るもの全てを圧倒する大きさと美しさはまさに芸術品。魔法大国、フィオーレ王国の頂点にふさわしい建造物だ。

その場では今日も厳正な審査で選ばれた評議員達が会議を行っている。

魔法界では問題が常に起こる。それも当然だ。魔法を使える人間の数は世界の一割に満たない少数ではあるが、逆に言えば10人に一人が魔導士。一万人の人口の街だとしても千人は魔導士という計算になる。そして彼らが使うのは文字どおりの魔法。悪用しようと思えばその使い方は無限にある。そして人間とは性悪なものだ。世界中の街にそんな力を使える千人もの悪党が常に潜んでいるとなればその被害の多さは考えただけでゾッとする。

そんな事態を引き起こさないために存在するのが彼ら評議員であり、それでも毎日起こる問題について頭を悩ませている。

 

「♬〜」

 

そんな老人達を尻目に鼻歌を歌いながら手の中でガラス玉を操る一人の美女がいる。

歳の頃は二十歳そこそこ。今が最も美しい時期である黒髪の美女。彼女の名はウルティア。そして少女の側には評議会の椅子に腰を下ろす青い髪に右目にタトゥーを施した青年がいる。彼も容姿は整っており、双眸には己の自信に溢れている。

青年の名はジークレイン。二人は老齢ばかりの評議員の中で、彼らとの年齢の差を埋める程の魔力の高さを評価され、評議員のメンバーに選ばれた優秀な魔導士だ。

 

「ウルティア、会議中に遊ぶのはやめなさい」

「だって暇なんですもの」

 

ガラス玉を割ったり直したりして弄んでいる少女に注意がかかる。しかしウルティアはやめる気はない。寧ろよくこんなマジメに会議など出来るものだと思う。毎日毎日同じような事を繰り返し、問題を起こした者達を批判するだけの連中。もちろん中には白眉もいるが、彼らの大多数は安全圏でふんぞり返っているだけの老人だ。マトモに相手をしていてはこちらが持たない。

 

「ねえ。ジークレイン様」

「おーー、暇だねぇ。誰か問題でも起こしてくんねえかな」

 

自分と同類である青年に呼びかけると笑いながら肯定を返してくる。彼らは自分達の目的の為に必要だから此処にいるのだが、こうもつまらないと堕落してしまう。

 

「これ、双方黙らぬか。今回の問題の中で早めに手を打ちたいモノは……………」

 

リーダーらしき老人が案件を口に出す前に大きく一つ嘆息する。この手の問題になると必ずと言っていいほど現れる名前に辟易しているのだろう。それでも名を出さないわけにはいかないため、老人は口を開いた。

 

「フェアリーテイルの馬鹿どもじゃ」

 

 

 

 

「また馬鹿どもがやらかしおったか!!」

 

新聞の内容を見てダンっと大きくテーブルを鳴らす。

 

「今度は港半壊ですぞ!信じられますかな!?」

 

新聞の内容はフェアリーテイルの魔導士によりハルジオンの港が破壊されたというもの。それを個人でやっているというのだから恐ろしい。評議会にも軍隊はあるが軍勢というのは軍勢にしか対応できない。個人で様々な場所で破壊活動をやってる彼らを取り締まる事は出来ない。かといってこれほどの力を持つ魔導士を個人で止められる人材はない。つまり止める方法は彼らにはないのだ。

 

「いつか街一つ消してもおかしくない!!」

「それはフラグというらスーよ」

「罪人ボラの検挙の為と政府には言い訳しておきましたが………」

「他にも公然わいせつ罪に下着の窃盗、要人への暴行に経費の無断請求、しかも請求先はウチ。サラマンダーの器物破損は数えきれず……………」

「いくら有能な魔導士の集まりでもこんな事が許されるのか!!」

 

上げていけばキリがないほどの無法の数々。評議会の空気がいっそ潰してしまえという方向へとむき始める。そんな様子を見ながらジークレインは一つ嘆息した。

 

ーーーーやれやれ、だったら連中に直接抗議すりゃあいいモノを。高みから物事を眺めてる連中というのは腰が重い。

 

批判する事と反対意見を述べる事とは全く別のことだ。それが分かっているのはこの中ではおそらくヤジマくらいのものだろう。

 

批判しか言わないの老人達に辟易し、なんか爆発しねえかな、とさえ思い出した時、ジークレインとウルティア、そしてヤジマに戦慄が走った。

 

この評議会の真ん前から隠そうともしない巨大な魔力の高まりを感じ取ったのだ。

その瞬間、轟音が評議会に鳴り響く。

 

「な、何事じゃ!!」

「た、大変です!皆さん!」

 

会議室の扉を無造作に開いたのは警備を務める人間の一人。本来この場に入っていい人間ではない。

 

「馬鹿者!会議中だぞ!!」

 

ゆえに彼を怒鳴りつけてしまうのは無理のない事なのだろう。元々プライドが歳をとって服を着ているような連中の集まりだ。

 

「それどころじゃ……………侵入者が……………っ!?」

 

鈍い音が鳴ったかと思うと目の前の衛兵が地面に伏す。その後ろから現れたのは黒いローブに異国的な衣装を纏った青年。サラサラと流れる白銀の髪はまるでダイヤのような高貴な煌めきを放っている。手には大剣の柄を握りしめている。恐らくソレで衛兵を殴りつけて気絶させたのだろう。

 

「最深部への侵入まで要した時間は五秒。ヌルすぎる。ココも質が落ちたな。以前はココまで腑抜けではなかったんだが」

 

ハァと一つ溜息をつきながら身の丈ほどの銀の大剣を肩に掛け、侵入者の青年は悠然と歩いてくる。

 

「き、貴様は……………」

「アロー、カウンシルの皆様。飽きもせず他人の批判ご苦労さん」

「聖十大魔導序列7位……………黒の騎士王(パラディン)カイルディア」

 

皆が慌てる中、ジークレインとウルティアだけは突然の来訪者を歓迎していた。カイルディアもまた目に映しているのはその二人だけだ。

 

「い、一体何の真似だ!?こんな事をしてタダで済むと思っているのか!おい誰か!!この馬鹿者を捉えろ!!」

 

評議員の一人が声を張り上げて命令するが誰一人現れない。まるで一人芝居をしたかのように滑稽な姿だ。

 

「無駄だ。ここにいる連中以外には眠ってもらった。道案内を頼んだんだが聞いてくれなかったんでな、それに……………」

 

 

俺をタダで済ませられない奴なんてあんたらの中にはいないだろう。

 

 

琥珀色の瞳に殺気を込めて老人を睨みつけると再び悠然と歩き出す。

会議室の中央まで行き、広げられた新聞の内容を見て先程まで話していた内容をだいたい把握し、苦笑を漏らす。ここ最近の問題はしらべたのだが、それでも彼が知らない案件が3件ほど増えている。その早業にまったく呆れる。フォローするこちらの身にもなって欲しいというものだ。

 

「やあ、議長殿。ご機嫌いかがかな?」

「何の用だ、ローレライ」

「なぁに。今回のウチのギルドの問題について寛大な措置をと頼みに来た次第ですよ」

 

ドンッと目の前に差し出したのは袋一杯に敷き詰めた金貨。今回フェアリーテイルが出した損害の費用を補って余りある額だろう。

 

「買収するつもりか」

「まさか。改修費はこちらで持つからあまりうるせー事は言わないでくれというお願いですよ、議長殿。ここは是非、器のデカい所を見せて頂きたいところだ」

 

銀の大剣を片手で風がなるほど早く振り回しながらにこやかに話しかける。

 

ーーーーそっちの懐が痛まねえどころか上前ピンハネできる上にこちらから頭を下げたっていう名分作る事であんたらの顔が潰れねえように配慮してやったんだ。ハイかYesで答えろや。さもねえと力で訴える事になるぞ。あ?俺が穏やかな態度とってるウチに首を縦に振りやがれ。さもねえとその首と胴体が離婚だこのヤロー。

 

と、一連のカイルの行動を翻訳するとそういう事である。そして彼に逆らう事はこの場の誰にもできない。厳重な警備態勢であるはずの元老院に易々と侵入する程の手練れ。とっくにピークを過ぎた彼らにどうこうできる相手ではない。今はすでにこの場の全員が人質に取られているに等しい状態なのだ。

 

「元々取り潰しをする程の罰則を与える気はない。余計な脅しはしなくていい」

「さっすが議長殿、話が分かる。礼として、これからはもう少し評議会の警戒レベルを上げておく事を進言しよう。平和ボケなのか緩みなのか知らんが警備がヌルすぎる。俺だから誰一人死人は出てないが、もし悪意ある俺クラスの実力者が現れたらあっという間に全滅だぞ。気をつけておけ」

 

そう言い残し、ローブを翻して会議室を去ろうとするが、唐突にその歩みを止める。背中に突き刺さる戦意を感じ取ったからだ。

 

「まさかこのまま帰れるとは思ってねえよな、カイルディア」

「やめておけジークレイン。お前は俺とアイツにとって敵だが、俺は俺なりにお前を評価している。別にやっても構わんがこの場でヤるには少し惜しい」

「奇遇だな、俺も俺なりにお前を評価している。だからこそ戦ってみたい。パラディンの魔法ってヤツをご教授願いたいんだがな」

「ハッ。ならなおさらやめておけ。俺は魔法を扱ってなんかいないからな」

 

そう言い終わると同時に瞬時に姿が消える。ウルティアがあっと思った時にはジークレインの首元に剣を突きつけていた。バチリと放電がカイルの体から奔る。

 

「俺が魔法(マジック)だ」

 

そう言うと剣を背中に収め、今度こそ会議室を出て行く。ジークレインもその背中を止める事は出来ず、フゥと嘆息した。

 

「な、なんて奴じゃ。まさか直接脅しに来るとは…」

「脅しというより警告といった感じだったが…まったく食えぬ男よ」

「ま、フェアリーテイルについては放っておきゃ良いんですよ」

「何を無責任な!!」

 

呑気な発言をするジークレインに危険から脱出した老人たちが元気を取り戻し、批判の声を上げる。本当に同じ事を繰り返す連中だ。

 

 

「あーいう馬鹿やあんな化け物がいないと…世界はつまらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、こんなトコかな」

 

壊した建物を修繕してやりながら帰路につくカイルが口の中でつぶやく。ある程度の言質もとった。恫喝としては上出来の部類だろう。

 

【しかしもっとガツンと脅しても良かったのではないか?】

「あまりやり過ぎると余計な警戒をされる。あくまで俺が敵より味方でいる方が得だと連中に思わせとかなきゃならん。かといってへりくだり過ぎると調子にのる」

 

世渡りをあまり知らない精霊王にあまり強硬な手を使わなかった理由を述べる。斬れ過ぎる刃は嫌われるものだ。かといって服従しているとどんな無理難題を押し付けられるかわからない。交渉とは言いなりにならないという事を示した上で、相手に利があると思わせる必要がある。

 

「相手の顔が立つようにソフトに脅す。この綱渡りがとっても難しい」

【面倒なものだな、人間とは】

「なーに、何事も気の持ちようだ。未来の面倒をなんとかするために今の面倒をこなしたと思えばいくらか気が紛れる」

 

修繕を終わらせ、元老院を出た所で甲高く指笛を鳴らす。するとそばで控えていた白狼が瞬時にこちらに飛んできた。

 

「待たせたな、テリー。帰ろうか」

「ウォンっ!!」

 

滑らかな毛並みを撫でてやりつつ、その背中に乗る。彼は古代の魔獣、バトルウルフ。名前はテリー。彼がまだ幼い頃にカイルが拾い、以来家族のように接してきた相棒の一人だ。今は全長5メートルはある大狼で最高時速は300キロを越える。

 

跳躍すると同時にその姿は見えなくなり、あっけに取られた町民は男と狼が消えた方向をしばらくポカンと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人々の生活を営む音が、喧騒の声が街を彩る。活気に溢れたその街の名前はマグノリア。静かに過ごす日など1日たりともない、けれども平和で、穏やかな街だ。

その街には中でも一際騒がしい酒場がある。見た目は木造作りのありふれた酒場、の中でも安酒場の部類に入る。大きく立派な酒場だが、建築年数はかなり古いのは見て取れる。

しかしこの酒場こそフィオーレ王国中にその名を轟かせる魔導士ギルド、妖精の尻尾の本拠地なのである。

 

「ただいまー!」

「ただー!」

 

桜色の頭をした少年が扉を開け、快活に帰りを告げる。その挨拶を皮切りにただでさえ喧しいギルドが更に熱気を帯びていく。火種が火種を呼び、ついに魔法を発動させる程の段階に入ってしまう。

 

「これはちょっとマズイわね」

 

酒場の看板娘にしてトップグラビアアイドルも務める白髪の美少女のミラジェーンが笑顔で困ってみせる。その姿でやめて、とお願いされればほとんどの男が言う事を聞いてしまうだろうと思える程可憐な仕草だったが、このギルドのバカ達にはそれは通用しない。

 

一触即発となったまさにその時……

 

 

「相変わらず騒がしいな、テメエらは」

 

 

それは決して大声でもなく、恫喝でもない。ありふれたテノールだった。しかしその音は酒場全体に響き渡るほどよく通る声で、そして思わず音源を見てしまうほど魅力的な美声だった。

 

あれよあれよと戦争に変化してしまった状況に怯えきっていた金髪碧眼の少女、ルーシィも思わず振り返ってしまう。

 

ーーーー…綺麗

 

少女が真っ先に思った事はソレだった。首筋まで伸ばしたプラチナブロンドの髪、男性にしては色白の肌。琥珀色の瞳は深い宝石のような輝きを放ち、体格はまるで芸術品の彫刻のような黄金率を形成している。

呆れたように苦笑を漏らすその姿さえゾッとするほど魅力的だ。

 

「よう、元気にバカやってるか?」

『カイル!!』

 

ワッと青年の周りに仲間達が集まる。彼がギルドに帰ってきたのは実は10日ぶりだ。

 

「お帰りなさい!カイル!」

 

いの一番にまずミラが白銀の髪の青年の首に飛びつく。彼の遠征の帰りには必ずと言っていいほどこの行動がなされる。彼女のファンが見れば大泣き必至の光景だが、ギルドの皆は慣れたものだ。

 

「ただいま、ミラ。会いたかったよ」

「今回は結構かかったじゃねえかカイル。SSはやっぱキツかったか?」

「それなりってとこかな。まあ急な話にしてはそれなりに楽しめた。あとお前は服着ろ」

 

ガヤガヤと帰還の挨拶を仲間達とかわし、ひと段落するとカイルはキョロキョロと辺りを見渡す。帰還の報告をしなければならない人間がいるのだが見当たらない。

 

「ミラ、ジーさんは?いねえの?」

 

引っぺがしながらカウンターに戻し、探し人の所在を尋ねる。

 

「マスターなら定例会よ。何か用事?」

「んにゃ、いねえんならいい。ほら、報酬。それとドロップアイテムと素材。換金は任せる」

 

背中に背負っていた巨大な荷袋をドンっとカウンターに置く。報酬は基本的に達成した人のモノなのだが、あまり金に頓着しないこの男はクエストの金は大体ギルドに預けている。それを差っ引いてもこの男はかなり金持ちなのだが。

 

「相変わらず凄いわね。お疲れ様。どうする?しばらく休む?」

「さあな、明日俺がどうしてるかは俺にもわからん」

「相変わらず無軌道な生き方してるわね」

「性分だ。俺のコレは俺自身制御できん。ま、おとなしい分ギルやナツよりはマシだと思って諦めてくれ」

「ソレに振り回される私達の身にもなって欲しいんですけど」

 

カウンターから身を乗り出し、カイルの頬を指でつつく。やめい、と指を取ってミラを止めた。

 

「そうそう、ちょっとそこまででワイバーン退治とか行っちゃうんだから。コッチの寿命が縮まるっての。ホラ、カイル。駆け付け一樽」

「単位がおかしくない!?」

 

黒のくせっ毛に下着のような水着を着た酔いどれ美女、カナ・アルベローナ。酒樽を一つ、ドンとカイルの前に置き、自分の樽を抱えてニヤリとこちらを見やる。それは紛れもなく挑戦状。

 

フフン、と鼻で笑い、カナと同時に樽に口をつけ、一気に干す。まるで手品のように樽の中の液体が消えていくその光景に、ルーシィは目が点になる。

 

「ブハァ!へへ、ヤルじゃん」

「別にとやかく言う気はねえがな、あんまこういう品のない飲み方するもんじゃねえんだぞ」

 

ポン、と頭に手を置き、癖っ毛を撫でてやると嬉しそうに目を細め、エヘヘへと笑う。まったく調子の良いことだ。

 

「で、さっきから気になってたんだがこの金髪誰?新入り?」

「は、はい!!ルーシィって言います!よろしくお願いします!」

「そうか、俺はカイル。アホばっかで手を焼くと思うが、よろしく」

 

笑って握手をしようとしたまさにその時、酒場のドアが吹き飛んだ。

 

吹っ飛んだドアがルーシィ目掛けて直撃コースを辿る。あまりの意外な出来事に目を瞑る事さえできなかったルーシィは迫り来る物体を視認してしまった。

 

ぶつかると思い、ようやく目を閉じる段階に入ったが、予想していた衝撃はいつまで経ってもやって来ない。おそるおそる目を開けると木造のドアは斬り刻まれ、無数の木片となって辺りに散らばっている。

 

「相変わらず危ねえ奴だね、我が相棒は」

 

発せられた声と共にルーシィの視線がテノールの音源へと向けられる。先ほどまで握手をしようとしていた男の手には巨大な銀の大剣が握られている。その事からルーシィは換装魔法で剣を具現化し、自分を彼が守ったのだと理解した。

それでも彼女は驚かずにはいられなかった。換装魔法自体は珍しくない。使える人間は何人も見てきたし、割とポピュラーな部類の魔法だ。

 

ーーーーそれでもいつ抜いたのか分からなかった!!なんて早さの換装と太刀筋!?

 

コレがフェアリーテイルの魔導士かとその精悍な横顔に見惚れていると重い金属音が鳴り響く足音によって我に返った。

 

「グレイ!エルフマン!ロキ!カナ!そしてナツ!!今すぐ出てこい!特にナツ!!」

 

ガシャンガシャンと足音に苛立ちを露わにさせながら現れたのは一人の女騎士。首から下を鎧に固めているのは何とも女性らしからぬ出で立ちだが、彼女の凛とした美貌のおかげか、その凛々しさを引き立てている。流れるような緋色の長髪はまるで燃える炎のように美しい。

 

「ど、どちら様?」

「ドアを開ける暇もないのか?ティターニア」

 

ブルブル震えるルーシィに対し、苦笑しながら怒り心頭の緋色の髪の美女の前にカイルが悠然と歩み寄る。すると一瞬、その整った眉が和らいだがすぐにシワが寄る事となる。

 

「久しぶりに会えた事は嬉しく思う。お前にも話があるがとりあえず後だ。さっきの五人!とっとと出てこい!特にナツ!!」

 

ーーーー特にナツって二回言った。なんかしたのかあいつら?まあしてない時の方が少ないけど。

 

エルザの怒鳴り声に瞬く間に二人の前に五人が現れて正座する。ご立腹の彼女に逆らえる者はこのギルドでは目の前の白銀の青年くらいのものだろう。

 

「聞いたぞ、問題ばかり起こしおって特にナツ!!港を半壊させるとは何事だ馬鹿者め!!」

『スミマセン……』

「しかもその尻拭いをまたカイルにさせたそうだな!貴様らは仲間として恥ずかしくないのか!!」

 

後半の言葉には五人揃ってキョトンとハテナを頭に浮かべ、首をかしげる。あー、その事知っちゃったか〜、とカイルだけが額に手を当てて嘆息した。

 

「被害総額五千万ジュエルをカイルが支払ったのだ!!そして評議員の令嬢には直接頭を下げに行ったそうだ!お前らはカイルにどれだけ迷惑を掛ければ気がすむのだ!!」

『っ!!?』

 

ギルド内全員の視線がカイルに集中する。肯定の意味を込めて銀髪の青年は肩を竦めた。

 

「カイル……本当なの?」

「迷惑とは思っとらんが……今エルザが言った事をやったのは本当」

「そんな………」

 

隣でローブの裾を握りしめたミラの言葉に苦笑と肯定を返す。

 

「カイル……なんでそんな事「これ程の被害を出せば相応の落とし所を作らねば最悪ギルド追放をされるからに決まっているだろうが!それもこれも全てお前達が「あ〜、その辺にしといてやれよエルザ。いつもの事だし、もう済んだ事だ。いいじゃねーか」

 

激昂するエルザを宥めるように肩に手をやり、遮る。普段の二人なら不服顔でエルザがカイルを見つめた後、溜息をつき、謝らせておしまいなのだが、今回はカイルにもキッと強い視線を向け、睨んだ。

 

「カイルもカイルだ!いつもいつも皆に甘い!!今日という今日は、そんなにあっさりこの馬鹿どもを許すな!」

 

おおう、なんか飛び火してきた。別に俺が悪いわけではないので謝る気は無いけど、なんか迫力に押される。

 

「無論それがお前の良いところだというのは分かっている。だが私はカイルばかりが損をしている気がしてならん」

「俺は損だとは思ってねえさ」

「しかし!…っ」

 

なおも言い募ろうとするエルザの唇に人差し指を押し当てる。怒り心頭のエルザもコレには流石に黙らざるをえない。せめて視線で攻撃しようと見上げるとそこには穏やかな微笑を浮かべ、片目を瞑る想い人の顔が至近距離にあり、思わずトクンと胸を高鳴らせる。

ウィンクはこの男の日常的な仕草の一つだ。8年来の幼馴染である彼の癖は何でも知っている。それでも切ない胸の苦しみは緋色の髪の美女を喘がせる。貴方は私を殺す気なの、と叫びたい。

 

ーーーーっ、いい加減に慣れろ、私の心臓。

 

カイルに恨み言を言っても始まらない。エルザは自身を叱責した。

 

「評議員の連中を気にしてたら自由になんか生きられん。それは俺たちが最も仲間にさせたくないことだろう。その為なら多少の面倒は引き受けるさ。その為に俺は聖十になったんだ」

 

そこでようやくエルザの柳眉が下がる。むうと不満げな顔をしてこちらを上目遣いで見つめてくるのは非常に可愛らしい。

 

ーーーーまた結局私の負け、か。

 

「……………強いな、お前は」

「甘いだけさ」

「違うぞ、お前は優しいんだ」

 

この8年で何度となく繰り返されたこのやりとり。コツンと青年の逞しい体に額を預け、もたれかかる。オッホンとわざとらしいミラの咳払いで顔を真っ赤にしながら慌ててエルザが体を引いた。

 

「と、とにかく、今回はカイルに免じてこの辺で勘弁してやるが次何かしたら本当に剣のサビにしてやるからな!」

『スミマセンでした!』

「私に謝るな!カイルに謝れ!」

『申し訳ありませんでしたカイル大明神様!!』

「うむ、苦しゅうない。よきにはからえ」

 

カカカと快活に笑い、その場はなんとか治まった。正座を崩す事を許され、五人とも大きく伸びをする。

 

「それとエルザ。俺に話ってなに?」

「ああ、実は仕事先で、少々やっかいな話を耳にしてしまってな。本来ならマスターに指示を仰ぐところだが、早期解決が望ましいと判断した。カイル、ナツ、グレイ、力を貸して欲しい」

「へえ」

「げ!?」

「な!?」

 

名前を呼ばれた三者が三様の反応を見せる中、エルザの言葉に周りはざわめきだした。

 

「ど‥どういう事!!?」

「あのエルザが誰かを誘うトコなんか初めて見たぞ!!」

「怪物と呼ばれる女が……」

 

ひでえ言われようだな、まあ俺も意外っちゃ意外だけど。

 

「出発は明日だ。準備をしておけ」

「あ…いや…ちょっ‥」

「行くなんて言ったかよ!!!」

「あ?」

「なんでもないっすぅ……」

 

ギロリと人を殺せる目で睨んだかと思うとダメージ食らったマリオのように小さくなる二人。

 

「詳しくは移動中に話す」

「俺が行くのは確定か……いや面白そうだから行くんだけどな」

 

さて、旅支度旅支度とギルドを出て行くカイルの背中を見ながらミラが呆然とつぶやく。

 

「エルザがカイルはともかく、ナツとグレイまで誘うなんて」

「?カイルはともかくって?」

 

ミラの呟きにルーシィは首を傾げた。

 

「ああ、カイルとエルザってコンビなのよ。聞いたことない?チーム銀の妖精王(シルバリオ・ティターニア)

「ある!フェアリーテイル最強チーム!」

「それにナツとグレイまでくわわるなんて……今まで想像した事もなかったけど、これって妖精の尻尾どころか、フィオーレ最強チームかも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空の星が煌めく夜、カイルは自宅の屋根に腰掛けながら杯を傾けていた。星の美しさと美酒に酔いながら歌を口ずさむ。穏やかな旋律が風に乗って辺りを流れる。

 

「好きだな、その歌」

 

背後に立つのは緋色の髪の美女。今は鎧ではなく、女らしいワンピースだ。白地とあまり洒落っ気がないけれど紅い髪に映えるため、よく似合う。まあ元が良すぎるのでなんでも似合うのだが。

近づいてきたのは知っていた為、特に驚きはない。座れば?と自分の隣を手で叩くと躊躇いなく隣に腰掛け、肩に頭を預けた。

 

「飲む?」

「いや、遠慮しておく。明日に酒を残したくない。それより大丈夫なのか?お前は」

「なーに、ソフトに対応したよ。問題ない」

 

どうやら評議員を敵に回す行動をした事に心配しているようだ。その辺の線引きは弁えているというのに。隣の相棒に信じてもらえないとはなんとも情けないというか、信用されてないというか……

 

「評議会は…秩序を乱さないためにお前に称号をつけ監視下に置こうとしている。秩序としては正しい事は認めるが私もあまりよく思わない」

「政治としては正しいわな。肩書きってのは便利だ」

「強いだけではなく、己を驕らず己でありつづけ、仲間を想い、最後まで立派に責務を果たす、優しく、そして常に前向きだ。そんなお前がずっと傍にいてくれたから、私もそうでありたいと願い続けている」

「……」

「お前はいつも私を支えてくれる……そう、どんな時も。だから私もお前を支えたい」

「なんだ誉め殺しか?それとも悪いことでもしたか?心配すんな、俺は大抵のことじゃ怒んねえから。ほら、気軽に言ってみろ」

「では言おう。カイル、私も聖十に「やめとけ、得るものに対して失うものが多すぎる」

 

怒りはしていない、それでも明らかに真剣にエルザを止める。権利には義務が生じる。当たり前だ。その苦労をこの肩に全身を預けてくれる愛しい女にさせたくないのは当然だろう。

 

「しかし、それでも私は」「お前はこの国で最高の魔導士になんてならなくていい」

 

肩を抱き寄せる。柔らかな感触と甘い匂いがカイルの心を満たす。

 

「お前は俺にとっていつでも1番だ。エルザ。だからお前が隣にいてくれれば俺はそれでいい」

「カイル……」

 

片目を潤ませながらしなだれる。後ろめたさで暗くなっていた心が暖かく照らされていくのを感じた。

 

ーーーーああ、やっぱり……

 

 

この男にはかなわない。

 

 

万感の思いを込めて頬に手を添え、僅かに身を乗り出し、目を閉じる。意図を察したカイルも穏やかに笑い、顔を近づけ体を傾け……

 

月明かりで出来た影が一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。ははは、長〜。途中で切ろうかとも思ったけど書き切ってしまった。とゆーわけでリメイク版では原作はララバイ編からとなります。あまり原作ブレイク出来ない分、あの頃のヘタクソな駄文よりは面白く書こうと思います。それでは感想、評価よろしくお願いします。
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