ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第二公演 かくれんぼしてる時の鬼の足音の怖さはハンパない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して狭くない空間であるにもかかわらず、喧騒の音が辺りを支配している。それもそのはず。彼らが立っている場所はマグノリア駅。この辺りでは最も大きな駅だ。利用者は次から次へと現れる。

だから多少喧嘩をした所で目立つ領域には達しない。ナツとグレイの口喧嘩くらいならばこの喧騒の中に埋まる事ができる。ステゴロになれば話は別だが。

 

「なんでテメェと一緒じゃなきゃいけねぇんだよ!」

「それはこっちのセリフだ!大体……」

 

「「“助け”なら俺とカイルで十分なんだよ」」

 

見事にハモり、二人の眉間のシワがより深くなる。実は仲良いだろこいつらと銀髪の剣士は思っている。

 

「じゃあオメェ1人で行けよ!」

「テメェだけ来んなよ!そんであとでエルザに殺されちまえ!!」

 

こんなやり取りがもう3回ほど繰り返されている。ルーシィが呆れるようにため息をつくのも無理ない事だろう。巻き込まれたルーシィは災難と言わざるをえない。

 

「すまない、待たせた」

 

元凶の女騎士は何十人分というトランクを積んで歩いてきた。通常でも充分に美しい肌をしている彼女だが、今日は一段とツヤツヤしている。

 

「お、おはようございます!」

「ああ、君は昨日ギルドで見たな」

「あ、新人のルーシィと言います。ミラさんに頼まれて同行することになりました!よろしくお願いします」

 

綺麗にお辞儀をする。この子はこの子でトラブル慣れしてきてる。もう喧嘩くらいではなんとも思わないらしい。

 

ーーーー短期間でナツによく揉まれたと見える。頼もしいな。

 

「わたしはエルザだ。よろしくな。ギルドの連中が騒いでいた娘とは君のことか。優秀な星霊魔導士と聞いている」

「そ、それ程でもありませんけど」

「エルザ、付き合ってもいいが条件がある!」

 

鬼の女騎士の登場のおかげで大人しくなっていたナツが急に元気になり、強い視線をエルザに向ける。その真剣な態度に言ってみろ、と視線で返答した。

 

「帰ってきたら俺と勝負しろ!」

「オイ早まるな死ぬ気か!?」

 

真っ先に止めたのは二人の実力をよく知るグレイだった。客観的に見てもエルザの方がナツより一、二枚格が上だと氷の造形魔導士は見ていた。その判断は概ね間違っていない。

 

「前にやりあった時とは違うんだ!今ならお前に勝てる!」

「…ふ。確かにお前は成長した。いささか自信がないが……いいだろう、受けて立つ」

「自信がないってなんだよ!マジメにやれよな!」

「わかってる。お前は強い。言ってみただけだ」

「うおおぉおおぉ!!燃えてきたーーー!!!!審判はカイルがやってくれよな!………ってアレ?カイルは?」

 

当然来ているモノだと思っていた銀髪の剣士の姿がない事に気づく。その事実にグレイも驚く。時間にルーズな男ではないから尚更だ。

 

「ああ、カイルなら昨晩……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り深夜、森の中の大きな一軒家。その寝室に二人の男女が生まれたままの姿でいた。

二人で眠るには広すぎるベッドの上で緋髪の美女は銀の騎士の肩に頭を預け、重なり合うように眠っている。

 

ーーーーん……

 

女の方が目を覚ます。ぼやける視界にまず映ったのは黒、というか闇。

覚醒しきれていない頭が、少しずつ現状を理解する。どうやらまだ夜なのに目が覚めてしまったらしい。

 

ーーーーなんか硬い……

 

頭に感じる確かな弾力に疑問符が浮かぶ。身体を預けていて心地よいのだがどう考えても寝具の感触ではない。確認する為に頭を動かす。

 

感じたのは、人の温もりと規則正しい心音。そして、耳に届いた寝息。

 

眠気が一瞬で飛んでいった。

 

漆黒の瞳を開いて、寝息が聞こえた頭上へと顔を向ける。予想どおりの人物が眠っていた。

 

そうだ、昨日は彼と久しぶりに肌を重ねたのだった。この男にしては珍しく、甘えるように身を寄せている。

 

ーーーー可愛い……

 

現状を理解し、つややかなシルクの銀髪を梳いてやる。こんな隙だらけな彼は貴重だ。この男はいつも完璧で隙がない。寝顔を見せるなどまずしない。しかし今は完全に無防備だ。

 

そしてこの彼に触れるのは今世界で自分だけだという事実が彼女の心を悦びで満たした。

 

ーーーーふふっ……

 

思わず笑みがこぼれる。しかし口には出さない。彼の寝顔を初めて拝んだのはいつだっただろう。

いつか絶対に見てやろうと、密かな野望があったが、その機会はなかなか訪れなかった。

男と女の関係になってようやくその野望は達成されたが肌を重ねた回数に比べ、その回数はあまりに少ない。

 

その激レアなシーンが今ここにある。なら色々とさせてもらおう。まずは観察。

 

ーーーー……男のくせに肌白い……睫毛長い……

 

美人は3日で飽きるなら美男も3日で飽きる筈なのだがエルザは8年経っても彼の顔にちっとも飽きない。

 

ーーーーコレで何も手入れしてないというのだからサギだなまったく。

 

この世が不公平に満ちているという事は天に二物も三物も与えられたこの男のおかげで身にしみている。とはいえ、不満を持たずにはいられない。コッチは陰で色々とたゆまぬ努力しているというのに。サラサラと流れる白銀の髪を梳いてやりながら愛しさと同時に苛立ちが湧き上がる。これでも喰らえ、と鼻を指で摘んでやった。フガ、と間抜けな声が男から漏れる。

 

エルザの視線が、微かに開いていている彼の唇へと向けられる。そこから小さな息遣い――寝息が漏れる。

 

無意識のうちにごくっと喉を鳴らす。数時間前にイヤというほど……いえ、嫌ではまったくないのだけど。散々貪った艶やかな唇の色気に興奮する。

 

起こさないようにそ〜っと彼の頭の後ろに腕を回し、そのまま包み込むように、自分の胸元へと引き寄せる。

 

ーーーーっ!?

 

胸の中でモゾリと動かれた事を肌で感じる。どうやら身体に触られたことで意識が覚めかけているらしい。整った眉には皺が寄っている。

 

ーーーーふふっ……しょうのない人

 

甘えるように胸の中にすり寄ってくるこの人への愛しさが止まらない。少し身体を離し、額にキスをする。

 

「………何やってんだテメエは」

 

もう一度胸の中に引き寄せようとした手を止められる。見下ろしてみると少し訝しげに眉を寄せた男がいつもの凛々しさを取り戻してこちらを見ていた。

 

「なんだ、起きていたのか?」

「今ので起こされたんだよ。長旅で疲れてる人間に何してくれてんだお前は」

 

身体を起こし、額にデコピンする。今夜は酒呑んですぐ寝るつもりだったのに発情したこの女のせいで無駄な運動させられた上に短い睡眠時間を妨害されたのだ。これくらいの反撃は良いだろう。

 

「あーあ、目ぇ覚めちまったい。今何時?」

「午前三時頃だと思うが」

 

汽車の時間は九時だ。あと六時間もある。

 

「どうする?もう一度するか?」

「しません。カイルさん疲れてんの」

 

膝の上に豊かな胸を押し付けるようにのしかかり、腹筋を指でのの字を書くエルザの手を止める。あまり弄られると反応してしまう。

 

「せっかくだ。お前の頼みとやらを聞こうか」

「ん、ナツ達にも話すんだから二度手間だがまあ遅かれ早かれか。いいだろう…」

「くだらん話なら笑ってやる」

「笑えるものなら笑ってみるがいい」

「ハハハハハ!!」

「せめて聞いてから笑え馬鹿者!!……ゴホン。実は」

 

エルザから語られたのは闇ギルド鉄の森がララバイという魔法を封印から解き放とうとしているという物。ギルド一つ丸ごと敵に回すため、俺たちの力を借りたいということだった。

途中まではつまらなさそうな顔をしていた。闇ギルドが悪巧みなど日常茶飯事だ。カイルの興味が惹かれる話ではなかった。しかしララバイという言葉を聞いて顔が変わった。

 

「まずいな。俺の予測が当たってたらこんなトコで寝物語なんてしてる場合じゃない」

「ララバイとは何か知ってるのか?」

「俺は魔導士である前に楽士だ。音楽の事ならお前の十倍はよく知ってる」

 

寝台から降りると一瞬でいつもの服に換装する。エルザが慌てて追いかけようとしたところで銀髪の戦士は女騎士の頬に手を添え、耳元で旋律を奏でた。

するとエルザの瞳はトロンと落ち、表情から正気が失われる。カイルの催眠魔法。響く催眠歌(エコーヒュプノシス)

 

「俺は先にオニバスに向かう。お前はナツ達と合流してから来い。俺の事は気にするな」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………という訳で朝目が覚めたらもういなかった」

 

情事の部分はカットして話を伝える。そこでようやくエルザも自分が催眠にかけられてた事に気づく。血の気がさっと引き、続いて怒りで赤く染まる。

 

「またやられた!!」

「あいつまさか、もう鉄の森に乗り込んでるんじゃ……!」

「悠長に列車など待っておれん!グレイ!魔導四輪を借りて来い!早く!!」

「わかった!!」

「それとナツ、お前の条件は了解した。帰ってきたら受けて立とう」

「よっしゃ!なら早くカイルを捕まえねーとな!審判はあいつにやってもらわねーと!」

「ああ、直ちに追いかけるぞ。そして鉄の森ごとボコボコにしてやる!」

「「あいさー!!」」

 

フェアリーテイル最強チームが見事に纏まりを見せて行動を始める中、金髪の星霊魔導士はポツリと呟いた。

 

「………あたし、いる意味あるのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は再び遡り、夜明け前。人里離れたとある洞窟。

何人かの人間がその中で作業をしていた。尤も、主に手を動かしているのは一人だけで他の人間は見張りといった感じだ。

 

作業をしているのはあまり特徴のない地味な男。男の目の前には髑髏の形をした笛のような物がある。そこには見えるものには見える強力な封印が施されている。どうやら黒髪を箒状に束ねた男はそれを解こうとしているらしい。

 

「おいカゲちゃん、まだ出来ねえのかよ。今日で約束の3日目だぞ」

「うるせえな、もう時期終わる。エリゴールさんとの約束は守るさ。もう少し待ってろ」

 

カゲと呼ばれた術師が不機嫌そうに言葉を返す。この3日似たような会話を数えきれないほどしてきた。文句を言うだけ言って手伝いもしないのだから辟易しても無理ないことだった。尤も、解呪魔導士(ディスペラー)などただでさえ少ない魔導士の中でも少数も少数なので仕方ない事ではある。

 

ーーーーそれでもようやく……あと3時間もあれば……

 

「おい、回復ラクリマもってこい。そろそろ魔力がヤバくなってきた」

 

見張りと同時に彼らにやらせている唯一の仕事。枯渇してくる魔力の補充。ララバイ程の強力な封印を解くには並の魔力では到底追いつかない。3日で終わらせるには定期的に魔力を回復させる必要があった。

 

「………………おい、聞いてんのか!」

 

後ろに差し出した手にはいつまでたってもラクリマは渡されない。居眠りでもしたかと苛立ちながら振り向く。

同時に聞こえる誰かが倒れこむような音。そして鮮やかなテノールの声。

 

「………seven、eight、nine、ten!!」

 

日の出の光と共に現れた男の顔は逆光でまだわからない。しかしシルエットと太陽光が反射した白銀の髪だけはわかる。体格から言ってまず男だろう。その歩く姿一つとっても只者ではないと判る。まるで隙のない佇まいに圧倒的な強者のオーラ。カゲは無意識のうちに戦闘態勢を取っていた。

 

「Ready or not♪……もーいーかい?」

 

hide-and-seek。かくれんぼでよく使われる童謡。その声は明るく、美しいにも関わらずカゲは声が近づくたびに恐怖が大きくなる。冷や汗が止まらない。

 

「Here I come♪……さっがしっに行っくよ♫」

 

ーーーーい、いったい誰が……どうやってここがわかった!!

 

悪事をやっているのだから誰かが来ることなど予想している。それでもこの来訪者の登場という理不尽にカゲの思考は焦りで埋め尽くされてしまった。放たれた手加減なしの殺気は荒れ狂い、波となって打ち寄せてくる。

 

「I see you♪………見〜つけた♫」

 

銀の大剣を片手に担いだ白銀の髪の騎士が罪人の目の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。いやー、難産だった。リメイク版ララバイ編、如何だったでしょうか?原作沿いにしてもつまらないのでカイルに風邪引かせたり、定例会へミラが書いた手紙をカイルに持って行かせたりと色々したのですが上手く膨らまず、今回のような形になりました。今でもあんまり納得いってない。出来るだけ早く大魔闘演舞まで行きたいのでこの辺りの話は短くなるかもしれません。楽園の塔と六魔編はカイルのルーツに関わるのでじっくり書きますが。それでは感想、評価よろしくお願いします。
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