ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第四公演 RPGで敵が蘇生するのは理不尽と言うザオリク使う勇者が理不尽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前………

 

 

イシュガル大陸のとある一角、凄まじい剣戟の音が鳴り響いていた。音の中心地には二つの人影があり、目にも留まらぬ速さで何度も交錯している。

二人の周りは瓦礫や地割れで埋め尽くされている。元は自然のある大地だったと言ってももう誰も信じないだろう。それが真実であると知っているのは以前この地に居住していた民達だけだ。

それほどまでにこの地は荒れ果てていた。大地は抉れ、森林は粉々になり、無数の斬撃の跡で埋め尽くされている。

 

辺り一帯を更地に変えたと思われる人物。一人は青年と少年の間といった男性。ダイヤの輝きを放つ白銀の髪は泥と血に塗れ、黒のローブはもうボロボロに引き裂かれており、額からは幾筋もの血を滴り落ちさせている。疲労からか、それとも他の理由か。琥珀色の瞳には生気がなく、まるで視力がないかのように暗く沈んでいる。それでも戦意に衰えは全くない。己を奮い立たせるように咆哮しながら、光り輝く聖剣を敵に打ちつけている。

彼の名はカイルディア・ハーデス。聖十大魔導序列7位にして、現絶剣総帥。既に大陸最強の魔導士の一人として数えられている戦士だ。

 

対するもう一人はツノのついた仮面をした緑髪の女性。頭にはまるで鳥のような羽毛が多くあしらわれている。足もまるで獣のような体毛をしており、まるで人間ではないかのような姿。魔物。

彼女の名はキョウカ。別名を隷星天キョウカ。闇ギルド最強の一角、冥府の門の幹部であり、ゼレフ書の悪魔でもある。感覚を操る力を持っており、カイルの視覚はコレによって奪われていた。

 

人間は感覚情報の八割を視覚から受け取っている。戦闘の際、この情報が失われるという事がどれほど危険かは想像するだけでゾッとする窮地。事実、序盤戦闘を優位に進めていたのはキョウカだった。

 

しかし……

 

魔物の拳とカイルの剣が幾度も激突する。どちらも全く引かず、白い火花を散らし、金属音を響かせながら攻防を展開する。

 

「ぉおおおおおおお!!!!」

「グッ!?」

 

尋常ならざる一閃がキョウカへと振り下ろされる。カイルの聖剣は正しくキョウカへと振るわれていた。受けるキョウカも流石と言えたがカイルの剣戟の威力と聖剣の魔力によって遂に腕が破壊される。

 

「間違いなく見えていないはずだ……それなのに」

「そこか!!」

 

不用意に漏らしたキョウカの声に向かって拳を叩きつける。剣を構え直していては逃すと判断しての攻撃だ。選択肢としては満点に近い。

 

「ガァッ!?」

「グハッ!!」

 

キョウカを殴り飛ばすと同時にカイルも殴った拳を手で押さえ、地面に膝をつく。殴ったカイルの方がキョウカより間違いなく痛がっている。

カイルは今、キョウカの感覚操作によって痛覚を通常の何百倍にも上げられていた。よってカイルは相手を殴るという攻撃でさえ大ダメージになってしまう状態なのだ。

 

「はぁっ!!」

 

膝をついた隙にキョウカがその鋭利な爪でカイルの身体を抉る。その痛みは通常でも気絶するほどの激痛。今のカイルにとってどれほどの痛みか、もう想像すらできない。

 

ーーーー勝った

 

キョウカがそう思うのも無理ない事だろう。しかし、その考えは間違っていた事に数瞬後、気づかされる。

 

ーーーー動かない!!

 

腹部に突き入れた爪を抜こうとしても全く動かせない状態にさせられている。カイルの強靭な筋繊維がキョウカの爪を絡みとり、抑えつけていた。

 

「ば、バカな………痛みはないのか!!そなたは!!」

「イテェよ。イテェに決まってる」

 

右手に持つ聖剣にありったけの魔力を注ぎ込みながら、銀髪の剣士が呟く。怒りと悲しみ、両方の色を込めて。

 

「でもなぁ、あの時の痛みに比べれば……弟を失い、エルザに泣かれた時の痛みに比べれば……あの時の痛みの方がぁあああああ!!!」

 

光り輝く聖剣を打ちつける。何度も何度も。相手を確実に滅するように。

 

「万倍イテェんだよぉおおおおおおお!!!!」

 

極大の光を聖剣が放つ。ありったけの魔力の最後の一滴をソレに込める。

 

ーーーーああ、それでこそ………此方のカイル!!

 

「焼き切れ!!神をも屠る光の聖剣(クラウ・ソラス)!!」

 

光の柱が悪魔を押し潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

動けなくなったキョウカを一瞥した後、天を仰ぐ。そこでいつの間にか降っていた雨にようやく気づいた。血で染まっていた整った顔が少し洗われる。僅かに視界がクリアになった。

 

「勝った………か」

 

手に持った光の聖剣を解く。剣の光はカイルの身体に戻る。顔を顰めつつ穴が開いた腹部に手をやり、癒しの光を充てる。

 

【また無茶をしたな、奏者】

「すまないなセレナード。敵の感知を任せてしまって」

【謝って欲しいのはそこではないが……説教はまた今度にしてやる】

 

一つ嘆息する。怪我を治すのはもう少し後にしようと決めた。

 

「帰るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空気が凍った気がした。

 

鉄の森の一構成員に過ぎない男、モーブは彼を見たその時、そう思った。

 

白銀の髪をなびかせ、彼が地面に降り立った瞬間、空気が。周囲の気配が。空間が。世界が凍ったのだ。

 

「やあ、鉄の森の諸君。ご機嫌いかがかな?」

 

言葉自体はただの挨拶。なんでもないような男の言葉。しかし放たれた殺気は男を金縛りにした。

得体の知れない悪寒が全身を貫く。あらゆる毛が逆立ち、嫌な汗が毛穴から滲み出る。

 

自分がこれまで感じたことの無い脅威。言葉では表現できない相手。まるで頂が見えない巨峰。

そんな光景を目前の青年に男は見た。

 

「てめえ……カイルディア・ハーデスだな」

 

誰もが身動きできない中、エリゴールだけが言葉を発した。

 

「へえ、闇ギルドの連中は無知だと思ってたんだがそうでもないようだな」

 

本気で感心したように笑う。その笑顔は男の目から見てもゾッとするほど魅力的だ。

 

「てめえ程の大物が何しに来やがった」

「察しはついてるだろう?」

 

懐から細長い何かを取り出す。それだけでカイルディアが何を持っているかがわかった。

今このタイミングで彼が現れた時点で全員が思いついていた事だった。期待と予感がその棒状の持ち物の正体を当てさせた。

 

「テメエ………ララバイを」

「ご名答」

「ソレをよこせ!!」

 

風の魔法を発動させ、エリゴールは怒涛の勢いでカイルへと突っ込む。その動きはまさに疾風と呼ぶに相応しい速さでモーブの目で捉える事はできなかった。

エリゴールの動きも、カイルディアの魔法の発動も。

 

気がついたらエリゴールの魔法は解除され、地面に伏していた。カイルの手はいつのまにかローブのポケットから抜かれており、払うように振るわれていた。手には風の渦が纏われている。

 

「ガッつくなよ。お前俺より喧嘩っ早いな。別にドンパチやっても構わんがそれより聞きたい事があるんだよ。まず話をしようや貧乏神君」

 

暴力は良くないぜ、とか言いながら伏せているエリゴールの首を足で踏みつける。どの口でソレを言うのかと誰もが思ったが口には出せなかった。

 

「ララバイは黒魔法の中ではそこまで名がある方じゃない。俺は母から話を聞いたことがあったから知ってたが普通に調べたくらいじゃまずわからん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイルの母、ガーネットは彼の歳が一桁の頃に死別した為、思い出は然程ない。それでも覚えている事は幾つかある。とても美しい人だった事、強く優しい母だった事。そして……話好きな女性だった事だ。

 

頭の中に沢山の物語を持っている人だった。彼女はその生まれから多くの書物に囲まれて育った女性だ。並みの学者など目ではないほどの博識だったと聞いている。

音楽も学も教養と呼ばれるモノは全てあの人に教わった。カイルの人格はあの人によって形成されたといって間違いない。カイルの唄はガーネットに教わった物が八割を占める。

 

彼女が息子に聴かせた物語の一つにララバイがあったからこそカイルはその存在を知っていたが、一般的に知り得る事はまずない。その可能性があるとすればガーネットと匹敵する蔵書量を持つような良家の令嬢くらいだろう。

 

「お前にソレを教えたのは誰だ。答えろ」

「何してるテメエら!全員でかかれ!」

 

剣士の足下から凄まじい風が巻き起こる。対処しようと思えばできたが、とある気配が近づいてきたのを察したカイルは大きく飛び下がり、魔法を発動させた。

 

「超重ギガ」

 

カイルの手中に黒い塊が現れる。フッと息を吹き付けると黒い波動は塵となって霧散した。

 

「パチン」

 

指を鳴らす。同時に霧散した黒塵が輝きを放つ。黒塵を吹き付けられた鉄の森の連中は一斉に膝をつく。自重が急激に増え、彼らの体重を支えきれなくなったのだ。

 

「な、なんだよコレ!」

「体が急に……」

「重力魔法……」

 

カイルの魔法の正体にエリゴールだけが気づく。これ程広範囲の魔法をエリゴールは初めて見たが今起こった現象の理由はそれ以外ありえなかった。

 

「勝つとわかりきったケンカはしない主義でな。お前らとドンパチするのはあいつらに譲るとするさ」

「あいつら、だと?!」

 

カイル一人でも既に持て余しているのに援軍が来るという言葉にエリゴールは戦慄した。しかもこのまともに体を動かせない状態で戦わなければいけないのだ。勝ち目はゼロと言い切ってしまいたいほど絶望的。

戦意を折る為のハッタリと断じてやろうとした瞬間、白銀の髪の戦士の背中から砂塵が舞い上がる。

 

「おう来たな問題児共。良くここがわかったもんだ………っなぁああああああ!!」

 

猛スピードで爆走する魔導四輪に向かって気安く話しかけていたカイルから一気に余裕が失われる。こちらにいくら近づいてきてもブレーキを踏む様子を全く見せなかったからだ。慌てて走って逃げるが生身と車での追いかけっこの結果は火を見るよりも明らか。

 

激突する寸前で風の魔法を発動させ、宙空へと逃げる。何とか躱した事を確認し、ようやく一息ついた。

 

「よけるな卑怯者め!!」

「よけるに決まってんだろうが暴走女!近づいてくるのがわかったから待っててやったってのにこの仕打ちはないんじゃないの!」

 

魔導四輪から顔を出したのは緋色の髪の女性。姿は鎧に身を包んでいる女騎士。エルザ・スカーレット。

 

「お、こいつらが鉄の森か」

 

上半身裸の変態が車から降り、ストレッチする。カイルの重力魔法は既に解除されており、新しく現れた一団を睨みつけている集団に対して戦闘態勢を取っている。グレイ・フルバスター。氷の造形魔導士。魔力に形を与え、形を奪う魔法の使い手。

 

「おぅええ……」

「ちょっとナツ!しっかりしてよ!敵はもう目の前にいっぱいいるのよ!」

 

乗り物酔いでグロッキーのナツを抱えるのはルーシィ。彼女も来てたのかと少し苦笑する。問題児三人に囲まれ、さぞ苦労した事だろう。

 

全員降りてきたのを確認するとカイルも地面に降り立つ。隣には美髪の女騎士が寄り添う。取り敢えず説教は後にする事にしたらしい。

 

「ララバイは?」

「この通り」

「…………ムカつくが流石だな。お前の心算もわかるから今日のところはソレで免じてやる。行くぞ」

「jar」

 

エルザの身体から光が放たれ、鎧が解除されていく。輝きが増した瞬間、鎧は形を変え、まとわれた。翼が生えたようなフォルムが特徴的な白い鎧。舞い散る羽のように何振りもの剣が宙を舞っている。

 

コレこそが彼女の換装魔法、騎士(ザ・ナイト)。鎧そのものを換装し、鎧によって特性も能力も変化する変幻自在の魔法。

 

続いてカイルも風の魔法を解く。代わりに身体から溢れるように炎を放たれる。天をも焼き尽くす勢いで空に放たれた炎は主の元へと舞い戻り、その業火は主を慕うように纏わりつく。

 

「え?炎?カイルの魔法って換装魔法じゃなかったの!?」

「カイルは二つ魔法がつかえるんだ。といってもアレは換装魔法じゃないんだけどね。正確には創造魔法。どんな武器でも魔力によって創造、または召喚できる太古の魔法(エンシェント・スペル)、【千の戦乙女の忠誠(サウザンド・ヴァルキリー)】」

 

以前ギルドで見せたのはこの魔法に当たる。騎士として闘う時、カイルは基本的にこの魔法を使う。この魔法は日々進化しており、今は武具以外の物も創造できる。

 

「コレだけでも充分に強力な魔法だけどカイルの本領はそれじゃないんだ。ねえルーシィ。精霊って知ってる?」

「あらゆる物体に宿っているって言われてる……

唯人には見る事ができない霊体。

知性を持つ何か。

魔の力を持つ生命」

「そう、その中でもとびきり強力な魔力と意識を持った存在。彼女達の力を己の魔力を媒介にして発現させる魔法。精霊を見る事ができる人間がいなくなってしまった為、太古に失われた失われた魔法(ロスト・マジック)。その名を…………」

 

 

【ローレライ】

 

 

発現された精霊王の炎がエルザの換装した天輪の鎧の剣に纏われる。

その現象をルーシィは知っている。掛け合わせる事は至難であるはずの別々の力を一つにする絶技。その威力は絶大であり、本当に息が合った者同士でなければ発動は難しい。生涯を費やしても習得には至らないこともある究極魔法。

 

「「ユニゾン・レイド!!」」

 

二人の口からその魔法の名が叫ばれる。天輪の鎧を纏ったエルザは剣を握りしめ、カイルも火車切りと呼ばれる炎の霊剣を創造していた。

 

天をも焼き切る百翼の牙(スカーレット・ファング)!!」

 

天を覆う百の炎剣が一斉に鉄の森に襲いかかる。鉄の森は一斉に全焼し、潜んでいた悪党たちは慌てて森から逃げる。

 

「後は任せる」

「おう任せろ!火竜の咆哮!!」

「アイスメイク……ランス!!」

 

撃ち漏らした雑魚達をナツとグレイが仕留める。撃ち出された炎の津波と氷の槍が逃げ惑う雑魚をとらえた。

 

「おい、カイル。どこに行く」

「エリゴールのトコ」

 

あの様子ならもう手助けの必要はないと判断した。唯一重力魔法での拘束を解いていなかった死神と異名される男の元に向かう。

背を向けて歩き出すカイルにエルザも慌ててついてきた。

 

「さて、先ほどの質問の続きだ。エリゴール」

 

拘束は解かず、剣を首元に突きつける。何とか抵抗しようとジタバタしていたが下手に動くと斬れてしまう為、ようやく大人しくなった。

それでも誰が言うか、とキツく睨みつけてくる。

 

その様子を見てまともに吐かせることは不可能と断じたカイルは目の色が変わる。

 

ドクンとエリゴールの身体が一度脈打つ。俯き、虚ろな目になるのが端から見てもわかった。

 

「カイル、コレは……?」

「幻術。催眠に近い魔法だな。まあ自白剤みたいなモンさ………では、改めて聞くぞエリゴール。コレの事、誰に聞いた?」

「…………女」

「どんな女だ」

「…………覆面みたいなのをしていたから顔はよくわからん。仮装みたいな格好をした女」

「顔は隠してたってことか?そいつの目的は?」

「…………強化」

 

その一言がエリゴールから放たれた瞬間、すべての疑問が解けた。誰がこいつにララバイを教えたのかも、そいつの目的も。

 

ーーーー今回動いてた黒幕は……

 

背後に唐突に気配を感じた。次の刹那には背中の剣を抜き放ち、薙ぎはらっていた。硬質な金属音が音高く鳴り響く。

 

「久しいな、カイル」

「やはりお前か、キョウカ」

 

精霊王が一度滅ぼしたはずの冥府の門から放たれた悪魔がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。おかしいな、サクサク進めるはずなのにまだララバイ編書いてる私?いや、私が悪いんじゃない。頭の中で勝手に動くカイルと他のキャラがいけないんだ!そうだ、俺は悪くねえ!!てわけでもう少しララバイ編続きます。頑張ってカイル達の動きを追いかけますので気長にお待ちください。それでは感想、評価よろしくお願いします!
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