ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第五公演 二十歳越えると一年の早さにビビる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーコイツは?

 

唐突に剣を抜いたカイルを気にかけながら美髪の女騎士は突如現われた人物を見やる。ぱっと見は女性だ。第一印象は変わった格好をした女。歳は二十代半ばほど。ただ者でない事は一目でわかる。

どうやら愛し人の知り合いらしい。銀髪の剣士は警戒心を露わにした目で一度睨みつけるとフッと挑戦的に笑った。

 

「ふうん……へぇ」

「ほう、そこまで驚きはないか」

「むしろ何故思いつかなかったのか不思議なくらいでな。ゼレフ書の悪魔といえばマリアなんかより真っ先に連想しなければならなかった」

 

マリアという女の名前が気にかかったのか、緋髪の美女は苛立ちの色を含みつつ横目で睨む。その苛立ちは正しいが説明は後にさせて貰おう。今はコイツとの話が最優先だ。

 

「大きくなったな、そして強くなった、少年。いや、今はもう青年か。人の成長は本当に早い」

「ララバイを手に入れて何をするつもりだ。確かに強力な魔法だがお前らが求める程じゃないだろう」

 

ゼレフ書の悪魔の中でも最高位に位置する彼女らにすればララバイは間違いなく格下。闇ギルドにやらせるほどの仕事には思えない。

 

「おや、流石の其方も黒魔法に関しては明るくないと見える。それはただの笛ではない。此方達と同じ、生きた魔法だ。そして生きているなら此方がキョウカ出来る」

 

なるほど、と納得した表情を浮かべる。コイツはゼレフ書の悪魔にしては珍しく人間に興味を持っている。鉄の森に封印を解かせたのはその辺の私情があるのだろう。

 

「来たる戦の為に戦力を増やしておこうという訳か。冥王の指示か?」

「その通り。ENDの復活の為にも戦力は多いに越した事はない」

 

END。その言葉の意味を知っているカイルは僅かに形の良い眉をひそませる。かつて本気の九鬼門と戦ったからこそ辿り着けた一つの答え。推論の域を出てはいないが、この考察は間違っていないとカイルは直感していた。

 

「………もう一つ、俺の記憶が正しければ、貴様は俺が斬ったはずだ。なぜ生きている?」

「なっ!?」

 

カイルがすでに戦った事があるというのにも驚いたが、それ以上にこの男が人を斬ったという事に何より驚かされた。なぜ生きている、という質問はカイルが致命傷を与えたことがあるという事。そしてそこまでしなければ倒せなかったという相手だという事だ。そんな人物をエルザはギルダーツくらいしか思いつかなかった。

 

「そこは此方達の生命線に関わる。教えられんな」

「ハ、まあいい。いずれ俺の手で暴いてやる。で?貴様は何しに来た。わざわざ裏でテメエらが糸を引いていた事を教えに来ただけの理由は?」

「大した理由ではない。其方が動いているのがわかったでな。会いに来ただけだ」

 

目の前の脅威に警戒し、色々と複雑に渦巻いていたエルザの感情がその一言で一つに収束される。端的に言うと、カチンときた。頬が引き攣る。

 

「カイル……」

「雑食なのは否定せんが俺に怪物愛好家(モンスターフィリア)の気はねえ。安心しろ」

 

カイルの言葉の真意を理解出来ず、エルザの頭にハテナが浮かぶ。モンスターフィリアの意味は勿論知っている。しかし目の前の女にそれが当てはまるとは思えない。

それでもそういう関係ではないという事は今の答えで理解した。カイルの過去も気にかかるとはいえ、これ以上の詮索をしては煙たがれる恐れがある。

 

「俺に会いに……ねぇ。なかなか魅力的な誘い文句だ。俺もよく使うけど使われるのは新鮮で面白い。で?会った上でどうする?」

 

剣を突きつけ、半身に構える。抑えていた魔力を解き放つ。精霊王の波動が大気を震わせる。

 

「やるってんなら相手になるぜ?かかってきな。殺してやるよキョウカ。今度は芥子粒一つ残さずな」

 

常人なら腰を抜かすほどの……事実エリゴールは動けなくなっている。逃げるなら今ほどの好機はないというのに指一本動かせない。

 

ーーーーカイルの奴……本気だ

 

「汝……魔を滅する「よせ、カイル」

 

魔物の沈黙を肯定と取ったのか、何かを唱え、カイルの手が輝き始めた瞬間、キョウカが遮る。騎士王の魔力の昂りを前にして、戦闘態勢を解除した。その姿に奏でる者は少し驚かされる。

理由なく暴れる男でも暴れるのが好きな男でないのもこの女は知っている。それを知られてる事をカイル自身も知っている。それでも目の前に拳銃を突きつけて警戒を解いてくるとは思わなかった。お互いが眉間に突きつけていた銃を、まず相手が下ろした。ならこちらも下ろさずにはいれない。

 

「青年となった其方と交わりたくはあるが、其方と此方の戦いをこのようなくだらん場でやるのは勿体なかろう。此方らが闘うというのならやはりそれなりの舞台でなくてはな」

「………あっそ」

 

魔力の昂りを解く。コイツとヤるというなら白銀の髪の戦士も色々と覚悟しなければならない。もちろん勝つ自信はある。それでも無傷とはいかないだろう。戦いが避けられるならそれに越した事はない。

 

「命拾いしたな、キョウカ」

「なんだ、思ったよりあっさり認めたな。そなた少し丸くなったのではないか?」

「やっぱり殺す」

 

ザンと一歩足を踏み出したところでエルザが慌てて止める。カイルが本気で闘わなければならない戦闘など避けられるものなら避けなければならない。

エルザのブレーキ役はカイルの役目だが、カイルのブレーキ役も彼女の役目だ。

 

キョウカが手を伸ばし、何かを唱える。すると一度カイルの手の中の笛が脈打つ。

何をした、という視線を向ける。意味を汲み取ったキョウカは視線に対して微笑を返し、答えた。

 

「ララバイをキョウカした。コレで少しは其方も楽しめるであろうよ」

「なんだよ、回収しなくていいのか?強化したララバイが目的だったんだろうが」

「其方と戦ってまで達成したい目的ではない。ソレをどう扱うかは其方に任せる…………カイル」

 

改めて名を呼ばれ、眉を少し歪めて応える。まだ何かあるのか、と言わんばかりの態度だ。

 

「いつか其方の全てを此方が手に入れる」

 

カイルの返事を待たずキョウカが行動を起こす。一度大きく腕を振り、土煙を発生させた。目くらましの意図に俺たちへの攻撃はないと理解してはいた。しかし可能性はゼロではない。

 

「シルフ」

【御心のままに】

 

風の本流が土煙を晴らす。視界がクリアになった時、もうキョウカの姿はなかった。

 

「行ったか……」

 

軽い金属音が鳴る。剣を腰に収めた音だ。納刀するという剣士ならば当然の動き。それを見てエルザは息を呑む。はたから見れば驚嘆するような事ではない。実際見ている分には簡単な所作に見える。しかしエルザは知っている。納刀という動きも武の一つであるという事を。

流麗な納刀とは流麗な抜刀よりも遥かに技術と慣れが必要な所作なのだ。

エルザは基本的に武器は換装空間に収めるため、この技術はあまり必要としない。しかし騎士として、身につけてはある。だからこそわかる。カイルの伎倆の凄さを。

この男の動きは一つ一つが練り上げられた武なのだと。

 

相棒の視線に気づいたのか、横目で見下ろし、フフンと言わんばかりに口角を上げる。緋髪の騎士が何に感心したのかには想像がついていた。

 

「その気になればお前にも出来るだろう」

「少なくともお前ほど流麗にはやれん」

「魔法剣士には必要ない技術だ。気にすることはない」

 

ーーーーさて、余計な横槍が入ったが…

 

鉄の森と闘っているナツ達の様子を見る。概ね決着はついている。今はいつもの喧嘩に移行した感じだ。喧嘩に夢中だった為か、こちらの一連のやりとりには気づいていない。

 

「俺の方が多く倒した!!」

「はぁ!?お前はその辺のザコばっか相手してただけじゃねーかこの釣り目野郎!質は俺の方が遥かに上だっての!」

「んだとぉ!?」

「やんのか!!」

「止めんか」

 

ゴチンと拳を二人に下ろす。非常に鈍い音が鳴り、二人の体が地面に埋まり、頭が腫れ上がる。実に痛そう。

 

「おらナツ起きろ。お前にはもうひと勝負やってもらう」

「んあっ?……あぁ、なんだカイルか。ビックリした。もうひと勝負?カイルが俺と戦ってくれんのか!?」

 

意識をクラクラさせた相手が仲間だと理解し、笑みを浮かべる。結構な威力で殴ったにも関わらずこの反応を返せるのはこいつの美点だろう。カイルも根に持たないタイプだが、ナツはそれを遥かに越えている。

 

「俺じゃねえよ。そこのエリゴールとやってもらう。今回の件の主犯だ。それなりにやれる」

「な!?」

「おう!わかった!」

 

ぐるりと腕を回しナツが歩いてくると同時にエルザはカイルの元へと駆け寄る。カイルがエリゴールに掛けていた拘束はまだ解いていない。だからこそ今の内にこの男の心算を聞かなければならない。

 

「何を考えてる!?逃げられでもしたらどうするつもりだ!」

「別にどうもしねーさ。もうララバイは持ってないんだ。あの程度の小物、逃がしたところでどーって事はない」

「無駄にリスクを増やすマネをして何になる!お前にとっては今はザコでもいずれ障害になるかもしれんだろう!」

「そうなってくれれば嬉しいねぇ。退屈凌ぎのタネは多ければ多いほど良い」

「カイル!!」

「………だが、そうはならんだろうよ」

 

激昂するエルザの頭に手をやり、エリゴールへと向かせる。そこでようやく今のエリゴールの状態に気づいた。

 

ーーーーコレは……

 

目から戦意は失われており、ただでさえ窪んだ顔つきが一層うらぶれた様子になっている。

 

ーーーー完全に心が折れている。もう魔導士として活動できるか……

 

それも無理のない事だとエルザは思う。先ほど本当の世界最強クラスの殺気のぶつかり合いの渦中にいたのだ。エルザは常にカイルが隣にいたおかげで圧倒的な気配には耐性があるし、何よりずっと彼女を守るようにカイルがエルザを背中に置いていた為、キョウカの殺気はあまり届いていなかった。

 

しかしエリゴールは別だ。手も足も動かない状態であの殺気と魔力に晒され続けた。それは両手両足拘束された状態で海に投げ出されたようなものだった。息をするのさえ困難だったハズ。

 

「カイル………もうこれは」

「ああ、このままじゃダメだな。譲歩が必要だ」

 

生気のない顔つきのエリゴールの前にしゃがみ込む。もう死神と呼ばれた男は見る影もない。

 

「おいエリゴール、起きろコラ。ホレホレ」

 

ペチペチと頬を叩く。虚ろな目がようやくカイルを捉えた。

 

「お、起きたな。ほらしっかりしろエリゴール。お前にチャンスをやる。お前には今から殺し合いをしてもらいますコノヤロー」

「………もうそんなモンに意味なんてねえだろう。俺じゃどうやってもお前には勝てねえ」

「強さに正直になるのは良い事だ。別に俺とやれとは言わんさ。相手はこの桜頭だ」

「同じ事だ。たとえこいつを倒したところでいずれテメエと戦わなきゃなんねえんだ。もう俺の力じゃどうにもならん。計画は失敗したんだ」

「このままだとそうだな。だからチャンスをやると言ったんだ」

 

手に持ったララバイを目の前に突き出す。今回の奴の目的の核を出してやると流石に目の色が変わる。どれくらいの期間かはわからないが、ずっとコレを求めていたんだ。この反応は当然だろう。

 

「お前がナツに勝てばコレをやろう。キョウカがバージョンアップしたスペシャルだ。挑む価値はあると思わんか?」

「カイル!!」

 

エリゴールが何か言うより先にエルザが叫んだ。驚きはない。正義マン……いや、マンじゃないけど、のこいつからすればあり得ない提案だろう。俺のいつもの気まぐれが始まったと取られても仕方ない。しかし今回ばかりは戯れではない。コレは必要な事だ。

 

「お前はナツを信じてないのか」

 

だからこそ真摯な声で言葉を発する。唐突なカイルの真剣な態度に若干怯んだのがわかる。しかしキッと目に力を込め、返した。

 

「そういう問題ではないだろう!」

「だな、俺も言ってて思った」

「なら!「あいつはいずれこの世界を背負う事になる。その為にもあいつは強くなんなきゃいけねえんだ」

 

唐突な大げさな話にエルザの眉が歪む。しかしそんな顔をされては困る。俺と共に歩むというならお前もその一助となってしまう可能性が高い。

 

「大丈夫、俺がいるんだ。いざとなればなんとでもなる」

「…………………わかってる」

 

むくれる彼女の頭を撫でてやる。尖っていた気配が少し柔らかくなったのを感じながら苦笑する。

エリゴールの拘束を解いてやる。

 

「パラディン。約束は守るんだろうなぁ」

「俺の名誉と誇りにかけて」

 

必ず守ると言質を与えてやるとすぐに戦いが始まった。魔力の総量なら圧倒的にナツだが相性の悪い風の魔法をどうするか。この戦いはそれにかかっている。

 

ーーーーそれにしても……

 

大きくなった、と思う。さほど歳は離れてないのだがナツとは約3年の差がある。そして3年とは思春期にとって大人と子供ほどの差が出る年月だ。

強くなったとも思うが現状ではまだまだ。そう、ナツはまだまだこれからだ。

そして、強くなってしまったと思うのが隣に立つこの女だ。

 

ーーーーそうならないようにする為に俺も全力を尽くしたんだがな……

 

だから一人で旅に出た。俺といる事が彼女を戦いに連れ出す事と同義になる事がわかっていたから。俺といる事が否が応でも誰より愛するこの女を強くする事を知っていたから。

 

だが彼女は一人ででも強くなってしまった。俺がいない事を糧に奮起し、いずれ俺の役に立つ為にこいつは己を鍛え上げた。旅から帰った時の彼女の泣き笑いの顔とうわずった声は今でも忘れられない。

 

ーーーーカイル!

 

初めて思った。俺達は出会わなければ良かったのかもしれない。俺の胸の中に抱きつくこいつを愛しく思いながらも俺は思った。

 

 

いや、嘘だ。

 

 

本当は何度も思っていた。俺と会ってしまわなければ、こいつはもっと当たり前の幸せを掴めたんじゃないだろうか。白く美しい肌を鎧に包む事もなく、本当は華奢な手を剣で固くする事もない。女として幸せな生き方を。

 

「カイル?」

 

急に顔つきが変わった事に不安を覚えたのか、ローブの裾を握り、上目遣いする。強くも美しくもなった。酸いも甘いも経験し、大人になった。何もかもあの頃と変わった。

 

それでもこの澄んだ瞳だけは出会った頃と変わらない。

 

ーーーーそれでも俺は……

 

この強い瞳を見るたびに何度だって思う。こいつと会えて良かったと。俺の隣にいて欲しいと。辛い思いも、悲しい思いもさせるとわかっている。女として当たり前の幸せを与えてやれないかもしれない。それもわかっている。

それでも俺は……

 

こいつを愛さずにいられない。

 

「ゴメンな、エルザ」

「はぁ?」

 

なんの脈絡もなく繰り出されたカイルの一言に眉を顰める。理由を知りたいだろうが説明はしない。したらコイツは絶対怒る。

 

「なんだ?何か謝らなきゃならない事をしたのか?」

「いや……」

 

だから嘘ではない言葉で謝ろう。

 

「お前を好きで、ゴメン」

「はぁ!?」

 

数秒前に発した言葉と同じ事をエルザは思わずもう一度言ってしまう。同音でも言葉に込められた意味合いは全く変わる。

 

ーーーーこういう事をコイツはサラリと……似たような言葉を自分が言うのにどれ程の勇気が要るか、わかっているのだろうか、この男は。いや、わかっているはずだ。私の事をこいつがわからないはずがない。私の事は私よりよほどよくわかっているはずだ。

 

「お、お前がそういう事言うたびに私がどれだけ揺さぶられるか、わかってるのか!?」

「まあ大体」

「なおタチが悪い!」

「はっはっは」

 

肩を掴みかかりとガクガクと揺さぶり始める。しばらくこのままでいても良いのだけれど、なんか気持ち悪くなってきたので止める。

 

「カイル」

 

先ほどとは打って変わって落ち着いた、それでいて真摯な声で呼ばれる。これは茶化していい雰囲気ではないとカイルも装いを改めた。

 

「お前が何を考えてるかは知らん。それを聞くつもりもない。だが決して一人で戦うな。そして忘れるな。お前の隣にはこの私がいるという事を」

 

キョウカの存在、ナツに相性の悪い相手をぶつける意図。聞きたい事はあるだろう。それでも彼女は聞かないでいてくれる。俺が話すのを待っていてくれる。

 

「私がお前に望む事は一つだ。お前と共に生きて、共に歳をとらせてくれれば私は幸せだよ」

 

男の肩に身体を預け、目を閉じる。カイルも鎧に包まれた華奢な肩をそっと抱き寄せた。

 

「エルザ」

「ん?」

「お前に会えて………よかった」

「…………ん」

 

出会わなければよかったかもしれない。それでも俺は……俺たちは………

 

 

家族になれてよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。え?ルーシィが空気だって?もうっ、おじいちゃん!原作でもこの辺りはあの子空気だったでしょ!というわけでルーシィの出番はファントム編までお待ちください。今年ももう終わりでございますね。早えな〜。もうやんなっちゃうなぁ〜。師が走り、弟子がスライディング土下座するほど忙しい(筆者は当然弟子)月ですが、頑張って執筆いたしますので感想、評価よろしくお願いします。
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