ローレライの支配者   作:フクブチョー

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第七公演 誰にでも一つや二つ黒歴史があるもんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ルーシィ』

 

10年近く前、とある豪邸の一室で母娘が共に時を過ごしていた。年端もいかない幼い少女を膝の上に乗せた蜂蜜色の髪の美女が優しく彼女の名前を呼ぶ。

 

『なに?ママ?』

 

名前を呼ばれた母と同じ髪色をした可愛らしい少女は笑顔で見上げる。そんな少女の頬をママと呼ばれた彼女は愛おしげに撫でる。

 

『大きくなったら魔導士になりたいって言ってたわね』

『うん!私、絶対立派な星霊魔導士になる!』

『そう、素敵ね。でもママみたいな魔導士にはなっちゃダメよ』

『どーして?』

『ママはとっても弱いからね』

 

現在において最も偉大な星霊魔導士と言っていい人間からそんな言葉が紡がれる。しかし嘘を言ったつもりは本人にない。元々体の丈夫でない彼女があの門を開ける事を決意した。自分の寿命がそこまでだという事は覚悟している。

 

『ルーシィ、貴方は将来きっと素晴らしい魔導士にたくさん出会うわ。そんな人達とママみたいになるんじゃなくて貴方は貴方らしい魔導士になって。ママはそれが一番素敵だと思う』

『ん〜……よくわかんない』

 

母の膝の上でコテンと横になる。お互いの柔らかさと温もりにに二人とも笑みが零れる。

 

『ちょっと難しかったわね。今はまだわからなくてもいいわ。でもルーシィ、一つだけ……いえ、一人だけ覚えておきなさい。貴方がこの道を志すなら貴方はいつか彼にきっと出会う』

『彼?だあれ?』

『その方はね……いずれ世界で最も偉大な魔導士になる男の子。白銀の髪に琥珀色の瞳を宿したこの世界に調和をもたらす人………名前は………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊魔装を展開したカイルの魔力の波動に何人かは腰を抜かしていた。仮にも魔導士ギルドの長たちだ。才能には何度も出会ってきたし、強敵の耐性もそれなりにある。

しかし今までの経験が比較にもならない怪物達の存在に彼らは圧倒されずにはいられなかった。

 

「いいかナツ、よく見ておけ。この手デカブツ相手の闘い方をレクチャーしてやる」

「あい」

 

あまりの圧力にビビってハッピーになってるナツに苦笑しつつ、奏でる者は槍を一振りする。

 

「凍る大地」

『ギッ!?』

 

ノータイムで氷で出来た槍がララバイを貫く。前方の地面を直線状に凍結、巨大で鋭い氷柱が敵の足を凍結させ身動きを封じた。

ララバイもカイルが動くのを悠長に待っていたわけじゃない。見惚れてしまっていたのだ。彼が知るどの奏でる者より強く、美しい力を持つ男に。

 

「こーいうのを倒すには二つコツがある。一つは派手に動けないように相手を縛ること。そしてもう一つはパワー。要するに火力だ」

 

槍をもう一振りする。今度はナツ達の前に氷壁が張り巡らされた。それは彼らを守るために張られた防護の氷壁。

 

「生命は鳴動し、万物は流転する…」

 

ララバイを中心に氷の牢獄が足元からせり上がっていく。破壊しようと必死に暴れるが精霊王の氷は力では壊せない。

 

「咲き渡る氷の白薔薇…眠れる永劫の楽園…横たわる永遠の氷河…とこしえの闇……命あるものに等しき死を」

 

槍から冷気が放たれ、ララバイを包んでいく。もはや彼にできる事はもうただ凍る事のみ。

 

『き、貴様……奏でる者ごときがこれ程の魔法を!?』

 

ララバイはかつて一度、先のローレライと戦ったことがある。その時の相手の強さは覚えていた。確かに強力な魔導士だったがこんなデタラメではなかった。少なくとも自分で充分に戦える相手だった。しかも今の自分は強化されている。この実力差は信じがたいモノだった。

 

「はっ。幕下のゼレフ書の悪魔ごときが、笑わせんなよ。これ程の魔法を?寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ」

 

挑戦的に口角を歪め、琥珀色の瞳に戦意の焔を燃やし、言い放つ。

 

「俺が魔法(マジック)だ」

 

 

おわるせかい

 

 

詠唱を終え、冷気が完全にララバイを包んだ瞬間、体の芯まで一気に凍結する。

 

「62点。ちょっとは楽しめた」

 

砕けろ、という呟きと共にカイルがパチンと指を鳴らした瞬間、凍った体躯は砕け散り、魔獣の姿は跡形もなくなくなった。

 

「ん、悪くない破砕音(喝采)だ」

 

崩れ散ったララバイに背を向け、堂々とこちらに歩いてくる。

 

「見事」

「ゼレフの悪魔がこうも、あっさり………」

「こ‥こりゃ、たまげたわい」

「かーかっかっかっかっかっ!!!」

 

マカロフは、大声で自慢げに笑っていた。

 

「す…すっげえ…」

「ったく、かなわねえなぁ」

「…………コレだからな」

 

そう、これが。これこそが当代のローレライの力。

 

瓦礫の中に悠然と立つカイルの姿を見てルーシィは昔聞かされた母の言葉が脳裏に蘇った。

 

『ルーシィ、貴方がこの道を志すなら貴方はいつか彼にきっと出会う……いずれ世界で最も偉大な魔導士になる男の子。白銀の髪に琥珀色の瞳を宿したこの世に調和をもたらす人………名前は………』

 

「レグナス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーシィから紡がれたその名前にカイルは驚愕する。そしてその後に郷愁がついてくる。その名前を人から聞いたのは一体何年ぶりの事だろうか、カイル自身もう忘れてしまった。

 

「レグナス?」

 

聞き覚えのない名前を紡いだ少女の隣にいたエルザが整った眉に疑問を滲ませる。その声を聞いてようやくカイルは我に返った。

 

「随分と懐かしい名前を聞かされたな。ルーシィ、その名前誰に………いや、ちょっと待てよ」

 

顎に手をやり、ルーシィの顔を至近距離で観察する。あと一押しもすればキス出来てしまうその距離にルーシィの頬は朱に染まった。

 

「ちょ、ちょっと……カイル」

「ん〜〜……」

 

あっ、とカイルが何かを思い出したような表情をした時、銀髪の剣士は首根っこを掴まれてグイッとルーシィから引き剥がされる。それを行ったのは当然美髪の相棒。表情に不愉快な色をありありと浮かべ、形の整った眉はひそめられている。

 

「おいカイル、いい加減に「思い出した!どっかで見た顔だと思ったら……ルーシィ、お母さんの名前、レイラだろ!」

「えっ、なんで知って……あ」

 

財閥の令嬢である事を隠していたルーシィはしまった、と口元に手をやる。その反応を見てもカイル以外は何もわからない。それも当然。レイラなどそこまで珍しい名前でもない。それを聞いただけでは産まれなどわからない。

 

しかしカイルだけは別だ。母親の名前をピンポイントに当てたということはファミリーネームも知っている可能性は高い。ルーシィが隠し事がばれたと思っても仕方ない事だろう。

 

「やっぱり!なんで今まできづかなかったかなぁ、うわ〜、面影あるわ〜。て事はルーシィも星霊魔導士か?鍵は?何持ってる?」

「えっと……カイル。ママの事、知ってるの?」

 

矢継ぎ早に質問するカイルにルーシィはまず疑問に思った事を告げる。そこでカイルもようやく落ち着きを取り戻す。訃報は彼の耳にも届いていた。あまり突っ込んだ事は聞いてはならないし、言ってもいけない。

 

「誰なんだ、レイラって。それとレグナスとは?お前の事なのか?」

 

その場にいた一同の疑問をエルザが代表して尋ねる。話していいかとチラリと視線を向ける。

 

「ファミリーネームの事は言わないで…」

 

手を合わせて懇願するルーシィに苦笑を返す。どうやらお嬢様である事を鼻に掛けたくはないらしい。

 

「母の友人だった人だよ。俺もガキの頃何度か会った事がある。偉大な星霊魔導士だった」

「て事は8年以上前の事か…」

 

エルザと出会ってからカイルの隣には基本的に彼女がいた。もし8年間のどこかで会ったならエルザなら知ってるはずだ。

 

「レグナスについてはノーコメントにさせてくれ。もう死人の名前みたいものだ。ルーシィももうその名は出してくれるな。俺の事はカイルと呼んでくれ。カイルディア・ハーデスだ」

「わ、わかった……って!カイルディア・ハーデス!?」

 

カイルの今のフルネームを聞いてルーシィは驚きの声を上げる。

 

「聖十大魔導士序列7位!黒の騎士王カイルディア・ハーデス!不世出の魔導剣士にして妖精の尻尾のエース!カイルの事だったの!?」

「なんだ、知らなかったのか」

 

ーーーーああ、そういえばフルネーム名乗ったの初めてか

 

「どーして教えてくれなかったのよ!私黒の騎士王に憧れてるって言ったわよね!!」

 

自分をギルドに招待したナツに掴みかかる。その時憧れの存在の名前は告げていた。

 

「え。いや、てっきり知ってるもんだと」

「知らないわよ!その伝説的所業の数々に比べてメディアへの露出は極端に少なくて顔写真すらわからない人なのに!」

「へぇ、そっちの名前も知ってたか」

「あ、うん。私が妖精の尻尾に入る事を決めた理由の一つだし…」

「そっか。嬉しいよ。ありがとう」

「〜〜〜〜!!」

 

頭を撫でられたルーシィはこれ以上ない程顔を真っ赤にして俯く。先ほど出た名前の件についても個人のプライバシーに関わると認識したギルドマスター達は、言及せず話を切り替えた。

 

「どうじゃーー!!!すごいじゃろぉぉぉっ!!!」

「いやあ いきさつはようわからんが、妖精の尻尾には借りができちまったなァ」

「うむ」

「なんのなんのー!!!ふひゃひゃひゃひゃひゃ!!!ひゃ…ゃ‥は!!」

「ん?」

 

後ろに反っくり返るほど胸を張っていたマカロフは背後の光景が見えてしまい、冷や汗を浮かべる。他のマスター達もつられて後ろを振り向いた。

 

「!!!」

 

マカロフは、そろ~と忍び足で立ち去ろうとした。ナツ達も、何があったのか後ろを見た…。

 

「ぬああああっ!!!!定例会の会場が‥凍りついて………」

「粉々じゃ!!!!」

「しまった……手加減すんの忘れてた」

 

マスター達は、ビックリし過ぎて開いた口が塞がらない状態だった。カイルも微妙な顔をしつつ頭を掻く。

 

「ははっ!!!見事に、ぶっこわれちまったなァ」

「捕まえろーーっ!!!」

「おし、まかせとけ!!!」

「おまえは捕まる側だーー!!!」

「ごめんジーさん。久々にちょっと本気出したから……」

「いーのいーの。どうせもう呼ばれないでしょ?」

 

そそくさと逃げ出す。こうして事件は取り敢えずの解決を見せた。

 

 

これからの脅威の影と、ほんの少しの秘密を残して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきです。ララバイ編やっと終わった〜。早く追いつきたいのですがまだまだある先の長さに目眩がしますね。では、次回は評議会の呼び出しです。その後はオリジナルストーリーを挟みます。励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。それと低評価ももちろん受け付けていますができればその理由もお聞かせください。よろしくお願いします
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