ソードアート・オンラインIF ver.アインクラッド 作:モコモコ毛玉
皆さんはじめまして。モコモコ毛玉という者です。
元々念の為でハーメルン様のR18側に投稿していた本作品ですが、特に反対意見もなかった為通常投稿に移行してみる事にしました。
よろしくお願いします。
[前書き編集日:2/1]
プロローグ
プロローグ
浮遊城、アインクラッドの五十層を攻略して数日後の深夜、 "話しがしたい" なんてメールがアイツから飛んできた。ふざけも冗談もないたったそれだけの内容に返事を打つよりも速く、俺は宿を抜け出してアイツ――シャルテが泊まっているはずの宿まで走っていた。
距離はここから走れば五分とない。目的の宿、その玄関前まで来たときに上から声が飛んできた。
"来て、くれたんだ――。"
いつもより元気のない、萎(しぼ)んだ声の正体はシャルテだった。が、下からでは覗いてくる顔くらいしか見えず、俺は近くにある木箱や隣の建物を足場にしてシャルテのいる屋根に飛び移ると足を延ばしている彼の隣に腰をおろす。
「ここ、月が綺麗に見えるんだよね……。僕も、少し前に気づいたんだけどさ」
表情は相変わらず陰(かげ)ったまま、目を少し細めて月を眺めるシャルテの頬は笑みを浮かべようとして引きつっていた。それに彼も気づいているのだろう、僅かにだが眉間に皺(しわ)がよる。
――無理に笑う必要は、ないんじゃないか?
そんなシャルテを見てられなくて、言わない方が良いと思いながらも言ってしまった。途端に引きつっていた笑みは消えて、俯き、端から見てわかる程に歯を食いしばっていた。
今まで見た事のなかったシャルテの様子に、何と言葉をかけていいのかが俺にはわからなかった。
それから程なく、「ちょっと待って」と揺れた声で問いかけられて俺が短く肯定の返事を返すと延ばしていた足を抱え、うずくまる様に体勢を変えたシャルテは蚊の鳴く様な声でポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
「どうして、皆死んじゃうのかな――」
最初のボス戦からずっと用心に用心をとレベルを上げても、少なからず死者が生まれた。
「何で後少しの手が届かないのかな――」
自分は周りよりレベルが高いから、人一倍動いて守らないといけないのに、伸ばした手は届かず目の前で命は砕けていく。
「こんな事、 "わかりきってはいたけどさ" 。目の前で起きるのは、やっぱり堪えるよ――僕だって、人間なんだ」
『死ぬ可能性も考えない、楽観視しかできないヤツにボスと戦う資格なんかない』・『外野は黙っててよ。力もない、覚悟一つ決めれないプレイヤーは大人しく安全圏で縮こまっていればいい。無理をして、命を無駄にする必要なんかないんだ』・『攻略組にマトモな人間なんていないでしょ』。
何処(どこ)か投げやりで、冷たくて、自分の為と言いながらもその一方では優しさが確かにあった。
それでも今隣にいるシャルテの格好にいつもの面影は微塵も残っていない。そこにいたのは、自分やアスナと変わらないタダの子どもだ。
「 "本当なら、こうして立ち止まってる時間もないのに――" 」
噛み締める様な声に月明かりに照らされるシャルテの髪が寂しそうに風になびいていた。
シャルテが誰かに弱音を零す姿を見たのは、俺にとってその日が初めてだった。
その後も俺はたまに相づちを打つ程度しかできず、シャルテも黙ったままで時折顔を少しだけ上げては空を見て、俯く。その繰り返し。
呼ばれてからどれくらいたった頃だろうか。ただ隣にいて話しを聞く事しかできなかった俺に「 "ごめんね、ありがとう。もう大丈夫――またね" 」、そう言ってシャルテは屋根上から自分の部屋の窓を使って宿の中へと入っていった。
翌日、俺は気になってシャルテの下(もと)に向かうと普段のよく見るシャルテがいた。「眠い」なんて言って欠伸をする姿から昨日の姿は嘘だったんじゃないか、夢だったんじゃないかと思いそうになる変わりようだった。それでも昨日のシャルテの姿が頭から離れず、俺はその事がバレない様にシャルテをレベル上げに誘うと、彼は話しにのってきた。
パーティーを組んだ後、どうせなら何人かで行こうと言ってきたシャルテに俺は自分のフレンドリストから二人を選択してレベル上げに誘った。それに対する肯定の返事が返ってきてからパーティーへの招待を飛ばす。
意識すれば視界の隅に移る自分達の名前、その横に二人分の名前が加わった。
「――ねえキリト」
「ん、どうかしたか?」
合流までの待ち時間、不意にシャルテから声をかけられた。
「無茶はしたらダメだよ? まだ折り返しなんだから、先は長いんだ」
「ああ、わかってる。……シャルテもな」
シャルテが浮かべていたいつも通りの表情が俺の言葉で苦笑いに変わる。自分は大丈夫、そう言ったシャルテと拳を軽くぶつけて、俺は一度大きく息を吸った。
これからも不安や悩みは流れてくるのは確実だ。それでも、どうか今だけは。
先は、まだ長いのだから――。
遠くから聞こえてきた此方をの名前を呼ぶ馴染みのある声に、俺達は揃って手をあげた。