ソードアート・オンラインIF ver.アインクラッド 作:モコモコ毛玉
End of Prologue
第七十五層の主街区《コリニア》。古代ローマを模した街にある隠れ宿のリビングで僕はテーブルに頬づえをつき、手に握った紙切れを眺めていた。
『衝撃、黒の剣士が放った五十連撃――!』
そんなありふれた見出しで綴られる内容は軍が出してしまった犠牲に一切触れる事なく、全てが過度な装飾を施した完全な美談と化している。そこにあるのは最速の攻略を褒め称える文字の羅列だけ――犠牲者もなければ読む価値すらもない。
無言のまま嘆息を一つ、向かいに座るアルゴへ紙を渡せば彼女も同じように息を吐いて口を開く。
「念の為言っておくがオネーサンの書いた記事じゃないからな?」
「そう……別にアルゴが書いてた記事でも牙を向けたりしないから、安心して良いよ。キミがこうして暇つぶしのネタにする辺り趣味や内容の善悪はともかく問題視すべき物じゃないんだろうし」
アルゴの事だ、実際にキリトたちの身へ危険が及ぶような内容であれば既にもみ消すなり対策を取っているだろう。そう思い、以前と変わらぬ調子で答えたつもりなのだが、目の前に居るアルゴは表情を暗くして黙って此方へ手を伸ばしてきた。
僕の視線は変わらず彼女を射抜いたまま、意識せずとも身体は勝手に反応して彼女の手をはねのける。何度伸ばされても結果は同じ、彼女の手が届く事はない。
「オネーサンもシャルに牙を剥かれるのが恐くて言ったワケじゃないんだけどな……それと、キー坊たちから話しは聞いてる。オネーサンで良ければ相談相手になってもいい。だから少しは気を緩めろ、じゃないとシャルが保たないぞ?」
「自分の意思で緩く出来るならもうやってるよ。キリトたちから聞いたなら話しは早いけど、こればかりは相談しても軽くならないし、ましてや解決なんて絶対しないから」
"行っちゃダメ" ――グリームアイズとの戦いで再び戦場へ這い上がろうとする僕をそう言って制した彼女に対し僕が何をしようとしていたのか。あの時はキリトが此方に道を譲ってくれたから大事にならずに済んだだけであり、そうでなければ僕は僕を止めようとする全員へ剣を向けていただろう。
実際にあの時の僕はアスナを "邪魔な者" としか捉えていなかったのだ、何をどう言い繕おうと友達に牙を向けようとした事実が揺らぐ事はない。グリームアイズ討伐から約一ヶ月が経過した今も尚、棘は刺さったまま。
「そうやって心配してくれる気持ちは素直に嬉しいし、これでも感謝はしてる。身体がこんなんじゃ伝わりにくいかも知れないけど」
「本当にな。嬉しいならせめて態度で示してくれた方がオネーサンとしてはやりやすくて有り難いんだが……ただまあ、互いに似たもの同士だって認知してるだけに防御したくなる気持ちは解らなくもない。オネーサンがシーちゃんと同じ立場でも多分そうする自信があるゾ」
会話と並行して続く攻防の中、中途で伸ばす手を戻したアルゴは少しだけ寂しそうな笑みを浮かべていた。が、直ぐに表情を切り替えた彼女はそんな色をおくびにも出さず普段通りの態度で尋ねられた疑問に僕は首を横へ振って否定を示す。
「実際にあの二人が今どこで何をしてるかまでは流石に知らないよ。グリームアイズを倒してからは連絡も取り合ってないし……。一応先月半ば辺りにアスナの自由をかけてキリトがヒースクリフと決闘したけど負けて血盟騎士団入りするハメになったとか、その間に起きたいざこざが原因で今は二人とも最前線から身を退いてるって話しはウルズから聞いた事あるけど」
最初はウルズが僕を外へ引きずり出す為に嘘を言ってるんじゃないかとも考えていたがそうではなく、今は本当に血盟騎士団を休んでいるらしい。おかげで今までアスナのこなしていた仕事は全て彼女が掛け持つ事になり、その事に対して延々と文句を垂れ流していた姿は印象に残っている。
程なくして以前と同様に一人でレベル上げをするようになってからも街中で彼らを見かける事は無く、時間帯が悪いか・避けられているか・噂通り最前線から退いたのかと勝手な考えを巡らせては『どうでも良いか』と投げ捨てていた。
「やっぱりか……まあ、あれだ。もしかすると近々キー坊かアーちゃん、リズリズ辺りが駆け込んでくるかも知れないがその時は受け入れてやってくれ。それと、これはあくまでオネーサンの予想だがキー坊たちも多分今のシャルおんなじ事を考えてる」
―― "どんな顔して会えばいいか、わからないんだろう?"
優しい声色の問いに、僕は直ぐ答える事が出来なかった。どうして彼女はこうも意地の悪い質問をするのかと文句を言おうにも思い返すまでもなく、自分もよくよくやってきた事で悪意から来るものではないと察しがつくだけに尚質が悪い。
反応に困った果てにジト目で "意地悪" と返せば人の悪い笑みを湛えた彼女は部屋にある時計を確認して席を立つ。
「さて、と。もう少し雑談に興じるのも悪くないがそろそろオネーサンはお暇させてもらうとするよ。シャルもレベル上げに行く時間だろう」
ほら。と、指差された先にあった掛け時計を確認してみるとアルゴの言う通り外出を予定した時刻まで後十分を切っていた。そうして彼女が宿を出て行き、僕もレベル上げをする為にフィールドへ向かおうとしていたのだが――使い捨ての短剣を買いに行く途中で見かけた人集りに先へ急ぐ足を止める。
というのも灯りへ群がる羽虫の様相を為す中心に見覚えのある『赤』と『竜』が見えたからで、もしやと思い注視してみれば案の定。記憶と合致した彼女とは別段親交が深い間柄でもなく、彼女にとってはキリトの知り合い程度の認識しかされていない筈。オマケに彼女の目の前で僕は敵意を剥き出しにした姿を晒しているのだ、恐怖の対象とされていても何ら不思議はない。
(無視しても良いんだけど見ちゃった以上何かあっても後味悪いしなぁ……って、はい? ちょっと待って何でキミはコッチに飛んでくるの?)
僕の身の丈以上もある群集の上から這い出た小さな竜は甲高い鳴き声をあげて空を舞い、此方に狙いを定め迷う事なく飛んできたフェザーリドラはあろうことか僕の頭に腰を落ち着かせた。
当然そんな事をすれば少女を囲む人たちの視線は此方へ集中するワケで、僕が彼女とパーティを組んでるとでも勘違いしたのか蜘蛛の子を散らすよう人集りは失せて二人と一匹だけが取り残される。
「キリトを探しに来たなら残念だけど、多分此処には居ないよ」
「えっ……?」
地べたに尻餅をつく彼女へ近づき声をかければ戻ってきた声は間の抜けたモノで、自分へ話しかけてきた人物を確認するためか上へ向かう視線はちょうど此方の顔を捉えた直後に固定される。そうして無言で瞬きを数度繰り返した少女はどういうワケか安堵の息を零した。
雰囲気からも怯えの気配が見えず心の内で戸惑う僕を置き去りに、彼女――シリカは真っ直ぐ此方を見つめて言葉を紡ぐ。
「あ、あの……シャルテさん。とにかく一緒に来てください!」
「――はい?」
主語も何もなくただ目的だけを言われても頷ける筈がない。せめて理由を聞こうとして刺さる周囲の視線に僕は息を吐いた。
(あー、やっぱり無視しとけば良かった……なんて後の祭りだよね。面倒くさいなぁ。)
ただでさえ本調子とは程遠い状態の今の僕にとって大量の視線は天敵でしかない。だからこそ諦めて、下手な言及はせずシリカについていく事を選ぶ。
向かった先、第五十の主街区にあるという彼女の借り宿で僕を待っていたのは五十層のボス攻略に参加していた女性プレイヤーと、狩人のような格好をした少年だった。
* * *
"アインクラッドに災厄が迫っている" ――と、少年は言った。
故にカーディナルはプレイヤーへ助けを求めている――と、少年は言う。
自分こそがカーディナルより言伝と役目を与えられた存在だと彼は胸を張り、故に使命としてアインクラッドでも指折りの実力者を集めなければならないのだと。
『クエスト:アインクラッド防衛戦』が発生しました――。
視界隅に浮かぶ新たなクエスト発生を知らせる表示を一瞥し、僕は真っ先にウルズへとメッセージを飛ばした。彼女なら何か知っているかもしれないという感覚が一割、指揮を取るなら恐らく血盟騎士団だろうという予想が三割。残りの『七』は恐らく "指折りの実力者" という枠に彼女やヒースクリフも納まっていると踏んだからに他ならない。
単なるイベントクエストか否かはともかくとして相応の強さを持つ敵現れると考えた方が利口だろう。少なくとも警戒しないよりは遥かにマシである。それから数分足らずで届いたメッセージには簡潔に『分かった』とだけ書かれていた。
「しかしまあ、こんな厄介そうな事に巻き込まれる辺りシリカも運が良いんだか悪いんだか」
曰わく、普段通りフィールドでレベル上げに勤しんでいた時に件の少年から話しかけられてしまい "少年の探している人物を見つける" というクエストを本人の意思とは無関係に受諾させられたらしい。偶然も此処まで来れば何かしらの作為を疑われても仕方がないのではなかろうか。
僕がシリカを見かけた事をキッカケに知ってしまった面倒くさい一連の諸々然り――前方数メートル先にある僕の宿の玄関前で挙動不審な様を晒す顔馴染みの黒服もそう。
こういった類の面倒事は体調が優れない時ほど目につき、憎たらしいまでに連鎖するのだ。しかし見方を変えればキリトへメッセージを送る手間を省けただけではなく、同時に話しかける大義名分を得られたと考えれば存外悪くはないのかもしれない。
(でも憎たらしいもんはやっぱり変わらないよ。うん。)
抱えた陰鬱な気持ちから目を逸らし、僕は一歩ずつ此方へ背を向ける彼に近づいて行く。次第に縮まる距離と比例してブツブツと何かを呟くキリトの声がはっきりと聞こえるようになり、間一メートルともなれば最早何を言っているのかも全て筒抜けだ。
「――いきなり久しぶりだなっていうのは流石に馴れ馴れし過ぎるか? 変に意識しなくてもいつも通りいけば……いや、ああ見えてシャルテも繊細だからちゃんとしないと誤解されそうだな……」
「別に誤解しないからいつも通りでいいんだけどね……それよりさっきから人の宿の前でさっきから何ブツブツ独り言いってるのさ」
「えっ? あぁ、いや、此処に友達が住んでるんだがそいつにちょっと相談というか、聞いてもらいたい事があったんだ。でもどんな顔して会えばいいかわからなくてな」
前を向いたままドアノブを凝視して動かない彼は話し相手が僕という事に気づいていないのか、はたまた反射的に答えを返してしまっているだけなのか。もしかすると本当に通りすがりの誰かと会話をしている感覚なのかも知れない。僅かに湧いた "からかってやろう" という邪な気持ちを踏みつけて僕は手早く正体を明かす。
ただでさえ宿の前をウロウロされて人目を集めているのだ。無理に引き伸ばす必要もない。
「そんなの気にしなくてもいいのに。まあ、僕もキリトに用があったしちょうどいいや。中入ってきなよ」
「そうか、でも――んっ? 僕も?」
何食わぬ顔でキリトの背後から前に出て玄関を開き彼を手招きするとようやく気づいてくれたようで、固まる彼に少し前に会ったシリカの姿が重なって見えた。
「なにボケーッとしてるのさ。早く入りなよ……さっきからキリト目立ってるんだからさぁうっ!?」
「本当の本当にシャルテなんだよな? そっくりさんじゃないよな?」
「うぎっ、ほ、本物だから! だからベタベタ触らないで……ちょっと、顔近い!」
突然片手で肩を掴み身体チェックのように頬や肩に触れてくるキリトから逃れたくとも緊張で固まった足は地面へ縫い付けられたかのように動かず、幾ら手で押しのけようとしたところで筋力では彼に敵う筈もなく押し戻されてしまう。
普段ならば逃げられたのかも知れないが弱った身体にこんな事をされて無事なワケがないのだ。急激に力が抜けていく感覚は、僕に嫌な事ばかり思いださせる。
(こんの……人の話しを聞け!)
残された力を振り絞り、まだ動く右手を後ろへ引いて拳が青く光れば後はまま。抵抗する事もなくシステムアシストに身を任せ、僕は《閃打》で彼を殴りつけた。
渾身の力で放った正拳突きは綺麗にキリトの頬を打ち抜き、有無をいわさずその場へ尻餅をついた彼の襟首を掴んで宿の中へと引きずり込むとテキトーに選んだ椅子へ座らせて僕はテーブルを挟んで対面の席に腰をおろす。
「はぁ……玄関前で言ってたけど相談あるんでしょ? なら先にそれから話してよ。変に気を使ったりとかしなくていいし、思った事をそのまま言えば良い。もし僕個人に対して言いたい事があるなら全部話が終わった後にでもちゃんと聞くからさ」
席に着いてもキリトは黙ったまま。これでは埒が開かないと此方から会話の糸口を作り出せばゆったりと顔を上げた彼はようやく口を開いた。だが飛び出した言葉はあまりにも突飛で、言い終えた彼が口を閉ざした後に僕は両肘をテーブルへつき、嘆息と共に頭を抱えた。
「キリトくんさぁ……それくらい自分で考えて結論を出しなさいよ。確かに相談して良いとは言ったし、難しい問題だとは思うけど。けど、違うでしょう」
「それは、俺だって解ってる。解ってるけど……俺たちがこうしている間にも最前線で戦い続けてるんだなって考えたら頭が真っ白になったんだ。アスナにも同じ事を相談されて、どうしたらいいのかわからなくて……俺も、アスナも、誰かとこういう関係になったの初めてだからもしかしてシャルテなら経験者として何か知ってるんじゃないかって思ったんだ」
呆れ半分の反応に言い淀みながらも返事をした彼の言わんとする事は理解できなくもないが、そもそも彼らは秤にかけるべきモノから間違えているのだ。
攻略組は正式な組織ではなく所詮は自由意思の集まりから形成された集団に過ぎず、各々が自ら定めた『攻略』という目標へ向かい淡々と前進しているだけ。その性質上誰かが最前線から退き、実質的に攻略組から抜けて隠居生活を送ったところで何ら問題はない。
しかしこれらに関して罪悪感を覚えてしまった場合、解決出来るのは罪悪感を抱えた当人のみ。他者が解決しようにも根が残るという七面倒くさい事態へ発展してしまう。
「残念だけど第三者に言って聞かせられる様な初々しい色恋とは無縁の人生でね……。それと冷たく聞こえるかもしれないけど、僕個人としてはキミたちが最前線から退いて隠居生活を送る中で仲むつまじく身体を寄せ合っていようが、毎日昼夜問わず行為に及んでいようが、正直興味がないんだ。 "これはただキミたち二人が『自分の後悔しない道』を選べばいいだけの問題なんだよ" 。勿論、絶対後悔しないなんて事は有り得ないと思う。だけど後々になって後悔する事態が起きてもさ、自らの意思で選んだ道なら下手な文句のつけようもなくなるでしょ」
呪うべきは唯一、己のみ。
自ら "無力さ" の前に嘆き、 "浅慮" を思い知ったならそれらをにして這い上がればいいだけの事。そんな思いをしてほしくないなんて気持ちも所詮は僕のエゴで、ただの独りよがりでしかない――とはいえ、それらを他者に望むのはやはり贅沢なのだろう。
「――なんてね。碌なアドバイスが出来ないのは事実だけど、本当にアスナが大事なら僕は攻略から手を引くべきだと思うよ。全ては自分の命あっての事なんだ、いざという時に愛する者も護れないんじゃ話しにならない。遺された側の気持ちを考えてみろって話しさ……結局共倒れじゃあ意味がないんだ。それでも、諸々を踏まえた上で参加するっていうなら僕は止めない。他でもないキミの行く道なんだ、自分のいきたい道を選べばいい」
身体へのしかかる毛怠さと纏まっていた筈の言葉が頭の中で徐々に千切れていく感覚に喋る事を止め、最早アドバイスとすら呼べない一方的な主張だけを残して僕はテーブルの上へだらしなく上体を投げ出した。
このまま話していてはきっとボロを出してしまう。弱っている今の僕では何を言い出すかわかったモノではない、それがわかっているからこそ避けなくてはならないのに――。
(キリトォ……キミはどうしてこのタイミングでそういう事をするのかな。)
低くなった視界の外から伸びてくる気配に気づけなかったワケではない、ただ伸ばされた彼の手を僕の身体は拒む事なく受け入れていた。
「なあ……シャルテは、死ぬ事が恐くはないのか?」
唐突な質問に伏せた目線を上げてみれば不安と疑問がないまぜにされたような、それでいて何処か申し訳なさそうに眉を下げるキリトと目があった。
「わかってるとは思うけど僕だって只の人間だからね、そりゃあ恐いよ。ペインアブソーバのレベルを下げてた時なんて特にそうだけど掠り傷でもそこそこ痛いし毒なんて食らった暁には全身に激痛が走るって腕を焼かれたり背中を斬られた時は痛みで意識が飛びかけるわで散々だったからね」
気をつけてはいても疲労が積み重なった今の状態では最早本音を隠す事さえ億劫で、余計な事まで付け加えて答えを返した此方に引きつったような笑顔を浮かべたキリトからの『そういう嗜好』かと問いに僕は首を横へ振り否定を示す。
生憎、大衆の面前で自ら被虐趣味を名乗れるほどの域に達していなければ選り好みせず痛みを受け入れられたりもしない。そもそも僕にとって『痛み』とは忌むべき存在の一つなのだ。 もっともそんな事を彼が知っている筈もなく『恐いなら尚更どうして逃げないのか』を尋ねられた事に、僕は淡々と本音を口にする。
「そんなに難しい理由はないよ。ただ……回復アイテムが尽きて、武具が果てて、体力も無くなったとしても動かせる手足がある限りはさ、抗いたいじゃん。そこから手足を失ってもまだ僕の意思が在る。 "その意思を自分の手で折りたくないから" ――戦い続ける理由なんて、それで充分だ」
とはいえ何をどう言い繕ったところでワガママな事に変わりはないのだから "駄々をこねる子どもと笑ってくれて構わない" 。言葉尻にそう付け足した此方に戸惑い顔を向ける彼は頭を撫でる手を止めてそれを額へと移してくる。
「――熱は無いみたいだな」
「あんまりふざけた事言うとはっ倒すよ」
此方は真剣に物を言っているというのに、これがニヤケ半分にでも言われた言葉ならまだ冗談と流せるモノの至って真剣な顔つきで言われてはむしろ腹が立つ。しかし此方が抗議の視線を向けても真っ直ぐに見つめ返され、不安で塗られた表情を見せつけられてはぐうの音も出せない。
が、一度見つめた後に此方から視線を外したかと思えば再び向き直り、しかし開きかけた口は何も発さずに噤まれて視線は振り出しへ戻されていく。その様を見て露骨な嘆息を吐くと彼は明らかに身体を跳ねさせ、俯いた。
「もし黙ったまま僕に察してもらおうなんて魂胆なら、止めてよね。玄関前でキミにしがみつかれてタダでさえ枯れかけてた体力と気力が燃え尽きそうなんだ。言いたい事があるならちゃんと言ってくれないと伝わらないよ……まだ話せてない用件、あるんでしょ」
倦怠感で蝕まれつつある身体に鞭を打ちだらしなく投げ出した姿勢を正してしっかりとキリトを見据える。何も確信があったワケではない。ただ視線と雰囲気から朧気に浮いて見えたから確認の意味も込めた問いだったのだが、言葉を詰まらせ視線を彷徨わせる様子から見るに大方此方の予想が当たっていたと考えるべきか。
しばらく逡巡は続いたがやがて意を決したのか彼は此方を向いて深呼吸を一つ。
「『 "逃げたり隠れたりはしたとしても何も言わずに消えるなんて真似はしない" 』って約束、シャルテはまだ覚えてるか?」
「また随分と懐かしい話しを引っ張り出すね……それなら覚えてるけど」
忘れる筈もない。彼が口にした約束事は第二十五層で彼を宥める為に交わした物だ。
今更そんな事を確認するなんてどういうつもりなのか。過ぎる考えに喜ばしいモノなど一切なく、動揺を悟られまいと『気のせい』と斬り捨てる。そうして彼の言葉を待っていれば返ってきたのは「そうか」という短い言葉と酷く落ち着きのない態度で。
「俺にとって確かにアスナは大切な存在だ。だけどな、その、いきなり何を言ってるんだとか変な事を言うなって怒るかも知れないけど……同じくらいクラインたちやシャルテも、大事なんだよ。だからっていうワケではないし、どうしてそう見えるのかもよくわからないんだが、なんか今のシャルテを見てると去年のクリスマスイベントの時の自分を見てるみたいで……恐いんだ」
口ぶりからして彼に確信があったワケではないであろう事は察しがつく。恐らくは自分の経験から来る既視感とも似た感覚といったところか、真っ直ぐ此方を見つめるキリトの目には否定して欲しいという願いが込められていた。
"少し傍に居すぎたのかも知れない" なんて湧いた後悔に意味はない。全ては後の祭りでしかなく、自らが招いた結果なのだ。白くなっていく頭の中に僕はゆっくりとテーブルから立ち上がり、向かいに座るキリトへ近づいて彼の頭へ手を置いた。
「心配かけてごめんね……僕なら大丈夫だから、そんな泣きそうな顔しないでよ。僕がアスナに怒られちゃうじゃないか」
「怒るワケない、アスナだって今のシャルテを見たらんむ――っ」
それ以上は聞きたくなかった。だから僕は自分の手の平で彼の口を覆い、首を横へ振る。
「お願いだから、それ以上何も言わないで。 "そうだな" って頷いて――じゃないと、僕はキミたちから離れなきゃならなくなる」
たとえやり方が汚いと揶揄されても構わない。そこから先は立ち入り禁止、馴れているキリトといえど踏み入ることは許されない領域である。
精一杯の笑顔を浮かべる僕に彼は何も言わず、しばしの後にそっと目を伏せて僕の腕を掴み、口から手を引き剥がすと平坦な声で玄関前で言っていた自分に対する要件は何かを尋ねてきた。
(ごめんね、ありがとう。)
一歩引いてくれた事に僕は心の内で感謝を告げ、キリトの頭から手を退けると未だ視界にちらつくクエスト発生の文字から詳細を呼び出しとウィンドウを可視化させる。そうして無言で指をさせば彼の視線はそちらへ流れていき、大きく目を見開くと共に僕の方へ引き戻された。 無理もない。成功報酬の欄には一切の記載がなく、勝利条件は文字化けを起こしておりモンスターを討伐せよという旨である事しか確認できず極めつけはその敗北条件だ。
『敗北条件:アインクラッドの崩壊、またはプレイヤーの全滅。』
透明なウィンドウに記される文字は嘘か誠か、何にせよ面倒ごとに変わりなければこれ以上へたれている暇も与えてくれはしない。
(だから――弱音を吐くのはもうお終い。いつも通り、僕は僕らしく。)
「アインクラッドに危機が迫ってるなんて所詮はNPCの戯言だって、流す事は簡単だ。だけどさ……仮にこれが本当にタダのイベントクエストなら、随分変わってると思わない――?」
いつかと同じような綺麗すぎる笑顔を作り、ワザとらしい言葉を紡いだのです。
* * *
そうしてアインクラッド防衛戦と名付けられたクエストが発覚してから数日後――災厄は突然現れた。
本来であればモンスターなど出現する筈のない圏内へ降り立った "クルーエル" という名の全身を鈍色の鎧で包んだ巨大な蠍型のエネミーにより第七十五層主街区《コルニア》は半日も経たず陥落。そうして第七十四・七十三層と後を追うようにプレイヤーたちは追いやられた。
当然、プレイヤーたちとて指をくわえて事態を眺めていたワケではない。クエストのキーとなった少年の言葉から選ばれた数名の内の一人でもあるヒースクリフが先頭に立ち、他の力あるプレイヤーを集めて防衛部隊が結成された。だというのにクルーエル襲来から僅か一週間足らずで防衛線は第五十一層まで後退を余儀なくされてしまったのは偏に相手の強さが此方の戦力を大きく上回っていただけに過ぎない。
鈍色の鎧は一撃の重さに関して他の追随を許さない大剣でさえ容易く弾いてしまうほど硬く、関節部を狙わなければマトモなダメージを与える事すら叶わない。そうして近づけば体高だけでプレイヤーと同等のサイズを誇る巨体から緩慢な動作で繰り出される鎌状の腕や長い尾による攻撃を避けきれず、生半可な装備と筋力値では挽き潰されるのが関の山。それだけではなくソードスキルと酷似した光を纏って放たれる攻撃は接触した箇所を黒く蝕み建物などの障害物ですら造作も無く貫いてしまう。
街を蹂躙する姿に慈悲など欠片もなく、必死に削った体力は脱皮と共に回復し、群がるプレイヤーを薙倒す。確定したイベント戦なのではないかと信じたくなってしまうほど理不尽な強さは立ち向かう者たちの心を折るには十分過ぎた。
「この……化物がぁぁぁあああ――がっ!?」
そうして自暴自棄に陥り、隊列を抜け出して敵へ突撃していくプレイヤーの横っ面を蹴りつけて行動の自由を封じた上で比較的安全な後方へ投げ飛ばす。
(ちっ……そろそろ此処も潮時か。どいつもこいつも、特攻するくらいなら退け!)
もっとも、一週間という長い時間と結成された防衛部隊の大多数を失って削る事が出来た体力は三つあるバーの内の二つだけ。実質的にはそれ以上の量を削っているが、だとしても払った代償に見合う筈もなく、自棄になる気持ちも理解できないワケではない。しかし目の前で特攻を繰り返されてはそれを見ている此方の気が触れてしまう。
「――戦う気のない奴はサッサと退け! 死にたいのか!」
声を上げるとほぼ同時、黒塗りの短剣を握る右腕が跳ね上がった事に急いでその場から飛び退けば刹那の後に先ほどまで僕が居た場所に銀色の鎌が振り下ろされる。
クルーエルが脱皮を繰り返す度にくすんだ鈍色は綺麗な銀色へと変貌し、鈍重だった筈の挙動は今や見る影もないほど素早い物に変わっていた。それと比例して重装備の守護騎士を彷彿させた姿は攻撃性を前面へ押し出したトゲトゲしさの残るフォルムへと変化していった事から恐らくは "防御と引き換えに素早さを得た" という事なのだろう。
しかしダメージの入りが幾らマシになったところで近づけなければ意味がない。
身軽となったクルーエルは返しのついた鋭い尾を障害物へ突き刺し縦横無尽に駆け回る。通常の攻撃動作でさえ対応できずに何人ものプレイヤーが斬り裂かれ、ポリゴン片へと還っていった。
(残り体力は一ゲージ。撤退すればまだ勝機はあるか? シュトルムが切れるまでは後五発……再使用する瞬間を幻影疾駆で繋ぐとして、戦えないプレイヤーの撤退までどれくらいかかる。)
ヒースクリフが撤退指示を出したのは少し前の事だというのに、六十倍まで引き延ばされた体感時間に零れそうになる悪態を飲み込んで僕はキリトたちの傍へ引き返す。
「キリト、アスナ。撤退までの時間稼ぎは僕がするから二人も撤退誘導の手伝いをお願いできるかな。可能ならそのまま撤退して僕の分も回復アイテムの補充を頼みたいんだけど――」
真剣な表情のまま見え透いた嘘を吐き出した僕を見るアスナの目が僅かに鋭くなり、『ノー』を紡ごうとした彼女を制したのはキリトで、彼は表情一つ変えず僕の嘘を受け入れた。
「――わかった。アスナ、今はシャルテの言う通りにしよう」
呟いたキリトがアスナの腕を引いて撤退支援へ回った事を横目で確認してから僕は再び前線へ上がり、今度はヒースクリフとウルズの下へ向かい先ほどと同じく自分が時間を稼ぐ旨を告げた。本来なら複数人で行うべき事だが実際、この場において今のクルーエルと単純な速さで渡り合えるのは僕くらいしかいないのだから仕方がない。所謂 "適材適所" というヤツである。
そうして僕を除いた全員の撤退を見届けた後、ワザとクルーエルに転移門を破壊させて僕の目論見は達成される筈だった。
―― "そんな事だろうとは思ったけど、まさか本当に一人で戦おうとするなんてな" 。
転移門が壊された直後、聞き馴染みのある声に集中が途切れた僅かな隙をついて放たれたクルーエルの一撃はしかし、黒塗りの片手剣によって弾かれる。
文句を言いたくともそれが出来る状態には無く、なし崩しのまま始まった協同戦の果てにようやくクルーエルを倒し、ポリゴン片へ還り始める姿に気を緩めた事が愚かだったのかもしれない。
突然僕の名を叫んだキリトに事態を察した頃にはもう手遅れで――赤く光るクルーエルの尾が僕の身体を貫いていた。
* * *
――俺の目の前で、シャルテは背後からクルーエルの尾で身体を貫かれた。
たったの一撃でまだ充分に残っていた筈のシャルテの体力は全て赤く染まり、それらが少しずつ削られていく最中(さなか)、シャルテが伸びた尾へ短剣を突き刺した事でクルーエルは断末魔を上げて今度こそ完全に消滅する。
そんな様をただ眺めている事しか出来ず、身体へ黒い風穴をつくったシャルテが膝から崩れ落ちる姿を目にした途端、白で塗りつぶされていた俺の頭の中は色を取り戻す。慌てて駆け寄り、シャルテの身体が地面と激突する前に受け止めた。
「あはははは……ナイスキャッチ、キリト」
「馬鹿言ってる場合じゃないだろ! 大丈夫だからな、クラインから蘇生アイテムを預かってきてるんだ。死なせないからな」
鳴り響くファンファーレなど気にもとめず、サチやコペル・ディアベルが倒れた時には持っておらずしかし今は自分の手の内にある物――牢獄と化したアインクラッドで唯一存在が許された蘇生アイテムをインベントリから取り出し、直ぐ使える用に手の平へ納めたそれをどうしてかシャルテは拒むように首を振る。
だがそれだけは頷くワケにはいかないとシャルテの意思を拒んだ事に彼は眉間へ皺を寄せて此方を睨み、呆れたように嘆息を一つ吐いてからいつもの調子で言葉を紡ぐ。
「あのねぇ……そんな貴重なアイテムを僕なんかに使おうとか、バッカじゃないの。百層まで後二十五も残ってるんだよ? キミにはそれを使うべき大切な存在がいるのにいざという時に無いとか笑えないでしょ」
「だからなんだ。言っただろ、アスナと同じくらいシャルテの事も大事だって……殴られても、嫌ってくれても構わない。絶対に助ける」
見捨てたくない。此処で黙ってシャルテが死ぬのみ見ているだけなどごめんだ――そんな本心からの言葉をぶつければ瞬く間に彼の表情は曇っていき、戸惑いの色が露わとなる。
シャルテが何を思って困惑しているのかは俺にはわからない。ただ困ったように不格好な笑みを作るシャルテの姿はあまり見たことのないモノで、二の句を告げずにいる此方に "そんな顔しないでよ" と彼は眉尻を下げて言葉を続ける。
「キリトくん……僕はね、君たちが思ってるような優しい人間じゃないんだよ。もっと利己的で、自分本位で、生きてる価値のない存在だ。それに遅かれ早かれ人は寿命がくれば勝手に死ぬんだ、それが多少早まっただけ。僕の場合、むしろ遅すぎたのかも知れないけど……これでやっと、僕も自由になれる」
そう言って自虐的な笑みを浮かべるシャルテに力はなく、無情にも減り続けていく体力が淡々と別れの時間を刻んでいく。
『 "もう、頑張らなくても良いんだよね――。" 』
ポツリ。安堵に染まった表情でそんな事を呟いたシャルテは真っ直ぐに此方を見つめ、ゆっくりと、俺の頭へ手を置いた。
それを拒もうとせず、黙って撫でられる事を受け入れれば引きつっていた彼の頬が僅かに緩んだ様に見えて。
「お願いだから、僕に使わないでよ。ようやく楽になれるチャンスだっていうのにさ……。もう少し早く、此処じゃない現実でキリトやアスナたちと出会えていればなんて、無い物ねだりは贅沢だけど……キミたちとこうして出会えたなら長く生きたかいもあったのかなって、思えてるんだ。どうせ死ぬなら、嫌な現実なんか見ないでこのまま幸せの中で死にたい。今のキリトくんには辛い時は一緒に支え合える人が沢山居るじゃないか……それなのに、いつまで僕に甘える気なのさ」
不服そうな口ぶりとは裏腹に明るく、それでいてどこか寂しさすら感じさせる表情を浮かべたシャルテが不意に忘れていた事を思いだしたように "あぁ" と口を開き「そうだ」と続ける。
「 "此処で、この世界で、最初に出会えたのがキミとクラインで良かったよ。ありがとう。" ――って、これで蘇生されたらホント恥ずかしさで死にたくなるから止めてよね」
場にも空気にすら似つかわしくなく、気恥ずかしそうに笑うシャルテは仕切り直すようワザとらしく咳払いをして、不格好ではない笑みを湛えた顔で手を振って見せた。
"じゃっ――バイバイ、キリト。"
まるで恐怖など感じさせない軽い口調で別れの挨拶を告げられた直後ガラスが割れるような音と共に頭にあった手の感触は消え失せ、残ったのは僅かな暖かさだけ。やがてはそれも無くなり、後には何も残らない。
が、それでもまだアイツの命はつきていない。体力の全損からナーヴギア使用者の脳が破壊されるまでの間は僅か十秒。恨み言なら後で聞く、目の前で死にそうな友達一人救えずに大切な人など守れるワケがないのだと自らに言い聞かせて俺は手にした蘇生アイテムを使い――表示されたメッセージに言葉を失った。
「何で……見つからないって、どういう事だよ。まだ十秒も立ってないだろ。早く、早くしないと間に合わないんだよ!」
機械的に返された『対象が見つかりませんでした。』というメッセージと刻一刻と迫る猶予期限に視界は歪むが繰り返し使ったところで結果は変わらず、十秒が過ぎていった。
もうシャルテは何処にも居ない――その事実に口から溢れた叫び声は荒れ果てた街の亡骸に響くだけ。
。
こうして、多数のプレイヤーの命と引き換えにアインクラッド防衛戦は幕を下ろした。
(伝えたい事を伝えて消えるシャルテ。シャルテが消えてから直ぐに蘇生アイテムを使おうとするも使用できず十秒が過ぎ、泣き叫ぶキリト。)
* * *
同年十一月。
失意の中で挑んだ第七十五層のボス攻略は、多数の犠牲を生みながらも幕をおろした。そこで知らないフリをしてしまえば、こんな気持ちになる事もなかったのだろうか――?
それでもこの道を選択をしたのは他でもない、俺が自分の意思で決めた事。
気づいてしまった以上、無視なんてしたくなかった。
『俺を庇ってアスナは死んだ。』その事実に足下が崩れそうになっても、立ち止まる事はしたくなかった。
"もう諦めたまえキリト君――君の負けだ。"
優しい言葉の直前、胸に違和感が走った事に視線を下に動かしていけばヒースクリフの剣が俺の空っぽな心臓を貫いていた。それと同時に体力が零になり、身体から力が抜け、握りしめていた筈の剣は床に落ちる。
少しずつ薄れていく意識の中で、俺はここにいないアイツの言葉を思い出していた。
『そんなに難しい理由はないよ。ただ……回復アイテムが尽きて、武具が果てて、体力も無くなったとしても動かせる手足がある限りはさ、抗いたいじゃん。そこから手足を失ってもまだ僕の意思が在る。 "その意思を自分の手で折りたくないから" ――戦い続ける理由なんて、それで充分だ』
どれだけ窮地に追いやられても弱音を吐く事を嫌がったアイツの言葉に、俺の中で一つの疑問が芽生える。
。
"――俺の意思って、なんだ?"
『浮遊城からの脱出』・『自分の強さを証明する』・『誰かを守りたかった』。湧き上がってきた考えを、俺は全て斬り捨てる。きっとシャルテが言っていた『意思』はもっと根底に根付いたモノの筈。
探して、疑って、最初に辿り着いたのは "「ごめんね」とアスナが浮かべた最期の笑顔" だった。
「バイバイ」と寂しげに笑ったシャルテ・「ありがとう」と遺したサチ・皆の事を気にかけていたディアベル・恐怖で染まり泣いていたコペル――次々と脳裏に過(よ)ぎるそれらは、俺の目の前で死んでいった人たちの姿。
あぁ、 "そういう事" か――。
床に倒れそうになる寸前で、足に無理矢理力を込める。
「俺は…… "自分の目の前で誰かを死なせたくなかったんだ" 」
気づいた途端に朦朧(もうろう)としていた意識が冴えていく。まだ俺の手足は動く。俺が死なせたくない奴らは此処にいる――。
『戦う理解なんて、それで充分だ。』
構えを作り、放つのは体術上級単発ソードスキル《エンブレイサー》。
黄色に輝いた俺の右腕はシステムアシストを受けて真っ直ぐヒースクリフの身体へと伸びていく。
視界に映るヒースクリフの焦った様な表情にしたり顔で笑みを浮かべた俺の攻撃が当たるよりも早く、金色の刃が彼の身体を後ろから貫いた。
「――格好つけてるところ悪いけど、茶番はお終いだ。茅場晶彦……君の城はもういらない」
眼前にいたヒースクリフがポリゴン片へ姿を変えた途端に部屋が揺れはじめ、バランスを崩した俺はそのまま床に倒れる。
何が起きたのかを理解する暇も与えられず俺の視界は白く塗り潰されて――。