俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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期末テスト今日からはじまりました。テスト範囲? 提出課題? 知らぬ知らぬ聞こえぬ見えん!


首になるのは俺じゃない。貴様よ! byセイバー

 代行者の名前を告げた俺に対する全員(アストルフォとバーサーカーは除く)の視線は当然というべきか冷たいものだった。

 

「相手は代行者、神に仕える者だぞ。そんな輩が殺人鬼を生かしておくはずが無かろう」

 

 やれやれ、と言わんばかりに軽く嘆息するケイネス。ソラウも同様の意見らしく腕を組んで半眼になる。

 

「言峰綺礼……精神異常者ということもなく、熱心な信徒とのこと。そのような者がこんな生産性のない行為に走るとは思えません」

 

 こちらを哀れむように見つめるキャスター。アストルフォには綺礼の危険性が伝わったがキャスターは戦場に出たことも無ければ権謀術策に手慣れている訳でもない魔女でしかない。隣のウェイバーも『何言ってんだこの人』と言わんばかりにこちらを見る。

 

 どうやら揃いも揃って、俺の言葉に信憑性を感じていないらしい。それに少々腹が立つがいざこざを起こしてもしょうがないので後で説明する主を伝えて早足に奥へ進む。

 

「なんか照れ隠しみたいだね」

 

 後を追う様についてくるアストルフォが背後からそう呟く。恥ずかしいから言わないでほしい。

 

 

 ※※※

 

 

 アインツベルンの森で行われる決闘。戦況は終始セイバーの劣勢だった。

 突風の如き斬撃に対してランサーは双剣を巧みに使い防ぎ、隙を見つけては際どい一撃を叩き込んでくる。防御できない強烈な一撃は嵐のような剣戟で撃たせず、防御に徹しても手数が多いランサーの怒涛の攻めを止めれない。

 認めるしかないだろう。いくらステータスでは劣っていようとも、セイバーよりランサーの方が強いということを。

 

「だぁ! クソッたれが!」

 

 今も嵐のような剣戟に阻まれ身動きが取れず、焦って振りぬいた一撃の隙を突かれて胸を切り裂かれる。鎧により軽傷に止めたが問題はこれで負傷が十九度目(・・・・)ということである。セイバーは未だに一太刀も浴びせることが出来ていない。これが他のマスターならば令呪で強化するなり脱出するなりできるのだろうが、時臣にはその手を選ぶことが出来ない。

 

 時臣の目的は根源へ聖杯を用いて至ること。そしてそのためには聖杯の中身を七体(・・)のサーヴァントで満たさなければならないこと。七体ということは当然、最終的にはセイバーも犠牲にしなければならず、そのためには令呪で自害させる必要があるということだ。しかしセイバーは対魔力が高く自害となれば令呪を二つ、最悪全部使用しなければならない可能性もある。そうなることを考えればこんな序盤で使用するわけにはいかないし、まだ手が無いわけではない。

 しかしその手も時臣の流儀に大きく反するものである。流儀と勝利の二つを天秤に掛けて………………………………僅かに勝利の方へ傾いた。遠坂の悲願を達するためにこのようなところで躓いてはいられないと、荒れる呼吸を落ち着けてセイバーへ向けて告げる。

 

「まったく、最優のサーヴァントの癖にランサー如きに一方的とは、これでは先が知れるな!」

 

 わざと大きな声で挑発する。繋がっているラインからセイバーの精神状態を察し、さらに続ける。

 

「しかも相手は未だに本来の獲物ではなく剣を使っているんだぞ! だというのに剣で打ち負けて、大英雄も名前だけか!」

「んだとゴラァ! てめぇ俺を舐めてんのか! あぁ!?」

 

 常軌を逸した怒気に今すぐ踵を返して逃げたくなるが何とか数歩後ずさりする程度で抑え、矛先がこちらに向かない様、神や仏はおろか妻や愛娘に大師であるシュバインオーグなど祈れるものすべてに祈りを捧げ彼にとって最もタブーな領域へ足を踏み入れる。

 

「そんなんだからどこの馬の骨とも知れない奴に女を盗られるんだ!」

 

 ブチン、と何かが切れる音が辺りに響いた。周囲三キロくらい。常識的に考えればそんなことあり得るはずが無いのだが、時臣にはそう感じられるくらいはっきりとその音が聞こえた。しかしその音が聞こえなかったのか、ランサーは一瞬動きが止まったセイバーに対して心臓を貫かんと、剣が迫るが、

 

「――な!?」

 

 『オルランド』はそれをガントレットで受け止め拳で殴りかかる。そして横っ面を殴られ何度も総身を地面に打ち付けながら五メートルほど飛んでいく。そして飛んでいくランサーと併走し方向を無理やり変える様に顔面に再び拳を叩きつける。その際に双剣による刺突を腹部と殴りかかった右腕に受けたが頓着した様子もなくさらに追いかける。

 

 これがセイバー・ローランが宝具の開帳以外で唯一逆転できる可能性があった手、スキル[激情]による狂化である。狂化すれば確かにステータスは上昇するが、技量は大きく下がる。もっとも、その技量を圧倒的に上回るランサー相手なら大して気にする必要はない。

 

 再び襲い掛かるセイバー。吹き飛ばされながらも体制を立て直したランサーに対してデュランダルが振り下ろされる。技量などあったものではない、完全な力押しによるものだ。最初同じように豪剣を二刀の剣で受け止めたランサーだが強化された今の状態では受け止めるのは不可能とみて即座に脇をすり抜ける様に回避。その際肩に腕、腹部に腿と計六回切りつけたが碌にダメージが通らない。先ほど二撃大きなものを喰らってしまったというのもあるが、耐久も大きく上昇していることが原因である。

 

 三メートルほど距離を取って最初に殴られた際、喀血した血を左手の甲で乱雑に拭う。

 元々ステータスで劣るランサーが今まで凌ぎきった理由はその優れた技量によるものだが、セイバーが剣だけではなく拳までつかってきた事で一気に自身のアドバンテージを消されてしまった。

 これまで圧倒的な技量で剣の英霊たるセイバーを追い詰めてきたランサーだがそれにも絡繰りがある。ランサーの持つスキル[魔剣]、純粋な技量で人の域を超越した剣技で、剣に対する回避判定が大幅に上昇するスキルである。これによりランサーはセイバーを相手に一方的に戦えたわけだが、拳となると[魔剣]の埒外である。従って回避率は大きく落ちる。

 

(さすがにちょっとまずいかな……)

 

 今まで圧倒してきたのは同じ剣という土俵の上でやっていたからに過ぎない。相手が剣以外の戦闘法を選んで来た場合、元のステータスが高いセイバーの方が有利である。無論、負ける気はしないが苦戦は必至だろう。

 まあそれ以上に……。

 

「フー…………フー…………」

 

 目には理性なく、口から洩れる冬という事を考えても多すぎる水蒸気、そして――恥じらいもなく晒されている下半身に、邪魔だと言わんばかりに捨てられた鎧から同じく晒された上半身。分かりやすく言えば、現在セイバーは素っ裸だ。

 

 唐突な変化、別に心当たりがないわけではない。先ほど時臣が言っていた悪口、あれが関係しているのは確かだ。それもおそらく『どこの馬の骨とも知れない奴に女を盗られる』というところだろう。前にも述べたが騎士に悲恋はつきものだ。

 例を出すならトリスタンとイゾルデ、ディルムッドとグラニア、ダルタニャンとボナシュー夫人など、事欠かないだろう。騎士は大抵叶わぬ恋に思いを寄せ、何かの縁で関係を持つことが多く、その後に悲劇が待ち受ける。しかし、盗られるという事例はさほど多くない。セイバーの諸々から察するに求婚をしたが手ひどくフラれ、それでも諦めずにアプローチしたが結局名も知れぬ輩に女を盗られた、というところだろう。つまりセイバーの真名を解くカギはそこにある。

 

――と、ここまで現実逃避。

 

 思考する際に閉じていた瞳を開いてセイバーを見る。やはり変わらず素っ裸である。

 野蛮、野人と称された彼も一応は騎士、そして一騎士として全裸の相手とはあまり戦いたくない。

 

「でも、やらなきゃならんよな……」

 

 これが縛りのない生前ならば逃げるのだが、サーヴァントである今はそういう訳にはいかない。そして何より、逃げて仮ではあるがマスターを悲しませるようなことはしたくなかった。

 

 ランサー・ベイリンは生前アイルランドからやって来た騎士・ランサー卿を返り討ちにした際、それを見た卿の恋人を死なせてしまったことがある。それ以来彼は女性を悲しませるような行動を慎むようになった。

 

 ――しかしあの騎士と同じ名のクラスになるとは、これも運命なのだろうか。だとしたら笑えるぜ。騎士は飄々とした笑みを浮かべながら野獣へ向かいだした。

 野獣も同時に騎士へ駆け出す。

 剣と拳が激しくぶつかり合う。

 死闘はまだ終わらない。

 

 

 ※※※

 

 

「ソラウ、ウェイバーは見るな。ライダー頼むぞ」

「……? 分かったよ」

 

 用水路の奥まで百メートルという地点でシンヴェル先生からそんなことを言われてライダーに二人して押し込まれる。あまりに唐突すぎることに有無を言わさぬ物言いでライダー以外の皆が咄嗟に反応が出来ず、僕たちはどんどんと用水路の奥から遠ざけられる。

 ――同盟を組んでいる以上関係は対等だろう! そんな思いがウェイバーの中で生まれ、どんどんと大きくなっていく。ライダーをどけようと――当然できるわけがないが――肩に手を置く。

 

「私からも進言します。マスター、今は……」

 

 それをとどめたのはキャスターの進言だった。

 ウェイバーとキャスターの関係はシンヴェル・ライダー、雁夜・アサシンたちを上回るほどである。それはシンヴェル・ライダーのように恋人(?)のような関係でなければ雁夜・アサシンのような共通の敵による強い連帯感でもない。強いて言うならば師と弟子、母と子の様な関係である。どちらが弟子で子なのかは言うまでもないだろう。

 

 その師で母の様なキャスターがこちらを懇願するように見つめる姿を見てようやく折れたウェイバーは『後で教えろよ』と一言のべてそっぽ向く。

 キャスターは柔らかい笑みと了承の言葉を告げて奥へと消えていく。そして怒りが完全に冷めてウェイバーはようやく気付いた。

 

 あれ、いまここ、女しかいない――と。

 

 ウェイバー・ベルベットも含む魔術師の人生は基本的には魔術の研究に費やされる。そうして生涯を懸けた自身の知識を魔術刻印に刻み、次代に受け継がせる。歴史など密度で覆せると思っているウェイバーもその点は否定しない。そして受け継がせる以上、嫁を貰い子を作るのは当然だし、ベルベット家にはウェイバーしかいない以上いつかは結婚させられるのだと覚悟はしていた。が、所詮していただけだ。ウェイバーの人生には女性と手を繋ぐことは愚か、話したことすら二桁前半程度で、免疫がない。なお、今の会話数にはキャスターの分は入っていない。そしてそんな免疫のない男が時計塔で『氷の女帝』と恐れられる――あくまで見た目から想像された偶像である――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに真名も分からぬ美少女――容姿は一部除いて男の時と変わりないが――との空間に放置されるなど、世の男の過半数にとっては喜ばしい事だろうがウェイバー自身にとっては苦痛でしかない。

 うわ、話を振られたらどうしよう、と思って横目で二人を見てみる。

 

「シンヴェルは本当に女遊びが激しいわ。毎日抱いているんじゃないかってくらい。それがなければもっとモテるんだけどね」

「だよねー。もうちょっと鳴りを潜めてくれればいいんだけど。でも今以上モテるのは……」

「あら、もして彼に気があるの? 彼の相手は大変よ」

 

 ……ガールズトークの真っ最中だった。気にされていないのか、男と思われていないのか。

 ウェイバーにとってはどちらにしろ気になる所だ。

 

 

 ※※※

 

 

「ひどいもんだ……」

 

 皆より一足早く用水路の奥を眺めてみるとそこには奇怪な物が存在していた。

 例えば、口を無理やり広げられ、内臓を拡張したうえで一直線にされた傘立てのような少年。

 例えば、腸に電球を入れられ点灯させ、シャンデリアの様に天井から吊るされている少女たち。

 例えば、内臓を露出させソファのようにされた子供たち。

 そしてこれら全員が未だに生きている。

 遅れてやって来た二人が息を呑むのが分かる。こんな光景、魔術師でも魔術基盤が黒魔術の類でもない限り一生涯見ることはないだろう。

 

「キャスター、治せるか?」

「……難しいですね。肉体面、精神面両方で摩耗しておりできそうにありません」

「ケイネス」

「……治癒に長けた知り合いはいるが、それでもここまで損傷してしまうと難しいし、もうじきこの治癒魔術も解ける。時間が圧倒的にない」

「そうか」

 

 俺の強化で生命力を上げても開かれた腹や臓物が戻るわけでは無い。キャスターやケイネスの治癒魔術を強化しても無理だろう。つまり彼らを救う術は無い、ということだ。

 それに……このような状態では死なせてやるのが慈悲だろう。死ぬほどの苦痛を与えられながら死ねぬなど、地獄でしかない。

 見渡した中で、一番理性の光がある少女へと足を運ぶ。手術台らしき物に固定された少女の周りの血はまだ乾き切っていない。つまりこの少女に手が掛けられたのは一時間前後、先ほどまで下手人がいたのが分かる。

 

「――君はもう助からない。もうすぐ死ぬ」

 

 脅しでも誇張でもなんでもない。当然の帰結である。

 どう大目に見積もっても十歳程度の少女はそんな死の宣告を聞いても顔色を変えることなく、むしろようやくか、といわんばかりに瞳を閉じた。顔は既に死人のそれと相違ない。

 

「だから、最後に聞かせてほしい」

 

 だが俺は彼女に死を教えるために話しかけたわけでは無い。

 

「君たちをこんな目に遭わせた者のことを教えてくれ。君たちの仇のためにも、これ以上、君たちのような被害者を出さない為にも」

 

 再び目を開ける少女と視線を交わし、虚言では無い事を言葉ではなく意志で示す。

 

「――名前は分からない。いつも紫の服を着てて、洒脱で、剽軽な人。あと、必ず何か豹をイメージしたものを持っているの」

 

 少女の口から出てきた情報は些細なものかもしれない。服なんて変えればいいし、豹をイメージといっても下着だったりしたら分からない。それでも、何もない状態からは大きく前進した。

 

「ありがとう。きっとそいつの犯行を止めてみせるよ」

 

 それだけ聞いて少女は安心したように瞳を閉じる。

 弱化で痛覚を弱めて苦痛から解放させる。両の手を合わせ、黙祷する。五秒ほどして閉じた瞼を開き二人の場所へと向き直る。

 

「あと、金髪の人がいたの。お化けみたいな人で、どこからともなく現れて、金色の綺麗な粒子になって消えちゃうの」

 

 その言葉に、足が止まる。

 お化けみたい、というのはサーヴァントに違いない。そして今回の聖杯戦争、まだ見ぬアサシン以外の金髪のサーヴァントはただ一人、アーチャーだけだ。そしてアーチャーのマスターはまだ見ぬ間桐雁夜か、言峰綺礼のどちらかだ。

 だが、間桐雁夜はありえない。あれは相当無理な鍛え方をしたため魔術行使だけで全身にガタがくる。そんな男がここにいる者たち全員に治癒を施す余裕などない。

 つまり、アーチャーのマスターは言峰綺礼でしかない。あの空虚な男は生半可な相手ではない。以前負ける気はしないといったが、実際のところ俺でも勝てるかどうか分からない。そして何をするかも分からない。こんな風に魔術を一般人に晒しているのだ。秘匿を度外視した真似をしてくる可能性も、無くはない。

 

 魔術殺しも厄介だが、言峰綺礼も厄介だ。ジョーカーが二枚もある戦場に思わず総身を震わせた。

 

 その後、おれたちはこの場のすべてを欠片も残らず破壊しつくした。

 

 

 ※※※

 

 

「んー、そろそろ壊れたっぽいかな?」

 

 人気は無いがほのかに灯りがともる繁華街で龍之介は自身のパスが切れたことをなんとなく察する。元々魔術師でもない龍之介には魔術の感覚がいまいち分かりづらい。だから魔力の流れが一度に大量消滅してようやく分かるくらいだ。

 それが意味することを悟り悲しそうな目をしてかつての城の方角を眺め、彼らは新たな居場所を探しに夜の街を歩く。

 

 

 ※※※

 

 

「……退くぞセイバー」

「うるせぇ! ここまでこけにされて引けるかよ!」

 

 時臣の命令に対してセイバーは動こうとしない。剣の英霊として呼ばれるだけあって剣の実力に腕があったセイバー・ローランだからこそ散々こけにされるだけされて引けと言われて聞けるものではなかった。

 セイバーが狂化して凡そ一時間、さすがに怒りも薄れ狂化も解けてしまったセイバーだが剣撃と拳撃における防御や回避の差をくみ取り、剣と拳を織り交ぜた攻撃を始めてからは戦況は優勢、とまでは言わないが五分には持ちこめていた。しかしセイバーはそれだけでは満足しない。そもそも開戦当初は散々なまでに押し込まれていたのだ。五分になったところで全体的には圧倒的に負けているのだ。

 時臣も無論、そこは分かっている。全身の血まみれのセイバーと僅かな負傷しかないランサー。誰が見てもセイバーの惨敗である。だからこそセイバーが簡単にこちらの言を聞かないことも分かっていた。だがこれは戦争であって一騎打ちではない。ここでランサーを倒せたとしてもまだ五体のサーヴァントがおり、最悪アーチャーを除いた全員と戦うことも考えられる。それを考えるとここでサーヴァントを消耗させるわけにはいかなかった。

 一方、ランサー達アインツベルン陣営も同じような考えである。サーヴァントは魔力さえあれば寝る必要も食事をとる必要もないが、疲労は溜まる。そして疲労が戦闘にどれだけ影響を及ぼすか分からないほどアイリスフィールも素人ではない。

 

「退くんだったら追撃はしねえよ」

「誰が退くっつったんだよ! まだ勝負はついてねえ!」

「セイバー、令呪を使うぞ!」

「ッ! 時臣……っ!」

 

 令呪――それは三つしかないサーヴァントという獣を律するグレイプニル。それを使われれば如何なるサーヴァントも従わざるを得ない。[対魔力]Aを誇るセイバーも、令呪の呪縛から完全に逃れることはできず、それに贖いながらランサーと戦いを続けても勝機はない。

 そういった戦闘方面のことはさすがにセイバーでも分かるが、それでも時臣には不安があった。

 

「あーもう! 今日は退いてやる! だが! お前を殺すのは俺だからな!」

 

 今回は幸いセイバーが折れてくれた。

 セイバーが乱暴な足取りで鬱憤をまき散らすようにアインツベルンの森を切り開いていく。時臣もランサーを一瞥してセイバーと共に去っていく。

 

「ふぅー……。ようやく一段落、か」

『お疲れ様』

 

 労いの言葉を受け取り、両の剣を消し戦闘によって傷だらけの大地に全身を放り出す。冷えた空気が火照った体を癒してくれる。このまま一眠りしてしまいたかったがさすがに主を放り出すわけにはいかなかった。

 霊体化して即座に城へと戻る。騎士として仕えることに憧れたが、なったらなったで疲れるものだと、ひそかに嘆息した。

 

 

 ※※※

 

 

「…………」

 

 朝、目が覚めてみると隣に誰もいない。前にもこんなことがあったな、と思いながら体を上げて体を逸らすように伸ばす。首を左右に傾け鳴らしながら昨日の事を思い返す。

 たしか――殺人鬼の住処を破壊した後、空もだいぶ明るくなっていたため居住地のあるウェイバーは分かれケイネスはウェイバーにあることが気に食わなかったのか一先ずそこいらのビジネスホテルに泊まることにしたらしい。おそらく催眠術で金も払わず、しかし文句は吐くんだな、と思いつつ見送った覚えがある。

 しかし昨日誰もいないので普通に抱いた――まあ、いても抱くが――はずなのだが……。落ちたのかと思いベッドの周りを見渡すがそんなこともない。面倒くさいのでラインを通すと居間にいることが分かった。安堵に嘆息しつつベッドから降りる。

 ドアノブに手を掛けると、何か料理の臭いがした。二、三回ほど嗅いでそれがベーコンの油であることを知り居間に続くドアを開ける。

 

「あ、おはよ~」

 

 そう和やかに声を掛けてきたのはアストルフォ。エプロンを着てフライパンを片手にスクラブルエッグを作っている。しかしいつの間に覚えたのだろうか。

 

「おはよう。料理ができるとは意外だったな。ソラウにでも聞いたのか?」

「聖杯からの知識。こういう簡単なものなら作れるよ」

 

 聖杯からとは意外である。しかしどんな味になるのだろうか非常に気になる。まずかったら聖杯の中に敷き詰めてやろう。

 などと考えながらシャワーをさっと浴びてくる。

 テレビを点けてニュースを見る、が相も変わらず昼ドラが流れていた。時計を見れば既に十一時である。……日本に来てから生活リズムがずれまくりだな。

 

「自業自得じゃないの。はい」

 

 アストルフォが料理を持ってくる。ベーコンにスクランブルエッグにトースト。コーヒーが出てきたら完璧だったが。聖杯の知識も中途半端である。

 

「あ、そういえば荷物来てたよ」

「ん? ああ、橙子に頼んだやつか」

 

 この時期にこの家に届ける物といったら橙子に頼んだ義手義足しかない。しかし来週でいいと言ったがここまで早く作れたことには驚きだ。

 

「ま、早いに越したことはないか」

「……?」

 

 言葉の意味が今一理解できず首を傾げるアストルフォ。前々から気になっていたがこれらのしぐさを生前もやっていたのだろうか。だとしたら随分とひどいものだ。

 

 手を出したら犯罪で投獄。かといって出さずにはいられなかっただろう。これが身分の壁とかならともかく、性別となると不可能だ。なんとも当時の騎士は苦労してるな。まあ、騎士には悲恋がつきものだがな。しかしそうこう考えているとセイバーを思い出す。あいつも当時の騎士、そしてあの反応に粘着気質。いずれ相対することになるだろう。

 攻め方としては俺が遠坂時臣を相手にしているうちに『触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)!』で動きを封じてヒッポグリフで吹き飛ばすのが最善策だ。といってもそんなうまい具合に行くとは思わない。向こうもこちらの正体を知っているし、『触れれば転倒!』は触れればいいがそれは武器や盾ではなく、甲冑などだけだ。従って剣で弾かれたり、避けられてしまえば意味が無いのだ。ローランも『触れれば転倒!』の存在は知っているだろうし、奇襲でもなければ使えない以上、勝算は薄い。

 俺がケイネスとの同盟を急いだ要因は多々あるが、一番の理由は同程度のステータスのアーチャーは俺たちが、セイバーはケイネスに任せることで互いの邪魔者を消し去ることだった。それだけでも御の字だが、現在キャスターまで入り聖杯戦争の約半分が俺たちの陣営にはいる。おそらくあちらは対魔力の高いセイバー・アーチャー・ランサーの三騎士を倒すつもりだろう。

 アインツベルンに間桐、遠坂は疑心暗鬼で同盟することはないだろうからこちらとしてもセイバー・アーチャーは早い段階で蹴散らしたい。そうすれば残るはアサシンとランサーだけだ。アサシンの奇襲は恐ろしいがキャスターの造った攻防にやすやすと忍び込めるとは思えないし、ケイネスは独自に考えることが出来ないバーサーカーを巧く動かすため常に離さない様にしているし、俺はアサシン程度ならたぶん倒せる。

 ランサーの真名もベイリンだと発覚している。宝具がロンギヌスであるなら使わせなければいいし、最悪教会にタレこみでもして倒してもらおう。言峰綺礼の思考は分からないが監督役の璃正は常識人だろうし、証拠が無くとも息子に頼むだろう。

 

「うん、いけるな。策も飯も」

 

 トーストを口に運びながらそう思った。気になるジョーカーもいるが負ける気はしない。

 

 

 ※※※

 

 

<サーヴァント>一部項目解放

【CLASS】ランサー

【固有スキル】

[魔剣]:A+

武器ではなく人の域を超越した魔技によるもの。

相手の武装が剣であるならば回避判定の成功率が大幅に上昇する。

また、武装でも剣と同様の使い方が可能であれば、

剣と同等の力量を発揮できる。

 




>『氷の女帝』と恐れられる――あくまで見た目から想像された偶像である――
今作のソラウさんは結構温和な性格だけど見た目はやっぱりクールな女王様である。

ケリィは時臣と綺礼のつながりに気付いてますがシンヴェルは未だに気付いてません。彼も普通に魔術師ですからね。
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