千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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 この場を借りて再度この作品を投稿できることに感謝します。
作る人さんありがとうございます。拙い作品ではありますが少々端の方で住まわせていただきます。
 そして読者様方。
 私の作品は灰汁の強い作品と言われがちですのでちょっと注意して読んでいただけると幸いです。


プロローグ

 いつも思っていた。ここは異常だと。だから訴えた。親に、友達に。

 

 けど、それは否定された。私のほうが異常だと。

 なぜそんなことを思うんだ。

 なぜそんなことを言うんだ。

 お前の考えはおかしい。

 僕たち、私たちは正しい。

 

 テレビで新発売とか新技術だとか言われている技術を凄いというくせに、それより進んだ科学があるここは普通という。最近二足歩行のロボットがやっと自力で立ち上がったとテレビでやっていた。

 だけど、ここでは普通に歩いている。人型でないにしろまるで本物のように歩き出している。きっと人型も大学にはいるんだろう。彼女は幼いながらに考えた。

 テレビの日常と麻帆良の日常、それを別物に考える周りと同じように照らし合わせる私。どちらが正しいのか。麻帆良を特別扱いしているわけではない。そんなことはわかっている。だから異常なんだ。

 けど、そう思うのは私だけ。

 

 

「あ、おかしな千雨だ!」

「変な千雨だ!」

 

 

 すでに私は変人のように扱われていた。私は、変人なのかな?

 私の考えは間違っているのかな?

 私は……

 

 自然と俯き、涙を流した。

 

 

 

 

 全てが憎い。すべてを奪った魔法使いが。

 両親を連れて行って殺した長が憎い。その原因を作った魔法使いが憎い。

 自然と足はそこへと運ばれた。

 麻帆良学園。学園都市という隠れ蓑。自己矛盾を抱えているのを知らない魔法使い。

 あいつらを憎いと感じているのは私だけではない。実際に行動に出る者もいる。

 すべてはことを成せずに躯となる。

 そうだろう、相手のトップと長が繋がっているのだ。

 情報は簡単に手に入る。

 それに、ここは学園都市だ。攻める場所は決まっている。

 一般人に被害を与えることが暗黙の了解で禁止されているのだから一般人のいる場所は駄目や。

 だから、待ち伏せされる。

 一般人という人質の塀を乗り越えることが許されず、罠の待つ正門をくぐるしかない。まったく、難儀なもんや。

 長の娘も魔法協会にとられた。一般人として過ごさせてやりたいとか言うとったけど、継承権の放棄は一切せず、今の第一継承権はあの娘にある。魔法協会のいうことを聞く長と魔法協会の洗脳下にある娘。呪術協会の先はあらへんな。

 

 しかしこの結界は見事や。ウチも先に符を張っとかなあかんかったやろうな。どんなもんか知らんけど、札が反応しとる。結界だけじゃ反応せんはずや。さっき見た不良の喧嘩と指導員の暴力での解決、そして即座にそれを受け入れているのを見ていると享受か思考の単純化といったところか。

 

「チッ……胸糞悪いわ」

 

 認識阻害は洗脳と、知らずのうちに頭の中をいじくられているのと同義だと女性は考えていた。しかも、違和感を持っていても人の脳はいつの間にか近くにあるものになれてしまう。非常識がいつの間にか常識になるのだ。

 女性は麻帆良を一周して近くのベンチに腰を下ろした。

 呪術協会の長である近衛詠春からは東との和解と融和をということが挙げられていた。

 女性はそれを利用して麻帆良学園、関東魔法協会の本拠地に来ていた。周りから感じる視線は監視だろう。こっちから知らせているのだからついているのは当然だ。だからそれはいい。

 許せないのは内部の状況と魔法使い共の思考だった。何日か暮らしているが、魔法の秘匿をする気があるのかというようなところ、本来は魔法使いや呪術師が手を出すべきところではないところに手を出している。

 正義感の塊のような奴らだった。

 しかし、その正義感が助けている者は彼らが生み出した悪だった。

 とある格闘サークルどうしの争いがあった。

 けど、そのサークルは本当に喧嘩をしなければいけなかったのか?

 京都なら、他の地域なら数人がいさかいを起こして警察沙汰になるだとかはあるがサークルが喧嘩をするなんてほとんどない。しかもそれを暴力で止めている教師にそれを笑いながら感謝する警官。

 図書館島というアトラクションのような図書館にいって迷子になったり危険な目に遭っているのを助けていた。しかし、本当に図書館にそんなものが必要なのだろうか?

 魔術書の盗難防止なら地下の所定の場所から構造を変えればいい。わざわざ学生がとおるところに図書館以外の機能をつける必要はないはずだ。

 感性がすべて麻帆良のものなのだ。魔法使いが助けたいところに危険を作って、自分たちの都合のいいように生徒を教育して認識阻害で疑問に思わせずに自分の自己満足を高めている。彼らに悪意はないのだろう。それが当然だと思っているのだから。

 思えば両親の時もそうだったと女性は思い返す。

 呪術協会の人間は魔法使いの一派だと勝手にまとめられ、勝手にかつては呪術協会との関係のない協会の長の娘の婿というだけで呪術協会の人間を引っ張って徴兵し、殺して返さずに長に居座った。

 もちろん魔法協会からも魔法世界からも謝罪や感謝もなかった。助けるのが当然だったのだ。あっちにとっては。それが属国としてなのか魔法使いの責務なのかは知らないが女性は怒りと呆れと恨みを内包した。

 

「あいつらは無意識のうちに他の人を道具か奴隷やとおもっとんのやろな」

 

 自販機で買ってきた缶コーヒーを開けて一気に飲み干した。冬の寒空で歩いていた女性の体に熱が一気に浸透していく。

 

「はぁ……」

 

 落ち着いた息と同時にため息を吐く。

 見れば見るほどなんで長が魔法協会と和解をしたいというのかがわからない。

 公然と噂されている関東魔法協会の近衛近衛門が日本を支配するための吸収合併というのが一番説得力がある。

 そもそも、関東魔法協会の歴史をたどろうとしたが、たどれなかった。

 よくよく考えれば関西呪術協会のように山奥に本拠地を置かずに学園都市の様相を呈しているのに秘匿をこちらに促していることや、関東にあったはずの呪術師の協会がいつ無くなったのか、魔法協会の図書館島の外観やこの都市のつくりからして明治前後だろう。

 なぜ歴史ある関西呪術協会が後から出てきた奴らの言うことを聞かなければならないのか。

 呪術協会が魔法協会と争い負けたという歴史はない。いつの間にか属国のような位置づけにされていたのだ。

 

「そもそもなんで近衛がトップなんや。女系の家系やのに婿が上にくるのもおかしいんや。青山との関係なんて現場じゃボロボロやし」

 

 身内を無理やり連れてって殺した青山と皆は思っている。

 さらに、近年は青山当主たちの神秘の秘匿意欲の低さと性格の異常性が話題となっていた。

 今まで表に出ていなかったのはそれでもまわっていただけの話であった。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いといった感じの呪術協会の人間にとっては黙認していたものでさえ許されないものになっている。いや、許してはいけなかったものが表面化してきたのか。

 

「周りの人間は狂気にとらわれ、恨む相手は自分の行動に疑問をもっとらん。ガキ同士の喧嘩やけど避けて通れんもんやな。ウチもその一人やけど」

 

 飲み終わった空き缶を捨てるためにゴミ箱を探す。あいにく近くには無いようで、せっかく暖めた体がまた冷えてきてしまいそうだった。

 

「ん? あれは何や?」

 

 ふと前を向くと女の子を中心に何人かの男の子が声をかけている。一緒に遊んでいたのだろうか? 女の子は動かなかったが、その周りに男の子がせわしなく動いていた。

 

「元気やな、こんなとこはどこでも変わらんか」

 

 知らないうちにどうされていたとしても、気が付かない間は幸せなのだろうと結論付ける。周りからのどう言われてようと幸せな奴には邪魔なだけやろからな。

 元気に遊んでいる少年少女たちの脇をすり抜けるように通り抜ける。

 

「――おかしな千雨だ!」

「変な千雨だ!」

 

 いや、通り抜けようとした。しかし聞こえた言葉にふと足を止める。

 横を覗き見ると女の子がうつむいて涙を流していた。楽しく遊んでいたと思っていたのが、実はいじめの現場だったのになんともやるせない気持ちになった。男の子達は年齢ゆえに自分がしていることに気が付いていないのだろう。

 

「……おかしくないもん。おかしいのは皆だもん」

「おかしいのは千雨だよ!」

「テレビテレビってアニメの見すぎだ!」

 

 ちょっと痛い子みたいだった。子供のころに読んだ漫画や見たアニメと現実を同じだと思っている子。

 大体小学生の低学年か中学年くらいか。このくらいなら男の子もウルトラマンとか言い出さなくなって分別が付くころや。

 幼馴染の中で一人だけ遅れたということなのか?

 

「違うもん! おかしいのは麻帆良だもん!」

 

 この言葉に女性は違和感を感じた。

 皆、麻帆良が間違っていると。

 テレビで見ているものと違うと。これが本当にアニメによるものなのか。

 他の魔法使いなら、呪術師ならそのまま見ていただけだろうが、今日麻帆良学園に来て結界の効果を確認した女性にとって、その言葉は今おかれている状況とともにとても気になる言葉であった。

 女性はポケットの中にしまっていた符を発動させる。

 認識阻害符。人の思考を操るという面では結界と一緒だが、人払い用の符ということで、思考誘導は範囲外に出ようとするというものだった。

 男の子たちは捨て台詞とともに足早にその場から去って行った。対して女の子はその場にうずくまって泣き始めた。

 その場を去らずに、女性の符に抵抗してその効果を打ち消していた。

 まさか、

 

「嬢ちゃん、ちょっと話聞かせてくれへんか?」

 

 女性は泣いている女の子、千雨に声をかけた。女の子は泣きじゃくりながら顔をあげて女性を見上げる。

 

「おねえちゃんは?」

「千草、天ヶ崎千草や」

 


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