千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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13話

 長瀬楓、宮崎のどか、朝倉和美。

龍宮マナ、雪広あやか、綾瀬夕映、新田先生。

春日美空、瀬流彦先生。それぞれ、同じ部屋にいながら待遇が違った。

共犯者兼、被害者。被害者及び傍観者。首謀者の補佐、もしくは同類である。

 

彼らは一部屋に集められていた。

戦力のあるものは武器を取られ、魔法封印をされていた。龍宮は銃をとられるだけだったが、一切抵抗はしなかった。

長瀬楓は、抵抗はしなかったものの、反論をしてきたが、今立場が悪いのは敵対の意志を告げた楓なのだ。

魔法使いは言うに及ばず。

 雪広あやかと綾瀬夕映は判断ができそうな一般人代表で、ネギに関わりの深い者。千雨の判断で選ばれていた。

 

「これは、どういうことですの?」

 

 この場にいるのは千草と千雨。先ほど話し合いをしていた3人はモニターでこれを見る。西側に有利な質問になると言われればそうだが、瀬流彦と春日がいる時点で、余計な者でなく、麻帆良の魔法使いが反論する機会を与えていた。

今雪広がした質問は、この状況のことだろう。

 

「雪広は、ここに来る前の状況を覚えているか?」

「ええ。朝倉さんの開いたイベントをして、宮崎さんがネギ先生と……ネギ先生!? ネギ先生は大丈夫ですの!?」

「別室だが、怪我はしてねぇよ」

「案内してください! あぁ、ネギ先生!」

 

 新田先生の見る目が厳しい。

瀬流彦に対してと、そのような行動をとっている雪広に対してだ。千雨はモニターで見ている者達に目を向ける。室内からその様子はうかがえないが、千雨は彼女らに対して訴えていた。

 

『これも魔法使いのせいだと』。

 

 

 

「長谷川」

「なんでしょうか? 新田先生」

「これもか?」

「逆に問いましょう新田先生。普通、一目惚れだとしても、それから半年たたずにこのような行動をとるまで好きになりますか? むしろ、好きになったとしてもこのような行動を『普通』は取りますか?」

 

 昨日起きた出来事によって、旅館とは違う場所に移動させられ、目が覚めたらこの部屋に連行された。

そのような状況でネギのことを真っ先に気にするほど好きになる。このようなことがあるのだろうか?

あったとして、このような状況下でクラスメイトのことを気にしないで真っ先にネギ先生のことを優先するような暴走をする判断力の持ち主でしかないのだろうか。

 

 

 

「どういうことですか? 委員長はいつもこのような行動をとってますが……」

「そのいつもが間違ってんだよ、綾瀬。じゃあ聞くが、お前の読んでいる小説に、こんな行動をとる人間はいるか?」

「いえ、漫画やライトノベルはその限りではありませんが、いなかったと思います。しかし、このくらいは麻帆良では日常茶飯事でしょう」

 

 瀬流彦の顔が歪む。

 お決まりのキーワードになっている『麻帆良では』。では、それ以外ではと聞かれたら、綾瀬もそんな人はいないと答えるだろう。つまり、麻帆良は異常であると認めていることにほかならない。それを綾瀬は気がついていなかった。

 

「そうだな、ドラマでも、映画でも、ノンフィクションの小説でも、喜劇でない限りこんな行動をとる人間はいない。『麻帆良』以外ではな」

「しかし、麻帆良では普通です」

「じゃあ綾瀬、麻帆良が普通じゃない。とは考えなかったのか?」

 

 新田先生は、麻帆良の現状を知っている。もちろん西が説明したからだ。

 新田先生自身は結婚して妻子を持ってから麻帆良に赴任した先生だ。なので、麻帆良の外にいる時間のほうが長い。

 つまり、影響を受けていない人生のほうが長いのだ。その為にすんなりと異常を説明されたときに納得した。納得せざるを得ないほどの非日常が麻帆良にはあった。

 今まで不自然に思わなかったのが不思議なくらいなのだ。

 

「麻帆良が普通じゃない、ですの? そんなことより……」

「ネギ先生のところには後で連れて行ってやるよ。それより、今の状況を教えてやる。宮崎のどかは確実に、そして雪広あやかを含めた偽ネギにキスした人物は棺桶に足を突っ込んだ状態だ」

「遊びすぎたということですか? 他の方は普通に観光をされておりますの?」

「いいや、比喩じゃねえんだ」

 

 千雨はカードを取り出した。仮契約のカードをスカカードも含め並べる。

 

「昨日のキスはこれを作るためのものだ。これは主人と従者の証。そうだよな、瀬流彦先生?」

「……そうだよ」

 

 関係者以外は何を言っているのかわからないようだ。

 そうだろう。こんなカードを見せられて何が変わったと言われても、分かる者はいないだろう。

 

「そうだ。これはな、無条件で裏の、殺し合いに参加する権利と義務を生み出すものだ。魔法使いという裏のな」

 

 本来ならば衝撃的な言葉だった。新田先生は瀬流彦を睨みつけるように見ている。

しかし、魔法などは所詮本の中の空想だ。そう一蹴しようとする雪広と綾瀬の内情が顔に現れていた。

 

「見せてやるよ。これが私が片手でできるもんだ」

 

 符を手に取る千雨、風で障子を開けて、符を庭の木に投げつけた。

 千雨の投げた符は、途中で半径3メートルほどの炎球となって木を飲み込んで壁を破壊した。

 

「私は裏方の方が得意だからこういったことをするが、拳で岩を砕く人間もいる。才能が有れば山を飲み込むくらいの大きさのものを作り上げる奴もいる」

 

 一瞬のうちに飲み込まれた木を呆然と見る二人。

 雪広と綾瀬はそれを脳内で処理できていないようだ。

 

「このカードはな、持ってるだけで、存在してるだけでこのような攻撃をされる可能性がありますよってもんだ。実際は政治の話だとかでそんなことはないが、確実に厄介ごとに巻き込まれる」

「そんなことはない。厄介ごとになんてそうは――」

「ネギ先生の村は、先生を含めて3人以外生きていない。それなのに、そうはならないというのか? あの村に価値のあるものはなかった。サウザントマスターの息子であるネギ先生以外にはな。それに、麻帆良であったばかりだろう、吸血鬼騒ぎの原因はサウザントマスターが残した負の遺産だろ。ネギ先生の生徒だから巻き込まれた奴が最低でも5人はいたはずだ。その中にはさっきの宮崎のどかもいるぞ。裸に剥かれて帰ってきたことがあっただろう? 綾瀬」

 

 魔法使いには有名な話だ。6年前、サウザントマスターの暮らしていた村が大量の悪魔に襲われた。サウザントマスターの息子であるネギは生存していたという報告に、皆が安堵のため息を漏らしたものだと。

 そして最近流された噂。闇の福音を英雄の息子が倒したと。

 

「あれの原因は不明だ。ネギ君に関係があるとは思えない。それにエヴァンジェリンさんのことは学園長がしっかりと管理している。」

「思ってないのはアンタらだけだ。ネギ先生以外に何がある。それに、管理できていたのはネギ先生に対してだけだ。被害者は隠ぺいしただけだろう。」

 

千雨は、瀬流彦との話を切り上げて朝倉のほうを向いた。

 

「私の情報が本当かどうかは自分で決めろ。話を先にさせてもらう。んで、このカードを持つ者はさっきの話はともかく関係者とみられるわけだが、一般人には普通させない」

「それはなんでですの?」

「一般人にこんなファンタジーな世界を巻き込めると思うか? 世界的に認識されているものならともかく、こんなものあってもしょうがない、危険になるだけだろ? 陰陽師とか映画見たことあるか? あんなのに一般人巻き込めるか。まぁ、巻き込んだのが朝倉なんだけどな」

 

 朝倉は目じりに涙をためて、顔はぐしゃぐしゃになっていた。正座をして膝の上で拳を強く握っていた。

 朝倉は馬鹿ではない。自分の置かれた状況を理解できるくらいには。自分が何をしたのか。これから自分はどうなるのか。巻き込んだ人がどうなるのか。それを想像するくらいはできる。

 

「こいつはお遊び気分で死ぬかもしれない裏の領域に足を突っ込ませたんだ。ただ単に面白いという理由だけで」

 

 朝倉はこの事態の重要性を、まだ完全に理解してはいない。西と東の関係も知らなければ、魔法世界の戦争なんて知らない。一割も理解していない時点で大事であるということを知らしめられていた。

 

「んで、本当なら記憶封じて終わりとかなんだが、場所が悪かった。こいつら魔法使いは麻帆良を起点としている関東の人間なんだが、ここは京都だ。私たちの領域になる」

「それが何がまずいのですか?」

「うちらはな、マフィアみたいなもんだと思ってもらえればいい。お互い嫌いあってんだよ。一般人への魔法ばれと、魔法を使うという行為はな、マフィアや極道でいうカチコミ行為にあたるんだ。相手の領地で麻薬売って銃を乱射しているって感じだな。そんで今の状況は麻薬を振りまいているところを拘束、その関係者すべてとらえているって感じだ」

「私たちは一般人です。それは先ほどおっしゃっていたではないですか」

「だいたいはな。けど、今回の旅行で魔法先生はひとりだとこちらでは聞いていた。結果はどうだ。ネギ先生に、ここにいる瀬流彦先生。知っているだけで二人だ。それに、生徒のことは言っていないが、ここにいる龍宮、春日も裏の人間だ。他にいてもおかしくないだろう? なんせ麻帆良は魔法使いの街なんだから」

 

 続けて千雨は麻帆良の性質を説明した。

 麻帆良学園都市は魔法使いの本拠地であり、魔法先生、魔法生徒が多く集まっている。魔法使いの本拠地として機能する側面から結界を張って学園を守っている。

 その結界には麻帆良内の人間にも作用する効果があり、魔法を使っても、ある程度は疑問に思わない。麻帆良内の非常識を非常識と思わないようにする。そして、犯罪が起こらないように、犯罪が起きてもすぐに更生できるように性格の成長を促進していること。

 

「いいことではないですの? 犯罪も起きなければ問題になりませんわ」

「じゃあ、こんなんで外に出たらどうなる? 麻帆良の常識を常識と思っている。まず社会に順応できない。犯罪がおこらない、素直と言えば聞こえはいいが、それははたして自分の成長と言えるのか? お前のショタコンも、弟を失った悲しみから来たものだろうが、小学校のころから、中学生の今までショタコンってのは本当にお前の思いから来たものなのか? なんで那波のように保母のようなことをしない?

 お前だけならいいけどな、周りにオジコンの神楽坂、ファザコンの明石、木乃香のことを考えすぎている刹那。全員、お前は弟に対してだが、身近に感じる愛情というものは、恋愛感情なのか? そんな感情を持つ人間が、クラスに何人もいること自体がおかしいことだと思わないのか? お前の性格を否定しちまってるかもしんないが、考えてみてくれ」

 

 千雨が言ったことに綾瀬は少し考える様子を見せるが、あやかは信じようとしなかった。その性格は自分で一から作ったものだと疑わなかった。

 

 まだ、話は続く。

 


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