千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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0時から1時間おきの更新です。前の読んでない方はそちらからどうぞ
これにて一応終了。
なんだかんだで小説書こうとしたときのリハビリ用に修正投稿しようと思ってましたがそんな機会も無く
今の流行等も分からないため一気に載せました。
もう1作の問題児は記憶に残ってる人いるのかな?読みたい人はおらんだろうが
次書くとすれば
ポケスペ、聖痕、ISとかそこらへんになるかな。
劣等生とかはなろう時代から読んでるから1次というよりオリ作ってイメージの方が強いんですよね


29話

終章

 

力を失い、堕ちていく高畑。

 ここに、力は潰えた。

 地面に落ちた高畑を、すぐにクルトが無力化させる。

 

「これで、終いってか」

 

 千雨が呟く。正門では、千草が既に関東の人間を無力化しているだろう。

 常に鍛錬をしている騎士団に、麻帆良で正義ごっこをしている奴がかなうはずがない。それに、今はそれほどの士気もないだろう。長への疑念がそのまま士気にかかわることを、関西の人間は嫌と言うほど理解している。

 

「終わった。くだらねぇ戯曲の終焉だ」

 

 どんなに人気のある戯曲でも、どんなにお気に入りの戯曲でも、それには終わりが来る。

 連載漫画が途中で飽きるように、先に行けばいくほど読む気が失せるように、絶対にぼろが出る。

 

「選ばれたモノっていうのは、潰されるんだよ、選ばれていないものに」

 

 全ての歴史が証明している。

 王は必ず引き摺り下ろされる。先の王が立てた国家も、代を追えば追うほどに様変わりする。必ず愚王と言わずとも、上に立てない人間が出てくる。そうでなくても、時代は変わるのだ。漢王朝の後の乱世のように、鎌倉時代のあとの戦国時代のように、激動の時代と言うものはあるのだ。

 

「アンタらは細々と蜜を吸っていればよかった。やりすぎたんだよ」

 

 もし、ネギが来なかったら騒ぎは大きくならなかった。

 もし、京都に来させなければ、こんなことにはならなかった。

 英雄の子を操ろうとした、分相応にしていれば何もなかったと言うのに。

 激動の時代には、必ず愚者が出てくる。自分が力をもっていると錯覚する人間と、成功を運命のように感じる人間。彼らは自分を否定しない。

 逆に成功するのは、反省を繰り返し、次への備えをする人間だ。

 今回も、親書を最低でも形式通りにしておけば、穏健派は賛同しなかったかもしれない。

 もし、このかを政権争いに巻き込まなければ、お見合いなど強要しなければ、味方が周りにできていたかもしれない。

 もし、毅然とした態度で公人としての自分を持っていれば、反旗を翻されなかったかもしれない。

 分相応の錯覚を起こした人間の末路は同じだ。捨てられる。ただそれだけ。

 だから、これで私も捨てられる。そう千雨は考える。

 今回は色々なところに手を出し過ぎた。完全に自分の領分を超えていく。

 だから、このまま捨てられる。それでいい。それであとは細々と生きていくだけだと。

 千草との交流を保ち、小太郎の世話をしながら両親と暮らせればいい。

 あとは、転校した先でゆっくりと普通の生活をする。

 これで、千雨のやることは終わった。

 頬を染めながら千雨を睨むアスナの視線から逃れるように、千雨は千草の下へと帰っていった。

 

 その後、事後処理の場に立ったのは、クルト、セラス、千草だった。

 関東魔法協会は解体、50年の歳月を経ないと再建はできない。

 しかし、その間に麻帆良は何もなくなるわけではない。魔法先生としての活動をしないのなら、魔法使いの滞在は許される。ただし、関東魔法協会の人間は許されない。残りたいのなら、亡くなった組織に操を立てることは許されない。残党のクーデターなんて起こしたくはないからだ。組織か家族か。それをしっかりと判断してもらう。疑いのあるものは、そこにいることを許さない。麻帆良は、連合を中心に、アリアドネーもそこに拠点を置き、帝国もついでとばかりと入ってくることになる。むしろ、魔法使いの数は増えたとも言えよう。

 もちろん、結界は排除された。後に、魔法使いの集まる住居付近にのみ、軽い人払いがかけられる。

 教職員に関しては、一旦外部の機関からの監査を受け入れ、調査機関を置いた後に、不十分と判断された先生は懲戒免職か自主退職となる。魔法先生は、魔法使いという組織人の立場を捨てる場合にのみ、教職員としてその場にいることを許された。それを希望する名前の欄には瀬流彦の文字があった。これは、特に魔法を使えないようにすると言うものではなく、教職をしっかりとそれのみで見られる人間になると言う意味での区別であるため、以外にもすんなりと、5割ほどの人間が残った。その中の7割が、その後の監査で落ちてしまったが。

 他の魔法先生はどうなったかと言うと、本国に行く者もいれば、魔法使いであることを捨てる者、故郷に帰る者もいた。ちょうど、一般人の家族がいる人間には区切りとしていいタイミングだったのかもしれない。

 そして残りは、麻帆良に残る魔法生徒たちの先生。まさに魔法先生になった。

 それは夕方の校舎で行われる。もちろん麻帆良とは違う場所でだ。麻帆良は、魔法使いのいる街ではあるが、魔法使いの街ではなくなった。

 

「この世界樹、持って帰ってくれまへんか? 人の心を操るもんを日本に置いとくとかありえませんから」

 

 世界樹・蟠桃は大規模な撤去が行われた。もともと、崑崙にあるはずの名を冠する世界樹が日本にあるのがおかしいのだ。不自然に置かれたそれに、魔法世界のゲートが備わっている。勘ぐるのも仕方なしだろう。

 それに、恋愛成就、人心操作の効果があるのなら余計に。

 クルトはそれを受け入れて、すぐに撤去を開始した。それは、図書館島も同じことだ。

 完全に魔窟となっていた図書館は、今はしっかりと整理されて、地下深くに沈んでいく最大級の図書館となっている。貴重書類は運ばれ、しかるべきところに保管された。

 魔法の息のかかった地下最深部付近は、先に述べた魔法生徒たちの演習場や、校舎の役割を備えていた。

 そこにいた紅き翼の一人であるアルだが、すんなりとその場の退去を了承した。世界樹の恩恵を授かれなくなることもあるが、彼は傍観者としてそこにいたのであり、なにをしようとしていたわけではなかったのだ。アスナも、信頼はできないが、信用はできると太鼓判を押していたので、何の騒動もなくことは終わった。

 この学園都市麻帆良、雪広財閥の支援によってこのまま残されることになる。あやかの父が麻帆良にあやかを入れたのは、企業の手を魔法世界にも入れるためだった。だから、一般常識などは兼ね備えられるように部屋に結界遮断を敷きながら、麻帆良へ通わせていたのだ。那波と村上も、その恩恵にあずかっていたと言えよう。

 そして、今回の件を逆にチャンスにして手を結んだのだ。

 そのまま麻帆良は、少しずつ日常を取り戻していくだろう。

 

 また、世界でも動きがあった。今回の騒動で、魔法使いの危険性を感じた人間もいれば国家もいる。しかし、独断の暴走であることが幸いし、魔法世界の排除という声はあまり上がらなかった。核戦争をしないように。危険性だけでは行動に移すまでではない。

 逆に、今の麻帆良の状況を利用し、少しずつ魔法世界の人間も、旧世界――地球に順応できるようにして、最終的には移民できるようにとテストケースの街となることになった。もちろん、世界の、日本の法を守ることが最低条件で。

 そんなことができたのは、千草からの言葉が、セラスに響いたからだ。

 

「連合は、亜人の方々放って世界の破滅のときにこっちに来なはるんでしたっけ? そんな自己保身しかしない輩、うちらは願い下げや」

 

 その後の会議は、罵詈雑言が飛び交う寸前までいった。その証拠を持っているクルトは、否定をしつつも、完全にはできない。その言葉が出た時点で、事情を知っているのだから。それを言われたらおしまいなのだ。

 それを知っている人間が、物陰から様子を見ているとはつゆ知らず、睨みあうことになる二人。そして、ゆっくりと話される亜人達の正体。しかし、本当に消えなければいけないのか?

 ならば、魔界はどうなのだ。

 鬼たちはどこに還っていく。自分たちだけが作られた存在なのかと。

 そして、フェイトから手に入れていた連合の、村を襲撃した様子や、悪行の数々に、ついにセラスはキレた。

 世界への魔法の公表と、亜人の人権の獲得を目指し、動くことになる。

 一歩進んでしまえば、亜人だから見捨てたなんて言い訳が通用するはずはない。同じ、人なのだから。そこで先に実験としょうした虐殺の映像などを見せれば、どこにだって嫌悪感は伝わる。連合の人間は、そのような人間は、旧世界の人間に受け入れられるはずがない。

 クルトは慌てて、そのことに関しての協議を別の場に設けた。うまくいくのかは、動いてみないと分からない。

 

 そして、ネギだが……行った行為にかんしては言い逃れできるものではない。一般人に対する行為が大半を占めるため、処分は、魔法世界の人間、魔法使い以外がいる場所の滞在を禁ずることとなった。その年数は5年。

 更に、アリアドネーと連合が協力し、カリキュラムをもう一度受けなおすことになる。次は、飛び級もなしに。特別扱いが消えることが望まれるが、それがかなうかは定かではない。しかし、この件がネギを変える契機になればと、皆が考えていた。

 ネカネはオコジョ刑12年。カモの代わりにネギの肩に乗ることになった。カモの処分は連合へと。もうその姿は見られない。

 高畑は、今回の件が表ざたとなり、狂った英雄と称される。学園長と共に、深い渓谷へと落とされるだろう。

 エヴァンジェリンは、京都を観光しながら、気分が乗った時に講義をしている。教師に飽きたらアリアドネーに再就職することになっていた。

 

 そしてアスナ。彼女の行動が、何人かの運命を狂わせる。彼女は後にネギと会い、誓った。

 

「アンタは英雄のナギを『追い』なさい。私がナギを『捕まえて』あげるから」

 

 この言葉で、ネギは修行に力を入れる。ただし、ダメなところは真似するなと、周囲で必死に止めるようになっていた。純粋無垢がこれほどのものなのかと、教師陣はため息を吐くことになる。

 アスナは、すぐに出て行こうとはしなかった。クルトがこれを機に、学園長に助力した過激派の掃除の乗り出したのだ。

 ネギを襲撃したことから、アリカの汚名を雪ぐことまで、元老院システムが危うくなるまで続け、掃除と同時に、自分の地位を確保した。

 アスナの安全は、一応は確保されたことになる。そして、彼女の保護の場所だが

 

「なに? 私がいちゃダメなの?」

「駄目にきまってんだろ。余計なこともってくんじゃねぇ!」

 

 千雨の隣にいた。

 元老院が暴走しないで保護出来る先。それでいて世界が今注目している場所。それが関西呪術協会だった。

 今回の騒動の中心となった人物が害されることになれば、今失脚し始めている元老院たちに疑いの目がかかるのは必然だからだ。

 

「もう私は関係ねぇんだ! 大阪あたりに移り住んでゆっくり暮らすんだよ!」

 

 千雨は麻帆良から離れ、あとは両親と暮らす場所を探していた。皆、おひざ元の京都にしろと勧めるが、それは自分が組織に近づいているようで嫌だった。

 今回のことは、自分の益になるからどっぷりつかったが、逆に権力闘争が始まりそうな今、自分から身を引くと言うメッセージを込めて、地方に移ることを選びたかったのだ。

 

「何言ってんの? 千雨が抜けれるはずないでしょ?」

「は?」

 

 アスナから渡された書類。関西の親善大使としてメガロメセンブリアにこないかというクルトの誘い、教師、もしくは生徒としてこないかというセラスからの誘い。麻帆良の第4の組織として、また魔法使いのお目付け役として派遣されてくれないかという麻帆良と関西からの要請。

 

「なんだ? これは」

「今回のことで一番名前が売れたのは千雨でしょ? 次に千草さん」

 

 千雨としては、自分の目標を達成し、千草を助けるためにだけ尽力していたのだ。そして、その後、権力闘争から逃げることを考えていただけだった。

 

「千雨は自分の利を見て動く。それは共通見解よ。だから、逆に言えば、もっとも使いやすい人間なの。そして、今回のことで発言力も上がっているから、あなたがいるだけで、公平公正なことをしてますっていう証明にもなるの。特に政府にとっては」

 

 麻帆良の事態を見破って、看破して見せた人物なのだから。

 

「それに……」

 

 アスナはタロットカードのようなものを取り出して千雨の顔を強引に自分に向けた。

 

「んっ!」

 

 一瞬、アスナと千雨の距離がゼロになる。

 そして、光が二人を包んで、目の前に千雨の書かれたカードが降りてきた。

 アスナは、ミネラルウォーターとハンカチを渡しながら声をかける。

 

「お姫様の従者が逃げられるわけないでしょ」

 

 四方八方、完全に包囲されてしまったことを千雨は悟った。今回の件で、やりすぎたことを。

 

「なんでだよ……」

 

 ため息を漏らす千雨。彼女にはまだ、安らぎの時間は訪れない。

 これから先も、ずっと……

                                         完




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