千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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皆様感想ありがとうございました。
待っていてくれた方。コピペに4年もかける人間の作品に暖かい言葉をかけてくれた方に感謝です。
昔読んでくれていてくれた方が層の半数以上でしょうが、新規の方もちらほら見えて嬉しく、ネギまもまだまだ行けるのかなと思ってたりします。
ゆっくり外伝を出しながら今後の活動について考えることにします。
なのはの方は昔のメアド発掘してサルベージしたので投稿は出来るけど
当時の時事ネタとかなんだとかで今読むといつも以上に寒くなること書いてあるから本当にそこらへんは直さないと行けないんですよね。
今年も始まって少しなのでゆっくり考えていきたいと思います


外伝1 詠春

 慌ただしく走り回る音が聞こえる。

 それを詠春は不思議に思った。

 ネギ君が来たのかと思ったが、修学旅行の日程を考えると、それはないだろうと結論付ける。それならばなぜ?

 

「長、」

 

 返事も待たずに入ってきたのは今は東北にいるはずの人間だった。近衛と同じくらい関西の歴史に携わっている家系の頭領だ。

 

「どうしました? それに、あなたは今任務中では」

 

 そう、任務中のはずだ。無理やりにでも戻ってこない限り、今は京都にいるはずがなかった。そういう日程で皆を送り込んだはずだった。

 

「そんなことはどうでもいいじゃろ、儂を送り込むほどの要件でもないのに遠くに飛ばしおって。そんなんじゃから舐められとるんじゃ」

 

 この人は、今の長に否定的な人間だ。いや、否定的になったと言うべきか。最初は特に何の感情も持たなかったと言う方が正しい。しかし、長になってから詠春が行った政策や行動によって、疑問を抱いたのだ。

 つまりは、親関東の方針とその方法。まさしく隷従と言った方が正しい方法で、ただ従おうという長の行動。今回のことも、長は隠そうとしているが、それは完全に関西の人間全員にばれている。

 ネギ・スプリングフィールドが親書をもって関東と関西の仲を良くする。いいシナリオじゃないか。関東にとって。そこに関西の人間の思惑は一つもなく、関東を嫌っている理由を知っている人間にとって、あってはならない行動だ。

 魔法世界の大戦で死傷者を出して詫びの一言も入れずに、関西の人間のせいで仲が悪いと言われ、仕方がないから仲良くしてやると、死傷者を出した原因と、その息子が会合を果たし、結果関西は関東の下に下る。そんなバカな話はなかった。

 それをすべて踏まえての言葉。しかし、詠春は、ただいつものように叱責されているようにしか感じなかった。仕方のないことだとしか思わなかった。そも、詠春は関西の人間に相談をしたことなど一度もなく、話し合いの場も持とうとしなかった結果なのだが。

 

「それは申し訳ありません。それで、用と言うのは?」

「麻帆良の生徒が宿泊している旅館で、館全体を包み込むように仮契約の魔法陣が発生しおった。その前には魔力による暴風も観測されておる。これを関西は侵略行為とみなすことに決定した。これは決定事項じゃ」

「なんだと!?」

 

 詠春は勢いよく立ち上がった。

 

「さすがの長殿も、そこまでやられては憤りを隠せなかったようじゃのう」

 

 どちらの意とも取れる言葉、最後の老の助け舟であったこの言葉。ここで肯定し、関東を敵にしておけば詠春の運命は変わっていたかもしれない。

 

「当たり前でしょう! 長である私を抜きにそのような決定を指せるわけがないでしょう!」

 

 老は、一旦目を見開いて、頭を下げた。顔を見せないようにした。

 今、老はどのような表情なのだろうか、悲しみか、怒りか、それとも喜びか。

 老はなにも答えない。

 その間にも、ことは進んでいる。それを察した長は、老を無視して部屋を出ようとする。

 

「勝手なことをされては困ります、長」

 

 部屋の外から次々と中に入ってくる関西の術者。

 名家の者、地位の高い者、現場で一流と言われている術者。所謂権力者が長を取り囲んだ。

 

「一体何をされるおつもりで?」

「あなた方のしようとしていることを止めるにきまっているでしょう」

「私達は、主犯であるネギ・スプリングフィールドとその協力者を捕らえ、生徒たちを保護するだけですよ。ここ、京都で英雄の息子が一般人を対象に大規模魔法陣を使用しての取り入れ行為、許されるはずがないでしょう。これのどれを、どこをやめよと言うのですか?」

「全てです。直ぐにやめなさい!」

 

 詠春は部屋全体に響き渡るほどの声で怒鳴った。

 

「なぜでしょう?」

「なぜ? 決まっているだろう。彼は――」

「英雄の息子だから助けますか? 友人の息子だから助けますか? 貴方の立場を忘れましたか関西呪術協会の長であられる近衛詠春殿。あなたは公人としてやるべきことを無視して、ただ感情で私たちを止めに入っている。そこのどこに義がありますか。それとも、なにか行ってはいけない理由があるのですか?」

 

 殺気のこもった眼をしている詠春に、誰一人として譲らない。ここが、譲ってはいけない場所だと理解しているから。

 

「それは……彼は使者ですよ? 修学旅行中の人間を拘留するなど許せるはずがないでしょう。こちらには魔法先生が一人いると連絡があったのですから」

「しかし、実際には魔法先生は確認している時点で二人。それに魔法先生のパートナーと、傭兵をはじめとした魔法使い及び、関係者と思われる人間が複数確認されております。それに……」

 

 一人が、親書を投げ捨てる。中身が表になって地面に落ちた。

 

「修学旅行の一般人を盾にして親書を出そうとは片腹痛い。それにこの文書、関西をなめているとしか思えませんな」

 

 デフォルメされた近右衛門が書かれている紙が一番上となり、詠春にも、そのほかの人間にも見えるようになっていた。それを見て、さらに詠春は怒りを強くする。

 

「貴様! 度が過ぎているぞ! 誰の命あってかのような行いをした!」

「度が過ぎているのはお前だ! 詠春!」

「貴様の所業、思い返してみよ!」

「どれが関西の益となったと言うのだ!」

 

 次々と投げかけられる言葉。しかし、その言葉が真として受け入れられることはなかった。そう、昔も今も。

 

「私は関東との仲を良くしようと尽力していた。それを否定したのはあなたたちではないか」

 

 この言葉、これはある意味訣別の言葉と言えただろう。

 誰が関東との友和を望んだか。

 誰にとって益となる行動なのか。

 関西呪術協会の長として正しい行動なのか。

 誰しもが、これで話すことは終わりと言うように、臨戦態勢を取ろうとした。それを一人の老人が制した。

 

「長殿、それで、関東との仲を良くして、長殿はなにをしたかったんじゃ?」

「なにを……? 同じ国にある組織が協力しないでなにをすると言うんですか」

「とはいうものの、それで機能しているではないか。退魔をするのは私たちの仕事。関東のものは、魔法使いの生活を守るのみ。しかも、長谷川嬢のことを忘れたとは言わせんぞ。魔法使いは、組織として一般人を害している。その証拠が出ているではないか。それを、今京都で堂々と行われたのだ。なのに、なぜ関東をかばう。お主にも報告が上がっておろう。お主の娘でさえ、食い物にされている今、彼らを許す理由がどこにある」

 

 詠春は、次の句を告げることを戸惑った。彼の心情では、答えは既に出ている。

 それを口に出すのを戸惑ったのだ。しかし、それを言わなければならなかった。ここで嘘を吐いたとしても、彼の守りたかったものは失われてしまうのだから。

 

「私はそれでも、近衛詠春、青山詠春として、友の息子に害をなすことはできません。このかの親としても、あなた方に使われるくらいなら、友の息子に預けることを選ぶ!」

 

 手に持った刀を抜き、構える詠春。完全な訣別の言葉だった。

 

「……虚しいの。本当に」

 

 既に決着はついていた。周りを包囲され、逃げられない詠春。彼に、逃れるすべはない。室内で囲まれ、そこに打ち込まれる弾丸ならば、よけることができただろう。

 しかし、他のものが覚悟している状況ならば、こういったこともできるようになる。

 

「『石の霧』」

 

 室外からぽつりとつぶやかれた言葉。そのほかにも睡眠の術式や、麻痺効果のある花粉などが室内に充満する。対処法を知っていれば何とかなるものもあだろうが、そのすべてを一気に避けることは敵わない。

 詠春の意識は、そこで途絶えた。

 

「……月詠殿」

「はいな~」

 

 部屋の外からステップを踏むように入ってくる月詠。他の人間は、既に室内の術者を治しにかかっている。

 

「始めて下され」

 

 その言葉を聞いた月詠は、石化していない詠春の筋肉をズタズタに引き裂きにかかった。その上から乱暴に治癒を行う者がいる。それから、全ての部位を石化を治しながら行い、彼は、自分の力のみでは起き上がることすらできなくなった。

 

「氣を使って一般人と同じ生活がおくれるくらいには壊しましたでー。それでも重いものは無理だと思いますけど。剣士としてはもう生きられまへん」

「そうか……近衛詠春。この場で関西呪術協会の長を背任する。この決定に不服のものは?」

 

 誰一人として、それを止める者はいなかった。それを、ネギのために用意された巫女二十余名は冷ややかに見ていた。彼女たちもまた、不満を持っていた。誇りを持っている巫女の仕事を、芸者のように使われることに。

 このまま詠春は運ばれる。青山の屋敷へと。

 そして、近衛詠春の人生はそこで終わった。

 

 

 

 

「無様どすな」

 

 “青山”詠春に声をかける人間がいた。

 鶴子だ。青山の人間として、独房の詠春に話しかけた。

 

「あんさんはやりすぎたんや」

「私は、良かれと思ってやっただけです」

「それは誰にとってや? 自分にとってか? それとも近右衛門殿にとってか? 行動を起こすときは、相手のことを考えないといかん。嫌われてもええから、その人のためになるように考えて行動せな。それが出来ひんのなら、巻き込むものやあらへんな」

 

 ひなた荘の住人のことを考えながら、鶴子は言った。

 

「自分で手の届く範囲にしておけばよかったんや。知った人間と知らん人間、それの判断が出来ひんあんたにできることなんてなんもあらへんかった。その結果、一般人すら巻き込んで不幸にする」

「あなたも、自由に振舞っていたではありませんか」

「ウチは人を選んでおったで。それに、悪いことは絶対にさせへんかった。都合のいい行動と、為になる行動は違うんやで」

 

 鶴子の言葉に、詠春は何も答えなかった。答えられなかった。

 

「魔法に毒されよったな、詠春はん。ここで、あんたの行動反省しいや」

 

 鶴子は、それだけ言って去って行った。そこに残るのは、冷たい床に座る詠春のみだった。


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