千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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外伝2 超

 拙いネ拙いネ拙いネ

 

 起きたらすべてが終わっていた。

 

「長谷川さんが術師だったのはイレギュラーだたカ」

 

 超は焦っていた。自分の計画が崩れ去ってしまったことにやっと気が付いたからだ。

 過去の出来事を知っていると言っても、全てが映像で残っているわけでもなければ、その時の手記が残っているわけでもない。タダ、その場での茶々丸の映像と、歴史上の出来事や人物としての記録が残っているだけだ。学園祭で仲間になった千雨の前後の記録など、超は持っていなかった。

 しかし、平然と刹那や龍宮と交流していることと、関西という立場から、この後に仲間になる通過儀礼のようなものだと考えていた。

 

「このままではすべてが終わてしまうネ」

 

 目の前には田中さんたちが並んでいる。世界樹の撤去が決定された今、彼女の行動は急を要していた。しかも絶対に動かなければ、自分が未来に戻ることすらできなくなってしまうのだ。しかし、このままでは、また破滅の未来が待っている。

 

「イレギュラーによる世界への魔法バレ。突発的なことから起きたことだから、混乱することは決まってるネ。下手するとさらにひどい被害が出るようになるヨ」

 

 自分の元ある世界の状況を思い返す超。超は、それを許すことなんてできなかった。彼女は、それを止めるためにここに来ているのだから。

 

「超さん、もうすぐここに監査の人が来ますよ」

 

全てのことが決まるまで、彼女たちは眠らされていた。隙を見て大学校舎へと向かった彼女たちだが、そこも既に国の管轄になっていた。

 

「ハカセはどうするカ?」

「何世代も先の技術を使って作品を使っていたと言うことに負い目は感じますが、既に分かっていたことです。このまま研究を続けますよ。幸い、エヴァンジェリンさんが関西に厄介になっているので、茶々丸のメンテナンス要員として必要人員に数えられていますし。それより今は……」

「そうネ。計画は全部無駄になたヨ。ネギ坊主はもうここにはいない、世界樹も撤去される。魔法バレは実現される。私のしたかた事は全て出来なくなったみたいネ」

 

 顔を俯ける超。彼女の心情を思い図ることは、ハカセにはできなかった。すべてをかけてやってきた。その覚悟が既に無駄となったのだ。その気持ちは、想像すらできないだろう。

 

「田中さんたちは、レーザーも撃てるし、戦争の戦力として数えられてしまう。それをどうにかしないといけないネ。監査は誰が来るカ?」

「千雨さんと、天ヶ崎千草と言う人、あとは各国の代表です。二人以外は来てみないと分かりません」

 

 千雨も千草も、権力に興味はなかった。しかし、その態度が使いやすさを物語っており、このようなことには真っ先に繰り出されるようになった。符の師弟と言うこともあり、現場に出ないでも、符を作ることで貢献もできるため、関西では“欠かすことのできない存在”となっていた。

 

「千雨さんカ。他の人よりかは話が通じるカネ」

「そうは思いますが、このことの発端が千雨さんですから」

「ウウム……」

 

 超とハカセは頭を抱えた。

 結局彼女たちは、何も行動できないまま千雨が来るのを待つことになった。

 

 

「ったく、またここに来なくちゃいけねぇってのは気分が悪いな」

「仕方あらへんやろ、アンタの立場じゃ」

「クソッ……アスナのヤロォ、絶対にゆるさねぇ。自分は来ねぇくせにこんな厄介なもんばっかり連れてきやがる」

 

 今ここにきている関西の人員は千雨と千草だけだった。

 

「あっ! 千雨さん!」

「ゲッ!? 宮崎か!?」

 

 千雨の姿を見つける宮崎。直ぐに千雨の元へと走ってくる。

 

「こんにちは」

「よ、よぉ」

 

 千雨は宮崎が苦手だった。いや、苦手になっていた。

 理由は、先日起きた関西での騒動だ。

 綾瀬がいきなり本山へと駆け込んできて、アスナと合計4人でひと騒動起きたのだ。

 

「ここは大学エリアだろ。なんでお前がここにいるんだよ」

「精霊さんたちが教えてくれたんです」

 

 宮崎は、あの後から魔力を視界にとらえることができるようになった。空気中の精霊を見ることができるようになった。

 

「なんや、おかしなようになったな。この嬢ちゃんは」

「ヒッ……!」

 

 その分、特定の人物以外とは、視線を合わせることも、話すことも出来なくなったが。

 今彼女は、学校に入っていない。いや、希望者以外は3-Aの生徒は学校へは行けていない。当然だろう。担任、前担任が犯罪者であり、彼女たちは利用されていたのだから。その上、エヴァンジェリン、アスナ、このか、刹那、千雨、茶々丸がクラスから外れたのだ。さらに、あやかにはやることがあり、授業に出るのは難しい。楓は精神修行と言う名目で里に戻り、忍者としての常識を再度学んでいる。古も、今は麻帆良にいるものの、折を見て師父のところに戻ると言っていた。朝倉は部屋に引きこもり、3-Aの人間がいる所には決して顔を出さない。それに今の宮崎の状況。綾瀬だけが宮崎と接することができる人間で、麻帆良在住の人間なので、ほぼつきっきりになっている。クラスの3分の1がいなくなって、クラスがまとまらないのだ。その上、超とハカセが自分のことを行っており、クラス自体を纏める人間がいないのだ。那波がクラスの人間の部屋を回ってはいるものの、それくらいしかできないと言う現状。

 これほどまでにクラスが壊れてしまったのだから、3-Aの人間に何の事情説明もしないわけにはいかなかった。それが朝倉を追い詰める原因ともなるのだが。

 更に裕奈も3-Aとは疎遠になった。さらに春日も。彼女らは、魔法使い側の人間であり、操っていた側に関係しているのだから。

 自然と龍宮もその場を離れ、アキラも魔法使いの恩恵を受けたうえでの実力と言うことを知り水泳部を離れた。他の部活の人間も、結局はとんでも人間のいる麻帆良は八百長試合しか仕組まれていないという可能性に、部活への情熱を失った。そうならなかったのは、驚異的な身体能力を必要としない部活のみだ。確実に、3-Aの生活は壊れていた。

 それでもネギを憎めない彼女たちは、その事実を知らされたときに泣いた。憎しみすら許されない。それでも彼を信じてしまう自分自身が悲しかったのだ。そして、何人かは、自分が自分ではないことに気付いていた。

 その中で村上、鳴滝姉妹は記憶の処置を希望。亜子も希望したが、それは千雨が一旦保留にした。

 

「魔法の力で、その背中の傷を消してからな」

 

 もしかしたら、3-Aの魔法バレで一番の功績はこれなのかもしれなかった。

 

「綾瀬はどうしたんだよ」

「夕映は今部屋にいます。千雨さんと一緒なら大丈夫だって」

 

 宮崎の言葉と同時に、千雨の携帯にメールが入った。

 

『のどかは任せたデス。今日一日お願いします』

 

 疲れたような顔文字と一緒に書かれたこの文面は、千雨の腕に引っ付いている宮崎の、日ごろ綾瀬に対して行う行動を容易に想像させた。子犬のような、ラブラブのカップルが甘えるような行動を、ずっと続けているのだろう。依存性の高い相手に。

 千雨は、自分の身を守るために手段を講じる。

 

『任せろ、今日は女性同士でやれる符を持たせてやるよ』

 

 そう送って千雨は電源を切った。

 

「あー、宮崎。私たちは今から仕事なんだが」

「私が案内します。千雨さんがいなくなって、麻帆良の様子も結構変わりましたから」

 

 確かに、至る所工事ばかりで、面影が微かに残っている程度だ。

 それに、必死に服をつかんで離さない宮崎の様子も、捨て子のそれに代わりつつあり、精神状態がよろしくなかった。会うのがどこぞの重鎮だったら話は別だが、今日は元クラスメイトなこともあり、千雨は動向を許可した。

 

「んじゃ、任せたぞ宮崎」

 

 そう言って頭をなでることで答えた千雨。これがフラグだったと嘆くのはいつの事だろうか。

 

「やっと来たネ」

 

 キャンパスの前で迎えに来ていた超とハカセ。その姿に懐かしいと感じつつも、千雨は彼女たちの元へと歩いて行った。

 

「そうとうやばいもん抱えてんだって? 麻帆良の頭脳」

「そうなんダヨ。魔法使い側に隠していたことが災いしたネ」

 

 二人に案内された先にあるのはTANK-α3の軍隊。それに多脚戦車に

 

「鬼神まであんのかよ」

「計画のために作ってたけど、千雨のせいで全部パァよ」

 

 ため息を吐く超、千雨と千草はそれを無視して機械群の中に入っていく。

 

「こんなもん用意して、何をしようと企んでたんだ?」

「魔法を全世界にバラそうとしてたネ」

 

 千雨、千草、宮崎が一斉に振り向いて超を見た。

 

「なんでまたそんなことを」

 

 千雨の呟きに答え、超は自身の目的を話し始めた。自分は実は未来人だと言うところから、ネギの子孫だと言うこと、彼女がこの世界、過去を変えることで未来を変えようと言うこと。その為に用意した軍。

 

「こうなってしまっては意味ないけどネ」

 

 最後まで言い切った超は、自嘲気味にそうつぶやいた。

 

「まぁ、魔法は世界に広まるんだ。それも世界会議で話し合われて慎重に。それでいいじゃないか」

「それではダメヨ。それだと、ネギ坊主を試せない」

 

 ネギを試し、未来を託せるか。それを判断することができないと言う超。

 千雨も、宮崎も、その言葉を聞いた瞬間に、同情する気も失せた。

 

「結局お前もあれ主導でモノを進めようとするんだな。それで、お前が暴れた結果、ネギ先生が見事解決。仲間に何人も入ってようこそ死の支配する世界へか?」

「私も、その仲間だったんですか?」

 

 宮崎も、声を震わせながらも超に聞いた。

 

「本屋は修学旅行からネ。私と敵対する前に、アスナ、本屋、このか、刹那、古、綾瀬、楓、朝倉ネ。私との争いで千雨、ハルナが仲間になったネ。その前に、小太郎が仲間になってたヨ」

 

 千雨は嫌悪感を隠そうともせず、宮崎は震え、必死に千雨にしがみついていた。

 

「それで、お前はどう思うんだ? そんな状況になるのを分かっておきながら放置していた天才さんはよ」

「皆には悪かたと思てるネ。けど、しょうがなかたヨ。少しの犠牲で、世界が守られるんならそのほうがいいネ。それに、皆、幸せそうだタヨ。だから、今の私が、ネギ坊主の子孫がいるネ」

 

 躊躇わずにそう答える超、千雨も、自分の考えで動いている人間だ。超のことを否定することはできない。そう自覚していた。

 しかし、

 

「超、ちっと歯を食いしばれ」

 

 身体強化もない、ただ体重を乗せた右ストレート。しかし、それは超の頬に吸い込まれるように刺さった。その勢いで超は後ろに倒れる。

 

「テメェの都合で物事起こすことは構わねぇよ。私もそういうことをしたから今があるからな。だけどな、他人の頭いじくってんのも、それを知って利用するのも、それだけは私は許さねぇよ」

 

 踵を返して出ていく千雨。

 千草はそれを見ながらどこかへと連絡した。

 そして超は、世界樹が撤去された日と同じ時に麻帆良から姿を消した。

 未来に帰ったのか、魔法世界へと向かったのか、自ら命を絶ったのか、それは誰もわからない。超はそのまま、歴史に名を刻むことはなく、ただ消えて行った。


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