千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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感想は全部読ませていただいてます。
大体最新話に関しては皆さん同じようなコメなので私自身一人一人に返答するボキャブラリーがなくなっておりまして返信してませんが感謝しております


外伝3(後編) エンドレス

「なんなのよこの威力はッ!?」

 

 アスナが必死に魔砲を避ける。体中に擦り傷と切り傷が付いていた。

 小太郎はその横に何とか体制を整えて着地する。

 

「あれ一発一発が千雨姉ちゃんの二三日の魔力なんや。強いのは当然やろ」

「千雨はケチだからあんまり使わないのねこれ。燃費めちゃくちゃ悪いじゃない」

 

 愚痴を言いながらも、周りを観察し、次に備えるアスナ。

 

「けど、障害物貫通は卑怯よね。本当に貫通するの?」

「以前地下深くに潜って式神にやらせながら高笑いしとった千草姉ちゃんをサーチャーとかいうので探して極太い魔砲でぶっ潰しとったわ。地下30メートルの壁くらいなら余裕で抜くで」

「しかも今は属性変換させて無効化もできないってわけね」

 

 飛び交う魔法には火や雷などの属性が付与されて、アスナの魔力無効化能力を使えないようにさせていた。

 

「まだまだ行くよー」

 

 心なし陽気になった千雨は、何十もの魔法の射手を空中に待機させて杖をアスナたちの方へと構える。

 

「『アクセルシューター』」

 

 ピンク色の魔力光を持った魔法の射手が、時間差で降り注ぐ。

 空を自在に駆ける千雨と、地面を必死に走り回るアスナ、小太郎とでは攻撃ひとつとってもかなりの差が開いていた。

 

「クソッ、攻撃が止まへん」

「ストック全部使う気なんじゃないの?」

「それでも、あの弾丸に使うのだけやあらへんから、五分か十分くらいでなくなるはずなんや。それなのに今日はドカドカ使うとってもなくならへん。異常や」

 

 物陰に隠れながら走って距離を取る二人。最初は二手に分かれてたが、一人ずつ集中砲火を食らった二人は直ぐに集まって共に凶弾に対処していた。

 犬神を出して当たりそうな砲撃をそらし、直前に迫ってよけきれないものは、アスナが魔力無効化ではじいていた。剣先で触れると消える魔力は付与能力だけとなり、対処を可能とさせる。しかし、防御に手いっぱいになり、攻撃をする暇が取れなかった。

 

「駄目だよ、よけてばっかりじゃ。任務の事を想定してやらないと」

 

 千雨は生かさず殺さずの状態になるように魔法を撃ち続ける。特に小太郎には必死に頭を悩ませてやっと一撃を入れれるくらいの密度で砲撃を構えた。

 小太郎は今現在気が付いていないが、ちゃんと観察していれば隙が見えるようにできている。千雨がそのように思うのだから、エヴァンジェリンからしてみれば、もっと隙は多いだろう。しかし、千雨の指令の下で行動していた小太郎は、それ以上の行動を予測できない。千雨は今回でそれを払拭させようとしていた。

 

「何とかしなさいよ!」

「アスナ姉ちゃんがなんとかしてや! わいに千雨姉ちゃんは止められへん!」

 

 その思惑が成就するのはいつの日になるかわからないが。それでも千雨は小太郎を鍛えていた。自分を超えさせるために。

 ちなみにこのレイジングハートは、柄の部分に飛行魔術の術式が組み込まれており、弾倉の下にあるバッテリーが魔力を回転させている。その部分に使っているのは世界樹の朝露と樹液を混ぜたもので、魔力が一定に供給されていた。

 弾は誰が作ったものでもいいのだが、基本的に製作者が千雨であり、西洋魔術の術式を組み込んでいることから、千草と千雨の魔力が貯められたものが大半だった。

 

「あ、訓練中なんか?」

 

 つい先日までは。

 声の主は戦闘区域を避けてエヴァンジェリンのところまでやってきた。

 

「また小太郎君が失敗したん?」

「それもあるがな、一応授業の一環だ。それよりお前はなんでここに来た。お前を呼んだ覚えはないぞ」

 

 エヴァンジェリンはこのかの方を見て、手に持っている段ボールに視界を奪われた。よっこいしょという声と共に下ろされたそれの中身を見て、エヴァンジェリンの顔は渋くなった。

 

「千雨ちゃんに言われとるんや。魔力制御の練習でこれに魔力つめとけって。んで、できたから持ってきたんや」

 

 サウザンドマスターをも超える魔力の持ち主近衛このか。彼女の修行を任された千雨は、英雄の息子であるネギのようにラッキースケベのような魔力暴発を恐れ、第一に知識の吸収と魔力制御を学ばせていた。学力は千草とエヴァンジェリンが担当になり、魔力制御は千雨が行っていた。そしてその内容が、

 

「ああ、弾丸の補充が来たか。ありがとうな近衛、タイミングばっちりだ」

 

 一瞬我に返った千雨がこのかの持ってきた段ボールの中の弾丸を収容する。

 弾丸の魔力補充だった。これによって魔力制御を覚えさせるとともに、自身の魔力不足を補っていた。

 

「なんやそれ!」

「卑怯よ千雨!」

 

 もっとも、相手にとっては悪夢でしかないが。

 このかに魔法を教えるようになって数か月、その間、千雨はこのかの魔力がほとんど尽きるまで魔力を使わせていた。弾丸補充のためと、このかの修行のために。

 そのため、今手元には数か月分のサウザンドマスターを超える魔力があった。魔力量で言えば、単純にサウザンドマスター100人分だろうか。それに千雨自身も魔力を込めているものがあり、

 

「そうか、ならば私も空いてるものに詰めようか」

 

 ついでに600歳を超えた真祖の吸血鬼の魔力さえあった。

 

「思い出した! 千雨のあれ、私の魔力とか、咸卦法とかこもってる弾丸もあるわよ。研究のためとか言ってさんざん込めさせられたもの」

「それ先に言ってやアスナ姉ちゃん……」

 

 アスナの顔は青く染まり、絶望を物語っていた。小太郎は紫から、白く燃え尽きそうになっている。

 

「じゃあ、続きやろうか」

 

 二人に、地獄へのカウントダウンが砲撃と共に奏でられた。

 

 

 

 

 そして、やけになったアスナによって行われた「パンツめくれ」を圧倒的な火力で押しつぶした千雨の魔砲により、アスナ、小太郎の両名は飲み込まれ、勝敗を決することとなった。その光景をエヴァンジェリンはただあっけにとられてみているしかなかった。

 

「おわったぞ、エターナルロリータ」

「……」

「おーい、ロリ婆?」

「……ハッ!? 誰がエターナルロリータだ!」

「いや、まあいいんだがな」

 

 千雨の呼びかけによって再起動するエヴァンジェリン。

 

「一応、多分、あれが私の本気だ」

「なんというか、規格外だな貴様は」

「それでも、あんたには勝てないだろう?」

「まあな。お前自身に限界がある以上、お前は私に勝てないよ。ただ、3人で襲い掛かれば一流に勝てる、準一流の人間を、お前は50人相手取っても勝てるだろうがな」

「何とも微妙な戦力だな。まぁ、私は前線に出ないからいいんだけどな」

 

 なんともさっぱりと答える千雨。しかし、エヴァンジェリンもそれ以上追及したりはしなかった。そして、それでいいと思っていた。

 彼女が望む平穏を、エヴァンジェリン自身は壊そうと思っていなかったからだ。彼女自身が周りに壊された日常、それを千雨に味あわせるつもりは全くなかったのだ。

 

「しかし長谷川、そのマジックアイテムはすごいな。誰が使ってもあれのような動きができるのだろう?」

「どうだろうな、常に浮遊魔術の術式を気にしながら使わないといけないから、二から三の同時思考能力がないと無理だから。私も降ろした時にしかできねぇよ。茶々丸ならできるかもしれないがな」

 

 リリカルな魔法世界特有のマルチタスクと言う能力は、魔法使いや、他の人間にも余りあるものではない。TVを見ながら会話をして、新聞を読みながらご飯を食べるくらいの同時行動力では足りない、一つ一つに対しての集中力が必要となるのだ。

 それに、長時間行うと、頭の方が先に限界を迎えてしまうと言う難点がある。

 しかし、茶々丸のようなロボットはその限りではない。データさえ集まればうまくデバイスを使えるだろう。

 

「この世界の超が過去に来なくてよかったわ。そんなの私じゃ絶対無理だもの」

 

 地べたに女の子座りをしながら、肩で息をしているアスナがぽつりとつぶやいた。

 田中さんが全員レイジングハートを標準装備している。誰が勝てるのだろうか。

 

「まぁ、もうこいつらは作れないけどな」

「何? どういうことだ」

「材料に世界呪の枝とか樹液とか使ってんだよ。そうでなくても関西の、それこそ鬼神が収められた小屋のものとか。特別な素材に術式を組み込んで起動させてんだ。それ以外は劣化品にしかならないし、あんな高火力使えない。龍宮に渡したのが市販品用の試作品だな」

 

 威力的には白き雷くらいが最大火力だと、千雨は答える。

 それでもパーツ一つ一つに魔力の流れる術式や、効果を派生させるものを刻まなければいけない。その時間と手間を考えると、関西の符を作って使い捨てたほうが役に立つのだと言った。龍宮のような、魔法の知識があり、銃の知識があり、自分でメンテナンス出来るような人間にしか使えないと。そして個人で使うのならば、毎日のように行動している人間は魔力を貯める余裕はなくなるのでそれも使えない。そもそも弾丸製作技術がないと、排莢をなくしてしまえば使えなくなると言うワンオフ性の厳しさがあった。今は龍宮のもの以外は世に出ていないので、研究されることもなく、千雨のアドバンテージとなりつつある。

そういった説明を終え、千雨は小太郎の方を向いて一枚の収納符を発動させた。

 

「武器はそんなもんだし、私の神降は私の想像に左右されるからな。この世界で不可能だと思うものはできない。ドラゴンボールに出てくる威力は無理だと私が思えばそんな威力でないし」

 

 サウザンドマスターが山を消滅させた事実などを聞かされていたので、千雨はそれくらいの威力は出せる。そして他にも特徴はと言うと、

 

「元ネタ自体がある程度の威力がないと、そっちに左右されちまうんだよな。衣装自体は変えれるけど」

 

 年齢詐称薬を口に含み、符を使って衣装と髪の色を変える。

 

「小太郎、寝っころがってないで2回戦行くぞ。さて、『準備はいいかい? お姉さま』」

 

 短髪の少年のような姿から、かつらをかぶって少女へと変わる。まるでフランス人形のような、きれいな

 

「『ええ、大丈夫よ。お兄様』」

 

 一人で二人、二人で一人。そして彼(彼女)はそこにいた。

 

「『ターゲットには、タップダンスを踏んでもらいましょう』」

 

 腰だめに構えたガトリングガン。そこから爆音の連鎖と共に、魔力弾が打ち出される。しかし、そこにあるのはごく普通のガトリングガンの弾痕だった。もっと大火力で打てる魔力の弾丸を使っても、その威力しか出せなかった。しかし、それでも狂気にとらえられた弾丸は小太郎に迫り来る。必死に起き上がり、小太郎はまさに犬のように這ってその弾丸の雨をよけた。

 

「だから、限度があるから研鑽もできない。私はここが限界だ」

「まぁ、貴様にとってはそれで十分だろう。素材がなければまともな武器が使えないのなら、貴様自身の価値もあまり上がりはしないだろう」

 

 しかし、その程度の、魔法使いにとっては不要な武器でさえ、米軍をはじめとした組織の対魔法使い武装として重宝され、千雨の知名度がまた上がるだろうとは、誰も予想できなかった。

 


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