京都の奥地。屋敷の一室で一人、頭を悩ませている姿がそこにあった。
純和風の家屋に不釣り合いな洋風のそこには散らばった書籍、テーブルの上に置かれたモニターにはいくつかの画面が分割されて映っていた。
「なんか、パッとしねぇんだよなぁ」
本を拾ってはパラパラとめくり、それを左右に仕分けていく。
「これは身長が合わないし、こいつは目つきが垂れてるんだよなぁ。こいつはぜってー性格合わないからな。そもそも、ハーレムもののヒロインなんて私と合うのかといわれると想像もつかねぇ。これなら髪染めて千冬のコスするか、オータムでもやってみるか」
画面を見ながら、自分の写真とそれぞれのキャラクター画像を合わせる。
AIで画像を合成させて、自分がコスプレした場合の画像を作成する。
「シンフォギアもしっくりこないし、あれは歌をどうにかしないといけないからやりたくねぇ。ぜってーあいつらに笑われるからな」
作成した画像をタブレットに映し、今までのコスプレと見比べる。
性格、容姿、信念。
どれが似てるのか。どれが合わないのか。
受け入れられるのか。受け入れられないのか。
明確に力を“イメージ”できるのか。
長谷川千雨という存在に相応しいのか。
「ダメだ。そう考えてる時点でうまくいかない」
紙卸のためにキャラを見ている間は、そのキャラにはなれない。
少なくとも、いままでのキャラクターは『好き』だから卸せていた。
似ているとか、合うという事ではなく、愛着がその差を埋めていた。
昔のコスプレ画像をデータから呼び起こす。
千草の着物を強引に拝借し、赤いジャケットを羽織った状態で、日本刀を構えている。
コスプレのために髪を切るかをずっと悩んでいたものの、長髪の映像が出てきたため、さっそく撮りにいったものだ。
あの頃は、なんのしがらみもなく好きなものを好きなだけ見ていた。
それに比べて、今は朝から晩まで用事があり、見たいものも見る暇がないうちに昔のモノになってしまう。
やっと見たらクール遅れという状態で、見ても今までのような感動を受けることが少なくなかった。
本来ならもっとのめりこんで、感動し、楽しめた作品もあっただろうが。
今の状況が作品を『情報』として取り込んでしまう。
「薬屋ですら思考の加速にならないか、とか思っちまったのが末期だよな。いっそ一旦、日常系以外見んのやめようかな。でも、そうするとコスプレの旬を逃すんだよなぁ」
前回のイベントで着た佐倉杏子のコスプレ衣装を、ため息を吐きながらクローゼットから取り出す。
その横には、首のチョーカーでワンピース風のドレスを引っ張り、ウエストのベルトで形を支えられる衣装があった。世界で想像さえできればどんなものでも”切る”ことができるだろう。想いを力にする。依存したものは習得しやすい。非常に私に合ったキャラだが、これも見終わったころには終了から2か月が過ぎていた。
「おい、入るぞ」
「失礼いたします」
二着の衣装を両手に持っていると、エヴァと茶々丸が入ってきた。
「おい、せめて許可してから入れ」
「入ると私が言ったんだ、許可なんてとる必要はないだろう。それで、また貴様はこすぷれ?というものをしているのか?」
エヴァンジェリンも千雨の持っている衣装がどんなものかは知っていた。
今の部屋のクローゼットはもう一つの部屋のようになっており、様々なコスプレ衣装が置いてある。
ほとんどが普通の布地のモノだが、一部は特別製となっており千雨の戦闘服となっているのも理解していた。
「いや、どっちかと言うと紙卸に使えるもんを探してた。っつーか、そうなっちまったと言う方が正しいか」
千雨はポケットから札を取り出して魔力を込める。
そして、一瞬のうちに持っていた服と着ていた服が入れ替わった。
「趣味と仕事が同じになって、仕事のことを考えて趣味が趣味じゃなくなるってどっかのアニメーターとか売れないミュージシャンかよって」
槍を取り出して、構えながらため息を吐く千雨を見ながら、エヴァンジェリンが千雨に近づいていく。
構えている槍の先端に胸から取り出した鉄扇をゆっくりと這わせる。角度を微調整するように槍の向きを変えていった。
「確かに。貴様にしては中途半端になっているな。ふざけた着物の着こなしをしたときは達人のような刀捌きをするくせに、今の構えは素人もいいところだ。槍の使い手を模しているのだろうが、それなら着物のやつで槍を持った方がまだましな動きをするだろう」
完成度の低さを指摘され、苦笑いをする千雨。
それはそうだろう。作品を見た時間も違うし、キャラのことを考えた時間も違う。
二次創作から入って作品を一回通しで見ただけの、ネットミームくらいの理解度しかないキャラと。何回も見返し、設定資料集や考察サイトを何度も往復し、掲示板で幾晩も語り合ったキャラとでは理解度も完成度も変わるだろう。同じキャラクターでも再臨衣装では作品違いのせいか昔の衣装のほうが機能していた。
「私の人形もそういう時期はあった。数百年のうちに飽きもあれば、合わない流行りもあった。別荘にしまってはいるが、そういうものは完成度が低い。だが、時間を置いて引っ張り出してみれば意外と発見もあるものだぞ。悩むがいいさ」
したり顔でふんぞり返るエヴァンジェリンに、少しばかりは貫禄を感じる千雨。
少し考えた後に。そんなこともあるのかと納得することにした。時間を置くといっても自身は十数年しか生きていない小娘だ。それを感じるのはいつになるのかわからない。
それでも、視野を変えるというのは必要だし、時間を置くというのも必要なのだろう。たまには役に立つことを言うなとエヴァンジェリンを少し見直すことにする。
そして、千雨は札を二枚取り出して魔力を込めることにした。
「そうだな。とりあえずは視野を変えてみることにするよ。周りの変化を楽しみながらな」
込められた魔力がエヴァンジェリンと茶々丸を包む。
その後には王冠とマントを羽織ったほぼ裸のビーストなエヴァンジェリンと、オレンジの髪とバイザーを装着し、赤いラインを付けた白いスーツと白いスカーフを付けた、アホ毛をぐるんぐるんと回すTOPをねらえそうな茶々丸の姿があった。