千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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29.5話

 これはこれでよかったのかもしれない。

 なんだかんだ魔法世界の崩壊は鈍化し、その間にも極東の一部からではあるが受け入れの体制が始まっている。

 もともとが火星を基にした世界なのだ。

 カナダやオーストラリア、ロシアなどの現在人が住めていない土地を使えばさらに受け入れるための土壌は整って行くだろう。それに、魔法が少しずつ常識となっていけば、そもそも融和して今の社会に魔法政界の人たちが住めるのかもしれない。

 予想した結果とは違う。

 最高でも最悪でもない別の答えがここにあった。

 でも、それでも私は

 

「ネギ先生が作った世界というのも見たいネ」

 

 もう直ぐ麻帆良学園から消えることになっている『神木・蟠桃』の前でそう呟いた。

 淡い光を放つその木の前で。

 

 

 

 

 

 千雨は今、麻帆良へと来ていた。

 22年に1度の周期でその魔力の蓄積量が最大となり、木を中心とした6箇所に強力な魔力溜まりを形成する。

 その魔力を利用し、『神木・蟠桃』を魔法世界に移す。さらにその魔力だまりが魔法世界に移動することによって少しばかりながら魔力が増え、世界の寿命が延びる。

 それを行うために、別の意味で様々な準備をしていた超の提供したデータを基にして、神木の張り巡らされた根や魔力の流れを観測していく。

 

「よく協力したな。あんなものまで準備してたんだから、何かしらやらかすかもとは思ってたんだが」

「この世界はこの世界の道を歩んでいるネ。ここを今いじってもしょうがないヨ」

 

 既にアンドロイドは別室に移され、鬼神は武具を解体した上で封印されている。

 秘密基地となっていた場所には関係者が入り込んでおり、観測や実行の準備を行っている。

 既に元々超が準備していたものは何もなかった。

 

「私は別に神になりたいわけじゃない。世界がよくなればそれでイイネ」

「その割には条件交渉をしたみたいじゃねえか」

「それはそうネ。別にかき回したい訳ではなくて、自分の世界に帰るだけヨ。ただ、私の知っている過去になってない時点でしっかりと戻れるかはわからないけどネ」

 

 そう言う超は、本来は戦闘用だったのだろう衣装に着替えていた。背中には懐中時計が嵌められており、それが神木の魔力を利用するのに使える魔法具であることは千雨にも伝えられていた。

 

「私はもう居なくなてしまう。その後に渡したのが壊れたら困るから予備を作っておいたヨ。ほら、千雨が持っとくネ」

 

 そういって超の背中にはめ込まれているものと同じ物を渡される千雨。

 それを受け取って適当にしまうと、『神木・蟠桃』を見上げる。

 移転させやすいように浮き根となったその姿を見ながら、麻帆良学園の転換点を感じていた。

 これが終われば、麻帆良が魔法都市である意味はなくなると言っていいだろう。

 魔法使いは残るものの、魔力だまりが無くなるのでは拠点としての価値は下がる。

 その後の麻帆良はどのようになるのだろうか。

 図書館島はいったん封鎖され、一般の図書は周囲の図書館に移送される。

 学部ごとに発展しすぎた学問は、専門家を招聘し少しずつ世界へと広めることになる。

 残るのはゴーヤクレープや不思議自販機の謎ジュースの文化位になるのだろうか。

 

「妨害もなさそうだし、順調に行きそうで何よりだ。わざわざ私が呼ばれたのを除けばな」

「私の世界ではこのようなことはなかった。と、言う事はこの事態を起こしたのは千雨ネ。だったら、節目には立ち会うべきヨ」

「いや、お前の世界がどうとかは知らないし、私の人生は私のもんだからそんなこと言われてもな」

「なら、私の我儘でイイネ。私の“我儘”に付き合ってもらうヨ」

 

 そう言いながら超は千雨を誘うように、神木の根本へと歩いていく。

 それについて行きながら、周りの発光が強くなっているのを千雨は感じていた。

 

「けど、もし私の世界の過去に千雨さんがいたらどうなるのかは気になるネ。是非見て欲しいヨ。それで、どうするのかを見てみたい」

 

 魔法使いから連絡が入り、もうそろそろ移転をさせることになる。

 千雨が超に声をかけ、超の準備が出来ているのを確認した。

 

「ま、そんなことはもうねぇけどな。他のやつらへの挨拶は済ませたのか?

「古にもハカセにも挨拶はしてきたね。サツキも昨日の夜に話をして、権利書もちゃんとしてきたヨ。他の皆も、出来るだけ話してきた。後はもう移動するだけネ」

 

 神木の光に合わせ、超も魔力を展開していく。背中に設置した魔法具が動いていくのも分かった。

 

「サヨナラは言わないよ千雨」

「そうかよ。私は正直、もう会いたくないけどな」

「そう言われるのは傷つくネ……それじゃあ」

 

 急に強く発行する神木。そして超も――

 

「“マタ”ネ。千雨」

 

 この世界からいなくなった。そして、

 

 

 

 

「は?」

 

 長谷川千雨もまた、

 

 

 千雨の目の前に映るのは、麻帆良学園の姿。いつの間にか地上に出てきていた。

 感じるのは違和感。

 様々なコスプレ衣装の人達。

 大きな門がそびえ立ち、空にも様々な気球が浮かんでいる。

 立ち呆けていると、学園内に放送が流れてくる。

 

『只今より、第78回麻帆良祭を開催します!!』

 

 麻帆良祭は今年は中止になったはず。

 そう考える千雨だが、それでも現実では目の前に映っているものは……

 そして、目の前に急に手紙が出現した。

 千雨はめがけて落ちてくるそれを掴んだ。

 乱暴に封を開けて中の紙を開く。

 

-千雨さん。この手紙を読んでいるという事は無事転移が出来たという事で何よりだよ。

 私はどうしても、私の未来を変えたかった。私達の血筋の者で。

 それにあれだけ変えられた世界線では同一世界線へ戻れる保証はなかったからね。

 だから、同一時間軸の並行世界へと戻らせてもらったよ。

 前の世界の“ベル”は鳴らなかった。

 “図書”に書かれるものではなかった。

 けど、この世界での“笛”を鳴らすのはどちらかを決めようではないか。

 千雨さんに渡した懐中時計は往復切符になっている。

 私の目論見を阻止した暁には元の世界に戻れるようになっている。

 “2次”として、戦いの続きを描いてくれると嬉しいよ。  超より―

 

 

 

 

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