状況をわずかばかりに理解した千雨は、即座に携帯を取り出して電源を切ってバッテリーを外す。
そして、辺りを見回して不自然にならないように物陰に隠れた。
どういう事か、それは分かる。超がやらかしたんだ。何を?転移を。どこに?
見える景色は見慣れたものではあるが、今見えていてはいけないものでもあった。
では、これは何なのだろうか。
超は自分の世界に帰るといっていた。では、これは100年後の世界なのだろうか。
しかし、それも違うというのがわかる。
100年後というには似すぎている姿は、紛れもなく『今』であることが分かった。
それならば、手紙の通り並行世界という事だろう。
並行世界というのは、どういうことか。
先ほどまで話していた超がいる世界ではないとすれば、また別の超がいるという事だろうか。超は『見たい』と言っていたのに、いないということはあるのだろうか。
同一存在が同一世界に存在できているのか。
様々な思考を巡らせる千雨だが、ずっと同じ場所にいるわけにもいかない。
周囲を警戒しながらも、不自然にならないように移動する千雨。
「チッ……仕方ねぇか」
今何を言ったとしても、状況が変わるわけではない。
悪態を吐きつつも移動を始める千雨。
目指す場所は決まっていた。千雨自身が数少ない、昨年度も出演したイベントがあった場所である。
少し遠いため歩きながらも眼鏡をはずして、結んでいた髪を解いておく。
幸い制服ではないため、仮にクラスメイトに会ったとしてもバレることはないだろう。きっとこちらの世界でもクラスでも、静かに隅の方で目立たないようにしているだろうという自身への信頼を寄せていた。
そのまま迷うこともなく目指した先には、会場が今年も出来上がっていた。
『麻帆良祭㊙コスプレコンテスト』
ここでは、様々な格好をしていた道行く人々にも負けず劣らず、さらに濃い恰好をしようとしている人達が集まっていた。
「ここなら、準備くらいは出来るだろう」
受付に向かい申請をして時間貸しの個室を借りる。
案内されるままに部屋の中に入ると、一応監視カメラの類を確認し一息ついた。
「諭吉で払ったけど、あれも同じ番号のが2枚存在することになるのかね?」
まぁいいか。と今の自分には関係ないことを無視し、自身の持ち物のチェックをしていく。
そもそも今日の用事が『神木・蟠桃』の移転であり、非常時や一部過激派の襲撃に備えてほぼ完全武装の用意をしてきている。
倉庫からものを移動させる転移符は別次元の世界のため使えないだろう。札に圧縮しているタイプは持ってきているので大丈夫なようだ。
このかに込めてもらっていた魔力カートリッジを無限使用という事は出来ないが、衣装の類はほとんど使用できるようだ。
とりあえず、出来るだけすぐに反応できるようなキャラでありつつ、自分とかけ離れたキャラを選ぶ必要があった。
(なりきるってことは、思考も寄っちまうからすぐに着替えちまうと不都合がおきるな)
ピンク色の上下ジャージとギターを用意したところで、思考の偏りや実際の筋力は変わらずとも意識下の力のセーブを考えるとありえない選択だと除外する。目立たないという事は役立つだろうが、戦闘になった際には即座にやられるだろう。
ある程度思考は回るけど、千雨と判断できない性格と表情の即座にあらゆることにも判断できる人物。
別に千雨の戦闘手段は一つだけではない。普通に関西の持っている呪術を学んでいるし、それに対応した正攻法もできるし、小太郎とのタッグを組んでの戦闘もできる。しかしそれをしてしまうと、超とは別に警備中の魔法使い達に見つかり、余計な手間と危険が増える。
そのため、ただ単純な肉弾戦の戦力を強化しなければいけなかった。その上、きっと超は千雨のHPを確認しているだろうから、以前したコスプレの場合バレる可能性がある。
今手持ちで持っていて、なおかつ肉弾戦オンリーの状態で超が用意しているアンドロイドや鬼神と戦えるものじゃないといけない。その上で非公開で準備していて千雨と一見似ていないけど、底でなにかしら千雨が共感できそうなキャラ。
「意外と気に入ったものの、こいつ着たことはなかったな。長物持ってても不思議じゃないしこいつにするか」
仕込みとして、厚めの化粧をしつつその奥に回復用の仕掛けを挟みキャラとしての顔を作っていく。
大きな猫耳のようなカチューシャに赤いリボン。裏地を赤、黒を基調としたゴスロリと呼べるような服。これがエムロイの使徒としての正装となる。そして、大きなハルバード。さすがに本物の重量には作っていないが、その代わりに魔法的な仕込みをしているために杖の代わりにもなるものだ。本来ならば布地の手甲は同素材の肘までのグローブにして、その下の指には魔法発動媒体の指輪をはめておく。
そしてガーターベルトを着けて赤いブーツを履く。
「これでいいか。んふふ。あなたばかぁ?お嬢さん?……っと、これでいいか」
一旦キャラの真似をして、ある程度満足をしたのか散らかしたものを片付けていく。
直後戦闘になるわけではないので、まだ降ろしはせずに自分の自我のまま過ごすことにした。
外に出るコスプレの衣装としては少しばかり恥ずかしいものの、表情には出さずに個室から外に出る。
そのまま会場内を歩き、施設に併設されているパソコンを見つけた。
こちらの自分の動向を探るため、ちうのHPにアクセスした。
そうするとやはりこのコンテストに参加するつもりのようで、思わせぶりな返事をファンのコメントへ返していた。
そしてそのまま過去ログを探り、修学旅行からこれまでのことを探った。
この世界の千雨は魔法を知らずに過ごしているらしい。そして、その中で非常識をHPへ愚痴として訴えていた。書いてあることは、自身がブログにあげていた文章とさほど変わるものではなかったため、実際クラスでネギが、他のクラスメイトがどんなことをしているのかが理解できた。
やはり朝倉は同じような行動をとっているらしい。
千鶴がやんちゃな犬を育て始めたという記事を読み、女子寮に転がり込む男の子が増えたとも書かれていたため気にはなったものの、まさかなと考えを放棄して他の記事を読んでいく。
あらかた動向がわかった後にこちらの千雨と出会うのを防ぐため、千雨は会場を後にすることにした。
長物を構えたまま、自然と喧騒の中に紛れ溶け込もうとする。
「お嬢さん、ちょっとお時間よろしいですか?」
そこに声をかけてくるものがいた。聞き覚えのない声である。
ある程度気は張っていたのに気がつかなかったことに内心舌打ちをする千雨。
適当にあしらってどこかに隠れようと後ろを振り向くと、そこにはローブを着こみ、それについているフードを被った男性がいた。大部分が隠れ、陰になっている中で僅かばかり見えるその人物は。
「アル――」
「クウネル・サンダース、そうお呼び下さい。少しお茶でもいかがですか?お嬢さん」
活動報告に今後の予定と、今作の経緯等載せております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=316193&uid=9491
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