千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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32話

「どうするのか。だって?」

 

 差し出された紅茶を一口含み、アルの様子を伺う。

 薄く微笑んだ彼からは何も読み取ることはできなかった。

 

「お前も見てたんだろ?こんなもんを渡されたのを」

 

 そういって千雨は、持っていた超の手紙を取り出して机の上に滑らせる。

 彼はそれを受け取ると中身を開いた。

 ゆっくりと読んでいる様子を尻目に、棚に置かれているフルーツをとって食べることにした。

 

「私はいわゆる次元漂流者ってやつだ。勝手につれてこられて勝手にやること決められて、帰る手段も教えてもらっちゃいるがそれが真実かだなんてわからない。それで、何をするのかって言われても帰らせろとしか言えない」

「懐中時計というのは今もお持ちで?」

 

 アルに聞かれた千雨は、懐中時計を取り出すと彼へと放り投げた。

 それには幾重にも札が張られている。

 

「本当は何が仕込まれているのかわからないから、すぐにでも放り投げたいんだ。けど、本当にそれが帰る手段なのだとしたら手放すわけにもいかない。それの中身が理解できて、本当に帰る手段なのなら何もせずに帰ってやるから教えてくれよ」

「ふむ……、失礼しますよ」

 

 懐中時計を宙に浮かせて、くるくると回しながら眺めるアル。

 ひとりでに中で何かが動いているのが、カチカチとなる音でわかる。

 何度か角度を変え、光らせ、中を動かした後にゆっくりと降りてくるのを受け取ってテーブルに置く。

 

「まず結論を申しましょう。私……おそらく学園にいる魔法使いはこちらを完全に理解することはできないでしょう。もしかしたら魔法世界にもいないかもしれません。

 その理由はこちらが科学と魔法のハイブリッドという点があげられます。

 科学が現代科学--麻帆良やほかの魔法使いの科学力も含めてですが、こちらの知っている知識を圧倒的に上回っているために理解ができません。そして、そちらが理解できないと魔法との親和性や関連性がわからないので、何が起きるのかがわからないのです。

 言えることは、あなたの状況をみるに並行世界や多元世界に移動できる能力を有していること。こちらを作成した時代、もしくは作成できる知識を有した未来から我々の時代へタイムスリップができるということですね。また、そのうえで理解できる範囲では、こちらは特殊環境下でしか動かせることができないだろうということです。あなたがこちらに来た際にはなにか特別なことはありませんでしたか?」

 

 そう問いかけられた千雨は、眉間に皺を寄せながら答える。

 

「私がいた世界では、あのドでかい世界樹を魔法世界に移そうとしていた。あれの発光時期に合わせてその魔力を利用してな。それに合わせてあいつ……超をもとの世界に返そうとしていたんだ」

「では、そのどちらかが原因でしょう。こちらでは移転の予定はありませんから、余剰魔力の利用がトリガーとみていいでしょう。あなたが今回の麻帆良祭に現れた理由にもなります」

 

 アルは軽く持ち上げた指を振ると、目の前にデフォルメされた2本の世界樹が現れる。

 片方の世界樹にさらに超と千雨が映し出された。

 

「こちらがあなたの世界の世界樹。隣が私たちの世界のものになります」

 

 そう言うと映し出された二人を間に移動させる。

 千雨がいた世界の世界樹が光りだして、上下が逆になると同時に千雨が移動し隣の世界樹へと移動した。

 

「こうして発光時の力を利用し、場所の転移と時空の転移を行ったということですね。そしてそれのカギとなるのが懐中時計を模したこの魔道具。こちらは何個あったのですか?」

「魔法世界に移すために1個、超が帰るために1個。そして予備で私がもっていた1個で合計3個だ」

「では、少なくとも同時に3つの事象を同時に行う魔力はあるということですね」

「どうだろうな。私がここにいるのは事実だが、神木の移転が成されたかは確認できない上に超がどこにいるのかわからない。手紙をもらっちゃいるが、あっちからの手紙なのかこの世界からの手紙なのかわからない以上必要魔力は世界樹1本以下なのはわかるが3つ同時にできるかも分からねぇ」

 

 千雨の言葉に反応して、目の前の映像が巻き戻り世界樹の横にMPと書かれたバーが現れる。

 

「確かに、他の事象を確認できていない以上同時消費量はわかりません。それに、発光現象は余剰魔力が漏れることによって発生しておりますので、大発光が起きる際には流入量……回復量もある程度あることも考えると時間差での発生もありうるということですね」

 

 世界樹の隣のバーが半以上減ってデフォルメ千雨がもう片方へ移動する。

 そして、バーが少しずつ回復して満タン近くまで溜まるとすべて消費され、今度は超の姿が消える。

 超の消えた場所には『wanted‼』と書かれた指名手配の紙が映し出された。

 

「しかし、これ以上は憶測にしかなりません。それを踏まえて貴女はどうするつもりなんでしょうか」

「まぁ、超にもこっちの関係者にもばれないようにしながら大発光時にしれっと戻れれば一番だと思っている。問題は、こいつをどうやって使うのかを調べなくちゃいけないってことだな。手紙には目論見を阻止しろって書かれちゃいるが、こちらの超とあちらの超どちらが仕掛けてるものかもわからない以上下手すりゃこちらの学園の連中巻き込んでドンパチ始まっちまうし……」

 

 いったん言葉を止めてアルを睨みつける千雨。

 

「見つかっちゃいけないやつに見つからないように隠れてなくちゃいけないと思ってたんだがなぁ」

「そうですか。それは気を付けないといけませんね」

 

 そういってティーカップをゆっくりと持ち上げて中身を口に含み嚥下するアル。

 それに対し舌打ちをしながら腕を組んで背もたれに寄りかかり、足を組んで大きなため息をついた。

 

「そんなんだから、そいつを調べるのに注力するからここ貸してくれよ。どうせ監視するんだろ?あんたに見つかった時点で超の動きを私が止めることは出来ないんだからよ」

「どうして出来ないんです?」

「どうしてって?お前はネギ先生の活躍を見たいんだろ?それなら、その機会を失うことになったりイレギュラーが起きることを嫌うはずだ。どうせ私が何をしても最後に調整のために妨害しにくるんだろ」

 

 千雨の言葉を聞いたアルは一瞬きょとんとすると、手をポンと叩いて唇の端を吊り上げた。

 

「なるほど、そういうことですか。そういった誤解をされているのですね」

 

 そう言うとアルはテーブルに置いてあった懐中時計を浮かばせて自分の手元にもってくる。

 

「妨害をするのであれば、こちらを没収し監禁したほうが確実です。別にあなたの希望を聞く必要もありませんからね。あなたが元の世界に帰れなかったとしても、私たちには何の不都合もありませんから」

 

 懐中時計の周りに張り付けられた札がペリペリと剝がされ、姿が完全に見えるようになる。

 そしてそのまま、アルの手元まで運ばれた。

 

「そしてネギ君の活躍にイレギュラーが発生してしまうのなら、確かに妨害をしなければ気が済まない人たちはいらっしゃいますね。お年寄りの方々は沸点が低くなってきてしまっておりますので」

 

 映していた世界樹を消して、テーブルから長い後頭部が生え、蝙蝠の羽が生えた有名な猫の人形が現れる。

 

「自分のシナリオ、自分の希望、期待が反映されていなければ介入してひっくり返す。確かにネギ君を……いえ、英雄を育てる環境ではそういったことはあり得ます。あなたの知らない、こちらの京都では両面宿儺を倒したのは土壇場で現れたキティでした。」

 

 猫の人形が動き出して飛び上がり、くるっと1回転するとゴシックロリータの衣装となって腕を前に出す。

 するとその先に大きな氷の映像が出現した。

 

「そして、今回も超さんが予想外の行動をしようとすれば介入があるでしょう。しかし」

 

 アルが眼前で指を鳴らすと、人形の姿が猫耳スク水眼鏡セーラー服(ニーソ装備)となり、後頭部は大きな金槌に叩かれて埋まってしまった。

 

「それは彼ではなく、ナギでもなく、立派な魔法使いというフィルターを通した偶像を欲する方々の戯言です。私はそれよりより面白く、より彼らしく、あえて言うのならば私好みにさえ育っていただければ満足ですのであなたの妨害はしませんよ。今回お呼びしたのは本当に興味本位での行動です。貴女は非常に面白そうでしたので」

 

 そう語る彼の様子を訝しげに見ていた千雨。その表情を見て心外なと肩をすくめる。

 

「疑わしいという様子ですね、それならこうしましょう。この懐中時計の解明は私がいたしましょう。寝床もこちらを提供いたします」

「それでそっちに何のメリットがあるんだ?タダで協力してくれるわけじゃねえだろう?」

「別に見返りを求めているわけではないのですが。その方が私が楽し……いえ、ネギ君の成長につながると考えてのことですので。貴女の希望通りに進んだとしてこちらに被害があるわけでもないですし。しかし、何かを要求したほうが貴女の信用を得られるようならこうしましょう」

 

 そうして一枚の紙を取り出した。

 

 

 

 

「あー、すまねぇ。このさらしを巻くの手伝ってくれないか?憎しみを込めて潰すくらいの強さで」

「かまいませんが、魔法で誤魔化せばいいのではありませんか?」

「いえ、これは実際にかなり強めに胸をつぶさないと効果が出なくてですね」

 

 千雨は改めて別人になるべく、コスプレをしていた。

 ノースリーブではあるが、古風な和装の生地を使った道着。上下が分かれており、ズボンは中国拳法の服のように足元は閉じてあり、掴めないようになっている。

 頭には小さな二本の角を付け、髪は赤色に染められていた。

 腰には剣を模した木刀を指している。

 特徴的な角、鉢金と古風な衣装。それに意図的に作られた小隆起。

 

「あー……では、これでよろしいでしょうか、クウネルさん」

「はい。ではいきましょうか、会場へ」

 

 アルに頼まれたのはとある武道大会への参加。

 最初は態々顔を出すのに渋っていたものの、元々身元不明のクウネルとともに二人組で行くこと。

 そして、移動時から“紙卸し”をすることで身元を隠すこと条件に渋々と参加することになった。

 それと引き換えに、アルの助力を得るメリットの方が大きいと踏んだのだ。

 

「あぁ、こういう取引を覚えてしまうのは美神さんに染められてしまったのでしょうか」

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