千雨降り千草萌ゆる   作:感満

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33話

 フードを被った顔の見えない人物と、角を生やした和装の女性は会場へと向かう。

 電車に乗って向かう道中、少しずつ厳つい姿恰好をした者達の姿が見え始める。

 

「なるほど。一ヶ所に武道家達を集めているのがかの者たちだと」

「ええ。何やら面白そうですので、私も学園祭を楽しみたいと思いまして」

 

 目的地へと揺られながら、二人が内緒話をするように体を寄せて小声で話す。

 

「本来なら直接あちらに向かえばいいのですが、貴女は移動するのに極力力を使いたくないのでしょう?」

「そうですね。どこで何を察知されているのかわからないので札も“超加速”も安易に使うのは憚られます。足で普通に歩くのが一番自然ですので。それでもわざわざあちら側へ出向くので意味はないかもしれませんが」

 

 そうは言いつつも、出来るだけ情報は出したくないとする千雨。

 超にはバレるかもしれないが、魔法先生たちにはバレていないと思いたい。

 アルが得た情報では、超が武道大会を買収したらしい。そして、それがネギにとって所縁のあるものという事だ。それに乗じて仕込みをネギに渡したい。

 それを千雨にも手伝ってほしいという事だ。

 千雨としては、手伝いたくもなければ顔も出したくはなかったが、アルを手伝った後のメリットとこちらからの情報収集の機会を助っ人が隣にいる状態でできるという事もあり、プラスマイナスを考えるとメリットが大きいと踏んだのだ。

 そもそも、現状千雨の姿で外に出ているわけではないので、何かが起こった際も『あちらの世界の超』以外はすぐに千雨だとわからないだろう。

 

 その後は電車内も混んできたため、話すこともなく目的地へと向かう。

 目的地、龍宮神社に着くと『まほら武道会』と書かれた看板が置かれており、奥の方にある窓口で二人して受付を済ませる。特に身分証の類の提出を求められることもなく予選のブロックが書かれた紙を渡された。

 左右を見渡せば、有象無象の武道家の中にちらほらと魔法関係者やそれに類する実力を持った者達の姿が見える。

 そして、そのうちの何名かは千雨に対して視線を送ってきていた。

 少し気にはなったものの、個人を特定してくるような視線ではなかったためやり過ごす。

 館内放送で入場指示があり、ブロックに向かうためアルとは別れ目的地へと向かう千雨。

 人混みを分け、下に敷かれた糸の包囲を避けつつもAブロックへ向かう。

 

「ようこそ!!麻帆良生徒及び、学生及び部外者の皆様!復活した『まほら武道会』へ!!」

 

 会場内は8つの予選用会場が用意されており、境内の一段上に目立つように朝倉が立ちマイクを握っていた。

 

「どっちにしろ、朝倉は“こっち側”に来てんじゃねえか」

 

 扮していることも忘れ、そう千雨がぼやく間にも案内が続いていく。

 

「優勝賞金1千万円!伝統ある大会優勝の栄誉とこの賞金、見事その手に掴んでください!」

 

 煽りと賞金金額にどよめく場内。そこに主催者として紹介されて現れる人物。

 

「学園人気NO.1屋台「超包子」オーナー 超鈴音!」

 

 両手を眼前で組み挨拶をする超。それに2-Aの面々は動揺を隠せていない。その他にも超を知らない部外者が騒めき、隣の者と話し始めた。

 その静まりを待たずに、超は言葉を続ける。

 

「私が、この大会を買収して復活させた理由はただ一つネ。表の世界裏の世界を問わず、この学園の最強を見たい。それだけネ」

 

 その後は、過去の大会の説明に、飛び道具及び刃物の使用禁止。それに『呪文詠唱の禁止』を明言した。

 表だ裏だのルールがどうだの、一部の人間以外はそんなことを気にすることもなく盛り上がる。

 しかし、その一部の人間は超の発言に違和感と策謀を感じつつも何もできずに事態を見守った。

 そして、彼らはネギを中心として集まって話し始めている。千雨はその様子を横目で見ながらも最初に陣取ったAブロックの会場へと一足早く壇上に上がった。

 

「ああ、ひとつ言い忘れてるコトがあったネ」

 

 超が退室時、わざとらしく漏らした言葉に皆が聞き耳を立てた。

 

「この大会が形骸化する前実質上最後の大会となった25年前の優勝者は、学園にふらりと現れた異国の子供、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の少年だった。この名前に聞き覚えのあるものは……頑張るとイイネ」

 

 その言葉を聞いて、一瞬ネギを見た後にアルを探す。

 きっと彼は超の言動を見たいなどというのではなく、超がこの大会を買収してネギに仕掛けたことを知った。そしてそれを使ってネギに何かしらをしようとしているのだろう。

 そもそも25年前の時点で麻帆良の部外者が優勝者になっているので、この大会に意味はあるのか?とも思ったが、壇上のメンバーが増えてきたのを見て意識を切り替える。

 魔力を込めやすい木刀を手にしながらも、周りを見て加減の強弱を見繕って行く。

 麻帆良の生徒たちは、様々な体躯をし、様々な道着を羽織っている。マンモス校である分武道と称したものも多いのだろう。中には完全に喧嘩殺法を得意としてそうなものもいた。しかしそれは形だけで、千雨から見て使い手と言えそうなものはいなかった。

 各ブロックでは、うまいことネギの知人が2人組で組まれていた。そして、千雨のいるブロックには2-A関係者は一人もいなかった。そのことに気が付き、後ろに控えた超に視線を送るが超はこちらを見てはいなかった。

 偶然なのか、意図的なのかわからない。それに、そもそも千雨のことをこちらの超が認識しているのか。そして、あそこにいる超は本当にこちらの超なのか。

 

「では、20名揃いましたのでAブロック始めてください!」

 

 気が付くと、既に20名がそろいブロックの予選が始まった。千雨は気を入れ直して改めてしっかりと“卸す”。

 極力戦いには加わらずに乱戦の中に紛れていると、時々拳が飛んでくる。それをいなし、他の選手へと押し付けながら辺りを見回す。

 

「脅威になる方はいらっしゃいませんね。しいて言うのなら」

「行きますわよ!」

 

 周囲の人々を腕力で強引に吹き飛ばしている女生徒くらいか。

 名前は知っているものの特に会話をしたこともないが、麻帆良の魔法生徒だという事くらいしか情報がなかった。

 それでも、かなり傾倒した思考の持ち主であったことは覚えており、この大会にでるような人物ではないはずだと首をかしげる。

 筋はかなり良く、しかし思考が一辺倒なところはどこぞの女学院の生徒たちを彷彿とさせた。

 確か彼女にはパートナーがいたはずだとあたりを見回すと、箒を振り回している姿を捉えることが出来た。

 戦っているというよりは、もう一人が吹き飛ばした人たちを軟着陸させるために地面に衝突する直前に風を起こしているようだ。

 20名というバトルロワイアルでは多いとも少ないとも言えない人数のためか、最初の乱戦と二人の魔法生徒の活躍によって、すぐに残りの人数は3人となる。

 魔法生徒二人と、千雨である。

 お互いがお互いを認識すると、距離を測りながら構えを取る。

 

「後はあなただけのようですね」

「そのようですね。あなた方はお二人でよろしいでしょうか」

「ええ。私、高音・D・グッドマンとそのパートナーである愛衣がお相手させていただきます」

 

 グッドマンの後ろでメイが軽く首だけで頭を下げる。そして手に持っていた箒をひと回転させた。

 すると、周囲に風が発生して舞台上で倒れている面々が外へと送り出された。

 

「よろしい。では、お二人とも同時に相手にいたしましょう。かかってきなさい」

 

 そういって千雨は木刀を正面に構え両手で握った。

 グッドマンは両手脚に影を纏うと千雨に向かって助走をつけ、大きく振りかぶった拳をさらしによってつぶされた小さな胸めがけて放った。

 千雨はそれを木刀の腹で受け、滑らせるように大きな胸めがけて打ち返す。それをグッドマンは影を移動させることによってガードした。

 そして、お互いの交錯が終わったタイミングでグッドマンは一歩大きく飛びのき、そこに見えない風の矢が幾重にも重なって襲い掛かる。

 千雨はその中でぶつかりそうなものを選びながら木刀で打ち落とし、避けられるものは最小限の動きで避けていった。

 矢の打ち止めを確認すると、また千雨は正眼で二人に対し構え直した。

 

「なかなかやりますね」

「貴方も、年齢の割には素晴らしい腕前です。本山へとやってきた方々には劣りますが、努力すれば追いつけることもあるでしょう」

「それはほめていただいていると思っていいのでしょうか」

「ええ。それはもちろん」

 

 話しながらも、お互いに距離を測る。そうしながら千雨は周囲を見回す。

 まだ他のブロックで注目選手たちが戦っているためか、こちらの戦いを見ているのは少数であった。

 

「おっとー!?Aブロックも残り3人の模様!2対1だがどうなるのか!」

 

 図ったかのようなタイミングで朝倉の実況が場内に響き渡る。

 すると、既に終わったブロックを見ていた人々がAブロックに注目する。

 その中には既に予選を終えた高畑や楓も含まれていた。

 注目されたことに触発されたのか、グッドマンが肉薄する。

 足元から生えた影が千雨を貫かんと迫り、それを追うように本体であるグッドマンの攻撃が続く。

 その後ろでは口をかすかに動かしながら箒を掲げている愛衣がいた。詠唱が禁止なので、実際に口にしてはいないが大きい一発の準備をしていることは明白だった。

 グッドマンは手数を多く千雨を圧倒しようと猛攻を仕掛けてくる。

 

「なるほど、思い切りもいいですね。ですが……」

 

 それは結果として悪手であった。

 手数を多く面で圧倒しようとしたグッドマン。その結果、一撃一撃は先ほどの攻撃よりも雑なものとなってしまう。

 その隙を千雨は見逃さなかった。

 木刀で絡めるようにグッドマンの腕を取り、地面に叩きつける。

 先ほどは打撃を影で受け止めたグッドマンだが、今回は自分の力。その慣性を曲げられて倒された。

 解説者がいればこう答えていただろう。「これは合気の流派のものだ」と。

 

「少し、急ぎましたね」

 

 瞬時には立ち上がれないグッドマン。彼女を置き去りに、千雨は愛衣の下へと一足で襲い掛かる。

 愛衣はそれに気づきながらも、グッドマンが倒されたが故の動揺と、詠唱破棄をできない状況下に動くことが出来ない。

 

「そしてあなたも、隙ができるのであればそれを何とかする術を磨くべきです。彼女に頼り切りにならずにね」

 

 千雨は足の裏で押すようにして愛衣の腹部に蹴りを入れた。その際に、掠るように当たった胸部に苛立ちを覚え、想定より少しばかり重い一撃が襲い掛かる。

 愛衣は舞台から押し出され、場外の地面でバウンドを何回かした上に反対側の舞台の基礎にぶつかって止まった。

 後ろからはグッドマンの愛衣を心配する声が響き渡る。

 

「あ……、すみません。大丈夫でしたか?」

 

 起き上がれず、咳き込む愛衣に舞台上で声をかける千雨。

 遠くでは、その様子をエヴァが面白いものを見つけたかのように微笑みながら見つめている。

 

「Aグループ決着!出場選手は高音・D・グッドマン選手とナイト・テイカー選手です!」

 

 結果が場内に響き渡ると同時に、千雨は舞台を降りて愛衣の下へと駆けよる。

 

「すみません、少し強く入ってしまいました。大丈夫でしたか?」

「ケホッ……大丈夫です。ナイトさん」

 

 千雨の差し出した手を愛衣が受け取り、咳き込みながらもゆっくりと立ち上がる。

 後ろからはグッドマンも駆け寄って来ており、愛衣の後ろに回ると背中を擦る。

 

「今回は私達の負けですが、まだ一対一では決着はついておりません。できれば本戦で決着をつけましょう」

「ええ、お相手いたします」

 

 グッドマンの差し出してきた手を、千雨はしっかりと握り返す。

 そんな中周囲では、他のグループの結果が響き渡り、本戦出場の16名が決まるのだった。

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