追憶
この世界には『神器』と呼ばれる力がある。その力は一部の人間に宿るもので、魔法のような力を与えるものらしい。
そんな特別な力を与えられれば、自分が選ばれた存在だと錯覚してしまいそうになる。けれど、現実は、違った。
俺は『神器』の発現で、恐れられて、家族から捨てられたのだから。
今でも覚えている。両親は顔を真っ青にし、殺人鬼にでも直面したかのように震えていた。そして、数日後には、京都に住む遠い親戚の元へと追いやるように預けられたのだから。
両親に捨てられた。その事実は、当時小学二年生だった俺には、酷く辛いものだった。
預けられた親戚も表面では、歓迎をしているように振る舞っていたが、裏では俺を押し付けられた事実に、ずっと愚痴をこぼしていた。
俺は、それに気づいていたし、親から捨てられたショックもあり、親戚の人たちとの距離を縮めようとは思わなかった。そんな俺の態度に、親戚たちは次第に素っ気なくなっていった。
俺には、居場所はなかった。
それだけじゃない。
コントロールの出来ない『神器』の力は、他人との関わることに恐怖を抱かせた。いつ発動するか分からない。発動してしまえば、誰かを怖がらせてしまうかもしれない。そして、俺の周囲からは離れていってしまうだろう。
だから、人との関わりはなるべく少なくなるように、ひっそりと生きてきた。
そんな日々が、一年ほど過ぎたある日だった。俺のことを救ってくれたあの人と出会ったのは。
『神器』のことも、そして、妖怪に悪魔や天使が実在すること、色々なことを教えてくれた。それだけじゃない。『神器』のコントロールにも協力してくれた。あの人のおかげで、自分の力に恐れる日々を過ごす必要はなくなった。
ただ、あの人は、悪魔から追われていた。妹を守るために、自らの主を殺してしまったらしい。もしも捕まれば、殺されてしまうだろうと言っていた。生きるために何とか悪魔の住む世界から、人間の住む世界へ、そして、妖怪たちに匿ってもらおうと京都へ逃げてきたということだった。
そんな話を聞かされた時は、驚いた。けれど、嘘ではないのだろうと思えた。ましてや、会って間もない子どもの俺に嘘をつく理由がなかった。
重い罪があったとしても、そんなことは気にならなかった。そんなことよりも、あの人との日々は楽しいものだったから。
あの人の存在で、俺の人生は変わった。妖怪たちに会えたこともその一つだ。これまでの色褪せた日々が嘘のようだった。それもこれもあの人が俺を受け入れてくれたからだ。
けれど、あの人と出会って二年近く過ぎようとした時に、追っ手の悪魔たちがやって来た。それをきっかけに楽しかった日々は簡単に崩れた。
『神器』の力で、あの人を助けられるのではと思った。けれど、悪魔たちの殺気を受けてしま
い、それだけで何も出来なくなった。怖かった。本当に殺されるのだと思った。
その時に、助けてくれたのもあの人だった。俺のことを置いて、一人なら楽に逃げられたかもしれないのに、必死に複数の悪魔たちから俺を守ってくれた。
そして、その悪魔たちをあの人は、一人で始末してしまった。たくさんの血を流しながら。俺
は、ただ震えていることしか出来なかった。無力だった。
そして、自分の居場所が割れた以上、もうこの場所にはいられないと、あの人は言った。俺に、そして妖怪たちにも迷惑がかかることになるからと、一人で去って行ってしまった。
その後、俺はひたすら泣いた。
俺が戦えれば、強ければ守ることが出来たかもしれない。あの人と一緒にいられたのに、と自分の無力さを嘆いた。両親に捨てられた時よりも悲しんだと思う。その日から一周間近く落ち込んだ。
辛かった。けれど、もう一度会いたい気持ちが湧き上がってきた。だから、そのためにも、強くなる必要があると思った。悪魔たちが来ても、勝てるだけの力が。そして、あの人の罪も何とかしてあげたい。そうすれば、誰からも追われずに、楽しかった日々を過ごせる筈だと。
いつか、あの人を助けるために。再び楽しかった日々を取り戻すために。そのための力を得るために、俺は妖怪たちに師事して、鍛えてもらったのだから。
そして今、俺は手掛かりときっかけを求めて、人間界で魔王の妹が管理しているという駒王という地へとやって来た。
そこには、悪魔たちが通学しているという駒王学園があるらしい。魔王の妹も通学しているそうだ。
そして、俺はその駒王学園へと転入する。
あの日、あの人を助けたい。そして、恩に報いたいと願った気持ちは、今も変わらないのだから。