異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
冒険者ギルドの建物の前。現在、僕はそこでモーブとかいう冒険者と向かい合っていた。
「へっ、今更泣いても腕の一本や二本じゃ許してなんざやらねぇからな」
モーブが長剣を持ちながら僕を相手に凄みを利かせる。周りの人達曰く依頼の打ち上げをやっていたらしい。そのためか、武器はともかく防具は装備していなかったため普通の服のままのようだ。
一人で打ち上げ……ボッチなのか、可哀想に。
「はぁ……なんでギルド登録に来ただけでこんなのに絡まれないといけないんだか……」
見た目は完全に幼女の僕と、いい歳したおっさんが向かい合っている状況に、何事かと距離を取りつつも街の住人が野次馬として群がっている。
「さて嬢ちゃん、さんざん俺をコケにしてくれたんだ。1つ賭けをしねぇか?」
「しましたっけか? まあいいです。賭けって何するんですか?」
全く、言いがかりをつけられた上に賭け事をやらされる羽目になるなんて……やれやれだよ。いや、煽ってるのは自覚してるよ? それにこういう時の賭けって中々にテンプレじゃん? やるしか無いでしょ。さっきのは言いたかっただけだから。
「もしもお前が俺に勝ったら、このマジックアイテムの剣と俺の全財産をくれてやる。その代わり俺が勝ったらお前は俺の奴隷になる、どうだ? お前が勝つ自信があるってんなら悪い条件じゃないだろう?」
周囲の野次馬からロリコ〜ン、ペド野郎と声が上がる。僕の年齢だと、正確にはアリス・コンプレックスらしいよ。僕も最近初めて知ったんだけどね。
「うるせぇ! そもそもこいつが受けなけりゃいいだけの話だろうが!」
「いいですよ? 別に。こんな酔っ払いに負けるつもりはないですし。さあ、とっととやっちゃいましょうよ」
賭け事の内容が、ショボイ物ならやる気なんて起きていなかったが、お金とマジックアイテムという物に目が眩んだ僕は、あっさりその賭けの内容を飲んでしまった。あいつ今奴隷とか言ってたような気がするんだけど……これ負けたらヤバイね、うん、本気で勝ちにいこう。
「小娘ぇぇ馬鹿にしやがってぇぇ……いくぞおらぁぁぁ!」
いらついた様子で己の長剣を抜き斬りかかってくる。
Dランクと出ていたのに繰り出された一撃は、剣閃がはっきりと見え、たやすく躱す事かできた。あれ? 弱くない? ああ、酔ってるからか。
「♪ 〜♪♪ 〜♪ 〜」
もう安心しきって鼻歌混じりに攻撃を躱していると、モーブがキレた。そして相変わらずの怒鳴り声で叫んでくる。
「小娘ぇぇ! ふざけてんじゃねぇぇぇ!!」
「確かにそうですね。鼻歌を歌ってるのも飽きてきました」
今まで歌っていた鼻歌をやめ、一転真面目な表情をして僕は言う。
「じゃあこっちからも攻撃しますか。はぁぁぁっ!」
そう言って僕は、火魔法の《ボム》を使いスピードと威力をブーストし、カウンター気味にハンマーを振りあげる。
草原でウルフと戦っている時に判明したのだが、この身体では振り下ろし以外のハンマーでの攻撃はロクなダメージにならないみたいなのだ。これはその問題をどうにかできないかと思って開発した戦法である。制御が利き辛い事を無視すれば、結構使い勝手がいい方法である。将来的には制御出来るようにしたい
それは置いといて。
振りあげたハンマーは身長差のせいで、向かう場所が下がり……モーブの大切な部分へと迫った。そして、ズドムッ という音と共に深くめり込む。ブチっと何かが潰れる音と共に、ハンマーの勢いでモーブは30cm程打ち上げられ……
「がふっ!」
べしゃっ、とでも表現出来そうな音を立てて地面に倒れ込み、気絶したのか起きてくる事は無かった。ピクピク痙攣はしているみたいだが。
そんな様子を見た周りのにいた野次馬の人達は静まり返り、その中でも男たちはほぼ一斉に自分の大切な息子があるあたりを押さえた。
「あ、やばっ、痛そう。やり過ぎたね、これ」
この状況を作り出した僕はなんかやり過ぎた感が凄かった。合掌をしておく。地球にいた時の僕だったら、確実に死ねるけど……うん、まあ、死にはしないでしょう。異世界だし。
御冥福をお祈りします。