異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
氷室先輩が熊本先輩とか言ってる場合じゃない。
走ってきてる人の背後から迫ってる魔物を迎え撃つ構えになっているレーナさんとリュートさん、その後ろで一応杖を持って回復魔法を使う準備をしてる私。なんで1階層に入ってほとんど経ってないのにこんな事になってるんだろう?
「魔物は僕達が引き受けます! 後ろの子に回復してもらって下さい!」
私がそんな事を考えていると、さっき話し合ってた内容をリュートさんが大声で言う。うーん……あとちょっとで思い出せそうなんだけど……
「すみませっ!?」
その声に返事をしようとした男の子が、安心したのか足を縺れさせてバランスを崩した。逃げるのにかなりの速度で走っている人がバランスを崩すとどうなるかというと、それはもちろん転けて吹っ飛んでくるわけであって……
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「きゃっ!?」
「がっ……」
とりあえず筋肉ガードで顔だけは守ったけど、私の身体でレーナさんよりも少し高い男の子の勢いを止められる訳もなく、なす術もなく押し倒されてしまった。向こうは胸当てに顔面強打だけど別にいいよね?
「お、重!! ど、どいてどいて!」
「…………」
未だに胸当ての上に顔があるのはなんか嫌だし、本人+防具+剣が二本という地味にかなりの重さか私にかかってる訳で、抗議してみてんだけど一向に動く気配がない。
なに? この人ロリコンなの!? それならちょっと、回復魔法とクラネルさん直伝の毒で延々と酷いことしてやる。
「あぁ、気絶してって、ふえぇ!?」
そんなことを胸に、確かめるべく使った魔眼の解析結果には、もう色々と驚くしかない結果が映し出されていた。
◇
走ってきた人がイオリさんの方に吹き飛んでいって後ろが色々バタバタついてる中、僕達の前に現れた魔物は、かの有名な陸海空の全てを移動できる昆虫の名前が付いており見た目もそっくりだった。
「ジィィィィ!!」
「ひっ」
その両腕を上げて威嚇してくる様子に、剣を構えていたレーナが短く悲鳴をあげて僕の後ろに隠れる。いや〜うん、改めて見れば見るほど……
「オケラだなぁ……」
「ビイィィィッ!」
「りゅ、りゅりゅリュートくん! な、ななななんなんですかあの魔物は!? キメラみたいなのに地味に目が可愛いです!」
僕の背中に隠れて、オケラ型の魔物にブンブンと指をさしながらレーナがそう言う。涙目でプルプルして、僕の服の裾を握ってるレーナの可愛さが天元突破している件。
けどその精霊と契約した短刀は仕舞って欲しいかなぁ、刺されそうで怖い。
「ダンジョン・クリケットモールだって。見た目そのままな名前の魔物だね。とりあえず天の鎖!」
「ビジィ!」
そういつも通りに発射した天の鎖を、オケラ型の魔物は高速でサッと横にずれた後ジャンプして全てを回避した。そしてそのまま右手を引いて天井を蹴り、呆気にとられている僕達に突っ込んでくる。
「嘘っ!?」
狭い所だとこういう動きをしてくる魔物もいるのかと感心しながら、反射的に左手の盾を構えて結界を発動させる。そして次の瞬間、
「咲き誇れ! ろんぎふろーらむ!」
たどたどしい詠唱と共に、後ろから飛んできた青白い色の炎の槍がオケラに直撃し、そのまま遠くに飛んでいき爆発四散した。うん、ナムアミダブツだね。
まあそれはいいとして、
「イオリさん、結界越しだったのに焼けそうなくらい熱かったんだけど」
「あはは…….ごめん。はい、涼しい風涼しい風」
後ろを向いてイオリさんをジト目で見ると、大鎌の柄? をダンジョンの床に突き刺しながら涼しい風を送ってくれた。オケラをトレインしてきた件の少年は、壁にもたれかかっていた。傷は全部塞がってて服とかの汚れまで無くなってる。
「う〜ん、この子の身元とか分かればよかったんだけど……」
「一応私の知り合いではあるんだけど……」
「え?」
むむむ〜っという感じで悩んでいるイオリさんが、余りにも普通にそんなことを言ったので僕はちょっと固まってしまった。
「その人、イオリちゃんの知り合いなの?」
「うん、人間界にいた時のね。一応この人……まあロイドって言うんだけど、ロイドのお母さんは私の命の恩人だね。最初の私みたいに腕輪で変装してるみたい」
そう言われたので解析を使ってみたけど、解析に失敗しましたとしか表示されなかった。一応イオリさんのステータスでも覗き見れたのに、この結果に驚いて僕をそのままにイオリさんは話を続ける。
「でも、なんでロイドがここにいるのかは分からないんだよね。両親と一緒のパーティーで戦ってた筈だし、もしかしたら地上にいるのかも知れないけど二人が居ないのもちょっと変だし……」
「とりあえずそのロイド? 君は、ここに放置するのは危ないから外に運ぶなりギルドに運ぶなりしないといけないし、一旦ダンジョンからは出ないとだね」
「私はもう、今日はダンジョンには潜りたくないなぁ……」
そう言った僕に、レーナが苦笑いで答える。オケラって初めて見ると色々な意味でビックリするもんね。
「えぇ〜、折角面白い事が分かったのに〜。それじゃあもうちょっと待ってほしいな!」
「その面白い事って、さっきからイオリさんが大鎌をダンジョンに刺してるのに関係してたりする?」
「うん!」
イオリさんが笑顔でコクコク頷く。大鎌なんて物騒な物を持ってるせいで違和感が凄いけど。
「こうしてるとね! なんかMPが凄い勢いで回復してくんだ! もうちょっとで異次元収納の中の鉱石とかにも限界まで溜まるから、あと1分くらい待ってほしいな!」
そうイオリさんが言った少し後、ロイド? 君は僕が背負いダンジョンを後にした。
脳裏にダンジョンコアが過労死する未来が見えたけど、多分それは気のせいだよね!
大鎌「故に恋人よ 枯れ落ちろ、死骸を晒せ」
コア「やめて下さい死んじゃいます」