異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
「ほぇ〜…」
「イオリちゃん、とりあえず口は閉めようね」
「ふぇ?あ、うん」
あれから何日間かロイドと遊んだり色々な物を作ったりしながら移動して到達した街【エスイルト】、その重厚な金属製の門をくぐった先で見た光景に、私は思わずポカンと固まってしまった。
「ほらロイド君、君もだよ。そろそろ動かないと邪魔になるから」
「あ、はい。すみません」
そんな感じでロイドが固まってしまったのも不思議じゃないと思う。なんてったって【水神の大迷宮】のあるこの街は、歩いている人も多いし、ちゃんと石畳が敷かれていて街灯らしき物まであるからね。多分地方都市から東京に出てきたのと同じ感じだと思う。
「とりあえず、イオリさんは迷子にならないようにね」
「な、なんで私だけなのさ!私もうレーナさんと手を繋いでるし、ロイドだって固まってたじゃん」
「それじゃあ、そのさっきからバタバタしてる尻尾はどう説明するの?」
手をバタバタさせながらリュートさんに抗議していたが、そんな事を言われて慌てて尻尾を手で押さえる。恥ずかしさで赤くなった顔でリュートさんをキッと睨む。
「うぅ〜…」
「や、宿さえ取ったら自由でいいから、お願いだからこんな所で泣かないでよイオリさん」
「え!ホントに?わぁい!」
自由行動って事はダンジョンに行ったり色々していいって事だよね?まだ昼前だし色々やっても十分な時間はあるよね、お弁当を作って……いや、その場で料理できるから夕方までに帰ればいいんだし!
「イオリさん、随分チョロくなっちゃったなぁ…変な人に付いていったりしなければいいけど…」
「イオリが出かける時、俺が付いていきましょうか?」
「うん、よろしく頼むよロイド君。イオリさんって色々出来るけど結構ドジなところがあるから」
ここ数日で仲良くなったっぽいリュートさんとロイドが後ろで何かを話していたけど、これからが楽しみでワクワクしていた私にはその内容は一切聞こえなかった。
◇
「それじゃあいってきまーす、リュートさんレーナさん!」
「い、いってきます」
約束通り自由時間になったので、若干遠慮気味のロイドの手を引いて私は宿から街に繰り出す。レーナさんから頼まれたから鍵を閉めていくことを忘れない。
そしてふと見てみると、やっぱりロイドの顔が若干赤くなってる。もしかして本当にロイドって……
「それで、どこに行く予定なんだ?」
吃ったりしないで私と普通に話せてるし、やっぱり勘違いか。えっと、食べ物を補充するのは確定として、調味料は……うん、大丈夫か。だったら……
「とりあえずダンジョンかな! 帰りに色々買いたい物があるから付き合って欲しいな」
「やっぱりそうなるんだな。それならリュートさんが言っていたような事も起きないだろうし……」
「ふぇ? どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ようやくこの腕にも慣れてきたし、俺も行きたかったんだ。早く行こうぜ!」
「あ、ちょ」
どこか誤魔化すようにそう言って、私の手を引いてロイドは駆け出した。え、ちょ、これなんてラブコメ的な行動?
私の左手を握ってるロイドの右手はあったかくて……ん、あったかくて? 義手だよねその右手。ん〜(…あ、そっか、ハガレンでエドが凍傷になりかけてたところがあった気がするからヒーター付けてたんだった。あと浪漫式冷却装置とクーラーも。装甲がズレて蒸気がぷしゅーってなるのカッコいいよね。スチパンスチパン。
そんな事を考えている内にロイドの走る速度が落ちてきて普通の歩く速度になり、神殿のような形の建造物が見えてきた。その第一印象がパルテノン神殿の建物を見て、ほへーと感心していると左手に嵌めている腕輪からズキンと痛みが走る。
「いっつぅ……ロイド、ちょっと…ストップ」
「あ、ごめん。大丈夫か?」
「貧血かも…ちょっと待って」
ロイドにそう言う間に、頭痛も出てきて魔眼の方の視界が掠れ始める。これって本当にヤバイやつなんじゃ……そう考えていると、あの砂嵐の音が頭に響き始める。そして魔眼の側に映る世界が段々違う物に変化していく。
どこか広い空間、足元には透き通った水が溜まっていて、壁からは滝のように水が出てきているが、それらが循環してるらしいという事が何故か分かった。何がどうなってるのか分からないその光景で、次に見えてきたのは…
「角? 虹色の髪、十字架? 鎖?」
そしてブツンと千切れるような音がしたと思ったら、それらの症状は一気に収まった。ほんと、なんなんだろうこれ?まだ頭がガンガンいってるし、左眼は痛いし……なんか嫌な予感がする。ふぇ、涙出てきた。
「ほ、本当に大丈夫か?イオリ。俺が手を強く引きすぎたりしたか?」
「大丈夫、これは、それとは全然関係ないから」
涙声で私はそう言う。これじゃあ全然説得力がないなぁ…でも、今あった事を言っても信じてくれるのはリュートさんくらいしかいないだろうし……
「えっと、それじゃあその……女の人にはあるって話の……その……ダンジョン行くの止めておくか?」
そんな事を思っていると、ロイドがボソボソとそんな事を言ってきた。女の人特有の……っ!!
「まだ一回も! きてすら無いわぁっ!!」
ロイドが言いたかった事の意味が分かった瞬間、私は思いっきりロイドの頬を引っ叩いていた。
頭がグリンなんて事にはなってないよ?
一方その頃宿では
「はぁ…なんか本当に子供を送り出した感じがするよ。そう言うのはまだまだ先だと思ってたのに、ねえレーナ?」
イオリさん達が元気に出発してから、宿の部屋で僕はそうため息を吐きながらレーナに話しかける。本当にもう、最近イオリさんの精神年齢の退行が酷い気がする。
「そうだねリュートくん。でも私、そう言うのはもっと早くてもいいと思うんだ」
そう言ってレーナが立ち上がりこっちに近づいてくる。何か嫌な予感がしてレーナを見ると、目からハイライトが消えたレーナが立っていた。
「えっ、ちょレーナさん?な、何を!?」
「ふふ、この前リュートくん17歳になったでしょ?勿論…ね?」
そう言ってレーナがジリジリと寄ってくる。後ろに下がろうと思ったけど、すでにベットに座っていた状態だからどうしようもない。くっ、マズイどうにか打開策を…
「か、鍵開いてたら誰かが!」
「イオリちゃんが閉めていったよ?」
ガッデム!!いや違う、こんなのは僕のキャラじゃない。けどなんて事をしてってくれたんだあの人は!!
「そ、そうだ!2人が途中で帰ってきたらどうするの!?」
「イオリちゃん、お昼は外で食べてくるって言ってたよ?」
「あの人はこんな時にぃぃ!」
最後の砦なんて無かった。ロイド君は僕が頼んだからずっとイオリさんと一緒にいるだろうし…ていうかイオリさん働き過ぎだろ!!
「それとも、私じゃ…嫌?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
「イオリちゃんから聞いたよ?こういうの、ぎゃくれって言うんだってね?」
「あの人はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
宿の防音設備は万全です。