異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
あと、なんか学校の図書室にラブクラフト全集がかなりあった件。
「それで?ここがそのクトゥルフが居たっていう場所なの?」
「うん、そうだよ! このゴチャゴチャに金属を圧縮して壁に蓋した後は間違いないかな。ね、ロイド」
「ああ、確かにここであってるぞ」
一応リュートさん達の体調を考えて2日後、私達はあのショゴス=サンと遭遇した場所の前に来ていた。それにしても、壊されてたりしなくて本当に良かった。
「でもイオリちゃん、なんでわざわざこの先に行こうとするの?凄く危ないんでしょ?」
「そうだよイオリさん、ニャル様とか出てきたらどうするさ…全員発狂ルートなんて嫌だよ?」
そう言う2人の薬指にはキラリと光る指輪がある。因みにリュートさん達が選んだのは、特に華美な装飾は無いプラチナのリングに小さめのダイヤモンドが付いてるやつだ。
「でも、私が正気を失った状態でここまで来たみたいだし、絶対なんかあるってここ」
一時的狂気みたいな感じで私がここに突撃したっていう話だし、その上腕輪が相変わらずビリビリしてるから絶対なにかあると思うんだよね。いや、少なくとも神話生物はいるんだけどさ。
「イオリちゃんが行きたいなら良いけど……そのショゴスって魔物、居なくなってたりしないかな?」
「もしそうだったらいいなぁ……イオリさん、ちょっと聞き耳立ててみて?」
「なんで? 音なんて聞こえないと思うんだけど……」
私は首を傾げなからそう言う。聞き耳なんて立てても、壁は分厚いし金属製だよ?音なんて通らないと思うんだよね。
「クトゥルフだからだね」
そんな私の疑問に、リュートさんはその一言で答える。クトゥルフだからって私、TRPG出来るほど濃い友達は天上院くらいしか居なかったから知識は微妙なんだよなぁ…
「えぇーまあ、やってみるけどさぁ。リュートさん達は?」
「SAN値が…じゃなくて幅的に無理だろうね。とりあえずレーナもやめておいた方がいいと思う」
「リュートくんがそう言うなら辞めておくけど…」
「えと、じゃあロイドも何か聞こえるかやってみようよ」
私だけ正気度が削れ……コホン、私だけじゃ確かな情報っては言えないからロイドにも頼んでみる。
「一応、俺はそのショゴスってやつと遭遇してるしな」
「次が大丈夫って保証は無いけどね…」
リュートさんがそんな不吉なことを言ってるけど、とりあえず聞き耳を立ててみる。目を閉じて集中してみるけど、耳が冷たいだけでやっぱり何も聞こえない。
「やっぱり何も聞こえない……って、どうかしたの?ロイド」
「いや、何かテとかリみたいな音が聞こえた気がして……」
目を開けてみると、難しい顔をしたロイドがそんな事を言った。……それって確かショゴスの鳴き声だったような気がするんですがそれは。
「やっぱり居るのかぁ。イオリさん、ここに来ようとしてたって事は対策くらいあるよね?」
「もちのろーん!」
「もちのろんって今日日聞かないな」
何故ロイドがこのネタを!? 別にいいじゃん今日日聞かないような言葉だって。ぶーぶー、死に戻りさせてや……寒気を感じたからこれ以上考えるのはやめておこう。
「ぐぬぬ…まあいいや。ロイド、ちょっと剣出して?」
「義手の必殺技を使うんじゃないのか?」
「それはちょっと温存かな」
私がそう言うとロイドはかなり残念そうな顔になるが、この剣だって凄いんだからな。そう思いながら、ロイドに渡して貰った剣2つを合体させる。
言ってなかったけど、ちょっと前からロイドの剣ってどっちも片刃で長めのやつで…
「まあ、多分この先使う事になるだろうから大丈夫! いや、大丈夫じゃないのかもしれないけど、今回はこの合体させた剣を使ってみて?」
「分かった。カッコよくていいなこの武器」
そう言って私が渡したのは、柄は長めで真ん中から分かれそうな長い槍のような刀身…まあ有り体に言えば、ダウンサイズ版ルガーランスだね! 手元を同化して威力も上げられるよ!
そんな事をどこかに説明しながら、私も銃状態の大鎌を腰だめ撃ちの要領で構える。
「とりあえずロイドと私とで壁ごと消し飛ばして行こうと思ってるけど……撃ち漏らしたらお願いね?」
撃ち漏らししちゃう可能性は低いけど、念のために後ろの2人に謝っておく。
「うん。一応準備しておくね、イオリちゃん」
「イオリさんは何を撃つつもりなの?」
「ちょっと流れを変える為に主砲を」
なんか、雰囲気がいつものわいのわいのした感じじゃなくなっちゃってるからね。ここら辺でここ微妙な雰囲気をどうにかしたい。
「ロイド、せーので合わせてね!」
「了解!」
その掛け声と共にロイドが構える右手付近が緑色の結晶体に覆われ、私の構える銃の先に3つ、銃の脇に2つの魔法陣が現れる。大和魂を見せてやる! いや違う。
「せーの!!」
「「発射ぁぁぁぁっ!!」」
そしてその掛け声でロイドの方からは青白い直線的な、私の大鎌からは黒いスパークが走る螺旋を描く極太のビームがそれぞれ発射される。私はちっこいしロイドも私より頭二つ大きいくらいの身長だから、普通ならそんなに広範囲の攻撃なんて出来ないけどそこは私の廃スペックな武器、余裕で壁を貫通し奥の空間を蹂躙していく。
「僕はまず、何からツッコミを入れればいいんだろう?」
そしてリュートさんがそんな事を言い出す頃には、見る影もなく壊れた壁とその奥のショゴスの居た空間がポッカリと口を開けていた。
「今回は何もツッコミは入れなくていいと思うよ?ほら、ショゴスも居ないしこんなに視界も開けた事だし」
「あの、イオリちゃん。そこに玉虫色の水たまりが…」
そうリュートさんを言いくるめようとしていると、レーナさんがそんな事を言って近くの床に指を指していた。見てみるとそこにはうねうねしてる玉虫色の水たまりが……とりあえず、床と壁を凍らしちゃえばいいか。えいっ。
「ほら、ショゴスも居ないしこんなに視界も開けた事だし……ね?」
「イオリ、流石にこれは言いくるめられないと思うぞ?」
ぐぬぬ、私にはいいくるめスキルは無かったか。っていうか、幾ら構造を簡単にしてあるとはいえ一回見ただけで分解できるって凄いなぁなんて事を思った瞬間、私達の足元にかなり大きな魔法陣が広がり、視界が謎の炎に塗りつぶされた。不思議と暑さは感じなかった。