異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
「蒼矢、一ついいかしら?」
姉ちゃんにぎゅってされた私を見てティアがむすくれたり、機嫌を直してもらう為に色々やったりしてひとまず落ち着いた後、姉ちゃんが人差し指を立てて質問してきた。
「なに?」
「さっき、他の人達と一緒に来てるって言ってたわよね?」
「うん。一緒のパーティーの人だけど…」
「天上院くんとかは、一緒に来てないの?」
「うっ、それは……」
天上院とか柊さんは、もしかしたら私が蒼矢だって気づいてるかもしれないけど、会いに行きたくないんだよなぁ…相手にされないかもだし、それに…
「マスターは、一回勇者の誰かに殺されかけている。全身に武器を突き刺されて。天上院と柊は能力的に、犯人からは除外されるけど」
「そうなんだよね…クラネルさんが治してくれたからほかの場所には無いけど、ここに一箇所だけ傷痕が残っちゃってるしね…」
そう言って私は右肩に手を置く。起きたばっかりの時は気づかなくてお風呂の時に初めて気づいたんだけど、あの呪いの刀に貫かれた場所には傷の痕が残っている。
因みにこれを知ってるのはレーナさんと私、あとクラネルさんとティアの4人だけだ。なんでも、呪いが染み込みすぎて浄化が間に合わなかったんだって。白装束で短刀を持って、地面に頭がめり込むほどの土下座をされた時にはびっくりだったよ。
「見せなさい」
「へ?」
「その傷痕、見せなさい」
魔眼が警告を発するレベルの怒気を纏った姉ちゃんに反論できるはずもなく、私はコートの下に来ていた長袖を脱いで右肩を見せる。そこには、上から脇の方に向かって斜めに走る傷痕がある。
「えっとね、治してくれたお医者さんは、恐らく一生残る傷だって言ってたよ」
「そう」
そうそっけなく言った姉ちゃんからは、異世界ですら感じたことの殆どない怒りが感じられた。つい癖で戦闘態勢になりかけちゃったけど、隣に座っていたティアが抓ってくれた事で普通の状態に戻る。
「ねぇ蒼矢?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
見た目は完全にいつも通りな姉ちゃんだけど、雰囲気がかなりヤバイせいでなぜか返事がおかしくなってしまった。
「その傷を作った人って、誰だか分かる?」
「ううん、分かんない」
「けど、もし見つけたら容赦しない」
「見つけられればだけどね」
私とティアが交互に答える。因みに本当に許す気はない。最低でも1発は全力で殴るし、もしそれ以上の悪事を重ねてるなら、いつだったか私を攫った人達のリーダーと同じ事をしてもいいと思っている。
アレも幾つかの魔法と同じく、二度と使わないと思ってたけどまあ今回は特例だ。まだ未完成だったアレで、リーダーは5分も経たずにもうその…ね、うん、可哀想な事になっちゃったから、今はもっと酷いと思う。
「もし見つけたら、1発デカイのを当ててきちゃいなさい蒼矢。そして、頼まれても連れて帰ってこなくていいわ」
「え、あ、私もそうしたいけど…」
「恐らく、マスゴミ共が騒ぎ立てる」
ティアの言う通り、それで多分私とか天上院とか、さらには先生が責められる事になるんだと思う。もしそうなるなら、多少精神が終わってても連れて帰ってくるべきだと思う。
「確かにそうね。でも、そういう選択肢もあるっていう事は忘れないでね」
「うん!」
私の目に何かを感じたのか、姉ちゃんはそれで引いてくれた。 SLB?なんで一思いに殺ってあげる必要があるのさ?私はあんなに痛くて辛くて苦しい思いをしたのに。
「それじゃあこの話は一旦置いておくとして。蒼矢達はこれからどうするつもりなの?」
「「これから?」」
「異世界に一回は帰らなくちゃいけないのは分かるけど、それからどっちで暮らすのかとか将来とか」
ティアと顔を見合わす。全く考えてなかった。とりあえずクラスのみんなをこっちに連れてくるために、何回かアヴルムに戻らなくちゃいけないのはいいとして、将来か…
「よく分からないけど、戸籍とかの問題があるだろうから地球に永住は出来ないんじゃないかなぁ…自分の葬式とか見たくないし」
「それに、転移の事が知られたら、GATEのレレイのように狙われる可能性もある」
異世界転移が個人で出来るのが、私とティアだけの場合はそうなるだろうね…普通に考えると。ほら、未知の資源とか領土とか
性格を考えると、パパは多分今再会してもむしろ喜びそうだし、ママも多分、心配をしてくれるだろうけど信じては貰えるだろうから、そこはあんまり心配してはいないけど、そっちがね…
「難儀なものね……それじゃあ、今回はどれくらい居るつもりなの?寝泊まりする場所は?食べ物はどうするの?」
「うーん、転移が安全に余裕を持って出来るまでだから…3、4日かな?食べ物は数ヶ月分はいつも携帯してるし、寝床は…あっ」
お金はあるしルー○インにでもって思ってたけど、無理だこれ。見た目で考えると、高校生×1中学生×2小学校低学年×2…どう考えても保護者呼ばれますねはい。そしてリュートさんはお縄に…
「どうしよう…」
「そんな泣きそうな目で見なくても、人次第ではあるけど泊めてあげるわよ」
さっきの暗い雰囲気とは打って変わって、姉ちゃんもニコニコしてるしいい雰囲気だ。嘘偽りなく話すってやっぱり大切だね。
「それで、何人で来てるの?」
「私とマスター、常識人の転生者とその彼女、後マスターに恋してると思しき少年の計5人」
「うーん、最後のは気にくわないけど大丈夫よ。お父さん達が帰ってくるのはまだまだ先みたいだしね」
「ありがとう結衣姉!大好き!!」
私は満面の笑みで言う。よかった…最終手段、私の《
「でも、一つだけ条件があるわ」
「え、なに?」
不安げな目で姉ちゃんを見つめる。不条理な事を要求される事はないだろうけど、条件って聞くと少し構えてしまう。クラネルさん辺りのせいだ、絶対そうだ。
「蒼矢とティアちゃんの分のお金は私が出すから、明日一緒にお買い物行きましょう!お洋服とか!」
「あ、うん」
「分かった」
思ったより普通な事で安心した。私も戦闘時以外で、いつまでも自作の服とか嫌だったんだよね!あ、でも…
「大学は?」
「大丈夫よティアちゃん。明日は日曜だから私の場合休みよ!!」
なんだろう、今ほんの少しだけ姉ちゃんからクラネルさんと似通った雰囲気を感じた気がする…