異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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数学赤点(知ってた)



第9話 転生者達

「ねえ蒼矢」

「何? 結衣ねえ」

 

 運転中の姉ちゃんから、後部座席で流れていく景色を眺めていた私に声がかかる。凄く久しぶりに車に乗ったからか、地味にワクワクしてるのはナイショだ。

 

「さっき聞いた限りだと、蒼矢って何回も戦ってたのよね?」

「うん。したよ? 魔物とだけだけど」

 

 人と戦ったことなんて一回もない。あ、いや、大鎌が気が付いた時には食べちゃって事はおったけどね? あとこれは、昔の戦争跡を見に行った時に気が付いたんだけど、あの大鎌どうやらしょっちゅう幽霊を食べてるみたい。そのお陰で私のレギオンは1万くらいはある。

 

「跳んだり跳ねたりするのって、どれくらいの速さでしてたのかなって思ったのよ。もしかして、車よりも速かったり?」

「うーん、どうなんだろう? ティアは分かる?」

 

 自分じゃどれくらいかよく分からなかったからティアに聞いてみる。速いのと音速を超えてないのは分かるんだけど、私ってどれくらいの速さなんだろう? テレポートは抜きにして。

 

「とりあえず、この車よりは速い」

「あ、やっぱり? こっちの世界じゃ出来ないけど、飛べれば速いなぁって思ってのは合ってたんだ」

「異世界って、予想以上に殺伐としてるのね……」

「あー、うん。多分そうかなぁ……」

 

 転移直後に戦闘になるし、着いた街には危機が迫ってくるし、変態に遭うわ、死にかけるわ変態に遭うわ、街が滅びかけるわ神話生物とガチバトルするわ……うわっ、私の幸運低すぎ? 実際、ランサー並にない気がする……

 

「む」

 

 そんな悲しいことを考えている内に、例のリュートさんに渡したブツに仕込んだゴーレムの操作可能圏内に入った。よし、やってみるか。

 

「《神経加速(タキオン)》」

 

 そうボソッと呟いて、思考加速とか色々なスキルを全開で駆動させる。名前は……うん、さっき自分の部屋に入って思いついた。世界が非常にゆっくりと見える中、リュートさんの金属片に仕込んだブツを一度大きく脈動させる。

 そしてその後、小さく『姉ちゃんと一緒に車で行くからちょっと駅前で待ってて』って文字を浮かび上がらせて……

 

「解除っと。姉ちゃん、駅前でリュートさん達待っててって連絡したー」

「……魔法って便利ね」

 

 多分姉ちゃん、考えるのを止めたんだと思う。なんて事を思ってる間に車は駅に到着し、私たちはリュートさん達と合流した。

 

 ◇

 

「僕たちを泊めてくださるという事で、本当にありがとうございます。イオリさんのお姉さん」

「かわいい弟……今は妹ね、その頼みなら是非もないわ。あなた達は悪い人では無いようだしね」

「本当に、ありがとうございます」

「それに、向こうでは蒼矢の保護者代わりになってくれてたって聞いたしね」

 

 リュートさんとレーナさんのお礼に、姉ちゃんがそう優しく答える。ロイドはなんかソワソワしてる。ファミレスのテーブルって、6人で座ると結構狭く感じるんだね。

 

「……あ、そういえばロイドって言葉通じてるの?」

「読めはしないけどな」

「そう。とりあえず、マスターの義姉ちゃんに挨拶」

「ああ」

 

 ロイドが姉ちゃんに向き直る。あ、日本語読めないならロイドはメニューどうすればいいんだろう? まあいいや、何か美味しそうなのあるかな? ティアと一緒にメニューを開いて見る。

 

「それで、この子が例の天上院くんのライバルね」

「なっ」

「大丈夫、元からバレバレ」

「えっと、あー。よろしくお願いします」

「礼儀は問題ないようね」

 

 あ、終わった? なんかピリピリした空気になってる気がするけど、まあそんなのはどうでもいいよね。大丈夫、私もティアも普通の座席に座ってる。断じてあの持ってくるイスには座ってない。

 

「みんな何食べるー?」

「イオリさんって、毎回狙ってこういうのやってるのかなぁ……」

「小さい子の特権ね」

「リュートくん、読んで欲しいな?」

 

 わぁ凄い、ピリピリした空気が無くなったかと思ったら、途端にカオスな空間になった。うーん、言っといてなんだけど私も何たのもうかな……あ、

 

「そういうイオリさんは、何にするか決まってるの?」

「うん! お子様ランチ!」

「私も」

 

 あれ? ティアもなのって思ったけれど、今はそれよりも周りから注がれる暖かい目線の方がアレだ。凄く微妙な気持ちになる。

 

「い、いいじゃんお子様ランチでも! 偶には自分が作ってないご飯食べたいしー」

「それに、旗が立ってる」

「あー、うん。イオリさん、精神年齢退行してるもんね……」

 

 姉ちゃんは無言でニコニコしてくる。う、うぅ、いいじゃん別に! だってハンバーグだよ? 旗だよ? 頼むしかないじゃん! 恥ずかしさで、若干ほっぺたが熱くなる。

 けれど、私とティアの力説のお陰かそのまま注文は進んでいき、姉ちゃんとリュートさんが日替わりランチ、私とティアがお子様ランチ、レーナさんが生姜焼き定食でロイドは何故かラーメンにしてた。

 かなり混沌としてるけど、やっぱりそれにしても……

 

「平和、だなぁ……」

「向こうじゃ、大体トラブルが起きるからねー」

「所謂転生者補正ってやつだろうけど、巻き込まれる本人からするとたまったもんじゃないよね……」

「マスター、リュートさん達、それフラグ」

「日本なんだから、何かが起こるわけ無いわよ」

 

 運ばれてきた料理からテケリ・リなんて聞こえもせず、爆発とかもしないままようやく食べられると思った時に、ティアの予想通り事件が起こった。

 

「よし! それじゃあ、いただきま「全員、動くんじゃねえ!」は?」

 

 ドアを突き破りそうな勢いで乗り込んできた4人組の男達が、そんな怒号を発する。そして次の瞬間、手に持っていた猟銃を天井に向けて撃ち放った。

 銃弾の当たった蛍光灯が砕け散り、一気に悲鳴が伝播してゆく。そして、私たち異世界組は普通に落ち着いていたんだけど、落ちてくる破片が食べ物にかかり……プチンという音がして私の中の何かが切れた。

 


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