異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
ティアの杖の効果もあってほんの少しはマシになったが、やっぱり異世界転移は非常にガタガタと揺れていた。
(うぅ……長い時間いると酔いそう……)
(マスター、我慢我慢)
黒とか金とか色々と混じり合った気持ちの悪い色の中、感覚ではすごい速度でまっすぐ進んでるみたいだ。暇なのになぜか口は開けなかったから、念話でティアと話している。
(ん、何かくる)
(な、なにあれ?)
そんな中、前方になにかよく分からない白い光が見えた。転移が終わりの時のとは違うし、女神様の所に転移させられた時とも違う。
「っ!」
どうみても、どこかで見覚えのある人型の生物だった。
(マスター、対ショック姿勢)
行きは神様に拉致られて、帰りはアニメのキャラと遭遇ってどういう事!? そんな事を思っている間にも、不審な挙動のそれがとの距離は縮まっていき……
「のわぁぁぁぁぁ!!」
(ぐ、ぬ……)
(ドルベェェェェェェェェッ!!)
こんな酷い茶番はあったけれど、人型を轢いた数瞬後眩い光が私達を包み込み、次の瞬間私達は地球に転移する時に使った小部屋に戻ってきていた。
よし、地球じゃはっちゃける事も出来なかったし第一声は!
「アヴルムよ、私はかぁえってきたぁぁぁ!!」
「帰ってきて第一声がそれ!?」
「だって地球じゃうるさくなるから出来なかったんだもん!」
「いや、もん! じゃなくてさ」
私とリュートさんがそんな事を言っている間に、ティアが私のテンションに悪ノリして叫ぶ。
「アヴルムはいいところだぁ! みんな、はやく戻ってこーい!」
「止めてティアさん! あなたが言うと、SAN値が削れそうなのが出てくる未来しか見えないんで!」
そんな風に言って
ちょっと何かの気配が、現在進行形でこちらを見ているのはナイショだ。
「えっと、とりあえずダンジョンから出ない?」
帰ってきてそうそうちょっとした騒ぎになっていたけど、レーナさんのその言葉で落ち着きを取り戻した私達は、とりあえずダンジョンから脱出するのであった。
◇
「く↑ぅきがうまいぃぃ!」
「マスター、私くらいにしか分からないネタは辞める」
「身体が軽い!」
「辞めろ」
「きゃん」
ダンジョン脱出直後、ハイテンションのままそんな事を言ってみたらティアからの全力のチョップを貰った。いいじゃん、どっちも合ってるんだし……
「世界が変わっても、あの2人はいつも通りなんだね」
「まあ、イオリちゃん達だから……」
「いつも元気な事はいい事だと思うぞ?」
そういうロイドの声音が今までとは何か違う感じがする。大通りを歩きながら、やっぱり姉ちゃんに変な事を言われたなって確信する。
「それでイオリさん、やっぱり4日くらい休んだら人間界に行くの?」
「いや、色々あるから1週間かな。けどまあ、ロイドを帰してあげたいし、久々に天上院とも会いたいから行くのは確定だよ」
地球に帰って色々と自分の部屋を漁ったりして、結局懐かしくてみんなに会いたくなっちゃったんだよね。因みに天上院から貰った髪留めは、壊れそうだから付けてないけど持ってきてはいる。
「そういえば、なんでイオリちゃんが付いていくの?」
「レーナさん、ロイドの右腕は、マスターを庇ってこうなった」
「そうそう、だから直接謝らないと私の気がすまないもん!」
多分庇ってくれなくても小さな怪我で済んだけど、あの時の私がもっと早く移動していれば、ロイドがあんな怪我をする事は無かったかもしれない。
「俺はこの腕には満足してるんだが……」
「自分が満足してても、他の人から見たらそうじゃない事もあるんだよ……」
正直なところ、シンディさんにビンタとかチョップされるくらいの覚悟は出来ている。リクスさんからは逃げる、怖いもん。
「そういえばイオリさん、人間界ってどうやって行くつもりなの?」
「超長距離転移で、頑張ってロイドの両親が拠点にしてるって街の近くまで跳んでみるかな」
「一番確実」
確かリフンの隣町って話だったし、リフン辺りに転移すれば多分どうにかなると思う。地球に転移するよりは圧倒的に楽でもあるしね!
「でもイオリさん、気づいてる?」
「ふぇ?」
まあ僕達が言えた事じゃないんだけど、と前置きをしてからリュートさんが話し始める。
「大陸をなんの理由もなく自由に行き来できるのって、Sランク以上の冒険者だけなんだよ? それに、魔界に来た時みたいな理由もないから……」
「つまり俺が転移で人間界に行ったら、不法入国になってイオリに迷惑がかかるって事か?」
「とりあえずそうなるね」
特に問題無いんじゃないの? って言おうと思ったら、ロイドがそう会話に介入してきた。うーん、ロイドが来たのも私達が獣人界に入ったのも殆どズルだったし今更過ぎる事なんじゃ……
「だったら、ロイド君もSランクになっちゃえばいいんじゃないのかな? リュートくん」
「え、いや、まあそうなんだけど……」
「それで解決だね!」
「実力は十分」
ウインクとサムズアップをしながらそう答える。私みたいに何か特別な経歴とかは無いけど、Sランクに上がる条件ってペーパーテストと担当の人との模擬戦って事だし。
大鎌使ってる私と二、三回打ち合えるくらいにはなってるから模擬戦は十二分に行けると思う。
「いや、まだ俺は……」
「Sランクだとお揃いなのになー」
シンディさん達って確か2人ともSランクだったし、そうなるとパーティーが綺麗にSランクになるのに……そう思ってボソッと呟いた私の言葉にロイドがピクンと反応する。
「絶対Sランクの試験、合格してやる」
「マスター、その言い方はズルい」
「え?」
ティアには私のその呟きが聞こえていたらしくそう言われたけれど、何がズルいんだろう? うーん……あ、そうだ!
「ティアもついでにギルドに登録したら?」
「大昔のがある。Sランクの」
そう言ったティアの手のひらに、古文書みたいな丸まった紙が現れる。大昔って一体どれくらいの……
「えっと、だったらこれからギルドに行くって事でいいのかな?」
「そうだね! それじゃギルドにレッツゴー!」
地球じゃ出せなかったテンションで私はそういうのだった。
ただ、ドルベを轢きたかっただけなんだ…