異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
命からがらではなかったけど転移で緊急脱出した私達は、懸念してた転移の妨害もなくきちんと転移することができた。
「まさかこんな形で、ここに戻ってくるとは思わなかったよ……」
そうため息を吐きながら周りを見渡す。相変わらずある澄んだ池に、近くには記憶と寸分違わない城門が、街がある。さっきまでいたロイドの故郷の街と違って黒い煙も見えないし安心していいみたいだ。
「マスター、近くに魔物以外の敵影はない」
「ん、教えてくれてありがとうねティア」
よくよく見ると、私がウルフの群れと戦った時の落とし穴も残ってる。池みたいになってるけど……まあやっちゃったものは仕方ない。
「イオリ、エモフの街に何があったか分かるか?」
「ううん、あの黒い煙といい状態異常といい、ロイドが私を助けてくれた時のあの人達と同じってことしか分からないかな」
その他には、多分私を標的にしてたくらいは分かってる。ロイドの時もそうだったし、さっきも私を見て殺すべしって言ってたし。
「黒い煙って、なんだ?」
「え、ロイドは見えてなかったの? ティアは?」
「あ、あぁ。ただ目が血走ってるおかしな人にしか見えなかった」
「私は見えてた」
「そうなんだ……」
休憩も含めて転移した直後の場所に止まって、見えていた私達とロイドの違いを考える。やっぱり転生者? いや、でもそれにしてはあの時リュートさんは黒い煙のこと何も言ってなかったし……
「ねぇティア」
ティアにも考えを聞こうとそう呟いた瞬間、今までの戦ってきた経験が尋常じゃない強さの危険を訴えてきて、それに一拍遅れて魔眼が真っ赤に染まり未来から読み取った情報を眼に映し出す。
===《剣技・武技/威力 推定不能/範囲 極大/
全員での転移は今からじゃ間に合わない、相殺も不可。それなら耐えられるか分からないけど!
「祓い給え清め給え」
十字斬の1発目が、眩い光と共に現れる。ティアも反応が少し遅れたみたいでまだ魔法を使えてない。ロイドは今気付いたみたいだ。
まだ私の周囲に浮いていたナノゴーレムで気休め程度の防壁を作りながら、今の私の使える最大の防御の魔法を発動させる!
「
私達の頭上に、20個の次元の断層が現れる。ストブラの煌華麟でできるアレと似たような物思ってくれていい。なんて思ってる間に、私の魔法の完成とほぼ同時に放たれた2発目の斬撃が落下してくる。この技の元ネタの変態には及ばないけど、それでも私の総魔力の半分も使ったんだから効果はあるはず!
「くっ、う……」
「はぁぁっ!」
それなのに、10枚目までが呆気なく蒸発する。少し威力は弱まったけど、相変わらず直撃したら私達がhageするのは間違いない。
バカみたいに私の魔力は消費されていくし、ロイドがルガーランスもどきでバリアを張るけど多分ほぼ意味がない。
===《剣技・武技/威力 推定不能/範囲 大/天堕断/脅威度 即死級》===
更にダメ押しで、極大の一閃が私達に向けて落下してきた。私はもう次元断層の維持に精一杯で他のことが出来そうにない。ロイドのマッキーパンチか
「引裂き、飲み、喰らえ《
残りの次元断層が一枚一枚割れていく絶望の音の中、最後にそんなティアの声が聞こえた。
◇
「やった!?」
「委員長、それ倒せてないフラグ!」
転移で相手の頭上に転移、アルディートさんと俺の武技に鈴華の忍術、その全てが直撃した砂埃の立ち込める場所を見て、つい俺はそんな事を言ってしまった。
ギルドの闘技場で訓練として模擬戦をしていたら、俺や鈴華、アルディートさんに山ちゃん先生の持っている七元徳のスキル、その対極のスキルを持っている人物が先生の作った領域内に転移で侵入してきた。
七大罪スキル持ちの人物なんて大体がロクな人じゃない、海堂がいい例だ。という事で先手必勝という事で強襲した次第だ。ここまで考えを巡らせていると、アルディートさんが大きく舌打ちする。
「おいタクミ、今すぐ防御を全開にしろ!! スズカはタクミの後ろに隠れとけ!!」
「はい!」
「武技・イージスシールド!」
何故そんな指示が出たのか分からなかったが、鈴華さんは空中を蹴って俺の後ろに回り、俺は落下しながら全力で防御の武技を発動させる。大体こういう時のアルディートさんの言うことはやっておいた方が身のためなのだ。
「来るぞ!」
そうアルディートさんが言った次の瞬間、防御に特化している俺が全力で防御をしなければいけなかった理由が分かった。砂煙の中から光も飲み込んでいるような黒いナニカが俺たちに向けて幾筋も飛来してきたのだ。防御には成功したが、全員大きく弾き飛ばされる。
「何よ、今の」
「アルディートさん、アレなんだかわかります?」
「さあな、だが連発はできねえようだぜ」
何かがあるのは事前に予測できていたから三人全員事も無げに着地することが出来たが、全てが見えていた俺とアルディートさんは冷や汗を掻きながら事実を確かめ合う。
「まさか、武技が削り取られるなんてね……」
「今までの敵さんとは段違いの強さだな」
むしろ削り取られるより、喰われたような……そんな考えが頭をよぎった時、砂煙の中から
「日本語!?」
「それとこれは、英語……いや、ドイツ語?」
別々の声で、おそらく同じ意味の詠唱が紡がれていく。思わぬところで遭遇した元の世界の言葉に硬直する中、噎せ返るような血の匂いと共に段々と空気が変わって……いや、ナニカ違う別の物に塗り潰されていく。なんだろう、物凄く心当たりがあるようなないような……
あれだけもうもうと立ち込めていた砂煙が急速に晴れていく中、そう詠唱が締めくくられナニカの発動の準備が終わる。
砂煙が完全に晴れた場所に立ってたのは、全員が等しくボロボロな子供達だった。その中の銀髪の……幼女と言える女の子が、見た目に似つかわしくない妙に機械的な刃にヒビが入った大鎌を横に構え、こちらを睨み付けながら最後の一文を口にする。
「
その一言が俺の耳に入った瞬間、パズルのピースが嵌ったかのように記憶が蘇る。蒼矢がしきりに勧めてきたゲーム、もしあの能力がそのまま使えるのなら、聞いた事もない詠唱だったけどどちらにしろ勝ち目は薄くなる!
アルディートさんがレベルカンスト直前のスピードで迫るけど、届く可能性は殆ど無いに等しい。これは正直、マズイかも。
「武技・イージスシールド!」
「
せめて自分達だけでも。そう思って使った武技ごと、次の瞬間には銀髪の幼女が創造した世界へと飲み込まれていった。
【半偽予告】
すれ違い、ぶつかり合う意思と意思。姿の変わった親友達は戦いを始め、戦場には血が涙のように流れ落ちる。
君は知るだろう。人と人は容易に分かりあうことは出来ない、分かりあうためには、必ず何か代償が必要だという事を。