異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
「はぁ……私の服って、ことある毎にボロボロになるんだよなぁ。捨てるの勿体無いけどもう着れないし……タク許すまじ」
「仕方ないよ、マスター。作れば?」
「布から作らないと……」
一階に下る階段に向かって歩きながら、ほんの少し前まで着ていた服の残骸を見て私はため息を吐く。完全に観光気分で来てたから地球で買った服を着てたんだけど、アルさんの攻撃の余波でボロボロになってしまっている。
「まあとりあえず、今日はメイさん達と会って話をしたら休みたいかなぁ……疲れたよもう」
「同感」
《
いつだったか転げ落ちて頭を打って、泣きそうになったのはいい思い出だね。たしかあの時はラナさんに介抱してもらって……
「あ、お久しぶりですラナさん!」
階段を下りきり、私がここに来た時と比べて活気のかの字もない閑散としたギルドの一階で、暇そうに受付に座ってるラナさんに手を振る。……ラナさんであってるよね?
「えっと、どこかで会いました?」
「え、結構特徴的な会い方だった筈なのに……忘れられてる?」
向こうが覚えてくれてる事を前提に話しかけたから、なんとも言えない微妙な空気になってしまっている。出会い頭に決闘騒ぎを起こした訳だし、そうそう転生者が来る訳でもないだろうから覚えてくれてると思ったんだけど……
「マスター、目」
「あ、左眼の色変わっちゃってるもんね」
目の色を幻術で元の蒼色に戻してから、うんうんと悩んでるラナさんに聞き直してみる。
「えっと、これなら分かります?」
「うーん、銀の髪に青い眼……思い出した! ギルドに入った直後に決闘騒ぎを起こした……そう! イオリちゃんね!」
「覚えてもらえていて嬉しいです」
にへーと笑いながら答える。正直、今日はもう魔法を使うと全身が痛むから幻術は解除する。暇だったのか、他の受付嬢の人達も集まってくる。
「それにしても久しぶりね! 確か獣人界に行くって言ってたけど、戦争に巻き込まれたりしなかった? それでその子は? お友達?」
「戦争があったっていう時は、大怪我して寝込んでました。ギルドの中だから言えますけど、獣人のお姫様と友達になったりもしてきました!」
「私はティア、マスターの精霊。よろしく」
色んな人が集まってきちゃったせいで、一転してギルドが騒がしくなる。 大冒険ねーとか、獣人界ってどんな所だったのーとか、誰よこの子に寝込むほどの怪我をさせた奴はとか、ちょっ、抱っこしないでくださいよ!
「最後に会った時は確かCランクだったけど、今はどこまで上がったのイオリちゃん? もしかしてAランクになってたり?」
後ろから抱っこされながらじゃ威厳もなにもありはしないけど、そう聞いてきたラナさんにどやっとした顔で言う。
「ふふん、今の私はSランクなのです!」
「ついでに私も。最近復帰した」
隣で揉みくちゃにされていたティアと未だに抱っこされてる私がそういった瞬間、ザワリとどよめきが広がる。
「え、まさか最年少でSランクになったっていう【流星群】? でもアレは獣人だった筈……。それに最近って事は、そっちの子は【古代魔神】?」
「あ、こんな事も出来るからだと思います」
「その恥ずかしい名前は止めて」
えいと力を込めて獣耳と尻尾を私は出現させる。というかティアの二つ名、私より中二感が凄かったんだ……
あっ! ちょっ、可愛いとか言って撫で回さないで下さいよくすぐったいんですからぁ!
◇
「はぁ……はぁ……ただでさえもう体力無いのに……」
「女子って怖い」
揉みくちゃにされること数分、辛くも包囲網から逃げ出した私達は廊下でグッタリとしていた。そもそもラナさん達は女子じゃないでしょとか、私達も女子でしょとか色々言いたい事はあるけど、あんまりロイド達を待たせてもいけないからゆっくりと闘技場へ向かっていく。
「ありゃ……これは私達はお邪魔かな?」
「マスターと同意見」
妙に音がしないと思ったら、疲れきっていたのかなんだか分からないけど、ロイドはシンディさんの膝枕で寝ていた。
ちょっと話したい事はあったけど後でいいよねと思い、そのままそっとこの場から去ろうとすると、少し遠くにいたメイさんと目が合った。
「あれは、メイトリックス! 小銭だ! 小銭を出せ!」
「マスター、そのネタ分かる人居ない」
そんなネタをかましている間にも、メイさんはズンズンこちらに近づいてくる。あわ、あわわ、怒られる?
「無事だったんだな嬢ちゃん。ロイドから聞いたぞ? 無事にロイドを連れてきてくれてありがとうな」
「い、いえ、それほどでも無いです。お久しぶりぶりですメイさん」
「はじめまして、マスターの精霊のティアです。マスターの記憶はある、自己紹介はなくて大丈夫です」
私とティアは揃ってお辞儀をする。怒られるにしても、ロイドの手の事を話すにしても態度は正さないと。
「それで? そんな浮かない顔をしてるのはロイドの右腕が原因か?」
そう言ってメイさんはロイドの右腕をみる。こっちに来てから隠蔽なんてしてなかったせいで、フォルムは人間だけど明らかに別物な腕が露出している。
「っ、はい。私がもう少ししっかりしていれば、こんな事にはならなかったと思いますし……」
(マスター、うっかり燃やしたからね)
(しっ!)
ティアからの念話は黙らせたけど、ティアが言ってる事は間違ってない。実際くっ付けるくらいなら出来た訳だし、そうじゃなくても私がロイドにある程度切り札の効果を説明しとけば違ったかもしれないし……
そんな事を考えていた私の頭を、ワシャワシャと大きな手が撫でた。
「髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃないですか!」
「ハハハッ、ちびっこはそれくらい元気な方が丁度いいんだよ!」
うがーと吠える私に、メイさんが大きな笑い声をあげて言う。せっかくのシリアスが壊れた……
「大体の顛末はロイドから聞いたが、ありゃあロイドの力不足が原因だ。それに無茶した冒険者が再起不能になる怪我を負うなんて事、ちょっと探せばいくらでも出てくるぞ? そっから俺から見ても高すぎる性能の義手を貰って、しかもSランクにまで成長できただ? 十分に恵まれてるじゃねえか」
「いや、でも。ロイドの怪我の原因って私を庇った事ですし……」
「惚れた女を庇って出来た傷なんだから、庇われた嬢ちゃんが気にやむことは無いさ。まあ、正直嬢ちゃんに惚れるとは思ってなかったが」
……えぇー。気のせいじゃなかったの? ロイドが私を好きって……えぇー? いや、改めて考えると色々納得できる事もあるけどさぁ。
「ほらマスター、本当だった」
「いやだってティア! 5歳は離れてるし、私こんなチンチクリンだよ? 普通そんな事真に受ける訳ないじゃん! 何年後かならまだしも」
「果たしてマスターの胸は、数年で成長するのかどうか」
「な、なにおう!!」
シリアスになりかけた空気が途端に騒がしい物に変わっていく中、異様によく響く咳払いがその空気を凍らせた。
「メイ? イオリちゃん達? ここに1人、疲れきって眠ってる子がいるって事忘れてない?」
冷たい風が吹きつけてくる。あ、あわわ、これ、怒った時のレーナさんとかなり似た雰囲気……
「少し静かにしてくれないかしら?」
「「イエスマム!」」
レーナさんより年季が入ってる分絶対にヤバい。そう判断した私とティアはビシリ背筋を伸ばして敬礼の状態で固まるのであった。
この頃殺伐としていた為書いた回