異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
なんとなくBGMは【Einherjar Rubedo】辺り?
燃えていた。
壁が燃えていた。
天井が燃えていた。
床が、本が、照明が、観葉植物が、倒れた人が。元々この場にあったであろうあらゆる物が、黒い炎に包まれ勢いよく燃え盛っていた。
その下手人は無論、私とこの不死鳥である。
「クケェッ!」
「それはもう見た」
飛んできた黒炎を纏う羽根が、私の前で突如進路を変えて壁に突き刺さる。そこからまた火災が広がるが、私には関係のない事だ。この身は精霊、零落したとはいえ神。結界を張り、倒した人々を脱出させてる勇者と違って、酸素なんて有ろうが無かろうが活動に支障は出ない。
「キエァッ!」
「だからそれも、無駄」
周囲を焼け焦がす炎が怠惰の力を伴って私に殺到するが、直撃する寸前、その全てを暴食で喰らい尽くす。先程から何度も繰り返している光景だ。
「これで、7回目」
世界が一瞬だけ斜めにズレて、その異常が元に戻った時にはフェニックスの首は地面に落ちていた。マスターにはまだ出来ないようだけど、本来のカンストした次元魔法ならこんな事は造作もない。
「そしてこれから、8回目」
「キェェェェェッ!」
即座に灰と化した頭と胴体から、一回り小さくなったフェニックスが現れ私に突撃してくる。これも、一度は見た事がある光景だ。
「いあ、くとぅるふ」
突進するフェニックスのすぐ上に門が開き、大量の水と共にぬらぬらした鱗に覆われた巨大な鉤爪状の手が落ちた。
「クケ、カッ」
貫かれたフェニックスが苦しそうな声を上げるが、私の限界が来てクトゥルフの腕が消滅する。それを見届けながら、私は杖を持っていない方の手を握りこむ。
「ふっ飛べ」
私がアッパー気味に振った手に合わせて、炎の消えたフェニックスが大きく打ち上がる。その姿には力が入ってるようには見えず、気絶しているであろう事が容易に想像できる。
今まで繰り返した中ではここで上手く気絶しなかったり、したとしても数秒で立ち直ってしまっていたが、今回は復活による劣化が響いてか目が覚める気配がない。
「それなら、これで最後」
落下を始めたフェニックスのすぐ側に転移し、その身体に手をかざす。同じ契約をしてる身としては、滅さずに主人の元に帰してあげたい。
「深く、深く眠れ。《ヒュプノス》」
以前なら迷わず滅していたのに、帰してあげようなんて思う自分に驚きながらも、散々ハメ殺しで消耗させたフェニックスの意識を深い闇の中に沈めていく。それこそ、私の承諾が無ければ2度と目覚める事はない所まで。
「次、目が覚めたら、あなたのマスターが目の前にいる。私のマスターもいるから、その狂気も消せるかもしれない。だから、安心して眠るといい」
落ちてくフェニックスを門の中に吞み込む。これなら万が一起きたとしても、ショゴスとかがなんとかしてくれるだろう。
「となれば、やはりマスター達との合流が最優先。でも、その前に」
今までの戦いのせいでかなり燃えてしまっているが、戦ってる際に探知に引っかかった書庫までは火が回っていない。このまま焼失させてしまうには勿体無いし、それならば…
「私が回収しても問題無いはず。後で返せば」
勿論写本は作るけど。なんて気を抜いてしまった事が、最大の取り返しのつかない失敗だった。
「ティアさん逃げて!」
パリンとガラスの割れるような音が聞こえ、 殺気を感じて振り返ると、そこにあったのは光。引き伸ばした時間感覚で見る限り、王都に突入した際ニンジャが放った物と同質。
元親友の方の勇者が貼ったらしき結界は、まるで薄い飴細工のように砕かれていた。全く使えない、雑魚め。
「門よ!」
私が緊急措置として呼び出した防御用の2つの閉じた門も、片方は秒と持たずに砕け散った。もう片方も恐らく長くは保たない。転移の魔法を組む時間は無いし、となると気は進まないが防御しかない。
「祓い給え清め給え」
普通の魔法では壁にならないだろうという考えから、マスターの使った魔法を模倣する。障壁は斜めに配置すれば、耐えることは出来るだろう。
なんて思い魔法を組み上げた瞬間、私の胸から
「気を抜いたわね?あなた」
ストックしてあった分のHPごと私の命が失われていく。間違いなく私の心臓を刃は貫いてて、血が溢れてきて…見えはしないけど分かる。犯人は…
「エセ、ニンジャ」
「正解」
その言葉と共に、刃は捻られ私から抜けていく。口の中が鉄の味で満ちる。このHPの減り具合じゃどうやったって助からない、よしんば生き残ったとしてもあの閃光に消し飛ばされるのがオチ。
「情報、送信」
最後にマスターとのパスを経由して今の光景を送る。
不意打ちだなんて正直不服ではあるけれど仕方が無い。神様だってダメージロールには勝てない。死ぬときは死ぬ。出目がクリティカルしたりしたら特に。
「でも、あなたは道連れ」
マスターから貰った杖を大きく上に投げ、空いた両手で逃げようとしていたエセニンジャの腕を掴む。指を腕に突き刺したから、そう簡単には逃げられない。
「っ、離しなさいよ!」
「やだよ、バーカ」
マスター風に馬鹿にして、私は残りの魔力を暴走させる。「私」は死ぬわけじゃないけど、個人としての「私」は多分これで終わり。マスターのアレが机上の空論だったらだけど。
そう思った意識を最後に、
不死鳥さんは不憫枠
ニンジャ殺すべし