異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
※第2章までの内容が含まれています。
「メリークリスマスッ!!」
パアーンと、朝起こされたばかりの僕にクラッカーが放たれる。こんな事をしてくるのはイオリさんしか居ない筈なのだが、目の前に立っているのは、ミニスカサンタの格好をした、白い大きな袋を背負う黒髪ロングの美少女だった。
「誰?」
「ひっどいなぁ! 私だよ私! イオリちゃんですよ! 謎パゥワーで、転生前の身体に戻ったのですよ!」
そう言いながらイオリさん? は一旦白い大きな袋を置き、左手を腰に当て右手で裏ピースというアイドルのようなポーズを取る。それは何故か雪の降りしきる森の中にとてもフィットしていて……
「じゃなくて! いきなり何なの!? というか今は夏だよね!? というか元男って話じゃなかった!?」
「少し過ぎたけど、リアルなタイムがクリスマスなんだよ! それ用の番外編をやるしかないでしょ!! あの駄女神が性別だけは元に戻さなかったんだよチキショーッ!!」
最後の言葉を言った辺りで袋を拾い、言い切った直後に白い大きな袋を振り回し僕に叩きつけてくる。
「あばっ!?」
たかが大きな袋と思っていた僕は、思いもよらない強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされた。
「いった! 何が入ってるのさその袋!」
「夢と希望と愛と金属塊だ!」
「何その最後のやつ!? 痛い訳だよ!」
と、そこまで言った時に、周囲のどこにもレーナが見当たらないことに気がつく。そういえばサンタの袋とは、本来はプレゼントが入っているものではなかったか? そんな事が頭によぎり、まさかと思いイオリさんの顔を見ると、案の定口をニヤリと歪めていた。
「そしてこれが! 私とレーナさん合同の! リュートさんへの! クリスマスプレゼントだぁぁぁっ!!」
そう言って白い袋から、明らかにサイズの合っていない大きさの箱を取り出して僕の目の前に置く。綺麗に包装されたそれは、ちょうど人が一人入れる程の大きさで……
「…………」
僕が無言でビリビリと包装を破き、蓋を取り払うとそこには……
「わ、私自身が、リュートくんへの、く、クリスマスプレゼントです……にゃん?」
ダボダボのワイシャツに、ずれたメガネをして、顔を真っ赤にしてニャンとしか表現のしようのないポーズをとったレーナが座っていた。その頭では、猫耳と大きなピンクのリボンが揺れている。
「こ、これでいいの? イオリちゃん?」
「そりゃあもう勿論ね! リュートさんならこれでイチコロよ!」
誇らしげに、清々しい笑顔でサムズアップするイオリさん。そしてそのまま僕の方を向き、サムズアップも向けたまま言ってくる。
「このまま聖なる夜を性なる夜でレッツぱーりぃー?」
「それを狙っていたのか貴様ぁぁぁぁっ!!」
そう言って逃げるイオリさんを追いかけるが、明らかに向こうは手を抜いているようなのに追いつけない。
「リュートさん、忘れてるかもしれないけれど私は鍛冶師! それはこの身体この番外編になっても変わる事はない! しかもここでは諸々の制限も何もないから何でもかんでも作り放題! という訳で私が作り私が足に装備しているのはラァァァディカルグゥゥゥッドスピィィィィィィドッ!!」
元のキャラのロールプレイを意識しているのか、かなりの早口で言いながら、更に加速して遠ざかっていくイオリさん。そっちこそ、こちらがアレを持っている事を忘れてるんじゃないか?
「天の鎖よぉぉぉぉ!」
僕がそう叫んだ瞬間、まだ視界内にいたイオリさんに金色の鎖が殺到しこちらに引き寄せてくる。
「そっちこそ、僕が王の財宝を持ってること忘れてたんじゃない? それに、ここまでやってお咎め無しにはならないって、分かってるよね?」
そう言って僕は、何故か取り出すことの出来た剣を、両手両足を拘束されたイオリさんに向ける。その剣は、三段階に連なった円柱と、その切っ先には螺旋状に捻くれた鈍い刃、三つの円柱は挽き臼のようにゆっくりと、交互に回転を続けている。まあ、所謂『エア』だ。
しかし、最もAUOさんの武器で有名で、凄まじい力を持つその剣を向けられても、ニタニタした笑みを止めないでいた。
「ふふふ……、私の真の姿は幼女という事を忘れたかぁ! 女神様! 今こそ私の変身の解除を!」
イオリさんがそう声をあげると、天空から眩い閃光が降り注ぎみるみるうちにイオリさんの身体が縮んでいった。
「そして! 出ろオォォォォッ! 天っ、じょぉぉぉぉいィィィィィンッ!!」
「蒼矢の呼ぶ声が、聞こえたっ!!」
僕が呆気に取られている内に、イオリさんが指を弾き、閃光の収まらないその場の空間が歪み、黒髪黒眼の人物が現れる。
「天上院! 緊急テレポートッ!!」
「了解だよ蒼矢!」
そう言ってイオリ達は何処かへ消え去り、この場には僕とレーナだけが残った……
◇
「なんて夢を見たんだけど、どう思う? イオリさん」
「よくもまあ、こんな夏にそんな夢を見れたよね……まあ、今度チキンとケーキくらいは作ってもいいかな?」
「リュートくん、こうかな? にゃんっ」
「「グハァッ!」」
現実では、普通の夏の朝。にゃんとポーズをとったレーナを見て、転生者二人から赤い花が咲いた。
遅くなりましたが、メリークリスマス!