異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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第16話 いあ!いあ!

 全てが過ぎ去った後、そこには深い半円状の穴だけが残されていた。そしてそこに、落ちてきた長杖が墓標のように突き刺さる。

 

「く、そ…」

 

 何があって鈴華さんが攻撃してティアさんを殺したのかは分からないけど、何が起こるか予想できてて守る力も持ってた俺が全面的に悪い事は分かる。幾らよく分からない力で痺れてる状態でも、こんな体たらくじゃ雑魚とか温室育ちってバカにされても仕方ないじゃないか。

 そう自分を責める俺に、ベチャベチャと生温かい液体が降りかかる。それは鉄臭く赤い…つまりは血液だという事がすぐに分かる。

 

「最後の最後にやってくれたわね…でも、邪魔な《叡智》を殺してやったわ!この私が!」

 

 その声に不穏な気配を感じ、動きの鈍い身体に鞭打ってうつ伏せの状態からどうにか仰向けになる。そこに居たのは、満身創痍だというのに狂った様に笑う鈴華さんだった。

 左腕は根元から無くなり大量の血が流れ、右腕はミイラの様に乾いていたり火脹れが出来ていたりする。左の足は膝あたりまでが白骨化しており、頭の上には光輪が浮かび背には黒い3対の羽が生えている。

 

「《勇気》は無くなったけどどうでもいいわね、あんなゴミスキルよりもこの《傲慢》の方が圧倒的に強いんだもの!」

 

 そう両手を広げ高笑いする鈴華さんの傷がどんどん塞がっていく。俺の身体の痺れも取れてきた。友達で、これまで戦ってきた人を殺すなんて俺には出来ない。

 

 聖剣を、痺れの取れた手でしっかりと握り込む。

 

 でも、蛮勇かもしれないけど戦わなくちゃいけない。こんな俺にだって戦ってきたプライドがあるし、周りから見たら雑魚でも仲間を殺されて黙ってられる程お人好しじゃない!

 

 転移の準備完了。

 

 奇襲だから声を出すなんて馬鹿のする事。魔法に関しては、さっきのティアさんの置き土産のおかげで魔力が探りにくいからばれてない。鈴華さんは…いや、柊さんは今からは敵!

 

「シッ!」

 

 身体の麻痺も完全に消え、柊さんも回復に専念しているのか空中に静止している。そんな隙を狙い、背後に転移して羽狙いで振り下ろした俺の剣は…

 

「狙いがバレバレなのよ天上院くん。防いでくれって言ってるみたいだわ。それとも防いで欲しかったのかしら?」

 

 その羽に受け止められ、その上ボロボロの右腕で俺自身も吹き飛ばされてしまった。飛ばされた先はティアさんの作り出した大穴で、俺はロクに受け身も取れずゴロゴロとそこに向かって転がり落ちていく。

 

「ちくしょう…」

 

 杖が刺さっている場所の付近まで落ち、未だに浮遊している柊さんを睨みつける。人っぽい生物には特効の筈なのに効かないってなんでさ…

 とりあえず徒手空拳じゃ話にもならないから途中で落とした聖剣を取りに行こうと起き上がった時、すぐ近くでドクンと音がした。何かと思って見渡していると、次いで空間が絶叫する様に軋む怖気の走る音が響きだす。

 

「死んだってのに、しつこいのよぉぉぉ!!」

 

 俺と同じく、その音が長杖から響いてることに気がついたらしい柊さんは、あの極大の閃光をこちらに放ってくる。焼け石に水だけど、忍耐と忠実の合わせ技の結界を貼ろうと思った瞬間、透明な障壁にその全てが吸収された。

 

「はい?」

 

 心音の様な響きも、空間の絶叫も止まらない。惚けてしまう俺を嘲笑う様に、劇的に状況は変化していく。

 地面に突き刺さっていた長杖が浮かび上がり、それに呼応するように辺りに霧が漂い始め、銀色の精緻な細工の施された門がノイズ混じりに顕現する。

 

「ふざけるんじゃないわよ!そんな棒っきれが私の攻撃を防ぐなんて、あっていい訳がないのよ!!」

 

 ドンドン砲撃が撃ち込まれるけど、一切透明な障壁はビクともしない。何かの花の香りが漂い始め、霧が門に収束していく。これ以上は見てはいけない、そう頭では思っているのに体は言うことを聞いてくれない。

 霧の収束が終わり、代わりに銀の門から湧き出たのは神々しいけれど悍ましい、正気を消し飛ばす気配。

 

「来る…の?」

 

 空間の絶叫と心音が止まり、浮かぶ長杖に一瞬だけ揺らめく影絵のような姿が重なる。

 

「全く、マスターの演出好きも困る」

 

 門の扉が弾け飛ぶ様に開く。聞き慣れた声が聞こえるが、門の向こうに見えた光景…いや、見てしまった光景のせいで思考が纏まらない。

 果てのない無限の領域、銀河が見える。時の流れすら狂っているその空間では一が全で全が一。そこで泡立つ眩い玉虫色の球体から目を離せず、自分の認識が段々と曖昧になっていき…

 

「でも、Acta etc fabula.(芝居は終わりだ)とは言い得て妙」

 

 そんな中、門から現れ視界に映り込むのは、無風の中たなびく虹色の髪。何処と無く現代風の格好に薄いベールの様なものを纏い、美麗な長杖をしかと握り締めている。その幼い体躯や顔つきと反する様な神気を纏い、その深紅の双眸で宙に浮かぶ堕天した使いを睨みつけて言う。

 

「私を殺した報い、受けてもらうぞ?《傲慢》」

 

 銀色の門が砕け散り、自分に向けられていないのに震えが来るほどの敵意と殺気が噴出する。自分?あれ、自分ってなんだっけ?

 それを見て、堕ちた使いが叫んだ。

 

「ティア・クラフトォォォォォォォォォッ!!」

「お前程度が、その()を口にするな」

 

 ヨグ=ソトースは、本来時空の制限を一切受けない「外なる神」の副王とされる最強の神性。時間と空間の法則を超越しており、全ての時と共に存在し、あらゆる空間に接しているという。

 つまり、対象を始まりから無かった事にするのも可能である。

 

「Ab ovo usque ad mala.」

 

 怒りをあらわにしながらも、紡ぎ出されるこの世界の言語とも日本語とも違う詠唱。本来なら使えない規模の力の筈だが、黄泉還り直後の今なら問題なく使える様だ。

 

「Omnia……ちっ、逃げたか」

 

 おそらく本人の意思とは無関係に黒い(もや)に包まれて消えた■■■から視線を外し、虹髪をなびかせこちらに向かって歩いてくる。

 

「正気に戻る。私はやらなきゃいけない事がある」

「ハッ!俺は今まで何を」

 

 銀色の門が現れた辺りから記憶がない。アイエェ!?ティアさん!?ティアさんナンデ!? なんてボケてる場合じゃないか。うん。正直何が何だかよく分からないけど頑張るしかなさそう。

 

「戻ったみたい。それじゃあ今から少し私を守る、早急にやらなきゃいけない事がある」

「はい…?」

「せっかく雑魚から気持ちだけの勇者に変えたのに、また元に戻りたい?」

「やらせてもらいます。でも、そのやらなきゃいけない事ってなんですか?」

 

 とりあえず結界を展開してから俺は尋ねる。そんなにすぐやらなきゃって事は思い浮かばないけど…

 

「私の強化は長く保たない。マスターが暴走してる、私から再契約して抑え込む。その間私は身動き取れないから守れ」

 

 ティアさんがそう告げた瞬間、遠くで黒い柱が立つのが見えた。




なんで復活できたたのかは…次回説明できたらいいなぁ
あとアルさんの部分を入れるタイミングが…

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