異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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ロイド君が頑張るお話


第26話 激突

「はっ、辿り着けたのはお前ら2人だけかよ」

 

 扉を開け放ち玉座の間に進入した俺たちを迎えたのは、そんなこちらを馬鹿にしたような言葉と嘲笑だった。

 本来国王が座るべき玉座に座っているのがおそらく海堂。隣の勇者と同じように中肉中背、黒髪黒目なのだが何かがおかしい、何かが狂っている。肉体の異形化は無いように見えるが、雰囲気は異質な物に変質している。それを打ち消すように頭には絢爛たる王冠を乗せているが、行儀悪く組んだ足の隣には凄まじい存在感を放つ闇色の長剣が立てかけられている。

 

「残りはどうした、雑魚だから切り捨てたのかぁ?強欲に飲み込まれた藻部島でか?あの柊とかいう傲慢でか?それとも鳥公に分けてやった怠惰に汚染された女騎士か?」

 

 その言葉が指し示しているのは、イオリ達と明らかに今まで戦ってきた人達の事だと分かる。敵であるこちらをそう見なすのは仕方がないだろうが、俺たちが相手してきた人達すらこいつはまともに見てはいなかったらしい。

 

「まあ何にせよ、あんな化物共がくたばってくれて俺としては清々してるがなぁ!」

「くたばるべきなのは、お前の方だぁっ!!」

 

 その馬鹿みたいな笑い声に、堪忍袋の尾が完全に切れた。

 加減も躊躇も一切しない。無言で武技を発動。最速で、最短で、補助魔法の効果もあり己の限界すら超えた速度で、高笑いを続ける海堂に斬りかかる。

 

「どれだけ速かろうが」

 

 普段から高速移動をしている俺でも認識しきれない速度で接近し振り下ろした必殺の剣は、どういう方法を使ったのかは知らないが火花と共に闇色の長剣によって受け止められていた。

 剣を交えた感覚がおかしい。イオリが鍛え上げ調整してくれた頭のおかしい能力値の剣の筈なのに、鍔迫り合いが続くだけで斬れる気配が全くない。

 

「来ると分かってるもんに、むざむざ当たってやるわきゃねえだろうがよぉっ!!」

「っーー」

 

 そんな事を考えていた俺は、一瞬たりとも拮抗する事が出来ず吹き飛ばされてしまった。いくら空中だったと言っても、普通ならこんなあっさり力負けなんてしない。という事は、

 

「こいつ、今までのやつらと比べちゃダメだ。強い」

「ああもう、1人で飛び出すから。頭冷やして!」

 

 半分程キレている勇者の人が、結界を展開しながら俺に回復魔法をかけてくれた。それと同時に、いつの間にか熱くなっていた頭が急速に冷やされていく。

 

「すみません、助かります」

「俺だって、蒼矢が泣くところは見たくないからね」

「ちっ、折角《色欲》に上手く嵌りかけてたっつーのに」

 

 不快そうに顔を歪め、舌打ちをしながら海堂が玉座から立ち上がる。剣を持った右手をダラリと下げ、気持ちの悪い笑みを浮かべながらこちらを見据えている様からは殺気などを感じる事は出来ない。

 何もないはずなのに。まだ危険性は低いはずなのに。鍛えられた感覚が、警鐘を鳴らし続けている。

 

「んなツマンネーことしやがって、ざけんじゃねぇよ糞共がぁぁぁっ!!」

次元操りし破邪の剣(ディ・ガランティン)!!」

 

 海堂の振り上げに追従して、何もかもを塗り潰す様な黒い斬撃がこちらに向かって振り上げられる。全身が総毛立つ気配のそれを迎え撃つのは、燦然と輝く聖剣の光。大上段から振り下ろされた恐ろしさの中に確かに暖かさのある極光は、闇色の斬撃とぶつかり合い衝撃波を撒き散らした。

 

「おぉぉおおっ!!」

「破ぁぁぁぁっ!!」

 

 周囲に破壊を撒き散らしながら、鍔迫り合いは続く。お互い周りに注意がいってない分、俺は自由に動ける。両の手に持つ双剣を槍に合体させ、床に突き刺した槍を持ち吹き飛ばされないようにしながら右手から伸びる影で狙いを定める。

 

()()()()()()()()()()

「ちっ」

 

 肘から薬莢が排出され、全てを違う世界に消し飛ばす力が発動する。性質上狙いがバレバレなこと力、余裕を持って回避されてしまった。

 そしてその事によって解放された2つの斬撃が、玉座の間に致命的な破壊を齎したのだった。

 

 ◇

 

「あぅあぅ…」

「マスター、ちゃんと歩く。いちいちあれ位で狼狽えない」

「でも男同士だから本音だろうし、えへへ…」

 

 玉座の間的な場所に向かっている筈の一本道。敵の本拠地だというのに恥ずかしいような嬉しい様な気分になって、無意識にニヤけてしまう。今は仕舞っているけれど、尻尾が生えてれば私の身体が揺れるくらいにブンブン振られる事だろう。

 

「私この戦いが終わったらロイドと旅行行きたいなぁ、獣人界辺りに。あ、勿論ティアも一緒だよ?」

「嬉しいのは分かるけど、盛大な死亡フラグを立てない。それと、もし行くとしても私は実体化しない」

 

 まあ、緊急時は別だけど。と、隣を飛行しているティアが付け加える。ふふん、どこ行こっかなー。綺麗な所沢山あったしなー。

 

「覚g」

 

 そんな幸せな妄想の中杖を構えたピンク色の何かが見えたので、輪切りにする勢いで大鎌を回転させて斬り裂き、蹴りで壁に叩きつける。ん?この魔力って…

 

「マスター、この人王女」

「デスヨネー」

 

 白目を剥いて口の端から血を垂らし、気絶して脱力しているこの国の王女様がそこには倒れてた。どうしよう。生きてはいるけど、着てたドレスを斬り刻んじゃったせいでボンキュッボンな体が丸見えになってる。

 

「もげればいいのに」

「同感」

 

 特にその牛みたいに成長してるどこかとかどこかとかどこかとか。ティアも同意見らしいし、いっそ大鎌で喰らえばティアくらいなら…

 

「なんか虚しくなったら止めよう…適当なマントでもかけて簀巻きにしておこう」

「了解。フローに、ギルマスの所まで持って行ってもらう?」

「そだね。それが良さそう」

 

 それにしてもあれだよね、ピンクの髪って…淫ピン王女とでも呼ぼうかな?そんな事を考えながら、適当に取り出した白い布で包んだ後荒い縄でぐるぐる巻きにしていく。

 

「む。マスター、衝撃注意」

「はえ?」

 

 自分のと比べて遥かに豊満なそれを揉んで悲しくなってる中、ティアがそんな事を言った。衝撃注意?私が首を傾げた瞬間、上の方から爆発音が轟いた。

 

「もう、始まってるみたい」

「あわわ、急がなきゃ。フロー!この人をアルさんの所まで届けて。その後は別命あるまで城の上空で待機!」

「きゅう!」

 

 開け放った門からフル装備のフローが飛び出し、脚で王女を掴んで飛び去っていく。よし、これでもう地下の王様以外暴れちゃダメな理由はなくなった。

 

「ティア、今の爆発があった場所は?」

「ここの1つ上階、斜め前」

「ありがと」

 

 短くお礼を言い、頭を戦闘モードに切り替える。まずは、今まで散々やってくれた海堂をどうにか無力化しないとね。少なくとも再起不能レベルまで痛めつけるとかして。

 




【不明なユニットが接続されました】
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【直ちに使用を停止してください】
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