異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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予想以上にイオリンを書いてるのが楽しかったから遅延。
すまない…時間を守れず本当にすまない…


第32話 ロマンの分かるラスボス

 保存は終わった、気を取り直して情報を吐いてもらう。勇者からうわぁ…って目を向けられてるが、そんなのはどうでもいい。

 

「まず、あなたの名前は何」

『無い』

 

 そんな最初と変わらない答えが返ってくるけど、そんな訳が無い。パッと見、あの砕け散った元勇者と契約していた。それならば必ず名前があるはずだ。

 

「邪神でも魔神でも、本来の名前か契約時の名があるはず」

『木っ端な神である僕に、名前は無い』

「ならば、この事態を引き起こした目的は」

 

 名前に関しては他の情報に比べ優先度が低いので、この際置いておく。次はまだ人間界のみだけど、世界を掻き回す様な事を起こした理由を問う。

 本体と接続した事により戻ってきた記憶によると、大罪スキルは元々はかなりの悪行を行った者に送られる、そんなスキルだったはず。

 

『人が堕落し争い合うのを見るため。それを鑑賞するのは、何にも代え難い娯楽だ』

「そう、なら次はあの勇者を選んだ理由」

『都合が良かったから。時折行われる異世界からの誘拐は、壊しやすい人物が多い』

 

 確かに、平和ボケした世界から召喚された人は諸々に耐えられる可能性は低い。マスターやそこでグッタリしてる勇者が異常なだけだ。

 

『だからわざわざ、リィンネートからの干渉を人間界のみ跳ね除けている。異種族は、精神が強くてツマラナイ』

 

 そしてこれが、この世界で人間だけが勇者召喚なんて大規模な拉致の出来る理由。リィンネート然り、この魔神然り、なぜこうも神は自分勝手な理由でしか動けないのか。私とて言えた事じゃ無いのは自覚しているけど。

 

「俺達は、お前の欲を満たすための道具なんかじゃない」

『そんな事は知らない。なぜ神が人の意見なんて聞かなければいけない。人はただただ神の掌の上で踊ってればいい』

 

 青い顔をした勇者の発言を、魔神は即座に切り捨てた。その理論は全くもって気に入らない。不愉快だ。神と人…つまり信仰とは切り離す事なんて出来ない。リィンネートにだって信仰はあるし、非常に不本意ながら私の本体にもある。

 神とは祀り、鎮め、拝跪し、畏れ、敬うもの。無論それらを受けるなら、生きる者が重要になってくる。それを受ける側としては言い方がおかしいけど、生きる者を軽視しているならば名前が無いのにも納得だ。

 

「なるほど、納得した。差し詰めお前の正体は、中途半端に神になってしまった何か」

 

 そしておそらく、リィンネートもいるあの会社にでも就職したのだろう。謳い文句と金払いだけ良い、あの真っ黒な会社に。そして逃げ出したと。そして現在、自分の欲望のままに活動して限られた資源を貪っている。

 

「差し詰め、悪い側面のみに目を当てた、現実から逃げ出したヒキニート。いや、命を弄んでる以上、それ以下」

「ティアさん、幾ら何でもそれは酷い…」

 

 絶対零度の目で魔神を見つめる私に、隣の勇者がそんな事を言ってくる。確かに、こんな奴と比べるなんて理由のあるニートの人に失礼か。

 

『そして1番の目的は、1番の目的は…』

 

 そんな事を思ってる間に、魔神の目に意思の光が戻ってきてしまった。早くどうにかしないとマズイ。

 

『リィンネートの管理するこの世界を、メチャクチャに壊してやる事だ!!』

「喰らい貪れ、《暴食》オーバーイート」

 

 小型の門から溢れ出た白い霧が魔神を包み込み、魔神を喰らっていく。同時に暴食の力で、意思を無視して記憶などを消化する容量で読み取り…

 

「まずい、マスターがピンチかも」

「へ?」

 

 少しだけ食べ切れなかった黒い靄が、楽しそうにドンパチやってるマスターの元へと飛んで行った。

 

 

「空気がうまい!身体が軽い!私は今、生きている!!」

 

 両手を広げてそう叫びながら、数多の銃火器や魔法を逃げ回る魔神に向けて乱射する。本当はクラスのみんなを帰すのに使うはずだった魔力まで使ってるけど、何にも気にせず全力を出すのがこんなに楽しいとは思わなかった。

 

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

 

 増幅兼制御の背後に浮かべた逆十字が鳴動し、一気にMPが削れる。想像上可能だったけど、地上じゃ被害が大変な事になるので使えなかったこの物真似、今こそ放とう!

 

「六算祓エヤ、滅・滅・滅・滅、亡・亡・亡!」

 

 解き放ったのは、同心円状に広がっていく振動。どうにも使い勝手の悪い地属性の魔法、それで出来てしまった地震の再現が何倍にも増幅されて世界を軋ませる。

 

『うおぉおぉぉっ!!』

 

 勿論あの元ネタの空亡さんとは違って常時発生させる事なんて出来ないから、振動が直撃して分解された弾をすり抜け、ボロボロになって血だらけだが五体満足の魔神(ロイドフォーム)が私に突撃してくる。

 

「いらっしゃーい」

 

 大鎌に《暴食》を纏わりつかせ、某神喰いの捕食形態みたいな形を形成する。ふふん、ロイドの力ならこれ位抜けられるって信じてたもん。対抗策は容易済み!

 

「いただいちゃえ!」

『あ、がっ』

 

 魔神(ロイドフォーム)には左腕を犠牲にして逃げられてしまった。けど、そろそろ貼ってる結界に跳ね返った振動が返ってくる頃の筈。

 

『ぐ、がぁぁぁぁぁ!』

「あーあ、やっぱり」

 

 自分の所まで帰ってきた振動を、棺桶で吸収・放出して中和しながら錐揉み回転で落下していく魔神を見る。まだまだやりたい事あったのに、私が終わらせるとでも?

 

超新星(Metalnova)―――雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ(M i s e r a b l e A l c h e m i s t)

 

 魔神が纏っていたのは紛れもなく金属。自分の技じゃないし、詳しい部分までは覚えていない技だけど名前がかっこいいから採用。磁力を操作し、魔神をこちらに引き寄せる。

 

「必殺!」

 

 大鎌を門の中に投げ捨て、右手を大きく天に突き上げる。金属の生成と錬金術をフル活用して顕現するのは男の浪漫。雄々しく回転する、身の丈の何倍もある超巨大ドリル。私は今は女の子だけど、男の浪漫は忘れてなんかない!!

 

「ギガぁあ、ドリルうぅぅぅ、ブレイクううううぅぅぅぅ!!」

 

 超巨大なドリルと一体になって、私は魔神に突進する。螺旋力なんて無いけど、それでも浪漫の塊(ドリル)は魔神を貫通?うん、微塵になったけどこの際貫通でいいや。魔神を貫通した。

 空中でカッコつけてドリルを振り抜き、無理矢理作ったドリルは光の粒子になって空気中に溶けていった。

 

「ふぅ、かんっぺきであーる」

 

 なんでだろう、すっごくエレキギター鳴らしたくなってきた。後で頑張って作ってみよう。出来なかったらamaz○nで買おう。

 そんな必殺技後の余韻に浸る私の視界内で、散った黒い靄が他の2方向から集まってきた靄を取り込んで巨大化していく。

 

「倒してからの巨大化って、なんて定石を踏んでくれる敵なんだろう…」

「マスターは、そういうの嫌い?」

 

 靄を追って戻ってきたティアに聞かれた。フロー(と、その上で青い顔をしてるタク)も元気そうだし何より。あとね、

 

「ううん!大好き!!」

「さっきのを見てると疑問なんだが、俺たちに出来ることってあるのか?」

 

 同じく戻ってきた妙にソワソワしてるロイドがそう聞いてくる。超巨大ドリルなんて溢れる浪漫だからね、ソワソワするのも仕方ないね。

 

「大有りだよ!なんてったって、ラスボスはみんなで団結して戦って倒すのが1番だもん!」

 

 この世界がゲームじゃないって事は十二分承知してるけど、やっぱりラスボス戦っていうのはそういうものでしょ!

 いつぞやのクトゥルフ位まで巨大化した魔神を見ながら、私はそんな事を思うのだった。

 




何故かネタ設定だったはずの物が活躍する事になってる…

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