異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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第37話 後始末

閉じよ(セグヴァ)!」

 

 そんな掛け声と共に、吹き付ける風の音も青々とした大空も魔神の姿も、何もかもが黒に塗り潰された。そして直前の言葉に動揺している俺に、全身がバラバラに砕け散る様な感覚が走った。

 

「あ、がっ…」

 

 隣のイオリが何も声を出してない以上、醜態を晒したくは無いので声を押し殺す。というか、あくまで軽く分配されたダメージだけでこれって事は…

 最悪の想像が頭をよぎり歯を食いしばったまま隣を向くと、よく分からない文字や模様の動き回る球体の中、イオリはグッタリと浮かんでしていた。無事ではあるんだろうけど、心配で手を伸ばそうとして…

 

(ストップロイド。魔法陣の中に入ったら、マスターが死ぬ)

「はぁっ!?」

 

 頭の中に響いた声に、伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。ちょっと待ってくれ、なんでいきなりそんな事になってるんだ!?

 

(マスターの魂を無理に切り離して暴走させたから、反動でバラバラになりかけている。修復中)

「ちゃんと、大丈夫なんだよな?」

(もちろん、と言いたいが現状じゃ五分。ロイド、固有結界は発動したまま?)

「あ、あぁ。念を押されてたからな」

 

 この結界が解除されたら王都が蒸発するなんて言われたら、絶対に解こうとなんて思えない。真っ暗なこの世界の中でも、魔力が消費され続けているからおそらくキチンと発動しているだろう。

 

(それじゃあ、しばらく発動し続けて。開け(ラータイプ)

 

 その言葉が鍵になっていた様で、次の瞬間には周囲の黒い壁が消え去った。途端に黒に変わって広がった視界に写っていたのは…

 

「なんだよ、これ…」

 

 眼下に広がっていた雲海は見渡す限り何処にも無く、強く吹いていた風は止んでいる。景色自体が時折ブレる中、こぶし大の小さな黒い何か意外見渡す限りには何も無い。そんな、とても寂しい世界だった。

 1つだけある異物と言える黒い何かから凄まじい悪寒を感じる以外、この世界には何も残っていなかった。

 

(要求、この固有結界を安定させながら段々縮めて)

「それになんの意味が…」

(いいから早くやる。時間との勝負)

 

 なんだかよく分からなけど、広げていた固有結界を段々小さくしていく。そしてこぶし大の黒い何か、それが立方体の結界の中に取り込まれ、イオリの胸辺りに引き寄せられる。悪寒はそれで消えたけど、なんでそんな物を…?

 

  「何をやってるんですか?」

(マスターの、飛び立った魂の回収。出来る限り回収して、足りなければ私の魂を削ってマスターを治す。後、反動で砕けた魂の修復)

「でもそれって、ティアさんが駄目になるんじゃ…」

 

 さっきのイオリの状態を聞くと、ティアさんまでそうなってしまうんじゃないかと思ってしまう。

 

(一応私は神。人とは作りが違う)

「それならいいんですけど…」

 

 目的ははっきり分かった、だけど自分がやれる事は他には無いのか?やっと隣に立つ事は出来る様になったけど、今だってまだ俺は守られる側だった。そんな自分が、情けなくてカッコ悪くて…

 

(気にする事は無い。そんな機会、これから沢山ある)

「そうだったら、いいですけどね」

 

 結界を安定させ狭めながら、はぁとため息を吐いて答える。肝心な時に役に立たない俺なんかが、このまま隣にいて良いのか?また無茶をするのを止められなかった俺が?そんな疑問が頭をグルグルと回る。

 

(結界は、もう縮めなくて大丈夫。後、マスターの隣に入れるのは寧ろロイド、君以外にはありえない)

 

 可能な限り縮めた結界の中、黒い球体に半透明な何かが集まっていき、カタカタと震える長い棒にそれは吸収されていく。半透明な物が飛び散ってしまった魂の欠片で、ティアさんを通してイオリを治しているのだろう。なんで俺、元々は魔法には全く詳しくなかったのに分かるんだろう…

 

(治してる限り、マスターの中でロイドの存在は大きい。それに他の人だと、マスターには付いてけない。それに、本音は誰かに盗られるのはイヤじゃない?)

「確かに、誰にも譲りたくは無いですけど…」

(それなら良い)

 

 そんな声が頭に響いた瞬間、目まぐるしく動いていた魔法陣が急激に収束して消え去った。そしてそれと同時に門の中から勇者の人がフローと一緒に空中に投げ捨てられ、入れ替わる様に謎の黒い球体が門の中に収納された。

 ゆっくりと落下していくイオリを抱きとめ、心臓も動いてるし息もしている事を確認して安堵のため息が漏れる。

 

(治しはした。無事に目覚めるかは五分)

「五分って、そんなに低いんですか?」

(これでも、十二分に高い方。あんな無茶をしたなら、本来は死んで当然)

 

 そんな風に聞こえてくる声が、段々と雑音が混じって聞き取りづらくなっていく。やっぱりティアさんの方にも何かが合ったんじゃ、そんな心配はすぐに否定された。

 

(力の使いすぎ、流石に少し休眠する。後は頼んだ、英雄)

「俺は、英雄なんて器じゃないですよ…」

 

 愚痴をこぼしながらも俺は、結界を解いてフロー(とその上に乗ってる勇者)と共に地上へと降りて行った。鈍色の雲が空を覆い尽くす、廃墟の様な王都へ。

 自分の物とは思えないとても虚しく軽い勝利の実感と、この手に抱いたイオリのあまりにも軽い、けれど大切な重さを感じながら。

 




イオリお姫様抱っこ中
次回エピローグ

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