異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
なにこの充実してそうな主人公()
かなり投稿が空いたので初投稿です。
番外話 日常風の話
それは工程を破壊的なまでに短縮してない旅の途中、街でしばらく泊まる宿を探している時の事だった。雪の降る夕暮れ時の獣人界は、寒いけど綺麗だと思う。
「そういえば、なんだか」
「ん?」
「何か欲しい物ってないのか?イオリ」
隣を歩くロイドが、ふとそんな事を聞いてくる。正直私としては、おんなじマフラーしてて手も繋いでるから満足なんだけど…
ティアはあれから若干霊体化してる事が多くなった。大鎌は直してる最中だけど、やっぱり元の完全な姿にはほど遠いから疲れるらしい。後少しだし早く直さないと…って、それは置いておいて。
「いきなりどうしたの?」
「いや、ちょっとな」
そう言うロイドの視線を追うと、彼氏らしき男の人に何かを買ってとねだる女の人…つまりカップルがいた。あっ、なるほど。だから欲しい物は?っていう事だったんだね。
「うーん、欲しい物って言ってもなぁ…戦闘関連のは自作が1番だし、薬とかも自作か地球産が安心。ロイドからのプレゼントなら、変なものじゃない限り嬉しいけど……」
となるとアクセサリーだけど髪留めは一個で十分だし、ゆ、指輪はまだ早いでしょ?腕輪は私としては装備品認識だからなし。壊れた
「やっぱりそうなると、美味しいご飯?」
「ちょっと待つマスター、これは見過ごせない。色気より食い気か」
「だって事実なんだもん…こうしてるだけで私、結構満足だし」
そう言って、例のカップルがしてるみたいにロイドの腕を抱き込んでみる。なんかこうしてると暖かいし、ポカポカした気持ちになる。
…今気づいたけど、この大通りに入ってから地味にロイドに車道?側をキープされてた件。
「それなら、手伝って欲しい事とか、マスターは出てこないの?」
「言ってくれれば、出来る限り手伝うぞ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、いや、うーん…」
手伝って欲しい事って言われて、即座に思いつくのはやっぱり大鎌の強化修復。だけどアレ、絶対に心配されそうな造り方しかしてないから何か言われそうだし…
「マスターは、後で大鎌を直すのを手伝って欲しいと考えてる」
「あ、ちょっとティア!」
「俺に出来る事があるか分からないけど、少しくらい手伝わせてくれないか?ここ最近、夜中までやってただろ?」
「バレちゃってるし…」
手を繋いでなかったら所謂orzな体勢になりそうな勢いで、私はがっくりと項垂れる。これ以上変なことをティアにバラされても困る…困らないけど心配かけちゃいそうだし…
「うぅ、じゃあ宿とってご飯食べた後手伝いに来て欲しいな。場所は言わなくても分かるよね?って、みんなで食べるから関係ないか」
「それもそうだな」
「ねー。あ、ティアは強制参加だから」
「解せぬ」
怒られるのを覚悟して、私はロイドに手伝いをお願いするのだった。ティアは絶対に強制参加です、慈悲はない。あとは言っておくとしたら、
「ロイド、今夜は寝かさないよ?」
出来るだけからかうように、使ってみたかった言葉を言ってみるのだった。成功するにしろ失敗するにしろ、寝させないし寝れないのは確定だもん。
◇
そんな流れがあって俺は今、
「今更だけど、ようこそ私の工房へ」
イオリのスキルで出来ているらしいこの世界に、満面の笑顔で迎えられていた。相も変わらず真っ白な空間に頭が痛くなる量の魔物が積まれてたり、武器防具が森のようになってたりと常識では見られない光景が広がっている。
それだけならば正直見慣れてる光景だけど、その中に普段と違って全く見覚えの無いものが一箇所だけあった。
「えっと、俺って確かあの大鎌を直す手伝いに来たんだよな?」
「うん、重要だけど重要じゃない役割を任せる事になるけど…」
「それじゃあ、あれってなんだ…?」
「直す大鎌だね!」
どうせマトモじゃないと予想はできていた。だけど、物を直しにきた筈なのに何か脈打ってる赤く所々が黒い大きな球体を大鎌って言われるのは、流石の俺でも完全に予想から外れていた。
「俺にはどう見ても大鎌には見えないんだが…」
「えっと、その事なんだけどね?」
俺の疑問にそう前置きしてから、モジモジと指をツンツンする可愛らしい仕草をしながら話し始めてくれた。
「あの浮かんでるのは、私の血とか魔力とか諸々が溶け込んだ液体の中に大鎌のパーツがバラバラに浮かんでる状態の奴で…うん!簡単に言うと、私が潜って直して再起動するんだよ!」
「マスター、なるべく早くね」
イオリの言う通りならば、血とかが溶けている球体の下で杖を構えているティアさんからそんな声が飛んでくる。おそらく省かれた所は俺が聞いても理解できない部分だろうからいいけど、何をすればいいのかが全く分からない。
「それでね、私がロイドに頼みたいのは私の身体を任せるのと、失敗した時に最低1分間逃げ回ってもらう事だね」
「逃げる…?」
「うん、最大最速で逃げて欲しいな。私を抱えて」
なんで武器を直すだけの筈なのに、なんでそんな事になるんだろうか?頭が痛くなってくる。そんな俺の様子を見てか、手をパタパタと振りながら説明を続けてくれた。
「だ、だってロイドにもティアにも必殺技があるのに、私だけ使い勝手のいいやつがないじゃん。だからちょっと新機能を追加したんだけど、それが暴走したらとんでもない事になるから…」
「それで、追加した機能って言うのは?」
「私の所持してる作った全ての武器の性能を、1分間だけ大鎌の性能に上乗せする必殺技…かな?」
えへへ…とでも言えそうな感じで笑っているけど、あの武器の山が全て上乗せされるって、明らかに過剰な力だと思う。俺も言えた事じゃないが。
「まあそういう小難しい話は置いておいて、早くやっちゃお!」
「はぁ…分かったよ」
何かに巻き込まれるのはいつもの事だし、諦めて手を引かれるままに球体の近くへと進んで行く。近くにいると、微かに血の臭いが漂ってくる上にゾワゾワとした感覚が全身に走る。
「それじゃあ、改修した大鎌の第1回起動実験を始めまーす!イェーイ!」
「イェーイ」
「い、いえーい」
そんな漂う負の雰囲気とは正反対の雰囲気がたった一言で形成されて、なんだか心配とかがどうでもよくなっていくのを感じる。魔神だってどうにかなったんだ、物事やれば案外どうにかなるだろう。
「それじゃあティア、魔法の補助と命綱よろしく。ロイドは私の身体を……えちぃ事しないでよ?」
「了解」
「分かったけど、そんな事するか!」
若干言葉を間違えたかと思ったが、ただ単にからかわれていただけのようだ。そんな短い会話が成されて秒と経たずに、俺達を中心に魔法陣が幾重にも重なり合いながら展開される。
「没入ー」
それに見とれている間に、ドサリと糸が切れた人形のようにイオリが崩れ落ちる。身体を任せるって話だったから、さして驚く事じゃない。
「それで、結局どんな作業をしてるんです?これ」
イオリをおぶりながら、杖を構え球体を見上げるティアさんに聞いてみる。
「簡単に言えば、大鎌の修復。具体的な内容は、悪霊の調伏、魔法の再構成、パーツ同士の連結、再契約」
「悪霊って…」
「元々吸収していたモノ。一度暴走自爆させたせいで、制御不能に陥っている。そこに精神だけで飛び込むのは、大時化の海に小舟で出るような事。いわば灯台の役割を果たすのが、私達」
「色々納得出来ました」
ついでに魔神から出てきた球体とか危ない素材もわんさか放り込まれてるとか言われたら、やっぱり後で一回怒らないといけない気がしてくる。…え、達?
「俺もそんな重要な役割を?」
「勿論。マスターと寝ておきながら、自覚がないとは許せない」
「ちょっと待って下さい。それじゃ勘違いされます、誰もいないけど!!」
あれは俺が泣き疲れて安心して寝ちゃっただけだ。その、一緒のベッドで寝たのは結果論であって俺から望んだわけじゃなくて…って、俺は一体誰に言い訳してるんだ?
そんな疑問に頭を捻っていると、背負ったイオリがピクリと反応した。さっき書いた通りならもっと時間がかかりそうな物だけど、何かトラブルでも起きたのだろうか?
「どうしようどうしようよし閃いた!私のカウントに合わせて1個目の必殺技をまっすぐ撃ってロイド!」
背中から飛び降りたイオリの声があまりにも切羽詰まっていたので、言われるがままに必殺技を撃つ体制を整える。
「さん、に、いち、今!」
「自由を!」
俺の突き出した一撃必殺の拳と、球体から発射された見覚えのある黒い靄が衝突し、後者が一瞬で霞と消えた。それと全く同じタイミングで、浮かんでいた球体が急激に萎んでいく。
「危なかったぁ…まさかあの欠けらに魔神の怨念がいるとは」
「危なかったじゃないだろ」
ぺしりとイオリの頭を軽く叩く。鍛治を禁止された時のイオリを見ちゃってるからやらないけど、毎度毎度こんな事になるのなら我慢してもらいたい。ただの心配しすぎかも知れないけど。
「あぅ、ごめんなさい」
「マスター、反省してる?」
「…ここなら、負ける要素無かったんだもん」
やっぱり我慢してもらった方がいい気がしてきた。それか、少なくとも俺かティアさんのどっちかが、すぐに助けに入られる状況にいるとか。
「よいしょっと。こほん、これで一応終わりだね!」
球体の中心から落下してきた大鎌をキャッチしたイオリが、作業の終わりを告げた。始めてから10分も経ってない気がするんだが……
「その大鎌、銘は?」
「ふぇ、銘?」
そんな風に発生した沈黙を破ったのは、ティアさんのそんな質問だった。確かに使い続ける武器なら、すぐに名前を確認しないといけない気がする。少し前までの俺の武器みたいに、ふざけた名前かも知れないし。
「うーんとね、うわぁ…」
「どんな名前なんだ?」
前までイオリが持っていた大鎌、その色に深みが増した他には真っ暗な鎖が追加された大鎌。それを見てなんとも微妙な表情しているイオリに聞いてみる。
「《刈り取る者》だって…メギドラオン撃ったからかなぁ」
じゃらんと独りでに鎖がなり、勝手に大鎌が畳まれていく。刃や柄の部分が格納されていき、ほぼ毎日見ていた銃の形に。そして鎖は背負って下さいとでも言わんばかりに垂れている。
「マスターなら、いつかこうなると思ってた」
上手く言葉には出来ないけど、ティアさんの言うことには全面的に賛成だった。
イオリとAUOの相性が悪くて書き進められないFate編…
大鎌()を復活させておかないと、勇者の方の話がおかしくなったから書いた日常(とは名ばかりの)話でした。
道具製作EXだと、人工霊とか作れるらしいから仕方ない(やっつけ)