異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
福袋ガチャは課金なので引きたくない…けど☆5ぉ…
「はふぅ…」
下半身を包む暖かさ、
「コタツには勝てなかったよ…」
私は普段と違って、完全に気を抜いて意識を夢の世界に飛ばす。漂ってくるのは懐かしい匂い、感じる気配は大好きな人達だけ。
そう、私は今地球に…つまり実家に帰ってきていた。
◇
「すぅーはぁー」
地球に転移で戻ってきてから数十分、私達3人は白沢家…まあ私の実家の前にきていた。勿論見た目は前来た時と同じで偽装している。
「いきなり深呼吸なんてしてどうしたんだ?」
「だ、だってさ! い、今の私とロイドって、その、恋人同士、な訳だし……なんというか、結衣姉に絶対弄られるだろうし、嬉しいけど恥ずかしいっていうか…」
「俺の父さんと母さんにはあんなに堂々としてたのにな…」
「あれは別なの!」
本当にあれは別なのだ。シンディさんには命を助けられてるし、メイさんとは共闘したからなんとなく平気だったけどパパとママに言うのは理屈が違う。
「行方不明だった息子が、帰って来たら娘になってて、砂糖を吐きたくなる程イチャイチャしてる彼氏を紹介してくる。なおかつ、向こうの世界を救った英雄の1人で、私という邪神と契約してる。ロイド、理解できた?」
ティアが端的に私の置かれた状況を説明してくれた。改めて考えると酷いね。精神病院紹介されるレベル。
「はい、これ以上ない程に。なあイオリ、ご両親卒倒するんじゃないか?」
「結衣姉から説明してもらってるだろうから、信じてはないだろうけど卒倒は……どうだろう、分かんない」
パパは2次元感全開でパパって呼べば多少は落ち着いてくれるかもしれないけど、ママの方はなぁ…凄く、すっごく心配かけちゃってただろうから叩かれるくらいの覚悟は出来ている。勿論、違うって、否定される覚悟も…ないことは、ない。
「とりあえず、当たって砕ける」
「そうだね! いつまでもここで話してるのもおかしいし」
心が壊れてしまいそうな想像を振り払い、ロイドの手をぎゅっと握る。うん、少しは落ち着けた。大好きな人達が隣にいる、恐れる必要は一切ない!
そう鼓舞しても若干震える手で、私はインターホンを押す。するとそんなに時間は経たずにドアがガチャリと開いた。
「あら、お帰りなさい蒼矢。寒かったでしょ? ゆっくりしていくといいわ」
「うん、ただいま! 結衣姉」
「後でゆっくり、ロイド君との事も聞かせてね?」
「あぅ…」
「お邪魔する」
「お邪魔します」
優しく出迎えてくれた姉ちゃんに涙しそうになり、ロイドと繋いだ手を見られてそんな事を言われ私はほっぺが熱くなるのを感じた。多分顔真っ赤なんだろうなぁ…
うう、そんなにニヤニヤしないでよぅ…
「それで、今回蒼矢達はいつまでこっちにいる予定なの?」
随分と来たのが前に感じるリビング、みんなでそこにある炬燵に入りながら姉ちゃんはそんな事を聞いてきた。隣にいるのがロイドだから、正直凄く落ち着かない。密着してるし顔から火が出そう。
「やる事もなくなっちゃうだろうから、1週間と少しかな。パパとママにも会いたいし」
「ロイド君はそれでいいの? 折角のお正月なのにご両親といなくて寂しくない?」
「はい。向こうの世界にはお正月っていう風習はありませんし、こっちにくる前に少し一緒にいましたから」
ロイドが言う通り、私達はここ何日かメイさん達と一緒にいた。正確に言うなら、多分私達が来たせいで起きた問題を一緒に解決してただけだけどそんなに意味は変わらないと思う。
地球に来るのが大晦日当日の朝になっちゃった原因もそれなんだけど、詳しい事は割愛する。昨日のお昼頃、もう面倒になって更地にして焼却してきただけだし。病を振りまく巨大ネズミ及び小型の眷属とか、戦うのも説明も正攻法でやってたらいつまでも続いちゃうもん。
「ねえねえ結衣姉、大晦日だからいると思ってたんだけど…パパとママは?」
「買い物に行ってるわよ? ほら、お正月だから伊達巻とか紅白蒲鉾とか色々あるじゃない」
「あ、そっか」
そういえばそうだったなぁと思い出したのとほぼ同時に、車がバックする音が聞こえてきた。むぅ、地球だからって気を緩め過ぎてたかもしれない。
「それじゃあ、私の事は説明してあったりするの?」
「ええ、私も天上院くん、それに檜山先生だったっかしら? 3人で説明したわ。公式の情報であなた、海堂くん、藻部島くんの3人が死亡者って公表された直後にね」
「そんな事になってたんだ…」
そっかー…私、もう死人扱いかぁ。仏壇に私の写真とかあったりするのかな? 自分で自分にお線香をあげる…不思議すぎる気分になりそう。
「ママは信じてくれなかったけど、多分あなたを見れば一発だと思うわ。何もかも変わっちゃってるけど色んな癖はそのままだし…何より、姉である私が見抜けた事を親が間違えるわけないじゃない」
「ただいまー、知らない靴があるけど誰か来てるのかしら?」
姉ちゃんがそう自信満々に断言して、リビングのドアが開かれた。現れたのは、会う機会こそ少なかったけど見間違えようもない私の両親。大量の荷物をビニール袋を携えたパパと、カバンしか持ってないママ。
コタツから出て私は服装を整える。そして、惜しげなく銀髪も晒し、明らかに困惑の表情を見せる2人の前に立って、恐怖心を押し殺して言う。
「他のみんなと比べるとすっごく遅くなっちゃったし、あり得ないほど変わっちゃったけど……ただいま、パパ、ママ」
そのまま最後まで言い切ろうとしたけど、平気な顔が保てない。やっぱり怖くなってパパとママの顔が見れない。堰を切ったように涙が出てきて視界が滲む。そのせいか声は震えてきた。うん、でもこれだけは絶対に言いたいんだ。
「別に信じて、くれなくたって、いいし、幾らでも、違うって、偽物って、拒絶して、否定したっていい、けど! それでもっ、帰ってきたって、それだけは、どうしても、パパとママに、伝えーー」
そこから先は私は何も言う事が出来なかった。だけどそれは、涙で喋れなくなった訳じゃない。
遠く遠く、忘れそうな程昔の記憶にあった匂いが私を包み込んでいた。本能的に安心する温もりに涙が止まらない、とても強いけど優しい力で抱きしめられるだけで心がとても安らいでいく。
だけど、それでも私の心から恐怖の感情はこびりついて剥がれない。前の姉ちゃんと同じ様に、抱きしめてくれるママの背に手を回していいのかが分からない。
「馬鹿ね」
迷い迷っている私の耳元で、涙ぐんだ声でそう言葉が呟かれた。けどそれは決して否定するような声音じゃなくて、私の事を安心させる様な柔らかく穏やかな声だ。
「幾ら一緒にいられた時間が少なくて、まるで別人になってても、泣いてる自分の子どもの事を間違えたり、まして拒絶も否定もするわけないじゃない」
「う、うぁ…」
「お帰りなさい、蒼矢」
もう限界だった。言葉に出来ないくらい、もう、なんか、アレなのだ。
恥も外聞も投げ捨てて、私は泣き噦るのだった。
◇
「……オリ、おーい、イオリ!」
「ふぇ…?」
体を揺らされる感覚に、私は目を覚ました。
「年越しするんじゃなかったのか? 眠いなら眠いで、ベッドで寝てきた方が良いと思うぞ?」
「らいじょうぶ、おきてう」
そうだった。確か年越しまで起きてようと思って、炬燵の魔力に負けて寝ちゃったんだった。んみゅ、起きたばっかりなせいか呂律が回らない。とゆーか、頭もまだよく回んない…
「それならまあ構わないんだが…ああもう、涎垂らしっぱなしにして」
そんな私の微睡んだ思考は、ロイドが私の口を拭った事により一瞬で切り替わった。
妙にゆっくりと流れる時間の中、涎が垂れていたであろう私の口を拭ったロイドの指が、そのまま口に運ばれていくように見えた。実際には違かったと思うけど、この時の私には確かにそう見えた。
「あむ」
「おわっ!?」
私は即座にその指に食らいついた。生身の方だし痛いだろうから歯は立ててないけど、これでどうにか阻止できた。ふふん、暴食の名前は伊達じゃないのだ。
「
そう言って安心している私と対象に、ロイドは顔を真っ赤に染めて横を向いている。そしてようやく起動しきった頭で、私は自分をじっと見つめる視線を感じた。……ぁ、
「あらあら、お熱いわね」
「話に聞いてるより、なんか甘いわね…」
ばっちりママと姉ちゃんと目があった。もう確認しないでも分かる、秒と経たずに私の顔はリンゴみたいに真っ赤になってるだろう。しかも、この状態で固まってしまって動けない。
「パ、パパはそんな事許しませんよー!!」
「ちょ、ちょっと待ってパパ! 目が、目が絶望的にグルグルしてるから!!」
「大体息子じゃなくて娘にそんな歳から彼氏がいt」
「
超高校級な絶望の残党な感じで目がグルグルし始めてるパパを抑えるために、咄嗟に魔法を使って動きを止める。それを見て感心してるママと姉ちゃんも、ニヤニヤするのやめてよ…あぅ。
「これにて、おしまい?」
「ティアもお茶飲んでゆっくりしてないでよぉ!」
年越しも間近だと言うのに、どんちゃん騒ぎが始まる。忙しいし疲れるけど、何よりこう言う時間が……大好きなみんなと笑いあえる時間が、私にはどうしようもなく愛しく思えるのだった。
「「「「「「新年明けましておめでとうございます!」」」」」」
一足先にハッピーニューイヤー!!
-追記-
最近投稿する度にお気に入りが減る定期