異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
戦闘は、戦闘はもうFateの方で書いたから…
トンデモナイ爆弾を残してティアが旅立った翌日、結局私はロイドと2人でギルドでクエストを受け、その特別な魔物とやらが出没する場所へと来ていた。
「てっきりティアのお巫山戯だと思ってたけど、まさか本当になってるなんて…」
「来る途中、去年の俺はこれで路銀を稼いだって言ったろ?」
「うん。でも、実際見てみると凄くビックリなんだよ…」
獣人界の一角であるここには、物凄いチョコレートの香りが漂っていた。それもそのはず、今私の視界に写っている物は9割型チョコレートなのだから。
生い茂る木々は、全部お菓子の○こりの切り株みたいになってるし、草もなんか茶色で白い花が咲いている。遠くで噴火してる火山からは、なぜかドロドロと溶けたチョコレートが流れ出している。挙げ句の果てに、魔物までチョコレート化している。全くもって意味不明である。
「そういえば、魔法は通じるタイプが限定されてるって話だったよね」
「焼くか冷やすかしかないって話だもんな」
そのチョコレート化した魔物は、この時期になると無限に沸く上に耐性がキツイらしく処理が面倒なんだとか。戦闘力はそこまで高くないそうだけど、物理ダメを半減して魔法も焼いたり冷やしたり以外は微妙なダメージしか通らないらしい。
因みにかなり汚れるって話だったから髪は下ろしてるし、装備もほぼ普段着に大鎌だけの超軽装だ。些か以上におかしな火山だけど、それがあるおかげでそこそこあったかいしね。
「よいしょっと。うん、普通にチョコだね」
好奇心のままに近くの木を大鎌で一閃し、切り落とした部分を食べてみた。結果は、中にクッキーの詰まったチョコレートだった。普通に美味しい。
「ほら、行くぞイオリ」
「うん、分かったー」
とりあえず残りを大鎌にプレゼントして、少し離れてしまっていたロイドの元へ走って行く。服装も相まって、なんだか本当にデートに思えてきたのは、恥ずかしいから秘密だ。
それ以外にもう1つ、私がドキドキしてる理由がある。
(このクエストをクリアしたカップルは、その相手と幸せになれる…ねえ)
ギルドの受付嬢さんがコッソリ教えてくれたこの迷信。ありがちだなぁとは思ったけれど、やっぱり嬉しいものは嬉しいのだった。あ、去年ロイドは1人でやってたんだって!
◇
「カカオーッ!」
ドラクエのどろにんぎょうみたいなチョコレートの魔物。言うなればチョコにんぎょうが、いかにもな奇声を上げて変態的な軌道で襲いかかってくる。この魔物は、さっき食べて見たけど不味かった。カカオの%が高いんだろうきっと。
「これでラスト!」
そう叫びつつ振った大鎌が、一挙に6体の魔物を両断した。そして見渡す限り、一個連隊規模で森から出てきたチョコにんぎょうも、残念ながら今ので打ち止めのようだった。
それくらいなら魔法で一掃すればいい? 時折チョコをつまみ食いしてるんだよ? 運動した方がいいに決まってるじゃん!
「それにしても、全身がチョコ
一息ついて自分の格好を見てみると、返り血ならぬ返りチョコで服も髪もベッタベタになっていた。汗とチョコが混じって中途半端にドロっとしてるから尚のこと気持ちが悪い。
「えっと…たしか…《クリーン》!」
随分と使ってなかった生活魔法の呪文。存在を忘れかけてたそれを使い、一気に汚れを落とす。これって確か返り血とか落ちにくかったはずなんだけど、一気に全部落ちたって事は判定は完全にチョコなんだね…
「悪いイオリ、1匹抜けた!」
「はいはーい。シッ!」
汚れも落ちたし心機一転。特に抜けてきた魔物を見ず、両手で持った大鎌を横に薙ぐ様に身体を回転させて振る。そして、私の自慢の大鎌は敵を抵抗無く両断し…
「ふべっ」
振り切った所で、全身に生暖かくドロリとした物が降りかかった。うわ、服の中まで入った。むせ返る様なチョコの匂いで危険は低いと判断して、とりあえず目元だけを拭って視界を確保する。
「えっと、その…大丈夫…みたい、だな」
戻った視界では、義手に槍状態の双剣を保持したロイドが顔を赤くして目を逸らしていた。なんでか分からず手を持ち上げて…即座に理由が分かった。
私の全身は白濁した粘性の高い液体でベトベトになっていた。
直前までの運動で身体は火照っていて、手からボタボタ落ちるチョコレートが何か卑猥な物に見える。念のため魔法で自分の姿を確認してみるとチョコは全身にかかっており…更に今目の前で、つーと私の脚の付け根から太ももを伝って、ホワイトチョコレートが地面に流れ落ちて行った。
「っ!」
その場面をしっかり見てしまったらしきロイドは、こちらをチラチラと確認しながらも真っ赤な顔を必死に背けている。視力が良いのも困りものだね。いつも一緒にいるからわかる、若干前かがみになってきてるよロイド。後、一押しかな?
「もう、ロイドのせいでベトベトだよ…」
「流石にそれは狙ってるよな!?」
私の巫山戯た言葉に反応したロイドがこっちを向くけど、首を傾げる私を見た瞬間凄い勢いで顔を逸らす。なにこれ楽しい、可愛い。でも流石にこのままの格好でいるのは気持ち悪いし…
「《クリーン》って、あれ? これは落ちないんだ…」
さっきと同じ魔法を使って見たけど、ホワイトチョコレートは落ちなかった。判定が厳しい。指に付いてるのを舐めてみる限り、ちょっと気分がふわふわするだけでただのチョコみたいなのに。
「うーん…ロイド、ちょっと向こう向いてて」
「あ、あぁ」
そう言ってロイドは私とは反対側を向く。うーん…なんかキュンキュンするし、もうちょっとイタズラしたい。
と言うわけで、軽く魔法で壁を作ってから下着を含め、チョコ塗れの服を全部門の中に投げ入れる。そして地面に散らばるチョコを水の魔法で操作し、いつだったか見た童貞を殺すセーター状に形成し身に纏って壁を撤去する。因みにこの間5秒、誰にも見られはしない。
「ねえねえロイド、こっちを向ーいて!」
「もういいのか?」
「うん!」
探知の魔法には、ここら一帯に人間の反応はない。それなら安心してできる。
不思議そうに言うロイドがこっちを向くのに合わせて、私も背伸びをして高さを合わせる。そして完全に目と目が合い…
「えいっ」
「んっ…」
不意打ちで、本能の赴くままにチューしてみた。子どもっぽい言い方だけど、1番これがしっくりくる。今更だけどチョコ塗れだし…うん、言うなればチュコか。3倍返しは婚姻届?
ほんの数秒だけその状態で固まり、私の方が恥ずかしさに負けてロイドから数歩距離を取る。
「え、えっとね、用意はしてあるけど…本命だし一足先にあげる!」
「…」
顔を真っ赤にしてロイドがフリーズしている。赤いのにフリーズとはこれ如何に。でもまあ大チャンス。いっそこのまま私自身がプレゼントって事に……だめだ、リボンが足りない。
「いえーい!」
流動するチョコレートという見た目以上の効果が無い服装で、放心するロイドに正面から私は抱きつく。そしてそのまま頭をマーキングでもするかの様にグリグリと押し付ける。誰にも渡さないもん。
「ちょ、ちょっと待て! それ服じゃなくてチョコだったのかよ! 当たってる、当たってるから!」
「あててんのよー、がぶー」
チョコの付いていたロイドの首を甘噛みし、ペロペロと舐めてみる。なんだか楽しくなってきた。気分はふわふわするし、なんだか暑くなってきた気もする。
「噛まれるのって、ちょっとしたトラウマなんだからな!」
「ひゃんっ!」
私を引き剥がそうとジタバタするロイドの右手が、私の服を貫通しおヘソに当たった。その予想外の刺激に、ついロイドの耳元で変な声を出してしまった。
「ロイドのえっち…」
「謝るけど今のは事故、事故だから!」
体勢をだいしゅきホールドに移行、全身をロイドに押し付けつつ首元に顔をうずめる。なんだかぽーっとする頭のまま、安心する匂いに包まれていく。
「これ以上は本当にマズイから! なんで
「んもぅ、ぬがしたいだなんてしかたないにゃあ…ちゃくそー、ふだんぎー」
胸にかけたペンダントから魔力が溢れ、チョコレートのセーター()を弾きながら私に装備されていく。そして、普段着の格好に戻ってすぐ、
「ろいどー、だいすきー。えへへ…」
私はそう言って、ロイドに抱かれたまま意識を夢の世界に飛ばしたのだった。
後から聞いたのだが、この時私にぶっかけられたのは少しお酒の成分が混じっただけのホワイトチョコレートだったらしい。普通の人なら何も問題はない程度のアルコールだったのだが、パッシヴに発動してるスキル群の所為で敏感に反応しちゃったらしい。
そして翌日、完全にこの時の記憶が残ってたせいで、ロイドとまともに顔を顔を合わせる事が出来なかった。というか、この日から暫く赤くなってロクに話す事も出来なかった。
深夜テンションって怖い。
ロイド君のオリハルコン自制心。