異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
魔神柱、折れてるの早いなぁ…
※完結までの内容が多分に含まれています。
「ねぇティア、全然見つからないけど本当にいるの?」
「いるはず、かなりの高確率で。リィンネートは、相手もいないのに今日は休暇を取る。無様」
その空間を一言で表すならば、白。ただただ白のみが広がるこか聖域じみた世界。そんな場所で幼い2人の少女の声が響いている。
おそらく地表と思われる濃い白の面から離れた空中に浮かぶ幼龍に引かれる
それだけならば、多少現実離れしているだけの微笑ましい光景だっただろう。ただし今回に限ってそれは当てはまらない。橇には機関銃と思しき物体やら謎の刃やらが装着され戦車と化しており、それに乗る2人も片や死神を彷彿とさせる戦装束、片や有り余る神威を全解放している加減を捨てた本気の姿。それらを引く幼龍すら全身に鎧を纏い意気軒昂とした様子で、まるでこれから決戦にでも出撃するかの様だ。
「マスター、探知に感あり。8秒後、500m手前の地表に出現する」
「了解ティア! 思いっきり突進する、やっちゃえフロー!」
「きゅるぁっ!!」
何者かの出現予測を聞いたイオリが橇を引く幼龍に突撃する命令を下し、それを受けて橇が炎を迸らせ出現予測地点に突撃する。今更ながら、全員幼すぎである。
「ったく、はぁー疲れた。こんな時にまで残業させるんじゃないわよ」
「
「えっ、ちょ! 防げ!」
現れたのは、煌びやかな服を纏う黒い長髪のスレンダーな美女。そう、奴こそが(駄)女神リィンネートである。
だが、どんなに駄目でも腐っていても女神は女神。自身の神域に帰還した直後の襲撃出会ったのにも関わらず、幼女達の突撃を直撃寸前で行使した力により停止させた。
「熱っ、冬なのに熱い! というかいきなり誰よあんた達ぃ!」
「じんぐるべーる、じんぐるべーる、鈴がーなるー」
駄女神の言葉を無視する様に、燃え盛る焔の塊の中からそんな歌声が聞こえてくる。それは本来ならばクリスマスに楽しんで歌われる物であるが、響く声からはその様な気配は一切感じ取ることが出来ない。むしろ、溢れ出る敵意と殺意で徹底的に全てが歪められていた。
「女神様の首を欲しがる、ギロチンの鈴の音がサァ!!」
「あっ」
文句を垂れつつもしっかりと突撃を防ぐ駄女神の喉元に、焔の中から横薙ぎに振るわれたヒビ割れた大鎌が迫る。常人であれば防ぐ事など出来ず、頭と身体が泣き別れする殺意に満ちた一撃であった。
「ほぅわぁっ!?」
だかしかしそれすらも、素頓狂な悲鳴を上げて駄女神は回避する。が、ブリッジじみた回避方法のせいか戦車を拘束していた不可視の力が解除された様で、呆気なく戦車の突撃をその身に受けて打ち上げられてしまった。
「フローもうOK、だから続いてアレに全力でファイアブレス! ティアもお願い」
その掛け声で戦車の周囲を燃やしていた焔が搔き消え、更に某格ゲーのヒルドルブの超信地旋回じみた動きで戦車の向きが反転した。それにより幼龍の顔、戦車に搭載された様々な重火器が一斉に撥ねられた女神に照準を合わせ……爆音を伴い火を噴いた。
「承知した」
「砲門完全解放、フルッバーストォオ!」
それだけでは飽き足らず、御者であった2人の幼女も攻勢を開始する。同時展開された合計68の半透明の門から顔を出す、銃火器の数々がそれぞれ絶叫し、それを遥かに上回る数展開された魔法陣から炎、氷、雷、水……等様々な魔法が駄女神に殺到する。
「もう一丁!!」
「了解」
幼女の抱いた恨みは、この程度の事では消えることはなかった。
瞬間、天から光が落ちてきた。否、それは光ではなく物質。衛星軌道上から叩きつけられた金属の棒、運動エネルギー弾である。本来の世界で言うならば成層圏付近から落下した
「
そしてダメ押しに黒い立方体状の超重力の檻、OSR値高めの全てを圧殺する術が展開された。半端な神であったら既に死んでいるであろう桁違いの廃火力、やりすぎとも言える攻撃に駄女神の生存は絶望的となった。
「まだだぁっ!!」
だがまだ怒りと恨みに些かの衰えもありはしない。
自身の精霊が使った魔法の制御を、マスターであるイオリが貰い受け出力を更に上昇させ続けていく。周囲に散らばっていた物質を凝縮し、圧縮し、収束させてクリスマス特有の謎の力が働いた結果、それは天体現象に至ってしまった。
「
桁違いの魔力が溢れ渦を巻き、しかして誰もそれを止める事なく、神域に星の暴威が齎された。
「灰燼滅却、
「防御術式展開、ニロケラス」
臨界を迎えた魔法が爆発し超新星爆発を起こす寸前、戦車が黒い球体に包まれ、放たれた魔法に神域は蹂躙された。
◇
「ねぇティア、女神様どうなったと思う?」
ティアが使ってくれた防御魔法の中、息を切らして私はティアに尋ねる。魔神と戦った時より力は入れたから、これならもしや……
「残念ながら反応は健在。けど、その反応はかなり弱くなってる」
「よしきた」
倒せなかったのは残念だけど、それだけの成果があったなら満足だ。MPを馬鹿みたいに消費したんだから、積年の恨みも含めてこれくらいは許されるはず。
「空間の安定を確認、ニロケラス解除」
ティアが魔法を解除した時、広がっていたのはやはりなんの変化もない真っ白な空間。だけど非常に嬉しい事に、そこには焼け焦げズタボロになった女神様が倒れていた。
「めーがみー様ー? 勿論、分かってますよねぇ?」
「げっ」
そう言いながら私は、笑顔で女神様の首の横に大鎌を突き立てる。ほんと、なんでクリスマスにこんな事しなきゃいけないのか……完全にプッチーンで、激おこを通り越して怒りで真顔になるレベルである。
「リィンネート、流石にアレはやり過ぎ。大人気ない、あれでも神か。情けない」
「な、なんで
「当然、マスターと契約してるから」
「勿論、今日の事に弁明はあるんですよね?
女神様には触れず、重力の魔法で押さえつけながら少し鎌を引く。ちょっと首筋に冷たい感触を与えてあげれば、素直に話してくれるだろう。
「べ、別に私は何もしてないぞ☆」
「嘘おっしゃい! どう考えても偶然であんな事起こりませんよ!!」
クリスマスだからロイドとデートしようと外に出たのは良いけど、手を繋ごうと思ったら暴れ馬が突撃してきたり、拳大の隕石が降ってきたり、晴天だったのにいきなり雹が降り出したり、お店が無くなってたり。挙げ句の果てには盗賊団が滞在してた街を襲撃するし、撃退したと思ったらギルドから緊急で誘拐されたミーニャちゃんの救出依頼が回ってくるしまつ。それは絶対にありえない偶然、原因は女神様だと簡単に予測できる。だから、もう許さないからここまで来た。人の恋路を邪魔する奴は、地獄に落ちるが良いんだよ。具体的には馬王ヘラクあたりの蹴りで。
「か、神に刃向かった相手には何も教えません」
「……武具接続。呪え、
みんなで異世界を巡った時にコピーした武器の力を憑依、解放する。すると大鎌のヒビから溢れた黒い何かが女神様の首に染み込み、呪いが浸透していく。
「え、嘘? 私神様なのに呪われちゃってるんですけど!?」
「嫌なら、いい加減答えてくれませんか? 女神様」
せっかくのクリスマスを台無しにされたんだ、それ相応のやつに追加で積年の恨みも込めた反撃を受けるがいい。
「ロ、ロイド君はどうしたのかな? ☆」
「流石にロイドに、自分のいる世界の神様を斬らせる訳にはいきませんから待ってもらってますよ? で、理由はなんです?」
「…………」
顔を伏せて女神様は黙ってしまう。なんで答えないのか分からないけど、あと一押しな気がする。
「このままだんまりだと、壊毒流し込みますよ?」
「あーもう、言えばいいんでしょう言えば! あなた達があんまりにもイチャイチしてたのが目障りでしたぁ! いーですよ、私は所詮いき遅れですよ」
言い切った女神様が、小さな子供みたいに手足をジタバタさせ始めてしまった。やり過ぎ? ううん、いい気味だ!
「神は、下半身で物を考える奴も多い。どんまい、リィンネート」
「憐れまないで下さいよヨグ様!!」
ティアの本体はヨグ様で、ヨグ様の逸話は……あっ(察し)
「うぅ……ぐす、どうせ私は処女神ですよ……クリぼっちですよ……」
幼児退行してしまってる女神様を見て、滾っていた気持ちが急に冷めていく。というか、むしろ可哀想になってきた。不思議だ。
「ここまでやっちゃってなんだけど…………強く、生きてね女神様。後、いいお相手見つけられるよう祈ってます!!」
「なんなら、私の本体にでも頼む」
「帰れぇ! しばらく私は引き篭もるから帰れぇ!」
私は大鎌を引き抜いて、諸々の魔法も解除して背負う。うん、もう……帰るかな。見てて悲しい。
「ティア、帰ろ?」
「待って、マスター。杖を経由して、今私の本体に連絡中」
いつのまにか怪我が治ってきている女神様の啜り泣きが聞こえるから、もうやめたげてよぉ……
「む、分かった」
「それじゃあ帰るよ、せーのっ!」
ティアと感覚を同調、転移用の門を開く。うん、よくよく考えればロイドと合わせてくれた大恩もあるし……
「コミケで買った本、少しあるんで置いていきますね」
「じゃあね、リィンネート。また来る」
「もう来るなぁ!」
帰りがてら、レーナさんとかミーニャちゃんとかにプレゼント渡して行こうかなぁ……折角だし。
ライダー適性…できた?
あ、呼び符単発でコアトルさん来ました。