異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
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トントントントン、ザッ、ジュー
暗くなってきた山の一角で、場違いな音が響く。その発生源を見ると、鋼色の台の上でワンピースにエプロンを付けた幼女が料理をしていた。
「よし、こんなもんかな」
「僕は、いつまでこうしてればいいの?」
はい、という訳で料理をしていたイオリです。この前はノリで言っていたのに、リュートさんは気絶してる私のほっぺをツンツンしたりペシペシしたりして楽しんでたらしいです。なので、鉄塊を抱いて正座中です。
「なんで私は焼きそばなんて作ったんだろう……まあ、パンには合うけどさ……」
「あの……イオリちゃん、料理を任せっきりにしてた上で図々しいかもしれないけど……料理終わった?」
「うん、終わったよ。私がやってる料理は趣味みたいなものだから、気にしなくて大丈夫だしね」
私は申し訳なさそうにしているレーナさんに、そう話しかける。ていうか、初対面の人に料理を任せるそっちもかなり凄いと私は思うんだけど……
「まあ、とりあえず食べながら自己紹介でもしようよ。お互いの事を知らないことには、できる事も出来なくなるしね」
私は笑顔でそう言った。
◇
「じゃあ、発案した私から。私の名前はイオリ、ギルドランクはCで転生者だよ。まあ、適当に呼んでくれて構わないよ」
「じゃあ僕だね。僕の名前はリュート・カンザキ。同じ転生者で、ギルドのランクはAだよ。よろしく」
「えっと、私はレーナって言います。ギルドのランクは、2人と違ってDだよ」
焚き火の周りで、焼きそばパンを食べながらの自己紹介……ひどくシュールな絵面だ。それっきり会話がなくなりそうだったので、私はちょっと気になっていた事を聞く。
「あ、そうだ。さっきリュートさんのステータスを強引に突破して見たけど、《王の財宝》ってスキルがあったよね? なんで私に使わなかったの?」
一応私の職業にヘーパイストスなんてあるし、結構効果的だと思うんだけど……
そんな事を考えていると、渋々といった感じでリュートさんが答える。
「僕の《王の財宝》は欠陥だらけなんだよ。まともに使える宝具は3つだけだし、それも制限付き。イオリさんのレベルなら、最悪無理やりにでも取り押さえられるから使いたくなかったんだよ」
「なるほど」
制限付きなら仕方ないか、天の鎖とか見てみたかったのに……。なんてちょっとがっかりしているとレーナさんが私に質問してくる。
「イオリちゃんは、戦ったりするの?」
「そりゃあもちろん。剣とか槌とか大鎌とか色々使うよ。そう言う二人こそ、獣人みたいだけどどういう風に戦うの?」
(無い)胸を張って言った後、ふと疑問になりそんな事を聞く。すると、レーナさんは大きく後退しリュートさんはあの王の財宝特有の金色の波紋から、武器を私に向けている。
その顔には敵意が孕んでいる。だがその様子をイオリは平然と見つめていた。
「な、何のことかな? イオリさん?」
「いや、そっちこそ何なのさ」
何気なく言ったことにこんなにも過剰に反応されたらさすがにビビる。
「あ、もしかして獣人な事が関係してたりする感じ?」
「そうだよ。獣人は、人間にさんざん奴隷みたいに扱われてきたからね。けど、レーナも僕も何も悪い事はしてない、見逃してくれないかな?」
真剣な表情を向けてくる。と同時にリュートはすぐさま剣を抜けるように身構えている……が、それも無駄になった。
「言う? なんで? これでも私も獣人なのに?」
私は耳と尻尾の霊体化を解きながら言う。
「……は? いや、嘘でしょ。解析じゃ人族だったし」
レーナはポカンとしている。
「うぐ、いや、そうだけどさ、一回やってみたかったんだよ! それに、何でわざわざ種族が違うくらいで差別しないとダメなのさ……」
「い、イオリさん……」
「それに元々転生者だよ? ケモナーだよ? モフモフを奪うとかあり得ないし! 日本人舐めんなっ!!」
ズビシッ! とリュートに指を指して言う。するとそれを見たリュートは大笑いをする。
「ふふふ……あははははっ! そうだそうだ、日本人の転生者なんだから気にする必要なんてなかったじゃん!」
「む、笑わないでよ。今後一切リュートさんには料理出さないよ?」
「それは……本当に勘弁して欲しいな……」
「あはは、だが断る」
「酷いっ!!」
イオリのテンションが落ち着くのを待ってリュートが聞く。
「はぁ…………そういえばイオリさんは何でこの山に? クエストか何か?」
ケモミミと尻尾を消して、私は答える。面倒くさいが、言うしかなさそうな雰囲気た。
「ん? ああ、私の目的?」
そういえば言ってなかった事を思い出し、口を開く。
「国境越えだよ」
「……え? そ、それって……?」
「うん、レーナさん達と同じ……だね」
「何で? いや、ケモナーって言ってたし……」
「それもあるけどさ、いや〜私、勇者に追われてまして」
「……はい?」
「いやー、死ぬ気で頑張った時に転生者ってバレそうになってね。色々聞かれたりしたら面倒だから、逃げるためだね」
またもリュートさんが大笑いを浮かべる。
「なにがおかしいの
「…………なんか変なルビが見えた気がするんだけど?」
「それにさ、2人がやろうとする事を私がやるだけでしょ?」
リュートは突如真剣な顔になり言う。
「危険なんてもんじゃないよ? 今の『獣人族』はかなり好戦的になっている。人間なんてバレたらただじゃすまないと思うけど?」
「そうだろうね。まあ、そのためにコレ使ってるんだし。もし戦うことになっても返り討ちにしてやるよ!」
私は耳と尻尾を再び出して、力こぶを作るようにして言う。力こぶなんて有りはしないが。
「へぇ、言うじゃん。イオリさんのこともっと知りたくなってきたよ」
「うわっ、やっぱりロリコンなんじゃ……」
「誰がロリコンだぁぁぁぁ!」
そんなに僕のことをロリコン扱いしたいの!? と続けて怒鳴ると、もちろんそうだよ! と元気よく返され、そのやり取りを見たレーナが小さく笑いを溢す。
「とにかく、ここで会ったのも何かの縁だと思うんだ。行き先は同じなんだし、一緒に行く?」
「う〜ん……」
そう言って少し悩むような顔を作る。急に黙ったので、リュートが聞いてくる。
「どうしたんだ?」
「まあ、いいか。一緒に行っても別にいいよ」
本来なら一人で行動するつもりだったが、改めて考えるといざという時保護者的立場に立ってくれる人がいないと大変な感じがしたので、了承する。
「あ、でも」
「でも?」
「襲ってきたら現行犯だからね」
「ざっけんな! 僕はドノーマルだよ!」
「気絶してる私を弄ってたって聞いたけど言い逃れできる? それにレーナさんだって小さい方だし……」
「よ〜し、表にでろやイオリさん!」
「ここはもう既に表だよ? ロ リ コ ンさん」
「その名前で呼ぶなぁぁぁぁ!!」
二人のやりとりを見て、やれやれと肩を竦めるレーナ。しかし、誰にも聞こえないような小さな声で
「私、小さいのかな……?」
と言ったのを聞いたのは桶の中の魚だけだった。