異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
(≖‿ゝ○) <メリークリウスマス
※本編完結後までの内容が含まれています。
「けほっ、けほっ。うぅ……」
女神様の所に突撃してから大体半日、私は見事に体調を崩してしまっていた。普通に体調不良なのか魔力が枯渇しかけてたから抵抗力が下がったのか、はたまた神罰か。まあそのどれが原因だとしても、多分これは風邪だろう。熱は38度、頭はぐわんぐわんするし身体も怠い。
「イオリ、入るぞー」
「ん、どーぞー」
ぼうっとする頭で生返事をしてドアの方を見ると、手に何かを持ったロイドが部屋に入って来ていた。寝転がったままなのは良くない気がするから、ベッドの上でとりあえず起き上がる。
「……いい匂いがする」
「お腹空いてるだろうし、一応お粥を作って見たんだけど……食べれるか?」
「うん」
コクリと頷きつつも、そんなロイドの言葉に私は目を丸くしたと思う。だって、今まで料理のりの字も知らなかったと思うロイドが、私の為に作ってくれたとか……なんか熱上がっちゃいそう。
「ちょっ、本当に大丈夫か? 顔真っ赤だぞ」
「うん、へーきへーき。それよりごめんね? 折角クリスマスなのに風邪引いちゃって。折角邪魔されないような女神様懲らしめてきたのに」
頑張って笑顔を作って私はそう言う。というか折角久々にイチャイチャできると思ったのに、体調崩すなんて不覚だった。女神様の嫌がらせでずっと戦いばっかりだったから、本当に楽しみにしてたのに。
「ばーか。病気なんだから気なんて使わなくて良いっての」
手に持ってたお粥をサイドテーブルに置いて、いつもはデコピンとか軽いチョップだけど頭を軽く撫でてくれた。くすぐったいけど温かい、気持ちいいし安心する。ともすれば、ずっとこのままでいたいと思っちゃうくらいに。
「うん。それじゃあ、少しだけ我が儘言っちゃおうかな」
パジャマが汗で気持ち悪いから身体を拭いて……なんてことは流石に言わない。流石にティアに頼むもん、恥ずかしいし。そう言うのは、その、結婚してからが良いなぁとか思ってたり……
だからまあ頼むのは、
「お粥、食べさせて欲しいな」
そう、それに尽きる。頭は痛いし手も動かしたくはない。でもお腹は空いてるからお願いする。後は自前の冷えピタの交換くらいだけど、それよりもご飯ご飯。食べればどうにかなる筈だもん。
小さく口を開けて、速く速くと急かしてみる。
「分かったよ。ふぅふぅ、ほら」
「いただきます」
粥を掬ったレンゲを、溢れてもいいように下に手を添えて差し出してくれた。空腹のおかげか普段よりも格段に美味しそうに見えるそれに、小さく口を開けて食べにいく。
「どうだ?」
「ん、美味しい」
実際の所味はわからなかったけど、好きな人に食べさせてもらってるからか、なんだか胸の奥がポカポカしてきて幸せな気分になるのだ。だから、美味しい。
「あ〜ん」
運ばれたお粥を食べる。
「ん」
運んで貰ったお粥を食べる。ちょっと熱かったから涙が滲む。
「んぅ」
レンゲの上のお粥を食べる。なんだろう、これってなんか親鳥にエサを運んでもらう小鳥の気分。
「ロイド、もっと……もっとぉ」
「ごめんイオリ、凄くイケナイ事をしてる気分になってくる。出来れば、その、静かに食べてくれないか?」
そう言うロイドの顔は赤く染まっている。私も恥ずかしいけど、こういうやり取りは楽しくって、嬉しくってクスクスと笑ってしまう。
「えっと、俺なんか変な事でも言ったか?」
「ううん。デートには行けなかったけど、幸せだなぁって思って」
こんな気持ちと日常を一言で表すなら、結局その一言に収束するだろう。女神様は懲らしめた結果引き篭もったから無駄なちょっかいはされないし、ティアも外を警戒してるから物理的な邪魔が入る事も無い。
「ほらロイド、続きお願い」
「いや、だからその言い方をだな……」
そう文句を言いながらも、ちゃんとお粥を食べさせてくれる私の彼氏。ほら、やっぱり私は幸せだ。これ以上ないくらいに。
今宵は聖夜。少し趣は違うけど、これも立派なクリスマスプレゼントの1つになるだろう。
・
・
・
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
お粥を食べ終わった後、日本式でご飯を締める。まだ体調は良くないけど少しは元気になれたと思う。これならちょっと頑張ってみた成果も出せるかな?
「あ、ちょっと待ってロイド」
「ん?」
私はお粥の入っていた鍋とレンゲをどこかに持っていこうとするロイドを呼び止める。そしてどうにか門を開いて、今までの少ない時間からどうにか捻出した時間で作っていたものを取り出す。
「持って帰る前に、これも一緒に食べよ?」
取り出したのは、私とロイドの分の2ピースのショートケーキ。勿論フォークとお皿も忘れてない。
「それも俺があ〜んするか?」
「さっきは甘えたかったからそうしたけど、自分でそれくらいはできますー」
なんだかおかしくて2人して笑ってしまう。再び席に着いたロイドと一緒に、自分で作ったケーキを食べる。うん、私の感覚なら味は良し。
「どう? 美味しい?」
「ああ、美味しいよ」
多分、こんな立場だけが変わった問答を繰り返してしまうのは風邪のせいだろう。でも、偶にはこういうのも嫌いじゃない。
まだお昼だけど、今日はクリスマス。例えこっちの世界にそんな文化が無くても、特別な日には違いないんだ。
◇
「やっと寝てくれたか?」
目の前でスヤスヤと寝息を立てる自分の彼女を見て、ようやく俺は気を抜く。楽しい時間ではあったけど、少しだけ無理させてるみたいで申し訳なかったのだ。
「さて、後は食器を片付けて……」
「んぅ……」
そう思い手を伸ばそうとした時に気づいた。小さな手が自分の左手をぎゅっと握っていた。そして、多分これはどうあっても離してくれない。安心しきって気持ちよさそうな顔で寝てるイオリを見ただけで、まあいいかと思ってしまうあたり俺も相当だろう。
「でも、そうすると食器はどうしよう」
そう思い再びサイドテーブルに目を向けると、食器は全て消え去り代わりに1枚の文字の書かれた紙が置いてあった。
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片付けはやっておく。今日1日はマスターの
隣にいてあげて。 ティア
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書いてあったのはただそれだけ。けれど内容は単純にして明確。
「特にやる事も無いし、偶にはこういう日があってもいいか」
そう思い、自分も少し眠くなっていく事に気がついた。外は既に暗い、なら少し休んでもいいか。
「おやすみ、イオリ」
そう言いながら俺も、優しい眠りの中に沈んでいくのだった。繋いだ手の、小さく大切な温もりを感じながら。
最近のfgo感想をラフム語(アルファベット系)で書こうとしたけど、スマホからじゃ無理だったよ…(面倒さ的に)