異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜 作:銀鈴
森の中では、イオリが危惧していたゴキブリの大襲来という事はなく、ただキングマンティスという大きなカマキリが襲ってきたのみであまり戦闘は無かった。
しかしそれとは別に、先導しているリュートを困らせている大きな問題が一つあった。
「ねえねえリュートさん、あの毒々しいキノコ何? 食べられる? 食べていいよね? 《ファイヤ》いただきます!!」
「いや、それ【ネムリ茸】!! 食っちゃダメっつつ! 遅かったか」
「ふわぁ……まじだぁ…………【フレッシュ】! よし目が覚めた! ついでに耐性GET!」
先程から、こんな感じでイオリが目につくキノコを片っ端からこんがり焼いて食べているのだ。上手に焼けました〜! という感じの焼け具合なのだが、ここに生えているキノコは大半が毒キノコだ。
なので、今の見た目より幼い行動をしているイオリには食べる度に状態異常が発生し、今のような事態が多発していた。例えば
「なにこの黄色いキノコ? とりあえず食べよう《ファイヤ》!」
「ん? なんかいい匂いが……ってそれ【麻痺茸】だって! なに食べようとして……あぁ」
「なんか言っtな、なんか痺れてきだ……【キュア】! あ、なんか耐性GET」
などとなったり、他にも猛毒のキノコを食べて顔を真っ青にしていたり、いきなりお腹を鳴らして倒れていたり、急に笑い出したりしていた。
そんな事に頭を悩ませるリュートを全く気にせず、耐性スキルを取るのに夢中になっているイオリは、そんなことをリュートが考えている間にも……
「お、おお!? なんか全ての動きが遅く見える。まさかこれが、フィジカルフルバースト!? まあいいや、【キュア】!」
「あーもう、今度は【加速茸】なんて食べて! 何がしたいのさ!」
「いや、耐性スキル集め? あ、耐性系が集まって《状態異常耐性 LV 2》になった。おぉ、しかもついでに《魔法耐性 LV 1》も! イエイ」
「あぁよかったね!!」
もう付き合ってられんとばかりにぶっきらぼうに言って、リュートはズカズカと森の中を進んでいく。
「あー、待ってよー」
そんなことを言いながらトテトテとイオリはリュートを追っていく。そんな二人をレーナは呆れたように見ていた。
◇
そんな騒ぎが一段落し、しばらく歩いているとようやく森の出口が見えてきた。
「はぁぁぁ……やっとか……」
リュートさんは重い溜め息を吐きながらも、つい早足になってしまっている。
森を抜けるとそこには青々とした草原が広がっており、奥には山頂の雪の白が眩しい、裾の広い青い山がドンと構えていた。
「ほへー……」
「うわ〜」
レーナさんは言葉を失ったかのように見惚れている。その雄大な眺めに圧倒されているような感じだ。かく言う私もそうなっている。
「ここが【エドの草原】だ!!」
そう胸を張ってリュートが紹介をしているが、私は目の前の山に何かデジャブのようなものを感じて考え込んでいた。
(ん〜……なんだろ? この既視感。どこかで見たことあるような気もするんだけど……)
とりあえずそれが一番早いと思い、今も紹介しているリュートさんに聞いてみる。
「ねえ、リュートさん。あの山の名前は? なんか凄い既視感を覚えるんだけど」
「日本人ならやっぱりそうだよね!? あの山は、【フジ・ヤマー】って名前なんだよ!!」
そう興奮した様子のリュートが私をガクガク揺すってくる。色々納得はできたがやめて欲しい、まだ食べまくったキノコ類を消化できてないんだから!
「ちょっっっ、やめっっっ、マジ吐くっ、吐いちゃうからっ!!」
「あぁ、ごめん。ついつい興奮しちゃって……この先がいよいよ『狼人』達の村、【ヴォダン】だよ……」
少し落ち込んでいるようなリュートに付いていくと、段々と道が舗装されていった。
「ヴォダン、ゔぉだん……あー……うーん、昔どこかで聞いたことがあるような……って、あ」
「どうかしたの? イオリちゃん」
「いや、ヴォダンって名前をどこかで聞いたことがあるなぁ……って思ってたんだけど、今やっと思い出してね」
不思議そうに首を傾げていたレーナさんに、理由を説明する。
「ジェヴォーダンの獣って、確か狼に関係してたはずだし……リュートさんはどう思う?」
因みにジェヴォーダンの獣うんぬんは、緋アリのリサがそんな感じだった記憶がある。
「どうって言われてもね……村の名前の理由は聞いたことあるし……」
「え!? 教えて教えて!」
……自分でも、子供っぽくなってきた自覚はあるよ。だから、あんまり気にしないで欲しいな。
「はいはい。この世界にも、大昔にジェヴォーダンって魔物がいたらしくって、それにあやかって付けたって聞いたよ。あ、魔物じゃなくて神獣だったかな?」
「マジか……ジェヴォーダン、神獣って言うからには美味し……じゃなくて強そうだな……」
「今美味しそうって言いかけたよね!?」
「気にしない気にしないー♪」
そんな問答をしていると、飼育されていると思しき牛っぽい何かや水田が見えてきた。そして眼を凝らすと、山の麓にどことなく日本の匂いの漂う小さめの村が確かにあった。
醤油とかあるかな?