異世界に転移したと思ったら転生者? 〜〜幼女で鍛冶師な異世界転生〜〜   作:銀鈴

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閑話-6 イオリの行方

 オークの事件から一週間。俺たち勇者は、2パーティーに分かれ、ダンジョンの攻略に、舞踏会のようなパーティーに、救援依頼に訓練にと多忙な日々を過ごしていた。これは、そんな中のある日の話。

 

 

「はぁ……またいつかって、結局どこ行ったんだよ……」

「まーたイオリって子の事考えてるの?」

 

 宿屋の窓に頬杖をつき、ため息まじりにそんな事を言っていると、背後から柊さんが話しかけてきた。

 

「だってさ、わざわざ意味深な言葉を残して俺から逃げるなんて、本人だって言ってるようなものじゃん……」

「そんなものなのかなぁ〜? まあ、事情は知っていそうな感じはするけど……」

 

 そこまで話した時、部屋のドアがドンドンと叩かれた。それに柊さんが答える。

 

「はーい。なんですかー?」

『天上院、柊さん、来てくれ! 今下で映ってる映像にイオリって子が出てるかもしれない!』

 

 その言葉を聞いて俺たちは顔を見合わせ、すぐ様下に降りていく。そこではいつものように、海堂という生徒が中心になって馬鹿騒ぎをしていた。そして、そんな海堂が俺に話しかけてくる。

 

「よう天上院! 見てみろよこれ、ミスコンって言うくせに幼女が出てるぜ! アヒャヒャヒャ」

 

 酒でも飲んでいるのか、真っ赤な顔をした海堂が言う。最近、こういう輩がどんどん増えてきており、王様もこれを止めないので悪化の一途を辿っている。今となっては誰が注意しようが御構い無しなので、対処に困る問題の一つになっている。

 それは置いといて

 そう言って海堂が指差す方向には【記録の水晶】というアイテムから映像が映し出されていた。そしてそこには、若干の違いは有るものの、俺たちの高校の制服を着て、顔を真っ赤にしたイオリが立っていた。

 

「……」

「……」

 

 俺たちはその光景に固まってしまった。今まで隠してきてたのを、ここでバラしていいのかよ……そんな事を思っている間に、画像のイオリが話し始める。

 

『曲名は『手紙』です! よろしくお願いします!』

 

 明らかな日本語で歌われたそれは、日本人の子供じゃありえない程正確に歌われていた。なんでそんな自爆曲を選んだのか……そんな疑問が頭に浮かぶが、それと同時に頭に一つの答えが浮かぶ。

 

「もうバレてもいいって事?」

「どうしたの?」

 

 自分の頭の中だけで完結した上に、この中で中学で蒼矢と同級生だったのは俺だけなので、まだ誰もわかってはいない。だから、騒ぎをかき立てないように小声で柊さんにのみ言う。

 

「あのイオリって子、十中八九蒼矢だよ。昔、同じ曲を歌ってたんだけど歌い方が全く同じに聞こえる」

「!」

 

 その言葉に目を見張る柊さん。そしてその後何か考えるような動作をする。そんなことをしている間にも、あの曲が流れている。どこからどう見ても大人じゃないよ……

 そんなことを考えながらも、とりあえず海堂に聞いてみる。

 

「なあ海堂、その映像ってどこで撮られたやつなんだ?」

「なんだ? 興味が出てきたか? いいぞ、教えてやる。この映像はな、獣人界に続く橋がある近くの町【サーマス】って所で、3日前に撮られたやつだ」

「サンキュ、後で何か奢るよ」

 

 そう言って振り向くと、先程まで考え込んでいた柊さんが、納得したような表情へと変わっていた。何を納得したのかは知らないが。

 

「で、この事は皆に言うの?」

「……いや、言わない。たしか宣戦布告をして、戦争が始まるって話だから、攻め込んで話を聞く。流石に元クラスメイトには攻撃できないでしょ」

「まあ、確かにぬか喜びするよりはマシになるわね。海堂の能力で転送出来れば良かったのだけれど……」

「あいつの能力じゃ、武器と認識した物しか飛ばせないからなぁ」

 

 転送、とても便利なスキルに思えるが、どんなに頑張っても人間は飛ばす事はできなかった。どうも魔物は武器と思えても、人間は武器とは思えないらしい。

 

「まあ、目処が立っただけマシか」

 

 そう一人呟いたところで映像が消え、皆がゾロゾロと部屋に戻り始めた。

 

「とりあえず、また明日から訓練だし、早めに寝ますか……」

「おやすみなさい」

 

 そう言って俺たちは別れ、それぞれの部屋へ戻っていった。

 


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