弟、妹。
英語にするとlittle brotherとlittle sister。私にはそれが一人ずついる。
率直に言うと、私はこの二人を心の底から愛している。
ブラコン、シスコン?そのような言葉などもう言われなれてしまった。しかし、私はそんな言葉を気にしたりはしない。むしろ褒め言葉だと受け取っている。他人から見ても私は二人を愛していると見えている、ということであるからだ。
家族というものは愛すべき存在だ。そんなことは周知の事実だろう。
家族なんてうざいだけ、いなくてもかまわないなどとドヤ顔で言っている人間というのは、自分は一人で生きていけるという思想をかっこいいと思っているだけなのだ。そういう人間ほど結構な年齢まで実家暮らしだったりするのだ。
さて、ならば私が両親へ向けている愛と弟や妹に向けている愛が同じかと言われれば頷き難い。確かに私は両親を愛している。しかし、それは弟や妹に向ける愛とは多少異なる。愛にも様々な種類があるということだ。
最近は素っ気ない態度をすることの多くなった弟。だが、それすらも愛おしい。
いたずらを成功させ嬉しそうに笑顔を見せる妹。それも愛おしい。
私の人生を振り返っても二人と過ごした時間が殆どを占めている。故に高校生活も同様だ。
結論、何が言いたいかというと、私の弟と妹は世界一可愛いということだ。
「……ふぅ。これでよろしいですか?平塚先生」
俺は自分の書いた作文を職員室で音読させられるという苦行を終え、ため息混じりにこの苦行をさせた張本人に問いかける。
「ふむ、さて比企谷。私が出した作文のテーマは何だったかな?」
ソファーに足を組んで座り、タバコをふかしている国語教師の平塚先生は俺に問いかける。若干苛立ちと呆れが混ざっているのは気のせいだろう。
「ああ、そういえば題名書くの忘れてましたね。確か、『高校生活を振り返って』でしたっけ?」
「そうだ。ちゃんとわかっていたのだな」
「そりゃもうばっちりと!」
俺は自分の作れる最高の笑顔で答える。
「ほう、そうか。わかっていたか……」
しかし、俺とは逆に平塚先生の額には青筋が浮かんでいく。
あっれ~?僕の対応間違っていたのかな~?
「ならば、なぜこのような弟妹愛に溢れた作文が出来上がるんだ!『故に高校生活も同様だ』のところしか高校生活を振り返っていないじゃないか!そして何故途中に実家暮らしに対する意見が出てくる!最後なんて全く関係がないじゃないか!」
平塚先生の口からは次から次へとこの作文に対してのダメ出しが飛び出してくる。
「平塚先生……。それは愚問ですよ……。俺が二人をこの世で一番愛しているからですよ!」
俺は拳を固く握りしめながら高らかに叫ぶと、顔の横を何かが凄い速度で通り過ぎていく。
「次は当てるぞ」
「うぃっす」
こんなの素直に返事するしかないじゃないですか……。
「はぁ……。まあいい。作文は書き直しをして明後日までに提出。さて比企谷、もう一つ用事がある」
「はぁ、用事ですか」
「ああ、まずはこれを見てくれ」
そういうと平塚先生は一枚の作文用紙を取り出し俺に渡した。これを読めということだろう。
『青春とは嘘であり、悪である』という文で始まる作文。この時点でこの作文を書いた人物が誰であるかはわかった。
「これって八幡の作文ですよね?」
「ご名答。よくわかったな」
「まあ、上に名前書いてありますしね。何よりこんな作文書くのは八幡以外いないです」
俺は当たり前のように述べる。
この作文は俺の愛する弟である八幡の書いたものだ。世の中を腐った眼で見ている八幡だからこそ書ける犯行声明のような作文。
読んでいるだけで笑いがこみ上げてくるが必死に抑える。
「流石兄というべきか。弟の捻くれた性格も熟知し、その性格から生み出された腐った産物をも見分けるとは恐れ入ったぞ」
「八幡の奴、教師に超ディスられてるんですがよろしいんでしょうかねぇ」
流石に腐った産物は言い過ぎではなかろうか。せめて三角コーナーにある生ごみだろう。って一緒じゃん。
「ついでにお前のこともディスったつもりなのだが……」
「あれ?そうなんですか?てっきり褒められてるのかと思って少し嬉しくなっちゃったんですけど」
「はぁ……。もういい。これ以上は疲れていかん。本題に移るぞ」
額に手を当て溜息を吐く平塚先生はやはり様になっていた。
平塚先生って綺麗だしな。ふむ、綺麗な人はこういう仕草でさえも様になるからいいよな!
「比企谷。お前の弟のこの性格を直せ」
「無理です」
「諦めが早すぎるぞ比企谷」
「いや普通に無理でしょ。八幡の性格は俺には絶対に直せません」
俺の即答に平塚先生は困った顔を俺に向ける。
「なぜだ?」
「俺が八幡の性格を肯定してるからですよ」
「肯定?」
「俺は八幡の性格をこれっぽっちも悪いと思ってませんし、嫌いじゃありません。むしろ大好きです。あいつの一番近くにいる俺があいつのことを肯定してやらないで誰がするんですか。俺は八幡のああいうところを含めて八幡を愛しているのですから」
「ふむ……」
平塚先生は俺の言葉を聞いて考え込む仕草を見せる。
「もし、あいつが自分で、もしくは他人の介入により性格や考えを直そうとしたとき、お前はどうする?」
「応援しますよ?できる限りの手伝いもします。八幡が変わりたいと思うなら俺は八幡の背中を押してやるだけです。八幡を愛する兄として」
「本当にお前の世界はあいつ中心で回っているのだな」
平塚先生は呆れたような苦笑いを見せながらそんなことを言う。
そんなの当たり前だ。厳密にいえば、八幡と妹である小町中心だがな。
「わかった。お前に頼むのは諦めよう。まだこちらにも手段はあるからな」
八幡の作文を机の中に収めながら二本目のタバコに火をつける先生。
しかし、気になることがある。なぜ平塚先生はここまで八幡の性格にこだわるのだろうか。俺にはそれが疑問で仕方がなかった。
「なぜ先生はそこまで八幡にこだわるんですか?」
「大切な教え子だから。それ以外に何かあるか?」
とてつもない良い笑顔でそう告げる平塚先生に俺は心の中でこう呟いた。
平塚先生まじっけぇ、と。
平塚先生からようやく解放された俺は、赤い夕陽の光が差し込む廊下を歩いていた。
校庭からは部活に勤しむ生徒の声が聞こえてくる。まさに青春の音だ。
「まったく。毎日ご苦労なこって」
俺は人の居ない教室の窓から校庭を眺めてみる。
まず視界に入ってくるのはサッカー部だ。ピッチを走る生徒の中でも一際目立つのは、凛々しい声で指示を出す一人の男子生徒だろう。確か、名前は葉山だったか。校庭近くにはおそらく葉山君目当ての女子の姿も多くみられる。
やはり一番青春してるのはサッカー部だろう。野球部とは違うさわやかな声かけがここまで聞こえてくる。
まあ約一名、っべー!っべー!うるさい耳障りな男もいるがそれも青春だ。そう思っておこう。あんな青春は送りたくないけどな。
「……お?」
ふと俺が今いる教室棟の向かいにある特別棟へと目を向けると、特別棟の廊下を歩く一人の女子生徒が見えた。
その容姿は彼女がこの学校で一番の美女だといわれてもなんらおかしくない程であり、歩く姿でさえも引き込まれそうなものだった。
彼女の名前は雪ノ下雪乃。
先程も述べたようにとてつもない美女であり、普通科よりも偏差値が少しばかり高い国際教養科に所属し、実力テストでも学年一位に鎮座する完璧超人。それが雪ノ下雪乃という少女である。
彼女の姉とは少しばかり面識があるが、彼女とは一度も話したことがない。
それよりも彼女は特別棟で何をしていたのだろうか?鞄を持っていることからこれから帰宅するのだろう。部活だろうか?彼女が部活をしているという情報はなかったはずだが。
「ま、いっか」
気づけばそこにはもう雪ノ下さんの姿はなかった。
「さて、俺も帰りますかね」
俺はゆっくりと廊下を歩き帰路へとついた。
どうもはじめまして!わたくしりょうさんと申します!
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