やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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やはり俺の弟は決めきれない。

 学校の授業というものは基本的に退屈なものである。個人によっては得意科目などがあり、その時間は退屈ではないかもしれない。

 しかし、俺にはそれが当てはまることはない。

 得意教科でも苦手教科でも授業が退屈であることには変わりないのだ。

 まあ、そんな授業があるからこそ休み時間のありがたみが増すのかもしれないが。

 「颯君っ。ご飯食べよー」

 そんな思考に耽っていると、隣の席からひょっこりとめぐりが顔を出す。その瞬間めぐり独特の良い香りが鼻腔をくすぐるが敢えて口には出さない。

 いや、出したら変態だから。今こうやって思ってる時点で危ないから。

 「おう。めぐりさんや、今日は何を恵んでくれるんだい?」

 「もう、颯君も料理できるんだから作ってきなよー。購買ばかりじゃ飽きちゃうでしょ?」

 軽く頬を膨らませながらお小言を言ってくるめぐりは小町と違ってただただ可愛い。天然でこういうことができるめぐりんまじぱねえ。

 「冗談じゃない。弁当作るってなったら朝早く起きないとダメだろ?死んじゃうよ!めぐりは俺をお亡くなりにさせちゃうつもりか!」

 「人は早起きしたくらいで死なないよ!もう……卵焼きあげる」

 文句を言いながらも卵焼きを差し出してくれるめぐりはやっぱり優しい。

 でも、優しすぎて将来変な男に騙されないか颯君心配ですよ!

 「やったぜ!いつもありがとな!今度は俺の為に弁当作ってきてくれてもいいんだぞ?」

 「ふぇ?それって作って来いってこと?」

 「おう!愛妻弁当だな!」

 もし本当にめぐりが弁当を作ってきてくれるならマジで嬉しい。

 めぐりの弁当はいつも美味いしバランスもとれている。舌も腹も満たされてオマケに体にも良い、ハッキリ言って最高だ。

 「あ、あ、あ、愛妻!?」

 あれ?めぐりさんそこに反応しちゃうの?

 「何恥ずかしがってんだよ。俺とめぐりの仲じゃないかっ!」

 「そんな関係になったおぼ、おぼ、憶えはないよ!よ!」

 あーあ、顔真っ赤にしちゃって。

 ほんと……可愛いなこいつ。

 「はいはい。まあ考えといてくれよ。良い返事を待ってるぜ」

 「結婚はまだできないよ!」

 そこから離れろこの天然!

 

 

 めぐりとの昼食を終えた俺は腹ごなしに校内を散歩していた。

 あの後、冗談だとめぐりに伝えると、顔を真っ赤にして俺の肩を弱い力で食べ終わるまで殴られていた。全然痛くもない攻撃だったが周りの生暖かい目が少し痛かった。

 ちょっとむかついたし、めぐりんの歌でも歌ってやろう。

 「め、め、めぐりん、めぐりんり~ん!天然ぽわぽわ生徒会長~!」

 「……」

 そこまで歌い切ったところで保健室から出てくる一人の良く見知った黒髪の女生徒と目が合う。

 やべえ、額の汗が止まらんぞ。

 「あっ」

 「おぉい!雪ノ下さん!何を察したんだ!まってくれぇい!」

 なんだよ『あっ』って!

 見てはいけないものを見た顔をした雪ノ下さんを慌てて呼び止める。

 「すみませんでした。保健室はそこですよ。よくよく見てもらってくださいね、頭を」

 「保健室で精神をどうにかすることはできねえよ!この学校の保健室は精神科医でもいるのかよ!」

 「は?そんなのあるわけないでしょう?本当に見てもらったら?良い医者を紹介するわよ?」

 「もう、好きにしてくれ……」

 最近、雪ノ下さんの対応が八幡と同じ感じになってきている。

 打ち解けてくれたのだと考えているが、俺にそっち系の趣味はないので意外に傷つく。颯太ショック!あれ?あんま堪えてないな。

 「そういえば、救急箱なんかもってどこか行くの?」

 「突然話を変えるのね……。いきなりすぎてついていけないわ」

 「人間切り替えが大事なんだよ、雪ノ下さん。失敗はすぐ忘れてしまえばいいんだよ!黒歴史になる前に記憶から抹殺するのだよ!」

 「……はぁ」

 胸を張ってドヤ顔を決めた俺に雪ノ下さんは大きなため息を吐いた。

 「それで?どこいくの?」

 「テニスコートよ。奉仕部の活動をしている最中なのよ」

 「八幡もいるんだな!じゃあ俺もついていく!さあ行こう雪ノ下さん!」

 奉仕部の活動と聞いた俺は雪ノ下さんの手を強く引いてテニスコートへと走り出した。

 八幡がいると聞いて黙っていられる俺じゃないからな。それに、先程テニスコートを覗き見た時人だかりができていたことも気になるし。

 「ちょっと、手を引かないでちょうだい」

 「恥ずかしがんな!」

 「……はぁ」

 そんなため息ばかり吐いていると幸せが逃げちゃうぜ!

 

 

 「HA・YA・TO!フゥ!」

 「なんだこれは」

 そこには異様な空間が広がっていた。

 まあ、異様なのはテニスコートを囲むギャラリーだけど。特にあの戸次君だっけ?あれ違ったかな。あ、戸田君だ!戸田君が異常にうるさい。

 ここに来る途中にテニスウェアを着て足を引きずっていたガハマちゃんに雪ノ下さんは連れていかれたし、なぜか八幡と金髪ロールギャル子さん、葉山君ペアが対峙していたりなど、なかなかにカオスな状態だ。

 「うぉーい!はちまぁん!何してんだー!」

 「げっ、兄貴」

 俺の声に気づいた八幡は露骨に顔を歪める。

 そんな反応されるとお兄ちゃん傷つくんだけど。

 「あなたは……」

 「ん~?」

 「いえ……」

 俺の顔を見た葉山君が何かを言おうとしたがやめてしまう。俺のことを知っているような反応だったが面識あったっけな?俺は一方的にこの子のこと知ってたけど。

 「あんた何?いきなりコート入ってくんなっつの」

 「ふぅむ。そりゃ悪かった。なんか中断してたみたいだしいいかなて思ったんだけど」

 なんだこの金髪ロール娘。お兄さん少しむかつくぞ。まあ、ここでキレることはしないけどね。お兄さん優しいから!

 そこで審判席に座りおどおどしている一人の男子生徒が目に入る。

 確かこの子は戸塚君。女子の間では有名な王子様と呼ばれるれっきとした男子生徒だ。間近で見ると本当に可愛いな。

 「戸塚くーん!おいでおいでー!」

 「あ、はい!」

 俺の呼びかけに応じてこちらに走ってくる戸塚君はやはり可愛い。その時に八幡の顔も緩んでいるのも見逃さない。こりゃ惚れてますわ。

 「この騒ぎの原因を教えてくれるかな?」

 「はい!えっと……」

 

 

 「なるほどね」

 戸塚君の話によると、テニスの練習相手を奉仕部に依頼し昼休みに許可を取って練習をしていたところ、金髪ロール娘がやってきて自分達もテニスやりたいと駄々をこねた。それで口論になり、解決法としてテニスで対決をすることになったと。

 先程までガハマちゃんが八幡のペアを務めていたのだが、足を怪我してどこかへ行ってしまったらしい。先程若干足を引きずっていたのはそういうことだったのか。

 「ねー、そろそろどうするのか決めてくんない?」

 中断にしびれを切らした金髪ロール娘が不機嫌そうに八幡を睨む。

 「ああ、そうだな」

 そして八幡が膝をつく寸前、雪のような冷たい声がテニスコートに響く。

 時間稼ぎ完了っと。

 「この馬鹿騒ぎは何?」

 声の先には体操服とスコートを身に着けた雪ノ下さんが立っていた。

 うん、良く似合ってるね。

 雪ノ下さんがテニスコートへ入ってくるのを確認して、ざわつきに隠れるようにして俺はテニスコートを出た。

 それからはまごうことなき雪ノ下さんの独壇場だった。まあ、雪ノ下さんの体力が尽きるまでだったが。

 雪ノ下さんの辛そうな表情を見た相手チームは勝ちを確信していたが、こちら側の人間が落胆の色を見せることはなかった。俺を含めて。

 ガハマちゃんと雪ノ下さんの八幡を信じ切った表情はあまりにまぶしくて、少しほっとして、ほんの少しだけ羨ましかった。

 八幡がボールを高く打ち上げたところで俺はテニスコートを足早に去った。

 次の瞬間、ギャラリーの歓声が高く上がった。

 八幡、最後まで締まらないな、お前……。せっかくお兄ちゃん格好良く去ったのに!もう!

 

 

 「颯君。廊下で変な歌を熱唱するのやめようね?しかも私の歌!」

 「あ、はい。すいません……」

 やっぱり兄弟って似るんだね!


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