やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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俺の寝坊は今に始まったことではない。

 「朝だ……」

 翌朝、俺の眼前に広がっていたのは知らない天井……ではなく、宿舎の天井だった。まあ、知らないも同然かもしれないが。

 昨夜雪ノ下さんとの話を終え、この宿舎に戻ってくると八幡の姿がなかった。大方、隣で寝ていたであろう戸塚君のはだけた服と何故かエロく感じてしまう寝息に耐えられなくなったのだろう。試しに横に寝てみたのだが、あれはやばい。何がやばいのかはわからないけどやばい。

 まあそれはともかく、未だ回転しない頭ながら周りを確認する。

 「なぜ誰もいない……」

 俺の隣で眠っていたはずの葉山君の取り巻き君も、八幡も戸塚君も既にそこに姿はなく、綺麗に畳まれた布団のみが残っていた。

 時刻は朝食の時間をとっくに過ぎている。

 「おぉう……」

 これは、あれだ。寝坊というやつだ。……八幡のバカぁ!

 俺は大急ぎで準備をして部屋を飛び出した。

 

 

 「ははは!比企谷、次はあっちだ!これはあっちだぞ!これを運べ!」

 「くっそぉ!なんで俺ばっかこんな目に遭わないといけないんだよ!」

 あれから息を切らしながら平塚先生の元へ向かうと、そこには笑顔という名の威圧感の塊を身に着けた鬼が待っていた。ついでにブリザードの女王もいらっしゃった。

 まあ、それだけなら別に慣れっこなのだが、この二人がそれで終わらせてくれるわけもなく、現在の俺は二人のパシリと化していた。

 てか、二人ともなんでそんな笑顔なんだよ!絶対楽しんでるだろ!

 「お前が寝坊するからだ」

 俺の悲痛な叫びに平塚先生は冷たく答える。

 いやまあ、反論できないんですけどね。

 「俺の朝の弱さは今に始まったことじゃないでしょう!そろそろ慣れてくださいよ!」

 「開き直るんじゃない。言っていることが無茶苦茶だぞ」

 うん、自分でもわかってます。

 「まあいい、この束を運んだら終わりだ。さあ、自慢の脚力を見せてみろ」

 別に脚力に自信があるわけじゃないんですけどね……。まあ、これでも中学時代はそれなりのスポーツ少年だったし、これくらいならやってやりましょう!

 「うおお重いぃぃ!」

 重すぎて気合注入の言葉が弱音に変わってしまったよ。

 戸次君の奴、最後だからって薪の本数尋常じゃない位増やしやがったな!一生恨んでやるからな!戸塚君は別だけど!

 「さあ、頑張れ比企谷。これが終わったら川に行くつもりだ。ここで頑張れば私の水着姿を拝ませてやるぞ」

 「ああ、それは別にいいです。見るならまだ陽乃さんの方がいいんで」

 「くっ……!やはり若さか!ふん!陽乃なんてまだまだ子供だ!私の方が魅力的だもん!そんなこともわからないお前には五本追加だ!」

 「鬼だ!アラサーの鬼がいる!おーぼーだー!」

 もうなんなんだよこの先生は!てか、平塚先生の水着姿なんて何回か見たことあるし!今更見ても新鮮さも何も感じねえよ!年齢的にもな!

 「失礼なこと考えたな!もう五本追加だ!」

 「おいこらまてぇい!おら戸次!お前も嬉しそうに追加で割ってんじゃねえよ!ああもうくそ!やってやろうじゃねえかぁ!」

 俺は平塚先生と戸次君によって追加された薪の束を担ぎ走っていった。

 

 

 「ああ、もう無理。もう颯君動けません」

 平塚先生の無茶ぶりをこなした俺は、キャンプ場内を流れる川の傍に座り足を水の中へ投げ出していた。そのうち雪ノ下さん達も来るだろう。

 「あ、颯お兄ちゃん」

 噂をすれば我が愛しの妹の声が俺を呼ぶ。

 流石小町だな。声だけで俺を癒してしまうなんて。俺のHPが三くらい回復したよ。MAXは百な。あんま回復してねえな。

 「おー、来たか小町。その水着、新しいのか?良く似合ってて可愛いぞ」

 「うんうん、流石颯お兄ちゃんだね。すぐ褒めることはいいことだよ!小町的にもポイント高いよ!」

 「はっはっは!そうだろうそうだろう!まあ、小町だけだがな」

 「あー、うん。知ってた。小町的にポイント低いかな」

 なんということだ、小町ポイントが増えたかと思ったら減ってしまったよ。

 「相変わらずのシスコン具合ね」

 「はははー。お兄さんってもったいないよねー」

 小町の後ろから現れたのは、どちらも可愛い水着を着た雪ノ下さんとガハマちゃんだった。おー、眼福眼福。

 「ですよねー。でも、颯お兄ちゃんにも彼女がいなかったわけではないんですよ?」

 『え?』

 小町の爆弾発言に雪ノ下さんとガハマちゃんの声がが重なる。

 「ね?颯お兄ちゃん」

 「ん?まあな。中学生の頃に一人だけいたことがあったな。もう連絡とってないけど。別に小町と八幡がいればそれでいいけどな!」

 「はぁ、誰か貰ってくれないかな……」

 「ははは!小町が貰ってくれ!」

 「いやだよ」

 お兄ちゃん泣いていいかな?

 それにしても、雪ノ下さんとガハマちゃんが喋らないな。

 「二人ともどうかした?」

 「い、いえ。少し驚いただけよ」

 「う、うん。意外だった!」

 二人は俺の声で我に返ったのか慌てて口を開いた。

 小さな声で『あのシスコンに彼女?』などと呟いてるのも聞こえてるからね?失礼だな!

 ちなみに、このことは八幡はもちろん、親父や母ちゃんも知っているし、陽乃さんやめぐり、平塚先生も知っている。

 ふっ!まだ二人は颯太君検定に合格することはできないな!ははは!

 「まあ、それは置いといて。小町!遊ぶぞ!」

 「おー!」

 俺と小町はそう声を上げると勢いよく川へと駆けていく。

 「あれだけ動かされてよく遊ぶ元気があるわね……」

 「そうだよねー」

 そんな雪ノ下さんの溜息交じりの呟きとガハマちゃんの苦笑いが聞こえたのは気のせいだろう。

 「あ、お兄ちゃん」

 「おー!八幡じゃないか!」

 「え?ヒッキー?」

 小町と水をかけあって遊んでいると、山道の方から八幡が現れる。

 「小町達来てたのか。何してんの?」

 「どっせろーい!」

 え?なんで小町ちゃんは八幡に水をかけたの?八幡ずぶぬれじゃないか。

 「準備で汗かいちゃったから水浴びだよ!」

 「なあ八幡!どう?新しい水着だよ!」

 俺はこの日の為に買った新しい水着を八幡へと見せつける。颯太的には上の方についている動物が走っている柄がポイント高いと思うんだけどな!

 「別にどうも思わねえよ……。そういうのは小町の役回りだろうが。兄貴が奪ってどうするんだよ」

 「そうだよ!小町だって見せつけようと思ったのに!」

 「俺だって八幡に褒めてもらいたかったんだよ!それぐらい良いだろ!」

 「いやないから。キモイから」

 「ぐはぁ!」

 八幡の冷たい言葉が俺の胸を貫く。

 ふっ……。流石は八幡、まったく容赦がない。でも、俺はMじゃないぞ!だからそんな言葉言われてもうれしくないんだからね!

 「八幡にキモイって言われた……。もうお婿にいけない……」

 「いや、行ってくれ。今すぐにでも」

 「まだ結婚できる歳じゃねえよ!あれ?できるんだっけ?いや、できるとしても学生結婚はな……」

 「冗談だから。あーもう。世界一格好良いよ。これでいいんだろ?」

 「おう!じゃあ遊んでくるから!」

 そういうと、俺は再び川の中へと走っていった。

 

 

 「ふぅ……」

 一通り遊んだ後、俺は少し休憩をするために岸へと上がる。

 「楽しんでいるか?」

 「まあ、楽しいですよ」

 そこへ隣に平塚先生が腰かけてくる。平塚先生は白のビキニを身に着け、綺麗な足を惜しげもなくさらしており、普通の男なら充分虜にできる姿をしていた。

 あの後、葉山君や戸塚君などを加え川遊びは随分と賑やかになった。まあ、俺もそれなりに楽しんでいる。

 「昨晩の件はどうなった」

 「特に進歩はありませんよ。ただ俺が金髪ロール娘に嫌われただけです」

 「金髪ロール娘って……。あいつの名前は三浦だ。何かと関わることが多いんだ、覚えておけ」

 へー、三浦さんっていうんだ。覚えておくけど呼ばないと思う。金髪ロール娘で浸透しちゃってるし。

 「それにしても、大体の人間に好かれるお前が嫌われるとは珍しいな」

 「俺はそんな葉山君みたいな人間じゃないですよ。嫌われる人間にはとことん嫌われます」

 「そうかもしれんな。……どうにかなりそうか?」

 勿論俺と金髪ロール娘の関係の話ではないだろう。留美ちゃんの問題か。

 ハッキリ言って話し合いをしたところで解決策は出てこないだろう。それは昨日の件でわかった。でも……。

 「なんとかなると思いますよ」

 そういうと、俺は留美ちゃん達と話している八幡へと目を向ける。

 八幡は自問自答するような表情を浮かべて立ち上がった。

 何か思いついた。というよりは、既に腹の中にあったのかもしれないな……。




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