やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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魔王の訪れと崩壊の始まり。

 「ふむ……」

 俺は今現在行われているミーティングの様子を見ながら小さな声で呟く。

 初めての委員会から数日が経った頃、文化祭実行委員の中では一つの変化があった。それは……。

 「いいえ、少し遅い」

 名前は忘れたけど、文化祭実行委員長である彼女の隣に座り進捗について声を上げる雪ノ下さん。なぜ、この前まで記録雑務として動いていた雪ノ下さんが委員長ちゃんの横に座っているのか。

 それは簡単なことだ。

 そう、雪ノ下さんは文化祭実行委員の副委員長に就任したのだ。先日、委員長ちゃんから直々に紹介があった。

 元々めぐりも雪ノ下さんを委員長に推していたこともあったし、厚木先生からの期待もあった為あっさりと承認されてしまったらしい。

 どうしてこんなことになったのか、彼女から直接聞いたわけではないがその理由を俺は知っている。

 実は雪ノ下さんが正式に副委員長に就任する前日、家でくつろいでいた俺の元に一本の電話がかかってきたのだ。携帯の液晶には見慣れたガハマちゃんの文字。そしてこう言われたのだ。

 『ゆきのんを見ていてあげて。困ってたらヒッキーと一緒に助けてあげて』と。

 話によると、奉仕部の元へ委員長ちゃんがやってきたらしく、不安だから手伝ってほしいと頼まれたのだという。八幡からも聞いたのだが、文化祭が終わるまでは奉仕部は休みらしい。しかし、それを決めた直後に雪ノ下さんは依頼を受け付けたのだ。

 ガハマちゃんの性格上、一人で解決しようとする雪ノ下さんの行動を良くは思わないはずだ。証拠にガハマちゃんの声はいつもよりイラついていたようにも感じた。

 そして、それと同時に寂しさを感じているようにも思えた。

 まあ、俺としても助けない理由はないしガハマちゃんには任せろと伝えた。

 今現在までは概ね順調だろう。しかし、気になることはある。ついつい問いかけてみたくなるのだ。この委員会の委員長は誰なんだ?と。

 

 

 「さすがはるさんの妹だね。颯君もそう思うでしょ?」

 ミーティングを終えた後、委員は各々の仕事へと戻っていく。どこの部署もやることは山ほどあるからな。今の段階で仕事の少ない記録雑務の方も先程雪ノ下さんに仕事を貰っていたし。

 そんな会議室でめぐりはそんなことを呟いた。

 「まあ、確かに凄いな」

 凄い。俺もそう感じる。だが危うい。どうしてもそう感じてしまうのは俺だけだろうか。俺はそんなどうしようもない胸のつっかかりを覚えた。

 「これは、次期会長候補筆頭かな……」

 「ははは、大きく出たな」

 「颯君はそう思わないの?」

 めぐりの質問に少し考えてしまう。

 思わないこともない。彼女がどんな学校を作るのか、どんな仕事振りを見せてくれるのか見てみたい気もする。

 でも、彼女の居場所は生徒会なのか?と問われれば俺としては頷き難い。それは多分奉仕部という存在を俺が知っているからかもしれないな。

 「思わないこともないかな」

 「だよねー。頼んでみようかなー!」

 めぐりの嬉しそうな言葉を聞きながら、机に向かって作業を続ける雪ノ下さんと取り巻きを連れて部屋を出ていく委員長ちゃんを交互に見つめた。

 

 

 そして次の日。

 今日も今日とて会議室へ向かうのだが、今日は日直だったため日誌を職員室に返してから向かう。その為、いつもは横にいるはずのめぐりもいない。

 少し遅れたが集合にはまだまだ余裕がある時間に会議室へ到着することが出来たのだが、扉の前に群がる委員の集団。嫌な予感するなぁ……。

 「あ!比企谷先輩!」

 「あー……」

 そこで目敏く俺を見つけた委員の後輩君に名前を呼ばれてしまった。

 「えっと、どうしたの?」

 「入ってみた方が早いと思います……」

 えー、入るのー……?嫌だなぁ……。魔王のオーラが凄いんだけど。てか、嫌な予感の正体わかってるじゃん、俺。

 「はぁ……。うぃーっす」

 「んー?あ、颯太。ひゃっはろー」

 「あー!今日はお腹痛いなー!よし、帰ろう!それじゃ!」

 「颯太ー。おいでー」

 「はい」

 はい、予感的中!そして逃げることを容赦なく切り捨てられました!俺氏、今日は胃に穴が開くかもしれません!

 俺が来たことで陽乃さんの意識がこちらに向き、実の姉を睨んでいた雪ノ下さんの視線が逸れる。こら!後ろのギャラリー!ホッと胸をなでおろすんじゃない!俺の胃はもう限界よ!

 誰か助けてー!

 「ちょっと待っててー……ってどしたの颯太」

 そんなピリピリとした空気を引き裂いてくれたのは、何事もなく入室してきた我が親友だった。

 俺の心の声が聞こえたのか、一!やっぱりお前は親友だよ!

 「声に出てたぞ。それで?何が助けてなんだ?」

 マジか。

 「いや、あれ」

 「ん?ってはるさんじゃん!お久しぶりです!」

 「んー?あれー!一じゃない!久しぶりじゃない、元気してた?」

 「元気も元気っすよ!姉ちゃんに会えなくて少し寂しいですけど!」

 「あははー。相変わらずだね一は」

 周りは懐かしそうに話をする我が親友と魔王を不思議そうに、そしてキラキラした目で見ている。まあ、二人とも美男美女だもんな。そんな二人が会話してたらどういう関係が気になっちゃうよな。 

 まあ、三年生は知っているだろうが陽乃さんと一の姉、双葉さんは高校時代大の仲良しだった。その関係や俺やめぐりが陽乃さんと一緒にいたことから、一と陽乃さんは見知った仲なのである。

 「あの、そろそろいいかしら」

 一と陽乃さんが話に花を咲かせていると雪ノ下さんの冷たい声が響く。そして、再び会議室内はピリピリとした空気に包まれる。

 「そ、颯君……!」

 めぐりさんや?そんな涙目でおろおろしながら裾を掴まないでくれますかね。俺にもどうしようもないですよ?てか、絶対お前が呼んだんだろ!責任とれよ!

 「姉さん、何をしに来たの?」

 そう雪ノ下さんが口を開いたところで扉から八幡と葉山君が入室してくる。あ、八幡露骨に嫌な顔した。

 二人の会話、もといめぐりを加えた三人の会話によると、街で偶然陽乃さんに会っためぐりが有志団体のことを話したらしく、それに管弦楽団部のOB、OGを集めて参加するため許可を取りに来たのだという。

 やっぱりめぐりが連れてきたんじゃないか!確かに有志団体が足りないって言ってたけどさ!まさか、この人に話しちゃうなんて……。流石めぐりさんだよ!しびれもあこがれもしないけど!

 「比企谷君だー!ひゃっはろー!」

 ああ、矛先が八幡に向いちゃった。

 「陽乃さん……」

 「あれ?隼人じゃん」

 お?なんだ、陽乃さんと葉山君は知り合いだったのか。

 陽乃さんとの会話の様子を見るに、なかなか親しい仲みたいだな。

 「ねえ、雪乃ちゃん出ていいでしょー?」

 陽乃さんは引き続き雪ノ下さんに絡んでいる。

 そろそろ助け舟を出した方がいいかな。はぁ、胃が痛い。

 「まあまあ、別に出るくらいはいいんじゃない?それと陽乃さん、このことを雪ノ下さんに頼むのはお門違いですよ」

 「んー?なんで?」

 「雪ノ下さんに決定権がないからです」

 「あれ?そうなんだ。めぐりも颯太も一も三年生だから違うよね?」

 おそらくもうすぐ来るはず。てか、早く来いよ!完全遅刻だぞ!

 「すみませーん!クラスの方に顔出してて遅れましたー!」

 そこで会議室の扉が開かれ、待っていた人物が現れる。

 「陽乃さん、この子です」

 「あ、相模南です……」

 「ふーん……」

 委員長ちゃんを推しはかるように、鋭い目を向けながら一歩ずつ近づいていく。

 「クラスも楽しみ、文化祭を最大限楽しむ。陽乃さんもそうだったように、そういう人が委員長になってるんですよ」

 「……ふーん」

 そのふーんを直訳すると『心にもないことを颯太が言うなんて珍しいね』だ。自分でもそう思うよ。でも、今はこの状況を何とかしないと俺の胃がもたないから!委員長ちゃん、利用させてもらうよ!

 「そうだね。そういう人こそ委員長にふさわしいよ!えっと……委員長ちゃん、いいねー!」

 「あ、ありがとうございます!」

 あー、この人名前覚えるつもりないわ。まあ、俺もだけど。

 「それで委員長ちゃんにお願いなんだけど、私も有志団体に出たいんだよねー。雪乃ちゃんに言っても渋られちゃったからさー……」

 先程の肯定もすべてこの為。陽乃さんのことだ、彼女を肯定することで好感度を上げようとしたのだろう。結果、それは成功したわけだが。

 「いいですよ……」

 委員長ちゃんがそう答えたところで俺は考えるのをやめた。おそらくここから先、委員長ちゃんは陽乃さんの思い通りに動いていくだろう。それは誰にも止めることはできない。彼女の持つ文化祭実行委員長という肩書はそれほどまでに強いものなのだ。

 その結果。

 「少し仕事のペースを落とすってのはどうですか?」

 その時俺は確信した。崩れる、と。

 


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