やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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こうして文化祭はスタートへと進んでいく。

 翌日、あれだけ難航していたスローガン決めもすんなりと終了した。

 スローガン決めが終わったことで普段通りの文実に戻るかと思いきや、八幡という明確な敵が誕生したことで委員会内には熱気が満ち溢れていた。

 まあ、俺的にはあんまり喜べないけど。

 そして、昨日自らを集団の敵に仕立て上げた八幡と言えば、周りからは無視され、仕事に関しては目の前に無言で積まれていく。

 しかし、そんな八幡にも救いの手が伸ばされる。

 八幡の前を通り過ぎる一人の三年生男子。八幡の前を通り過ぎると、通り過ぎる前にはなかったはずの書類が手に握られている。

 そう、あの皮肉の混じりに混じったスローガンを聞いた執行部、及び何人かの三年生が無言で八幡の仕事を掴んでいくのだ。決して言葉を交わすわけではない。もしかしたら同情や罪悪感から生まれる行動かもしれない。しかし、八幡のあの言葉が何人かの心の中に残っているのは確かだ。

 そのおかげできついことには変わりないが、八幡も少しは楽が出来ている。俺もめぐりの手伝いに専念できるし一石二鳥だ。

 「なんとかなりそうだね」

 ふとめぐりがそんな言葉を呟く。

 まあ、どんな形であれこれだけの活気があれば準備はなんとかなるだろう。

 「そうだな」

 そう答えると、慌ただしく人が動く会議室を眺めながら俺は再び書類へと目を落とした。

 

 

 文化祭が前日へと迫った日、俺は自分のクラスの教室へとやってきていた。

 実は俺、クラスの方には一度も顔を出していないのにも関わらず、文化祭中三十分だけクラスの出し物に協力しなければならない。ちなみに、めぐりは二十分、一も二十分の割り振りで参加することになっているのだが、その準備は別の日に終わらせたらしい。

 てか、なんで俺だけ十分長いんだよ……。いやまあ、確かに俺には文化祭中明確な仕事が与えられているわけではないし、本当であればもっと長い時間協力しなきゃいけない立場なんだけどさ。

 そこんところをクラスの子に聞いたら、『めぐりには比企谷君がついてないとだめだから!』と鼻息を荒くして言われた。意味が解らん。まあ、もともとめぐりの近くに居ようとは思ってたけどさ。

 「はーい、じゃあ比企谷君!これを着てみて!採寸はこの前やったからぴったりだと思うよ!」

 「お、おう。わかった」

 俺は衣装担当の子に渡された衣装に着替える為、カーテンに仕切られ、だんしこーいしつと書かれた場所へ入る。

 三十分の手伝いの為に衣装を作るとか気合入ってんなー……。

 「着替えたよー」

 サイズはぴったり。動きにくいこともないし、苦しいとこもない。衣装担当の子の優秀さがうかがえるな。

 「きゃー!出てきて出てきてー!」

 「ほいほい」

 カーテンを開け、外に出ると、そこにはクラス全員が目をキラキラさせながら立っていた。

 「きゃー!かっこいい!」

 「うわ、俺等自信なくなってきた……」

 「勝手に俺等の中に入れるなと言いたいところだけど、こりゃ言わざるを得ないわ……」

 「あーん!私もお客になりたーい!」

 様々な言葉が浴びせられ、俺はクラス全員に上から下まで舐めるように見られる。

 あの、あんまり見られることに慣れていないので、じろじろ見ないでくれますか?てか、さっきまで全員作業してたじゃねぇかよ!なんで目の前に全員いるんだよ!

 「おーおー。やってるやってる」

 俺が絶句していると、そこに笑顔の一が入ってくる。

 「一!助けて!」

 「ははは!俺もこの前やられたからな。お前もその恥ずかしさを味わえ!」

 「もう充分味わったよ!もういいよ!」

 「まだまだー!」

 そのあと滅茶苦茶見られた。

 

 

 「はぁ、酷い目に遭った」

 クラスメイトの魔の手からなんとか逃げ出せた頃にはもう辺りは暗くなってきていた。この時間となればめぐりも既に帰宅しているだろう。今日は、早く帰れと言っておいたしな。

 「ん?」

 ふと、いつも文実が使っている会議室に目を向けると、まだ電気が点いているのが見えた。まだ誰か残っているのだろうか。

 「よし」

 俺は若干見当はついているが確認の為、会議室へ足を向けた。

 

 

 「やっほ。やっぱ、雪ノ下さんだ」

 「あら、まだ帰っていなかったのね」

 会議室に残っていたのは俺の見当通り雪ノ下さんだった。

 「まあね。クラスの連中につかまっちゃって。雪ノ下さんは?」

 「明日の最終確認よ。念には念を重ねておかないと」

 「なるほどね。……平塚先生は?」

 夜遅くまで作業をしているということは平塚先生が監督をしていると思ったのだが、その姿はどこにもない。

 「別の仕事があるからと言って職員室に戻ったのよ。帰るときは鍵を職員室まで返しに来るよう言われたわ」

 「あの人も働き者だねー」

 あの人若手だから。きっと、そういう仕事が回ってくるんだよね!うん。

 「そうね。前日の一番忙しい時に委員会をサボった誰かさんとは違ってね」

 「いや、それはだな」

 「ふふ、冗談よ。本来ならば部外者なのだから気にする必要はないわ」

 そう言って彼女はしてやったりといった表情で笑う。普段はなかなか笑うことのない雪ノ下さんだが、こうしてふとした瞬間に見せる笑みは凄まじい破壊力だ。うっかり惚れてしまってもおかしくないレベルだもんな。

 「そっか。じゃあ気にしない」

 「少しは気にして頂戴。あなたがいなくて仕事の効率が下がったのは事実なのだから」

 「どっちなんだよ!」

 「気にして頂戴」

 「結局かよ!」

 「ふふ……先輩」

 「何?」

 からかうような笑みを浮かべたかと思うと、雪ノ下さんは途端にこちらをうかがうような目をする。

 「その……。この間電話でも言ったのだけれど、直接は言っていなかったから……。いろいろとありがとう。先輩には本当に感謝しているわ」

 雪ノ下さんから紡がれた言葉は俺への感謝の言葉だった。

 「ははは、別にお礼を言われるほどのことはしてないよ。結局、俺は何もできなかったからね。ガハマちゃんにも報告しろって怒られたし」

 本当に俺は何もしていない。結局、雪ノ下さんを助けたのだって八幡とガハマちゃんだ。お礼を言われることなんて一つもしていない。

 「いいえ、あなたは私を助けようとしてくれたわ。私は、その……。あまり、一生懸命助けようとしてもらった経験なんてあまりないから……。その、嬉しかったのよ」

 少しの間言葉を失ってしまう。

 顔を赤くしながらそう述べる雪ノ下さんは、間違いなく俺に感謝してくれている。普段、そんなことなど言わないはずの雪ノ下さんがそう言ったのだ。そして、たまらなく嬉しい。

 「……あなたが本当に兄さんだったらよかったのに。と少しだけ思ってしまったわ」

 「そりゃ光栄だね。思ってしまったというのに引っ掛かりを覚えるけど」

 「それは勿論、悔しいからよ。あなたなんかをそんな風に思ってしまったのだから」

 わー、すぐいつもの雪ノ下さんにもどっちゃったー。

 「なんだよー!デレたゆきのん可愛かったのになー!」

 「次その名前で呼んだら、あなたが私にしてきた所業の数々を城廻先輩と小町さんに告げ口するわよ」

 「やめて!どんな報告するのかわからないけど絶対誇張するだろ!しかも一番厄介な二人だよ!」

 「なら姉さんにするわ」

 「すみません、その人が一番やばいです!」

 先程の可愛いゆきのんはどこへやら。そこには、いつものように楽しそうな顔をしながら俺をいじる雪ノ下さんがいた。そんな雪ノ下さんを見て、俺はなぜだか安心ができた。

 ……別に、ゆきのんにいじられて嬉しいわけじゃないんだからね!ほんとだよ!

 そんな会話を楽しみながら、俺はさりげなく書類へ目を通していった。

 

 

 暗闇の中、ざわめきが止むことはない。

 その中で、耳に着けたインカムからは雪ノ下さんと、各部署間での会話が聞こえてくる。

 なぜ、文実でもない俺がインカムつけてるのかって?それは俺が何かあった時すぐに駆け付ける遊撃部隊だからですよ。

 朝、平塚先生にインカムと今日の役割を教えられたときは絶句しましたよ。ええ。

 今は、別段困ったことはないから雪ノ下さんの横で待機している。

 やがて、開演一分前となり、ざわめきは静寂へと変わっていく。そして、インカムからは八幡のカウントダウンが聞こえてくる。

 それが全員の心の中でのカウントダウンになり、ゼロになる。

 「お前ら、文化してるかー!?」

 「うおおおおお!」

 「しゃあおらあ!」

 突如舞台に現れためぐりが生徒を煽る。それに呼応するように生徒、そしてインカムをオンにしているのに気付かない俺が怒号で応える。

 「千葉の名物、踊りと!?」

 「祭りいいいいいいい!」

 「祭りじゃおっほぉう!」

 「同じ阿呆なら、踊らにゃ!?」

 「シンガッソー!」

 「シンガッソッ!おっふぉ、ごほ!ごほぅ!」

 俺が盛大にむせたところで、遂に文化祭がスタートした。




どうもりょうさんでございます!
なんとか早い投稿を続けられております。大丈夫です。無理はしてませんよ!
次も何とか頑張りたいと思います!
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ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!仕事終わりや投稿後にお疲れ!と声をかけていただくと懐くと思われます。

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