暦上では秋なのに、変わらず暑かった時期も過ぎ去り、外に出れば涼しい風が吹く季節になった。
昔、某日曜夕方に放送しているアニメで言っていたのだが、秋は気候的にも勉強に一番適している季節だという。その為秋休みというものがないのだとも言っていた。まあ、最近は秋休みがある学校もあるらしいけど。
そんな涼しい季節、俺達三年生は受験へ向けての大詰めも大詰め。休憩中だろうがなんであろうが勉強をしている生徒が大半を占めるようになった。
しかし、それも三年生だけであり、特に二年生は高校生活でも一度しかない一大行事を迎えていた。
そう、修学旅行だ。
現在、この総武高校には俺達三年生と一年生しかいない。
二年生は今日から京都へ向けて旅立っていった。朝早くに出ていく八幡を見送ろうと早起きを試みたのだが、見事に失敗。気づいた時にはいつもの起床時間を五分過ぎた頃だった。自分の体質が恨めしい!まあ、小町に起こしてもらえたのは役得だったけど!
とまあ、そういうわけで同級生は机に向かい、八幡や雪ノ下さん達は修学旅行。こうなると俺は恐ろしく暇だ。流石にこういう時まで絡みに行くほど俺も無神経ではないし、絡みに行っても本気で相手にされないだろう。
「ふむー……」
その為、必然的に休み時間はこのような声を上げながら校内を散策することになる。
お前も勉強しろよ!って言われるのも仕方ないが、どうも学校では勉強をする気にはなれないんだよなぁ。願書作成や諸々の資料作成も済ませているし、指定校推薦も貰えることが確定している。この前正式に連絡があったし。
まあ、先生には本当にその学校でいいのか?とは言われたけど。確かに難関校ではないけど、そこそこ良い大学ではあると思うんだよなぁ。別に俺は超難関校を目指しているわけでもないし、そこそこでいいんですよ。家から近いし。
「あれー?比企谷先輩じゃないですかぁ?」
「……人違いです」
え?何、この甘い声。私、こんな人知らない。海で会ったあざとい後輩に似てる気もしないけど。
「……は?」
「あ、はい。そうです。なんか用ですか?」
こっわ!なんだよその低い声はよ!さっきの甘い声はどうしたんだよ!てか、そういうキャラって簡単に崩していいものなんですか!?思わず敬語になっちゃったじゃないか。
「いや別に用とかはないんですけどぉ。この時期に三年生が昼休み中にふらふら歩いてるなんて珍しいじゃないですかぁ」
ほんとにぃー、さっきの低い声はなんだったんですかぁー。もう元に戻っちゃってるじゃないですかぁー。うわ、思ったよりもこの喋り方って辛いな。頭の中だけでも続けるのに疲れちゃうわ。
「まあねー。でもほら、俺って優秀だから」
「え?そうなんですか?」
後輩ちゃん……えっと一色ちゃんだったかな。一色ちゃんは不思議そうに首を傾げる。
まあ、クラス内順位とか学年順位ってのは公開されるわけじゃないからな。三年生なら、大体誰が一位かっていうのは知ってると思うけど、一年生がしるわけないよね。
「そうそう。学年一位だから」
「へぇ、人は見かけによらないんですねー」
おい、それはどういう意味だ……とは言わない。だって言われなれてるし。普段が普段なだけにあまり頭が良いって思われてないみたいだしね。
「あ、そういえば文化祭のライブ見ましたよー。格好良かったですー!」
「あー、あれね。実は緊張しすぎてほとんど覚えてないんだよね」
委員長ちゃんの姿を確認したまでは記憶があるんだけど、そこからの記憶が曖昧なんだよね。気づいたら舞台袖で陽乃さんに背中叩かれててビックリしました。
「そうなんですかー?すっごく楽しそうに見えましたけど」
「多分楽しかったことには楽しかったんだと思うよ。覚えてないだけで」
「へー。なんか意外でした。緊張とは無縁な人なのかとー」
「いやいや、俺めっちゃ緊張するよ。普通なら人前で歌うとかできないから」
あの時、調子に乗らなかったらよかったなーってずっと思ってたし。だって仲間はずれにされたみたいで寂しかったんだもん!
「そうなんですねー。あ、比企谷先輩、お昼済ませましたー?」
「ん?いや、まだだけど」
実は、体育祭が終わってからはクラスの邪魔をしないように昼休みは外で飯を食うようにしている。クラスにいるとどうしてもめぐりや一に絡んじゃうからな。それはめぐりもわかっているようで、教室外へ出ようとする俺にいつも弁当を渡してくれる。別にこんな時まで作ってくれなくても良いんだけどなー。めぐりの負担にもなりたくないし。
まあ、それをめぐりに言ったら私が作りたいだけだからと押し切られちゃったんだけどね。そこまで言われてしまっては断る方が悪いからな。
「そうなんですねー。それじゃ、一緒に食べませんかー?」
「え?ぼっち?」
「違いますよ!いつもは一緒に食べている友達もいますー!比企谷先輩にもありませんか?他の場所で食べたかったり、一人で食べたかったり!」
びっくりした。一瞬この子ボッチなのかと思ったよ。
まあでも、ぶっちゃけ女友達は少ないと思う。この手のキャラの女の子って同性に嫌われやすいと思うし。逆に男友達……とはいえないか。ヒモ……お財布……。やべえ、良い呼称が思いつかねえ。まあ、そんな感じの男は山ほどいるだろうという話だ。
「んー。ないな」
「ないんですか!?」
「ない」
まあ、他の場所で食べたいっていうのはあるかもしれないけど、一人で食べたいということはないかな。めぐり、一と食べるのはもはや日課だし、それを苦だとは思わない。むしろそれが毎日の楽しみであると言ってもいいくらいだ。
めぐり達が用事で一緒に食べれないときは、大体雪ノ下さんとガハマちゃんと食べてるし、それもまた苦痛とは思わない。
誰でもいいから一緒に食べたいとか、一人で食べるのが嫌だとかではなく、特定の人物と食べたいのだ。よって、一人で食べたいと思ったことはありません!
「なんか、本当に不思議な人ですね、比企谷先輩って……」
「変な人って言われるぞ」
「納得です」
「即答!?」
即答過ぎて思わず驚いちゃったじゃないですか。納得納得って何度もうなずくのやめて!
「まあ、それはどうでも良くてですね。まだ食べてないなら、一緒にお昼ご飯食べませんかー?」
「いやです」
「即答!?」
おー。数秒前の俺と見事に反応が同じですな。
「いやだって、一色ちゃんとご飯を食べる理由がないし」
「ありますよー!こんな可愛い後輩とご飯が食べられるんですよ?最高じゃないですかぁ」
えぇ……。何それー。理由になってないじゃないですかぁ……。
「あー、そういうのいいです」
「なんなんですか、もー!」
あ、キレた。
「ちょっといろいろあって教室に居にくいから一緒に食べてくださいお願いしますー!」
あ、本音が出た。
てか、やっぱ教室に居にくいんじゃん。まあ、何があったのかは聞かないけど、可哀想になってきたし別に一緒に食べるくらいいいか……。
「わかった、わかったよー。えっと、じゃあ中庭にでも行く?」
「はいっ!行きます!」
あざとい。そして態度変わりすぎ。もう、気にするのも面倒になってきたZO☆
その後、中庭に向かったのだが、バドミントンをしていた一年生のスマッシュが顔面に当たって、おでこに跡が残りました。めっちゃ一色ちゃんに笑われて、もう二度と中庭で飯は食わないと心に決めたある日の昼休みでした!最近、怪我してばっかじゃねえかよ!
「ただいまー」
「おかえりー、颯お兄ちゃーん」
放課後、家に帰ると既に小町が帰宅しており、ソファーで雑誌を読んでいた。
小町ちゃん、雑誌を読むのはいいけど、もうちょっと体勢に気を付けた方がよろしいとお兄ちゃんは思いますよ?あと、その服俺のだよね?もう慣れたけど、どこから引っ張り出してきたの?
「八幡は今頃京都かー。いいなー、俺も舞妓さんと遊びたい」
「修学旅行じゃ舞妓さん遊びはしないと思うよ、颯お兄ちゃん……」
「だよなー。俺も去年しようとして先生に怒られた」
「当たり前だよ……。てか、しようとしたことに驚きだよ!」
あの時の先生、必死に説教してたからな。『こういう遊びはもっと歳を食ってからのほうがおもしろいから!だから、今日は帰ろうな!な!』って。あれ?てか、なんで先生あんなとこにいたんだろ。不思議だ……。
「それにしても、八幡がいないっていうのも久しぶりだな」
「そだねー。颯お兄ちゃんと二人きりってのもあまりなかったしねー」
小町の横に腰かけるとそんな話を始める。
「小町、今日は久し振りに一緒に夕飯作るか」
「お、いいねー。颯お兄ちゃんの手料理を食べるのも久しぶりだ!」
「よし、じゃあ着替えたら始めるか!」
「おー!」
そんな小町の元気な声を聞きながら俺は着替えをするべく部屋へと向かった。
「ふぅいぃー……」
小町と共作の夕飯を食べ終えた後、俺は自分の部屋に戻り机に向かっていた。
「小論文に面接……。高校入試の時もやったけど、やっぱ大学となるとレベルが違うなぁ」
現在取り組んでいるのは、小論文の過去問や面接についての勉強だ。
指定校推薦とはいえ、面接や小論文に気を抜くわけにもいかないからな。取り組んでおくに越したことはない。ちなみに、小論文の過去問は平塚先生に用意してもらった。
「お?……平塚先生か」
次の過去問を取り出そうとすると、携帯が震え、液晶には平塚先生の文字。
「もしもーし。平塚先生の愛する生徒、比企谷颯太君ですよー」
「おー、比企谷!げんっきにしとるかねー!」
え?何このテンション。もしかして酔ってます?あの人、修学旅行中まで飲んでるのかよ!ばれたらどうすんだよもう!
「あの、平塚先生?お酒飲んでるんですか?」
「えぇー?飲んでないよぉ!」
「いやいや!絶対飲んでるでしょ!」
「飲んでないと言っているぅだろう!」
嘘やん!なんだよいるぅだろう!って。全然説得力ないんですけど。
「はぁ、それでなんの用ですか?」
「……ひきがやぁ」
「え?」
俺の問いに答えた平塚先生の声は、まるで一色ちゃんのような甘えた声だった。
「京都、たのしくなぁい」
「えぇ……」
「生徒の監視とかぁ、職員会議とかぁ、京都を全く楽しめてなぁい!うー!」
いや、うー!と言われましても……。この人、あり得ない位酔ってんな……。
「そりゃ、楽しむのは生徒であって先生じゃないですから」
「ひきがやぁ……」
「はぁ……。先生が寝るまで付き合いますから、明日も頑張ってください」
「うん……ありがと」
なんなんだこの先生はよー!はぁ、もっとこういうところを俺以外の男性に見せれば、少しは違うと思うんだけどなぁ……。
こうして、八幡のいない夜は騒がしく更けていくのだった。
はちまぁん!早く帰ってきてくれー!
どうもりょうさんでございます!
はい、ということで七巻終了でございます。あれ?七巻って颯太が割り込む余地なくない?って後で気づきました。
なのでこういう話になってしまいました!
次回からは絡んでくると思うのでよろしくお願いします!
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