やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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陽乃さん視点です。


番外編 やはりわたしの後輩は格好良すぎる。

 「ふふーん。えへへー」

 今日はわたしにとって一年に一度の大事な日。そんな日にわたしは扉の前で呼び込まれるのを待っていた。

 心なしか機嫌がいいのは二年前の今日を思い出したからだろう。

 これは、わたしと、大事な大事な後輩が過ごした、ある日のお話。

 

 

 七夕。

 それは、会うことを禁じられた織姫と彦星が一年に一度だけ会える日。

 街には笹に短冊が着いたものが置かれていたり、夜になると星を眺めようと多くの人々が空を見上げる。そして、ツイッターではスマホの画面を使い尽くしてしまうようなツイートが多くの者から発信される。

 そんな七夕の日はわたしにとって少々別の意味合いで特別な日である。

 「ほら颯太ー!早く早くー!」

 「はいはい。あんま走って転ばないでくださいよー」

 「転ばないよ!」

 もう、失礼しちゃうな!わたしを子ども扱いするなんて颯太ってば生意気!

 そう、七月七日という日はわたしが主役になれる日、誕生日なのだ。

 今日はそれを祝うという形で、後輩である颯太と一緒に七夕ということで開かれている祭りへとやってきていた。

 「もー!主役を一人で歩かせるなんて男じゃないなー!もっとぐいぐいこなきゃ!」

 「あなたよりぐいぐい行ける自信ないですよ……」

 わたしの用意した浴衣を着た颯太が息を切らしながらやっと追いつく。うん、流石わたし。颯太に良く似合った良いチョイスだ!

 わたしが用意した浴衣は深めの青に白い線が入ったおとなしめなもので、黙っていればさわやかでイケメンな颯太に良く似合っていた。その証拠に多くの女の子の目線が颯太に集まっている。

 むぅ、なんか不愉快だ。

 「ほら、今日はわたしが主役なんだから、いつものように元気に引っ張り回してよ!」

 「元気に引っ張り回されてるのは俺だと思うんですけどね」

 「文句あるの?」

 今日はやたら口答えが多いなぁ。機嫌が悪くなっちゃうなぁ。

 「無いですよ!ないない!よぉーっし!今日は陽乃さんを目一杯楽しませちゃうぞ!」

 「きゃー!颯太ってば頼もしー!それじゃあいこっか!」

 「ういっす……」

 そう言うと颯太の腕にわたしの腕を絡め引っ張っていく。

 そうだよ。楽しませてくれないと家を抜け出してきた意味がないもんね。

 

 

 「ねえ颯太!あそこで短冊配ってるよ!」

 「本当ですね。書きに行きます?」

 「勿論!」

 少し歩くと、開けた場所に置いてある何本もの笹に子供達やカップルが短冊を括り付けている場面に出くわした。おそらく自由に括り付けられるのだろう。

 「陽乃さん、ペンどうぞ」

 「ありがとー」

 颯太からペンを受け取り、短冊に書く願いを考え、やがて短冊へとペンを走らせる。

 「かけたー。颯太は?」

 「書けましたよ」

 「なんて書いたの?」

 颯太は待ってましたとばかりに短冊を見せつけるようにわたしの前に出してくる。

 「弟と妹が元気に過ごせますようにです!」

 本当にこの子はぶれないなー……。普通、こういう時は自分の願いを書くんじゃないかな?

 「陽乃さんはなんて書いたんですか?」

 「世界征服」

 「陽乃さん、それは願いじゃなくて野望です。今すぐ破り捨ててください。そんなの子供達の純粋な願いの横につるさないでください!」

 「いやだ」

 「魔王だぁ!魔王がいるぞ!勇者でてこいー!」

 わたしがにっこりと笑顔で拒否すると、颯太は取り乱したように大声を上げ始める。

 わたし達のやり取りを見ていた人達がクスクスと笑っているが、祭りという楽し気な雰囲気の中では、それ程気にならない。笑っている人達も嘲笑ではなく、単に颯太の反応が面白いから笑っているだけだろうし。

 「ほらほら、騒いでないで吊るしにいくよー」

 「まじで吊るすんですか?え?まじで?」

 「当たり前でしょー。ほら、ウルトラマンになりたいって書いてる子もいるし。大丈夫だよ」

 「どうして大丈夫だと思ったのかはわからんですが、もうどうでも良くなってきたので早く行きましょう」

 どうやら颯太も諦めたようだ。諦めがいいのは颯太の良いところだよ。うん、これからも伸ばしていこうね。

 「颯太ー、これ吊るしててー」

 「え?いいですけど、どこ行くんです?」

 「それ聞くの?」

 「あ、すみません。どぞどぞー。すっきりしてきてください」

 「颯太、その答えは最低だよ」

 本当にこの子はデリカシーがないなぁ。まあ、そんなところも可愛かったりするんだけど。

 颯太から離れたわたしは颯太が周りにいないことを確認し、近くにあった笹に先程とは違うもう一つの短冊を括り付ける。

 「よし!これでいいかな」

 「何がいいのかしら、陽乃?」

 その声を聞いた瞬間、わたしの心臓が激しく跳ねるのがわかる。その綺麗で、冷たい声の持ち主はわたしの知る限り一人しかいない。

 「……お母さん」

 そう、わたしの母だ。

 「今日はあなたの誕生日パーティーなのよ?主役のあなたがいなくてどうするの」

 「パーティーが始まる前には帰るわ。まだ時間はあるでしょう?」

 「そういう問題じゃないのよ。パーティーが始まるまでに会っておかなければいけない人もいるの。西川様も待っていらっしゃるの」

 西川という名字は聞いたことがある。

 確か、そこの御曹司がわたしの将来の夫候補の筆頭で、お母さん達の中ではもう縁談が決まったようなものらしい。

 だけど、正直あの御曹司は好きじゃない。

 小太りで、常に偉そうにしていて、まさしくドラマなどに出てくる嫌な御曹司そのものな男なのだ。

 「さあ陽乃、帰るわよ」

 「……」

 数人の黒服に周りを囲まれ、わたしは無言で下を向く。

 こうなってしまえば、わたしに逆らうことなんてできない。あーあ、あとで颯太になんて言おう……。

 「あー!こんなところに居たんですか!探しましたよ!小便にどんだけかかってるんですか!」

 「……っ!」

 彼の声を聞いた瞬間、わたしはすがるような目でそこに佇む彼を見てしまった。

 「さあさあ、陽乃さん。まだまだ回ってない所いっぱいありますよ!いきましょ!」

 「えっと、そ、颯太……」

 多分、今のわたしは普段からは想像できないくらい、弱弱しい声と目をしている。

 それを見た颯太の顔が一瞬怒りに染まったような気がしたが、まばたきをするとそこにはいつもの笑顔を浮かべた颯太が立っていた。

 「あなたは?」

 「ん?陽乃さんの後輩ですけど?」

 「そう、残念だけど、陽乃は帰らなきゃいけないの。どうせあなたも陽乃に無理矢理連れ回されているだけでしょう?もういいわよ」

 「そうですか」

 颯太の言葉を聞いたわたしは力なく下を向いてしまう。あぁ、これで颯太もわたしから離れていくのだと、そう感じることしかできなかった。

 「ふざけんな」

 しかし、颯太は笑顔を浮かべたままそんな言葉を発した。

 お母さんも黒服の人達も何を言われたのか理解が出来なかったようでぽかんとしている。

 「当の陽乃さんが帰ることを望んでいないのに、なんで黒服で周りを囲んでまで帰らせようとする」

 「陽乃にはしなければならないことがあるのよ。それが陽乃の為になるのだから」

 お母さんはいち早く平常に戻り、颯太の言葉に応えていく。

 「陽乃さんの為……か。陽乃さんにこんな顔をさせることが陽乃さんの為になるんですか?」

 「はい?」

 「陽乃さんの表情すら見てないってか。それで陽乃さん為とか笑えるわ」

 「あなた、言葉に気を付け……」

 お母さんの言葉に冷たさが増すが、それは颯太によって燃やされる。

 「陽乃さんが俺の家の前に立っていた時どんな顔していたか知ってるか!俺と祭りを回っている時どんな顔をしていたか知ってるか!陽乃さんがどうやって笑うのか……あんたは知っているのかよ!」

 「は、陽乃はいつも笑っているわ」

 「だろうな。陽乃さんは笑いの絶えない人だから。でも、あんたはこんな笑顔見たことあるか!」

 そう言って颯太はお母さんにスマホの画面を見せつける。

 そこには、静ちゃんと言い合いをしている颯太と、それを慌てながら止めるめぐり、そして『本物』の笑顔を浮かべているわたしがいた。

 ……って、なんて写真見せてるのよー!ていうか、こんな写真いつ撮ったの!?……双葉がいないってことは、双葉ァァ!

 「あんたはこんな可愛い笑顔を浮かべる陽乃さんをどのくらい前に見た!それとも見たことないか!どうなんだよ!」

 「おい!お前、いい加減に……」

 「おやめなさい」

 黒服が颯太に近づこうとすると、それをお母さんが声だけで止める。

 「そうね、私がこんな笑顔を見たのは陽乃がまだ小さい頃よ。……こんな子供に大声で怒鳴られて気分が悪いわ。帰ります」

 「お、お母さん……」

 「陽乃。西川様にはパーティーの時、しっかりと話してもらいますからね」

 「……は、はい!」

 そう言ったお母さんは颯太の方をちらっと見ると、黒服を連れて歩いて行ってしまった。

 「颯太……」

 「……こわがっだぁ!」

 「……もう、馬鹿」

 私はへなへなと地面に座り込む後輩の頭を撫でながら、そう呟いた。

 

 

 上機嫌のまま扉をくぐると、多勢のお金持ちが拍手をして迎えてくれる。

 簡単な挨拶を済ませ、乾杯の音頭を取り終えると、大勢の人達の中でも一際騒がしい一団へと向かっていく。

 四人の男女。

 その一団へ飛び込み、男の子に目を向けると、男の子は微笑み口を開いた。

 「お誕生日おめでとうございます。陽乃さん」

 「うん!ありがとう、颯太!」

 あの時、颯太から離れて吊るした短冊。そこにはこう書かれていた。

 『また、颯太と一緒に誕生日が祝えますように』と。

 それが叶った喜びと共に、わたしは思う。

 やはりわたしの後輩は格好良すぎる。と。




陽乃さんハッピィィバァァスデェェェ!陽乃さん可愛いよー!うぼあぁぁ!
はい、というわけで陽乃さんお誕生日おめでとうございます。なんとか間に合った陽乃さん番外編でした。
陽乃さんによしよしと頭を撫でられたい人生でした。
本編もよろしくです!


https://twitter.com/ngxpt280
ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!リプ下されば喜びながら、満面の笑みでお返しします!だれか颯太とめぐりんや他のヒロインの並び絵を描いてくれー!描いてくださった方には僕の愛情のこもった、颯太とめぐりんのいちゃらぶ番外編をあなただけに書いちゃいます。希望があれば他のヒロインでも可です。勿論、八幡や小町との並び絵も涙が出るくらい喜びます。

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